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Writer/Jitian

「足立区が滅びる」から約半年で、パートナーシップ制度導入へ

足立区で、2021年4月から戸籍上の性別にとらわれないパートナーシップ制度が始まります。2020年の足立区議のLGBTQ差別発言からいかにして、ここまでの大きな変化が起きたのでしょうか。今回は、足立区議の発言から、現在に至るまでの足立区の変化を見ていきます。

パートナーシップ・ファミリーシップ制度の中身

2021年4月から制度利用の開始が予定されている足立区のパートナーシップ制度は、どのような中身になっているのでしょうか。

騒動からわずか約半年、4月1日から受付開始

昨年2020年9月における足立区定例会において、白石区議が「L(レズビアン)だってG(ゲイ)だって法律で守られているじゃないか、なんていう話になったのでは足立区は滅んでしまう」などと発言しました。このLGBTQ差別発言が、LGBTQ界隈だけでなく、全国的にも大きな話題になり、現在もまだ多くの方の記憶に残っているのではないかと思います。

あれから約半年。2021年4月から、足立区では戸籍の性別に関係なくパートナーシップを区として認めるパートナーシップ制度の宣誓受付が開始されることになりました。LGBTQ差別発言から一転して、足立区がLGBTQに理解のある街に生まれ変わろうとしています。

区のウェブサイトでは、2021年3月6日時点で、すでに宣誓書などの書類や、「双方が成人していること」などといった、宣誓に必要な要件などを確認することができます。

パートナーシップ制度だけでなく、ファミリーシップ制度も

今回注目すべき点の一つとして、パートナーシップ制度だけでなく、ファミリーシップ制度も同時に開始するということがあります。ファミリーシップ制度とは、パートナーシップを宣言する二人の間に生計を同一とする未成年の子どもがいる場合、子どもも含めて家族だと宣言できるというものです。

パートナーシップ制度は、ここ1、2年の間に都市部だけでなく加速度的に多くの自治体で導入されてきました。現在導入を検討している自治体も日本各地にあります。一方、ファミリーシップ制度は、実は導入が全然進んでいません。足立区で導入されれば、日本で2件目となります。

パートナーシップだけでなく新しい家族のかたちも認める姿勢は、同性愛者の権利を認めることによって少子化が加速するという旨の白石区議の発言から考えると、いきなり大きく前進したなという印象を受けます。

非常に理解のある内容文

もう一つ注目した点が、LGBTQへの理解を感じられる内容文です。

「同性愛者」だけに向けられていない制度

まず注目したのが、パートナーシップ・ファミリーシップ制度の説明を記載した足立区のウェブページの説明内容です。例えば、パートナーシップ制度における「パートナー」の定義として「戸籍上の性別が同じである、もしくは戸籍上の性別に関わらず、自らが認識する性が同じである2人」と書かれています。

同性愛者でもなければジェンダーアイデンティティもない私からすると、そうした自分も制度の対象として含まれた、単に同性愛者だけにフォーカスした制度ではないということが感じられます。多様性について勉強して考えた結果が、きちんと制度に反映されていると言えます。

■LGBTQ当事者と非当事者の区民それぞれに寄り添う姿勢

2021年2月26日付で掲載された要綱制定を知らせる足立区公式ウェブページでは「要綱が出来たからといって、これまで反対の立場をとっていた人が急に考えを変えられるとは思っていない」とエクスキューズを置きつつも「『足立区に住むのが怖い』と発言せざるを得なかった、性的指向や性自認に関して困難を抱える方々の思いに、区として少しでも寄り添えればと思った」と、早急な制度実現に至った理由が書かれています。

様々な考えや感覚を持った区民それぞれを置き去りにしない姿勢を示しながらも、LGBTQ当事者の悲痛な意見を自分事として捉えてくれたのだなと、足立区民でなくとも、こういった首長の存在に嬉しく思います。ぜひ他の自治体の首長にも同じような感覚が広がってほしいなと、願ってやみません。

スピーディな制度実現に至った経緯

足立区議の失言が全国的にニュースとして取り上げられてから、わずか半年ほどで制度施行を予定する現段階まで、一体どのような取り組みが行われてきたのでしょうか。

区長のスピード感を意識した「要綱」

今回、パートナーシップ・ファミリーシップ制度を規定した「要綱」とは、足立区内部において足立区長の権限で適用されるもので、実は法的性質はありません。一方、よく聞く「条例」は、区内で法的性質がある決まりですが、「要綱」よりより強いルールのため、制定するには区議会で議案を通す必要があります。

現在、4期目の足立区長を務める近藤弥生区長は、すぐに制度を実現させることを最優先と考え、あえて要綱とすることで区議会に議案を通す時間をカットしました。この区長の判断が、ニュースになってから半年で実現に至った理由の一つと言えるでしょう。

