02 オカマ、といじめられる訳でもない
03 走っているときは、全てを忘れられた
04 バレーボールとの出会い、そして
05 セクシュアリティが定まらない
==================(後編)========================
06 やっぱり自分は、そうだったんだ!
07 恋することは、こんなにも素晴らしかった
08 カミングアウトとアウティング
09 社会のために、僕がやりたいこと
10 自分を認めることの大切さを
01男らしく、男らしくと言われても
祖父母の存在
2人兄妹の兄として誕生。
2歳下の妹がいる。祖父母にとっては初めての孫。そんなこともあって、小さい頃から口うるさくしつけられた。
「祖父母とは、同居をしていたわけではなかったんですけど。近くに住んでいたので、よく家に来ました」
「『男なら』『男らしく』というのが、とくに祖父の口ぐせで。言われるたび、幼いながらにも嫌な気持ちを抱いていました」
のちのち自分はゲイだったと気づくが、かといって当時から、なよなよと弱々しい雰囲気の子どもだったのだろうか。
あまりよく覚えてはいないが、とにかくよく祖父に怒られた。
「外で遊んでいる僕の姿を見ると、祖父は上機嫌でした。『男は野原を走り回って、わんぱくに育つべし』という考えが芯にあったようです」
両親はどちらかと言えば、放任主義な部分があった。
ふたりとも仕事が忙しかったこともあり、やさしく、きちんと子育てはしてくれるものの、あまり子どもに干渉してこない。
そんな父親、母親だった。
「ただひとつ、強制されたことといえば、少年野球でした。実は外遊びしていても、球技だけは苦手だな、嫌だな、と思っていたんです」
とにかくボールが怖かった。
「でも父親が地元の少年野球チームでコーチをしていたため、強制的に入部させられて」
「いつも嫌々ながら、練習に行っていました(苦笑)」
父親はバッターボックスに立つ自分の姿を見て、いつも嬉しそうな顔をしていた。
我が子の気持ちを知らずに、だ。
祖父ほどではないけど、父もまた「外で快活に遊んでこそ男の子」、そんな教育論を持っていたのかもしれない。
セーラームーンはダメ?
しかし祖父母や父親の思いとは異なり、どちらかというと女の子が好むものが好きだった。
「『美少女戦士セーラームーン』が大好きでした。でも好きって公言してはいけない気がして。周りを見渡しても、セーラームーンを観ているのは、女子ばかりだったからです」
祖父母から「男らしくしなさい」と叱られ、父親には少年野球に加わるように言われる。
そんな押し付けられる日々のなか、自分の好きなものが女子と同じだと気づかれるわけにはいかない。
子供ながらに、そう思っていた。
「妹もセーラームーンが好きだったけれど、自分も好きだとは絶対に言えませんでした」
「誰も家にいないときに、隠れてこそこそ観ていました(笑)」
男なら「ガンダム」を好きになった方がいいのかもしれない。そう思って何回か観てみた。
「それでもどうしても興味が持てなかった。やっぱり自分は、他の男子と比べて変わっているのかなぁと思いましたね」
小学校でも、好きなテレビ番組を公言はできなかった。
02オカマ、といじめられる訳でもない
男の子を好きに
男らしさへの葛藤を抱えてはいたが、小学校ではいたって普通の児童だった。
自分の中に、女子が好むものを好きだという気持ちがあっても、決して口外はしない。
小学校2年生のときに、同級生の男子が気になった。
「好きになってしまう自分に気づきました」
「スポーツ万能な子で、憧れに近い気持ちでした。けれど、友達に抱く感情とは違うということにも、なんとなく勘付いてはいました」
3年生に上がると、転校することに。
憧れの同級生と離れ離れになったが、寂しいとは思わなかった。
「男の子を好きになることがおかしいとは思っていたけれど。まだ人を好きになるということが、どういうものかも分かっていなかった。だから別れも平気だったんだと思います」
そして移った新しい学校。
ちょっとした受難が待ち受けていた。
初めての転校生
「転校した学校は、まだ創立して日が浅いところで。開校以来、初めての転校生だったんです」
ただでさえ視線を浴びるのが転校生の宿命。それが学校初となれば、ものすごい注目度だ。
「廊下を歩くだけでも、ジっと見られて、こそこそ話をされる。もう恥ずかしくて、たまらなかったですね」
そんな環境で自分の言いたいことなんて、言えるはずもない。
悶々とした日々が続いた。
「元々、女子とつるむ方が楽だったから、転校先でも女友達と一緒にいる時間が多かったんです」
「そしたら男子から『おいあいつ、オカマだぞ』とからかわれるようになりました」
しかし、だからといっていじめられることはなかった。
