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Writer/Jitian

ジャニーズ性加害問題から考える「LGBTQを含む差別撲滅に大事なルール作り」

連日報道されている、旧ジャニーズ事務所の元社長・ジャニー喜多川氏による性加害問題。ですが、2023年10月2日の記者会見と同日に「グループ人権方針」が発表されたことは、あまり取り上げられていないように思います。

ジャニーズ「グループ人権方針」と「ILO宣言」

「グループ人権方針」に書かれていることについて調べてみると、私も初めて知ることばかりでした。

ジャニーズ「グループ人権方針」とは

前回の記事「ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題とLGBTQ」にて、ジャニーズのタレントを長らく応援してきたファンの一人として、またLGBTQ当事者の一人として、ジャニー喜多川氏による性加害問題に関して書きました。

記事を書いた後も、引き続き動向を追っています。

先日の2023年10月2日に行われた記者会見では、私も望んでいた社名変更のほか、外部から招いたチーフ・コンプライアンス・オフィサー、新会社設立やエージェント契約方式への移行などが発表されました。

一方、「記者会見をスムーズに進行させるために」と、質疑応答時に当てることを避ける記者名を連ねたとされる「NGリスト」の存在が明らかになるなど、マスコミはセンセーショナルなことに目を向けているように思います。

メディアや芸能界といった構造が変わるためにも、このようなことにフォーカスすることは必要なことだとは思います。ですが、それ以外のことにも目を向けてみてもいいのではないでしょうか。

たとえば、記者会見と同日にジャニーズ事務所のウェブサイトにて発表された「グループ人権方針」。

これは、今回のような重大な事件を二度と起こさないため、また人権を重視する企業であることをアピールするために発表されたものです。

再発防止策として、実際には何が行われようとしているのかを検証する意味でも「グループ人権方針」について触れるべきだと、個人的には思います。

グループ人権方針の「ILO宣言」とは

ジャニーズ事務所の「グループ人権方針」に目を通すと、ビジネスと人権における様々な国際的指針をベースに作成されていることが分かります。

たとえば、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」。

ILOは国連機関の一つで、労働者の労働条件の改善などを目的としています。国連機関が発信している指針なので、拠り所とするには十分保証されていると言えるでしょう。

このILO宣言とは、労働者の団結や交渉といった基本的原則や権利の尊重・促進・実現のための基準を記載したものです。たびたび見直しも行われていて、現在は5分野10条約が規定されています。

ジャニーズの「グループ人権方針」でも、ILO宣言がベースとなっているということは、日本国としても当然ILO宣言の5分野10条約すべてに批准しているものだと、私は考えていました。

ところが調べてみると、実は必ずしもそうではないことが分かったのです。

ILO宣言・第111号は、LGBTQ当事者も関係がある

労働分野における差別を厳しく禁止しない姿勢が、日本のILO宣言未批准という現状で表れていると感じます。

LGBTQを含む雇用・職業上の差別待遇を容認?

日本はILO宣言のうち、二つの条約に批准していません。

そもそも「批准」という言葉に、馴染みがない人が多いだろうと思います。
批准とは、国家が条約などを最終的に確認・同意したという意味です。

批准していないうちの一つが、第111号「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」です。

この条約は、雇用や仕事における、人種や性別などによる差別を禁止するものです。この条約に批准していない国は、全世界でわずか13か国しかありません。

言い過ぎかもしれませんが、この条約に批准していないということから、日本という国から、国民に対して「差別を容認する姿勢を崩すつもりはない」というメッセージが暗に発信されているように私は感じました。

実際にも、たとえば、2023年5月から7月頃にかけて、LGBT法案が日々ニュースになっていたことは、記憶に新しいと思います。

成立過程では、「差別禁止」を明記することに慎重になる意見が多くみられましたよね。「差別禁止」を掲げることに躊躇するという意味では、ILO宣言第111号に批准しないことと同じではないでしょうか。

また、現在進められているプロジェクト「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」(マリフォー)の訴訟。

