いま私はジョージア(旧グルジア)に滞在している。ジョージアは南コーカサス地方に位置し、日本からは飛行機の直行便がないこともあってか「日本人の99%が訪れることのない国」と言われている。今回は、そんなジョージアにおけるLGBTの現状をはじめとして、法的な状況、社会的受容や、LGBT支援団体の活動について、私自身の体験も含めて解説していきたい。
ジョージアのLGBTの現状と背景
歴史、文化、宗教の影響もあって、現在のジョージアはLGBTの権利や社会的受容に関して複雑な状況にあるといえる 。
LGBTに対する社会的受容と文化的背景
ジョージアは旧ソビエト連邦の一部であり、ソビエト崩壊後の社会変革においてもまだ、LGBTコミュニティに対しては非常に保守的な傾向をもっている。
近年、LGBTの権利に関して 法的な進展が見られつつあるものの、社会的な差別や偏見、暴力は依然として大きな課題である。
ジョージアの社会にはキリスト教の正教会が大きな影響力をもっていて、伝統的にかなり保守的である。このため、LGBTの人々に対する 差別が根強く存在するとされる。
ジョージアにいる多くのLGBTは、自分たちの性指向や性自認を隠すことを余儀なくされている。 同性愛に対する公共の場での暴力事件や嫌がらせも数多く報告されており、LGBTが安心安全に生きることは難しいのが現状 だ。
ジョージアのLGBTに関する法的な状況と権利
ジョージアの法律では、同性間の性的行為は非犯罪化されており 、性指向や性自認に基づく差別は法律で禁止されている。しかし、実際の施行やその効果については疑問が残る点が多く、同性カップルに対する包括的な法的保護は限られている。
同性愛は2000年に非犯罪化されたものの、これは国際的な人権基準に準拠するための、形式的な措置として実施されたものにすぎないともいわれている。
だがそんな中、2023年12月にジョージア議会は同性婚を法制化する法案を可決した。
現在は大統領の署名を待っている状況だ。この法案が成立すれば、ジョージアは旧ソ連としては初めて同性婚を認める国となるだろう。
ジョージアのLGBT支援活動と国際支援
ジョージアにおける近年のLGBT支援活動
近年、ジョージアでは同性婚を含めLGBTの権利獲得を目指す活動が増えてきている。とはいえ、まだまだヘイトや妨害も多い。
極右団体の攻撃によって、今まで2012年、2013年、2021年、2023年とLGBTのプライドイベントが中止に追い込まれて いる。
2019年に初開催されたトビリシ・プライドも、初回から妨害を受けた。
ジョージア国立舞踏団における男性ダンサー同士の恋愛模様を描き、カンヌ国際映画祭でクィア・パルム賞を受賞した2019年の作品『ダンサー そして私たちは踊った』がジョージアでプレミア上映された際も、極右団体が上映に抗議して映画館に乱入 しようとするなど、大きな騒ぎが起こった。
ジョージアのLGBT支援団体
極右団体による激しい攻撃 にもかかわらず、ジョージアでは「Tbilisi Pride and Shame Movement」「Equality Movement」「Identoba」など、複数のLGBT支援団体が活動を続けており、国際社会のサポートも受けながら、国内に変化をもたらそうとしている。
LGBTの人々のための支援団体やコミュニティセンターは、LGBTの権利獲得や社会的受容を目指して活動しており、法的支援、心理的サポート、教育プログラムなどを提供している。
ジョージアのLGBTに対する国際社会の支援
ジョージアのLGBT権利獲得には、国際社会の支援が不可欠だ。欧州連合(EU)や国際連合(UN)、その他の人権団体はジョージア政府に対して、LGBTの人々に対する差別や暴力を防止するための措置を強化するよう働きかけている。
2021年に極右団体の攻撃 でトビリシ・プライドが中止に追い込まれた際、在ジョージアの20箇国の大使館は以下のような共同声明を発表した。
私たちは、今日の市民活動家やコミュニティのメンバー、ジャーナリストへの暴力的な攻撃を非難する。政府の指導者や宗教関係者がこれを非難しなかったことにも。
平和的なパレードへの参加は、ジョージアの憲法に保障された人権だ。
暴力は許されない。問答無用だ。
暴力を扇動したり、脅迫したり、暴力に関与した者は、ジョージアの警察の安全保障の努力を妨害するものである。彼らは法に則り、告訴されるべきだ。
私たちは、ジョージアのリーダーたちと警察に、速やかに憲法上の権利と表現・集会の自由を執行すること、ジャーナリストの報道の自由を守ること、公に暴力を非難することを要求する。
この声明には、オーストリア、ブルガリア、エストニア、EU、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、アイルランド、イスラエル、イタリア、ラトヴィア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、英国、国連、米国が賛同を表明している。
ジョージアにおける私自身の体験
現在のジョージアは、まだまだLGBTが安心安全に生きられる国とはいえない。とはいえ、そんなジョージアで私は小さな希望的経験をした。
ジョージアで最も大きく有名なキリスト教 聖堂のひとつ、至聖三者大聖堂。観光地としても名高いその教会にほど近い土産物屋の片隅で、LGBTのシンボルであるプライドレインボーが描かれ「LOVE IS LOVE」と書かれたマグネットを見つけたのだ。
法的にはある程度の保護が存在するものの、LGBTに対する社会的な偏見や差別は依然として深刻なジョージア。
そうした状況において、同性婚の合法化に向けた動きはLGBTの権利向上に向けた重要な一歩だといえる。国際社会の支援と国内の活動家の努力によって、より平等で包括的な社会の実現に向けた道が開かれていくことが期待されている。
■参考情報
・性的少数者の催し中止 極右が襲撃―ジョージア:時事ドットコム
・極右団体の襲撃でトビリシ・プライドが中止に追い込まれた翌日、ジョージアの国会議事堂前に7000人の市民が集結し、LGBTQへの連帯を表明しました
・Thousands protest in Georgia after terrifying, far-right violence cancelled Tbilisi Pride | PinkNews
・LGBT rights in Georgia (country) – Wikipedia