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Writer/Jitian

ドラマ『おっさんずラブ -リターンズ-』に同性カップルの現実を持ち込んではいけない?

2018年に放送され大きな反響を呼んだ、“おっさん” たちよるラブコメドラマ『おっさんずラブ』。その続編が2024年1月より放送されています。ただ、シーズン1から6年が経って、社会も急速に変化していることもあり、視聴していていろいろと気になる点が出てきました。

帰ってきた! 『おっさんずラブ』まさかの続編

春田と牧のストーリーはもう描き切ったものと思っていたので、続編の発表には正直驚きました。

社会現象的な人気だったドラマ『おっさんずラブ』

2016年の単発ドラマから始まり、2018年にキャストを一部入れ替えて連続ドラマとして放送された『おっさんずラブ』。私の『おっさんずラブ』との出会いは、まさに2018年の連ドラでした。

当時は、同性カップルを主軸に据える地上波放送のドラマは、現在に比べると全然ありませんでした。

BLマンガをよく読むLGBTQ当事者の一人としては、正直期待よりむしろ「LGBTQを揶揄するような内容だったら、テレビ朝日にクレームのメールを入れてやる!」くらいのけんか腰(?)で視聴し始めたことを今でもよく覚えています(苦笑)。

ですが、実際にドラマを観るといい意味で裏切られてドはまりしました。実際、多くの人も虜になり、夜11時台からの放送にもかかわらず、かなりの話題作となりました。主演の田中圭さんも、このドラマをきっかけにブレイクした印象です。

あまりにも好評だったため、2019年にはシーズン1の続編となる映画が公開。さらに、同年秋には航空業界での男性同士の恋愛を描くパラレルワールドのドラマ『おっさんずラブ – in the sky -』も放送されました。

今回放送開始された『おっさんずラブ -リターンズ-』は、シーズン1の続編です。映画で描かれた後から数年後の物語となっています。

『おっさんずラブ』のあと、同性カップルのドラマが急増

2018年に『おっさんずラブ』が大ヒットしたことで、そのころ注目を浴びていた「多様性」や「SDGs」という追い風もあり、同性カップルの恋愛をテーマとする作品が増えました。

2019年に放送されたドラマ『きのう何食べた?』も深夜帯の放送ながら人気を集め、2023年にはシーズン2も放送されました。2020年に放送されたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)』も大ヒットし、映画にもなりました。2024年1月10日からはアニメも放送開始しています。

私自身も、2018年に『おっさんずラブ』が放送されると知ったときは「同性カップルのラブコメドラマが地上波で流れるのか・・・・・・。世間はどんな反応をするんだろう?」と少し不安がありました。まさか、これほどの人気を得て、世間に浸透するとは想像していませんでした。

『おっさんずラブ』は、単にラブコメとして成功しただけでなく、同性カップルの物語を「あまり触れてはいけないもの」からい「身近なもの」に変えたのです。

『おっさんずラブ』と実際の同性カップルの生活

シーズン1と違って、今回の『リターンズ』への期待度は明らかに高いです。

春田と牧の ”新婚” 生活?

今回のドラマ『おっさんずラブ – リターンズ -』では、主人公・春田の恋人である牧が海外赴任から帰国し、”新婚” 生活を始めるところから始まります。

はい! この時点で「新婚の同性カップル?」と引っかかりを覚えた読者はいますか? 春田と牧は法的に結婚しているのでしょうか?

答えはNOです。

1月12日に放送された第2話で、春田たちは自分たちのパートナーシップについて春田の母親に伝えているのですが、そのなかで牧は「(自分たちの関係性に)法的な根拠はないし、口約束みたいなことなんですけど」と口にしています。

また、TVerで配信されているスピンオフでは「コロナ」に触れていることから、彼らの住む世界は、時間軸を含めて私たちの生活する世界とほぼ同じだと思われます。つまり、春田たちは事実婚を選んでいるわけではなく、同性カップルが法的に結婚できない世界にいるのです。

法的に結婚している春田の部下・歌麻呂とパートナーの蝶子は、相関図上で同じ「栗原」姓になっていることからも、異性カップルは法的に結婚しているが、同性カップルはできていないということがうかがえます。春田と牧の「新婚生活」という表現は、一種の比喩ということになります。

そもそもシーズン1のクライマックスでも、春田は牧に「オレと結婚してくださぁぁぁい!!」と叫んでいます。それを観ていた私は「結婚? 法律婚じゃなくて事実婚のことだよな? まあ春田はゲイではないから、同性カップルの実情はあまり知らないのだろうな・・・・・・」と解釈していました。

シーズン1の春田はいろいろと「無知だから」で済まれていたとしても、『リターンズ』の時間軸は、シーズン1から6年も経過しています。春田も多少なりとも同性カップルの実情を経験・理解しているはずです。

視聴者も「○○市が同性パートナーシップ制度を導入しました」「同性カップルが結婚の自由を求める裁判で・・・・・・」といったニュースを日々見聞きして、同性カップルに関する知識も増えたと思います。

第2話で春田と牧の関係について細かく言及されたので、第1話を視聴したときのもやもやは多少晴れました。しかしながら、比喩とはいえ、わざわざ「新婚」と表現しなくてもいいのでは? と個人的には感じました。

同性カップルが簡単に部屋を借りられるのか?