男子に声をかけられれば、それなりに合わせることもできたからだ。
「オカマって言われるようになって、それがどういうものなのかは具体的にわかっていませんでした。実際、見たことがなかったからです」
それでも “オトコオンナ” みたいなニュアンスだということは、なんとなく理解していた。
「男じゃないと思われるのは嫌でした」
「だから男子ともうまく話を合わせられるよう、好きでもなかった『ドラゴンボール』の話をするようになりました」
本当は女子と、ドラマや芸能人の話をしている方が楽しかった。でも「木村は変なヤツ」と男子にレッテルを貼られるのが怖かった。
「転校して離れてしまったけれど、やっぱり祖父母に『男らしくしなさい』と言われて育ったことが大きかったんだと思います。父も野球を通して、たくましくなって欲しい、と思っていたし」
男じゃないと言われることは、なんとしても避けたかった。
「同級生の前でも、考えてから行動するようになりました。これなら男っぽい動作かな、と勘繰りながら」
こうしたバランス感覚が功を奏したのか、その後もいじめられることはなかった。
振り返ると楽しい小学校生活だったかもしれない。
1学年の人数が少なかったから、なにをやるのも一緒、遊ぶのも一緒。
転校を経ても、快活に笑えた6年間だった。
03走っているときは、全てを忘れられた
走る楽しさ
中学校に入学。
部活は陸上部を選んだ。小学校のときにクラブ活動で慣れ親しんでいたこと、あとは学年でも駆けっこは得手であったことが決め手だった。
「陸上部に入って、やっと野球の練習から解放されました(笑)」
父親の理想の息子像は白球を追いかける青年だったが、自分はトラックを駆けることを選んだ。
800mと1500mを専攻、練習に打ち込むうち、地元の中学生駅伝選抜チームに選ばれた。
「部活は楽しかったですね。目に見えて結果が出たし、それに走っているときは、なにもかも悩みを忘れることができたから」
中学生になって、よりセクシュアリティへの迷いが深まった。
相変わらず、オカマと言われないように、男子とうまく馴染めるように、観たくもないテレビの深夜放送を観て、話題を合わせるようにしていた。
「中学生になっても、女の子を好きになることはありませんでした。けれど、ついつい男子には目がいってしまう」
思春期を迎えて、同級生は女子と付き合っているのに、自分は好意を寄せることすらできない。それどころか、男性に気持ちが向く。
やっぱり自分はおかしいんじゃないか、と悶々と悩み始めた。
「同級生の女の子に告白されることもありました。けれど、もちろん付き合えない。でも断るにも理由がうまく言えないんです」
「ごめんね、と言うしかありませんでした」
日常に潜む、セクシュアリティの悩み。
そこから解放してくれるのが部活、走ることだったのだ。
仕方がない
しかし部活に励むうちに、陸上部の男の先輩を好きになってしまった。
「3年生で、短距離専門の人でした。すごく頼りがいのある先輩で。よく練習後も一緒に残って、ふざけ合って、バク転の練習なんかして遊んでいました」
「楽しかったし、いつもドキドキしていました」
部室で着替えるときも、どうしても先輩の裸の身体に目がいってしまう。
そこに罪悪感が伴うのは、すでに自分がゲイである、そうではなくても、いわゆる普通の男子とは違うということに、自覚的だったからだろう。
「でも先輩に彼女ができてしまって。そしたら交際に熱中して、部活に来なくなってしまったんです」
会えなくなって思ったのは、仕方がない、という気持ちだった。
「男同士だから仕方がないというより、まだ恋愛がどういうものか分かっていなかった、という感じです。単なる憧れで、大好きという感情ではなかった」
引き続き、自分は普通の男の子とは違うんだろうな、とは思っていた。
その気持ちは、まだ漠然としたものだったけれど。
04バレーボールとの出会い、そして
ロールモデルが欲しい
学校で同級生と話していて恋愛の話になると、自分が何者であるかわからず、悩んだ。
「今のようにインターネットがなかったから、ロールモデルが見つからなかったんです」
「自分が分からない、だから何も言えない。もうセクシュアリティのことは隠して生きようと思いました」
テレビでオネエタレントを観かけることがあった。
「自分と同じかもしれない、と思いました。でも同時に、現実感のない、遠い世界の出来事のようにも感じられました」
「テレビに出ている人のように堂々とできないから、自分はこの人たちとは違うのかもという思いです」
ゲイであることと女装することは、また違う。
けれど当時はそれが同じにみえていたから、少し奇妙な感情を覚えていた。
とにかく迷いは走ることで吹っ切って、という中学生活だった。
部活の仲間に恵まれたことも、幸運だった。
本当の初恋?
