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Writer/酉野たまご

同性カップルは二人暮らしできない?―私が体験した部屋探しの困難とその後

THE BLUE HEARTSの楽曲に、不動産屋でお前に貸す部屋はないと言われたという内容の歌詞がある。まさか同性愛者だからという理由でその歌と同じ目に遭うとは、思ってもみなかった。同性カップルでの二人暮らしにはどうしても困難がついてまわるけれど、それでも私たちは今、なんとか幸せな日々を送っている。

二人暮らしを始める同性カップルに立ちはだかった壁

同性のパートナーとの二人暮らし、一年半の悲喜こもごも

私が同性のパートナーと一緒に暮らし始めて、そろそろ一年半が経とうとしている。

一般的に、二人暮らし歴一年半というのが長いのか短いのかはよくわからないけれど、私個人としては「まだそれだけしか経ってないのか・・・・・・」という気持ちが強い。

それくらい、二人暮らしを始める前にも、始めてからも、さまざまな濃い出来事に見舞われてきた。楽しいことも、ちょっとしたトラブルも含めて。

同性カップルが二人暮らしを始めるまで

二人暮らしを始めるきっかけは、付き合ってすぐに訪れた。

お互いの家まで片道一時間半はかかる、ちょっとした中距離恋愛状態。

遠距離恋愛ほどの負担はないにしろ、会いたいと思ったときにすぐに会えないこと、仕事の合間を縫って数時間、数千円のコストをかけないと会えないということが二人ともストレスに感じていた。

また、自分たちが週に一、二回会えば満足するタイプではなく、できれば毎日顔をあわせて一緒の時間を長く過ごしたいと考えていることがわかった。

では来年にでも引っ越そう、できるだけ早く物件を決めて二人暮らしを始めようと、とんとん拍子に話が進む。

通勤の関係で、私がパートナーの住む県に移住すること、二人とも今住んでいるところは引き払って、新しく部屋を借りるということもすぐに決まった。

問題が発生したのは、ここから先。
二人で住むための部屋探しが、ものすごく難航したのである。

同性カップルは部屋を借りることができない?

差別されないための「友人同士のルームシェア」作戦

部屋探しをするにあたって、パートナーは「不動産会社の人に差別的な目で見られたくない」という不安を口にした。

私は他人からの偏見をそれほど気に病まないほうなのだけれど、パートナーは自分が同性愛者であることを誰かに揶揄されたくないという思いが強かったのだ。

そこで私は、「友人同士のルームシェアをよそおって部屋探しをしてみる?」と提案した。
あくまで同性カップルであることがばれないように、友人同士で部屋を探しているのだと説明すれば、偏見をぶつけられることもないだろうと思ったのだ。

なかなか見つからない物件、まさかの「ルームシェアNG」

まず一軒目、ここに住んでみたいと目をつけていた街の不動産会社を訪れた。

友人同士であると偽装するため、私とパートナーは普段よりもテンション高く、「ルームシェア楽しみだねー!」などと嘘の台詞を話しながら希望する部屋の条件を伝えた。スタッフの方は特に怪しむ様子もなく、条件に合いそうな部屋があるか調べてくれた。

しかし、その街は県内でも有数の大きな駅があり、非常に人気が高いエリアだった。
希望する家賃の範囲内では、築年数が古く住みづらそうな物件しか見つからず、内見にすら至らなかった。

二軒目は、もう少し都心から離れたエリアの不動産会社。

二人の関係性について突っ込んだ質問をされる場合に備え、「SNSを通じて数年前に知り合った」「とあるYoutuberグループがお互い好きで、趣味の時間を共有するためにルームシェアを始めることにした」などと設定を作り込んで挑んだ。

結果的に、作り込んだ設定を披露する機会はなく、ここでも部屋探しは淡々と進んだ。

しかしながら「ルームシェアNGの物件もあるので、希望している条件内で紹介できる部屋はあまり多くない」という話を聞き、二人で愕然とする。

いくつか内見もさせてもらったが、極端に狭く日当たりの悪い部屋や、なんとなくじめじめとして暗い雰囲気の部屋などを巡るうち、だんだんと物件探しのやる気が削がれていくのを感じた。

演技に疲れた私とパートナーの、新たな作戦

二軒目の不動産会社からの帰り道、私とパートナーはどちらからともなく「もう、友人同士のルームシェアに偽装するのはやめよう・・・・・・」と言い合った。

ただでさえストレスのたまる物件探しの最中、慣れない演技をしたことでさらに神経を消耗し、どっと疲れてしまったのだ。

演技に疲れた私たちは、正直に同性カップルであることを伝えた上で物件を探すことにした。

さらに、これまでの不動産会社で住みたいと思える部屋に出会えなかったことから、物件探しの条件を考え直すことにした。

引っ越しを予定していた時期は、引っ越し業者の見積もりが安くなりそうな六月頃。不動産会社を巡っていたのは三月頃なので、数か月先に引っ越しするというイメージで考えていた。

ただその場合、四月から入居予定の学生や新社会人に物件が優先されてしまい、私たちが希望する価格帯の部屋が残らない可能性が高い。そこで、思いきって「三月末から四月にかけて入居可能」と条件を変更し、居住エリアも範囲をぐっと広げて探すことにした。