LGBTQ当事者の声をヒアリング

それでは、なぜ近藤区長は条例として区議会にかけることよりもスピード感を重視したのでしょうか。

第一に、今回の騒動が全国的に大きなニュースとなって騒がれてしまったことです。失言をしたのは、言ってしまえばたった一人の区議にすぎませんでした。しかし、連日報道される「足立区」というワードを聞いて、足立区はLGBTQに理解のない街だというイメージを持った人も少なくないと思います。実際、当時は私も「将来、絶対に足立には住まない。住んだら、誰かから『こいつが足立区を滅ぼす』とか言われるかもしれないし」と思いました。この流れに近藤区長は危機感を覚えました。

第二に、LGBTQ当事者へのヒアリングを行ったときに感じた、当事者の切実な生きづらさです。

近藤区長も、昨今多くの自治体でパートナーシップ制度が導入されているという動きはもちろん把握していました。しかし、パートナーシップ制度を導入して欲しいという声が区に多く寄せられていなかったこともあり、足立区ではまだ導入する必要はないと考えていました。

ですが、2020年の騒動で、足立区に住むLGBTQ当事者から「引っ越そうと思う」といった話や、今までの困りごとやつらい経験を聞いて、区民に理解が広がるのを待とうといった悠長な考えは払拭されたそうです。

私は以前に、国民に理解が広がるのを待っていないで、すでに今色々なところで差別を受けて困っている人がいるのだから、すぐにでもLGBT差別禁止法の制定をして欲しいということを書きました。まさに区長が当事者目線に立ったからこそ、足立区でここまで迅速に制度実現に向けて動きが進んだのだと思います。

これからも足立区の動きに注目しよう

しかし、今回のパートナーシップ・ファミリーシップ制度の導入は、まだ始まりに過ぎません。

目を見張る迅速な動きは、女性政治家ならでは?

足立区議の問題発言が炎上してから、2020年内にはパートナーシップ制度を翌年である2021年にスタートさせると決定し、2021年4月から本格的に運用を開始しようとしています。全国的に見ても、ここまで早く自治体が動くのは例を見ないものでした。

個人的には、ここまで早く制度が実現する準備が整ったのは、率先して動こうとした区長が女性であったからではないかと思います。

近藤区長は、足立区長を務める前は東京都議会議員を務めていました。その際、都議会で、女性が仕事をしやすい環境を整えるための保育園の拡充について質問をしたときに、「女性が子どもを保育園に預けて働くようになったから日本の子どもは悪くなったのだ」と野次が飛んできたと言います。

新しいライフスタイルで生活しようとする人々の困りごとを解決しようと動こうとするときに、押し潰されたという感覚。しかし、今働けなくても困っている人のことを考えれば「家父長制の考えをもつ人が新しい価値観を受け入れるまで待とう」などと、のんきなことは言っていられない。

重要なのは、困っている人のために政策を早く実現させること。だから、今はしたたかに自分ができることをやる。保育園に子どもを預けて働く親が増えて、前例やロールモデルが生まれていくことで、周りもだんだんと学んでいき、結果として理解が広まる。

このときの経験が、今回LGBTQ当事者に耳を向けて、早期改善・実現を目指そうということにつながったのではないかと思います。

実現の早さに表れる当事者意識

今回、制度実現に「スピード」がいかに重要なのかということも感じました。前述の通り、昨年足立区議の差別発言が取り上げられた際「足立区には将来住むまい」と私自身も不信感を覚えました。しかし、今回のことを知って「こんなに早く改善姿勢を見せているのか」「しかも、ファミリーシップ制度も作るのか」と、むしろ足立区に好印象を持ちました。問題を問題と捉えて、その解決にすぐ動く姿勢が見えるだけで、たとえ足立区民でなくても当事者として勇気づけられました。

近頃は、政治家の色んな差別発言が取り上げられ、炎上しやすくなっています。しかし、ネタとして炎上を消費するだけではなく、その後どのように改善しようとしているのかにも注目すべきだと、今回の足立区の動きを知って痛感しました。

正直に言って、足立区が異例なのであって、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の件のように、とりあえず女性をリーダーに据えることで形だけ改善したように見せる応急処置が実際には多いと思います。形だけの改善策を打ち出しているのではないか? 本当に変わろうとしているのか? と、批判の目をしっかり向け続けることが重要です。

先ほども書いたように、パートナーシップ・ファミリーシップ制度の導入は、まだ序章にすぎません。これからさらにどのような課題が生まれるのか、そしてどのように対応するのか、引き続き見守っていきたいです。

参考記事:
・パートナーシップ・ファミリーシップ要綱を制定しました(足立区)
https://www.city.adachi.tokyo.jp/hisho/ku/kucho/20210226-mainichi.html

・足立区パートナーシップ・ファミリーシップ制度を開始します(足立区)
https://www.city.adachi.tokyo.jp/sankaku/pa-tona-shippuseido.html

・同性愛差別の区議発言から、パートナーシップ制度導入。足立区長が語る反省と後悔(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60360f0cc5b62bef36796233

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