陸上の好成績が評価され、進学する高校は決まっていた。
しかし進路を左右する出来事が起こる。
バレーボールとの出会いだ。
「バレーボール女子Vリーグの試合を見る機会があって。プレイの躍動感とチームで戦うことの素晴らしさに魅了されてしまったんです」
孤独に自分と向き合う陸上の長距離に没頭してきたせいか、6人一丸となって競うバレーボールのスタイルに猛烈な憧れをもった。
推薦入学の辞退を決意して、受験勉強を開始。
見事、バレーボール部のある志望校に受かった。
「入部してみたら初心者、高校からバレーボールを始めた人が多かったんです。けれど中学校3年間の経験の差がないぶん、すんなりチームに馴染むことができました」
顧問の若い男性教諭が、また魅力的だった。
「体育の先生で、身長はすらっと高く、顔もかっこよかった。女子生徒にも、すごく人気がありました」
「学内でよく筋トレする姿を見かけて、その男らしさに、思わず見とれてしまう自分がいました(笑)」
初めて部活の顧問になった、若く熱血漢あふれる先生だったので、練習は厳しかった。
気づけば14人いた部員が6人になり、練習試合をおこなうにもギリギリの人数という有様だった。
「もともと先生に憧れていたけど、部活でしごかれるうちに、どんどん好きになっていきました。僕のM体質は、この頃からだったようです(笑)」
手取り足取り指導されると、ドキドキもした。
「中学の先輩への気持ちは憧れだったけど、先生への気持ちは恋だったかもしれません」
「思えば、あれが初めての恋だったのかな? もちろん、実ることはなかったけれど」
とにかくバレーに没頭した。
一生懸命にボールを拾った。
「6人しか部員がいないチームが、必死になって試合に臨みました。顧問の先生と合わせて『七人の侍』だといって、地元の新聞に載ったこともあるんです」
しごかれてもなお、部活に残った6人だ。
結束力は人一倍だった。
05セクシュアリティが定まらない
気安い仲間
それでも、なかなか公式戦に勝つことはできなかった。
けれど、チームで戦う喜びは、何物にも代えがたかった。
「キツいと思っても、先生が『お前ならできる』と言ってくれるんです。大好きな先生から言われれば、練習にも身が入ります」
「もっともっとうまくなりたい、みんなで強くなりたいと打ち込みました」
中学生までとは違い、学校の友達も、なんとなく自分と似た人ばかりだった。
なぜかみんな、恋バナやセクシュアリティの話をしない連中だった。
先生への恋心は実らないけど、もう無理して男らしく振る舞う必要もなくなった。
自然体でいられた。
付き合ってみよう
一方で、ある同級生の男の子に好意をもった。
ヤンチャな雰囲気だけど、物腰が柔らかい男の子。ギャップに萌えたのかもしれない。
「でも、どこか自分の気持ちを素直に受け止められないところもあって。同級生といたずらして戯れていたのも、自分のセクシュアリティの問題から目を逸らしたい、という思いがあったのかもしれない、と今では思うんです」
そんなとき、1つ下の女の子から告白を受けた。
バスケットボール部の2年生だ。
「なんとなく、自分のセクシュアリティをヘテロの方に振り戻したいという気持ちがあったんだと思います」
「目の前の問題から、逃げたかったのかもしれません」
今まで女子に告白されれば断っていたが、今回は付き合ってみよう、そう思った。
<<<後編 2017/07/09/Sun>>>
INDEX
06 やっぱり自分は、そうだったんだ!
07 恋することは、こんなにも素晴らしかった
08 カミングアウトとアウティング
09 社会のために、僕がやりたいこと
10 自分を認めることの大切さを