忘れられない不動産会社での言葉

同性カップルでは超えられない、厳しい現実のハードル

条件を変えたことで、少しは希望の条件に合致する物件が出てくるかと思ったのだが、今度は、最初から恐れていた事態が発生してしまった。

三軒目の不動産会社で、「同性カップルだと、頭の固いオーナーが入居を渋るかもしれない」と言われたのだ。

これには、私もパートナーも途方に暮れてしまった。

一人暮らしではハードルを感じなかった物件探しが、同性のパートナーと一緒に暮らすというだけでここまで難しくなるのか。

さらに、「結婚する予定の(異性同士の)カップルであれば問題なく入居できる」という言葉まで口にされ、この不動産会社で部屋を借りたくないと感じた私たちは、内見もせず早々に退散した。

やっと出会えた理想の物件

うんざりするような偏見まで聞いて、休日のたびに不動産会社巡りをするのにも疲れてきたあるとき。

お昼ごはんを食べる場所を探していた街で、ふと、初めて見る不動産会社が目に留まった。「ちょっと入ってみる?」と言い合って、パートナーとともに入店。

これまでに訪れた大手の不動産会社とは違い、名前を聞いたことのない中小規模の会社だった。

スタッフのほとんどが女性で、話しやすい雰囲気があり、希望を伝えるとすぐにいくつか物件を紹介してくれた。今までにないスムーズな対応が嬉しく、私たちはお昼ごはんを後回しにして内見に向かう。

いくつかの物件を見て回ったところ、とても綺麗で住み心地のよさそうな部屋に出会うことができた。これまでに内見した部屋とは比べものにならないレベルだったので、パートナーも私も「ここにしよう!」と即決。

入居審査の不安と、忘れることができない言葉

よい物件に出会えた喜びも束の間。三軒目の不動産会社で言われた「オーナーが入居を渋るかもしれない」という言葉が引っ掛かり、どうしても不安がぬぐえなかった。

念のため、案内をしてくれたスタッフの方に「同性カップルでも入居審査は大丈夫でしょうか?」と確認してみた。

その人は「大丈夫だと思いますが・・・・・・」と前置きしてから、小さな声でこう付け加えた。

「もしどうしても不安なようでしたら、お一人だけの入居という形で審査を通して、こっそり同居するという手もありますよ」

私もパートナーもあっけにとられたが、スタッフの方は私たちを気遣って言い添えてくれたのだということが伝わってきた。

この不動産会社で決めてしまいたい、この物件を逃したくないという思いが、気持ちを焦らせる。「ちょっと考えてもいいですか」と猶予をもらい、一日かけて悩んだ挙句、嘘をつくのではなく二人一緒に入居する形で、審査が通るのを願うことにした。

結果的に審査は通り、希望していた部屋に無事に引っ越すことができた。それでも、あのときの不動産会社での言葉と、せっぱつまった感情はどうにも忘れることができない。

私たちは法の目をくぐり抜けないと、部屋を借りることも叶わないのだろうか。
そんな思いが、今も胸の底深くに沈んでいる。

同性カップルが二人暮らしを楽しめる未来

引っ越しても終わらない、二人暮らしの困難。

入居までの道のりが険しかった、パートナーとの二人暮らし。

念願だった引っ越しを終え、二人の生活がスタートしても、小さなトラブルはあとを絶たたない。

家賃や水道光熱費、生活費の管理について。
家事労働の分担について。
共有物の購入について。
私物の片付けや、共有スペースの整理整頓について。

ちょっとした口論が喧嘩に発展することもあり、そんなときは一つ屋根の下で逃げる場所がないことを苦しく感じてしまっていた。

そういった場面で私の心の支えになったのが、同性同士でルームシェアをしている方のエッセイである。

阿佐ヶ谷姉妹さんの『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』、スタジオクゥさんの『おひとり様のふたり暮らし』、そしてキム・ハナ氏とファン・ソヌ氏の共著『女ふたり、暮らしています。』。

いずれも恋人同士ではないけれど、女性二人の暮らしについて赤裸々に描かれた本たちだ。

物件探しの苦労や家事の分担問題、喧嘩の描写など、他人事ではないエピソードの数々に頷きつつ、困難をなんとかやり過ごしながら二人での生活を楽しまれている様子に勇気づけられた。

何より、好きな人と同じ家で生活することの喜びについて、再確認させてくれたことがありがたかった。

結婚という契約関係や出産、子育てというイベントがないからこそ、「一緒にいたい」という思いを忘れずに、不満はきちんと言語化しながら暮らしていくこと。

夫婦や異性カップルだと向き合うことのなかったかもしれないハードルの数々を思えば、二人で過ごせる時間を大切にしよう、と気持ちを改めることができた。

同性カップルでも自由に住居を選べるように。

何十年も未来のことはわからないけれど、私とパートナーは当面賃貸で暮らしていくつもりで、家やマンションを買う予定は今のところない。

もしかしたら、分譲マンションなどのほうが転居しやすいのかもしれない。それでも、ライフスタイルによって住む場所を変えながら身軽に生きていきたい私たちには、賃貸での生活が合っている。

だからこそ、同性カップルだからといって部屋探しが難航するような社会の仕組みは、一日も早く改善されてほしい。

次に引っ越すときには、今よりもっと自由に住居が選べるようになってほしいと、心の底から願っている。

 

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