ほかにも、ドラマ『おっさんずラブ – リターンズ -』第1話で気になったことがもう一つ。

シーズン1では春田の実家で一緒に生活を送っていた春田と牧ですが、『リターンズ』では春田が借りた一軒家で新しい生活をスタートさせています。

スピンオフではこの家を借りることになった経緯について、不動産会社とのやり取りを春田が牧に説明しています。ですが、同性カップルだから渋られた、などといったことは一切語られません。

第1話とスピンオフを観て「同性カップルとして部屋を借りる際に苦労はなかったのか?」と少々不思議に思いました。

確かに、LGBTQに対する理解は確実に広まっていると思います。不動産会社に同性カップルであることを明らかにしたら「帰ってください」と門前払いのような扱いを受けた、というようなことがもしあれば、差別だとして大問題となることでしょう。しかし、貸主が偏見や差別意識を持っているために入居を断わられるケースは、残念ながらまだ実在すると思います。

とはいえ『おっさんずラブ』はあくまでフィクションです。現実の同性カップルが直面するような困りごとは、春田と牧の住む世界にはないのかもしれないし、できるだけそのような障害のない幸せな生活を送ってほしいとは思います。

しかし、ドラマのなかで、現実の同性カップルが直面するような困りごとをまったく排除してもいいのかというと、どうしてもモヤモヤが残ってしまうのです。

同性愛カップルを描いた『おっさんずラブ – リターンズ -』にLGBTQ当事者として期待すること

同性カップルの楽しい日常を描いただけの「ファンタジー」を広く世間一般向けに放送するのは、もう少し先の話ではないかと思うのです。

BLはファンタジー

そもそも、男性同士の恋愛を描いた「BL(ボーイズ・ラブ)」というジャンルは、一般的には女性向けのコンテンツとされてきました。一読者の印象としては、BLでは同性カップルが直面する困難はあまり描かれておらず、カップル同士の心情描写を中心としていて、読者が「キュン」とすることを狙ったものがほとんどだと思います。

もちろんBLが好きな男性もいるでしょうが、ノンバイナリー当事者の私が見るに、ゲイ当事者向けに制作されているとは感じません。そういった文脈を考えれば『おっさんずラブ』で同性カップルの困りごとをほとんど描かないことは、ある意味で自然だと言えるかもしれません。

しかし、影響力が大きく世間からの注目度も高い『おっさんずラブ』だからこそ、シーズン2に当たる今回は、同性カップルを現実的に描くという挑戦もちょっとはしてほしいと考えるのです。

『おっさんずラブ』は、LGBTQ非当事者が同性カップルに触れる機会になりうる

私が『おっさんずラブ』シーズン1を観ていた頃、学生時代からの友人(女性)も観ているということを、会話をしていてたまたま知りました。

私は彼女にカミングアウトしていないので、私がノンバイナリー・パンセクシュアル当事者であるということは知らないはずです。一方、彼女は婚活をしていたこともあるので、おそらくマジョリティでしょう。

そんなマジョリティであろう友人が『おっさんずラブ』にハマっているということは、少なくとも同性愛に対して生理的な嫌悪感は抱いていないはず、むしろ好感を抱いているかもしれない・・・・・・。

ならば、『おっさんずラブ』を通して、同性カップルについて、ひいてはLGBTQについて、少しでも理解を深めてくれればうれしい! と思うのです。

BL的な要素と同性カップルのリアルは両立する

『おっさんずラブ』では、同性カップルの社会的な障害についてほとんど触れられていないように思います。

しかしながら、前述の『きのう何食べた?』では、LGBTQへの偏見を持つ高齢者の家族との付き合いや、親と絶縁に至っている中高年の男性カップルが描かれたことがあります。ジャンルとしてはBLですが、キュンとする要素より現実的な描写のほうがむしろ多いと感じるくらいです。

また、映画『チェリまほ』の後半で扱われた、家族へのカミングアウトのシーンは緊張感がありました。それまで多分に含まれていた、キュンとするようなファンタジーの要素を排してまで、家族へのカミングアウトという、当事者としては最も緊張する場面をしっかり描こう、という制作側の意気込みを感じました。

ほかの作品では、BLと同性カップルの現実を両立させることにチャレンジしている。それならば、同性カップルのラブコメを世間に浸透させた『おっさんずラブ』こそ、現実的な部分を描くことに挑戦してほしい。LGBTQ当事者など自分の周りにはいないと思っているような非当事者の視聴者に、きっとなにか残せるはずだから・・・・・・。

放送前から注目度の高い『リターンズ』だからこそ、私自身も期待したいです。

■参考情報
NOISE『「同性愛」「BL」も身近になった?』
NOISE『異性のパートナーがいない、恋愛経験がないのはダメですか?』

 

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