屁理屈とも言える理由で、国が同性婚を認めようとしない姿勢からも、ILO宣言第111号を批准していないことと同じようなメッセージを感じ取れます。

LGBTQに関わらず、差別がまかり通ってよいわけではない

しかしながら、日本が国際労働機関(ILO)に加盟している以上、「基本的権利に関する原則を尊重し、促進し、かつ実現する義務を負うこと」が求められます。

そのため、日本も雇用・職業上の差別の存在をまったく無視してよい、というわけではありません。

とはいえ、現在も日本は、同じ仕事内容・仕事量でも、性別が異なるだけで賃金に差が出ていると言われています。

中小企業の採用担当を務めているという方から、妊娠・出産・子育てで抜けられると会社としてダメージが大きいから、30歳前後の女性の雇用は避けているという話を聞いたこともあります。

また、私自身も、現在週に数日、とある有名な企業から仕事を受けていますが、60歳以上は採用しないようにしていることを、企業とのやり取りの際に知りました。

求人票に「60歳以上不可」「妊娠・出産・子育てを近年に予定している女性はご遠慮ください」などと明記すれば、今や確実に “炎上” ものでしょう。

しかし、求人票には明記せずとも、実際には年齢や性別だけを理由にふるいに落とすことは、当たり前に行われていると思われます。

まして、LGBTQ当事者、特にトランスジェンダー当事者となれば「トイレ、制服、更衣室・・・・・・。

どう対応すればいいのか分からないし、とりあえず不採用」ということも十分に考えられます。

選考時に年齢や性別を質問することはNG?

日本も少しずつですが、雇用・職業上の差別解消に取り組んでいる側面もあります。

日本の履歴書も、ちょっとだけアップデート

2021年に、国から履歴書の様式例が初めて発表されました。その様式例の性別欄は、従来の「男・女」のどちらかに○をつけるタイプから、自由記入欄に変更されていました。

性別欄そのものが残っていることは、まだまだ気になるところ。ですが、ノンバイナリーの当事者の一人としては、男女2択ではなくなったことは一歩前進かなと受け止めています。

差別解消のためのルール整備の例・アメリカ

多様な人種の集まる国・アメリカ合衆国は、雇用・職業上の差別解消に向けてさらに進んで取り組んでいます。

アメリカでは、人種や性別などを理由に雇用の際に差別することを法律で禁じています。
そのための策として、履歴書に年齢や性別を記載することはNGとされており、顔写真も載せないことが一般的とされています。

実際には、面接の際に顔を合わせれば、応募者の背格好から性別や年齢、ルーツなどを推測できます。しかし、履歴書に記載しないことで、書類の時点で人種や性別、年齢などのフィルターを通して判断することを防ぐ役割は、ある程度果たしていると言えます。

年齢・性別を載せないことは、偏見をなくすために有効な手立てだなと思いました。一方、顔写真すらないと、書類選考で人となりをつかみづらいのでは? と、最初は感じました。

しかし、書類選考で重要なことは、これまで学んできたことや実績、スキルなどの文字情報です。

それに、人となりなんて、顔写真はおろか、面接で一度会っただけでも到底分からないもの。それなら、いっそのこと顔写真も思い切って撤廃すれば、ミスマッチが案外起こりにくくなるかもしれません。

すべてを欧米に合わせる必要はない・・・けれど

履歴書の様式を例にあげましたが、何もかもを欧米に合わせる必要はないと思います。

しかし、「私は差別しない」という気持ちだけで、差別を撲滅することははっきり言って難しいです。

「差別しよう」と思って差別する人はほぼおらず、無意識的な偏見が差別をもたらしているからです。

口先だけ「私は差別しない」と言うよりも、たとえば履歴書の形式から偏見・差別を防ぐ仕組みづくりを講じるといった具体的な策を取るほうが信頼に値すると、私は思います。

今こそ人権意識アップデートのとき

様々な事件を通して自分自身の意識を見直し、人権に関する膿を出し切るときなのだと感じています。

社名変更は「さみしい」という話ではない

前回の記事「ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題とLGBTQ」の最後では、人権意識をアップデートできるかどうかが重要だと書きました。

しかしながら、特にジャニーズの問題に関しては、ファンの意識が全然変わっていないように感じます。

たとえば、2023年10月2日に行われたジャニーズ事務所の記者会見の直後、ジャニーズのタレントのグッズを売るお店「ジャニーズショップ」が非常に混雑していたことを、ファン以外で知っている人はあまりいないと思います。

お店で売られているグッズの大半は、タレントの公式ブロマイドです。そのブロマイドの角には、小さい文字ですが「Johnny & Associates」と社名が印字されています。

しかし、社名変更によってその印字も変わることが予想されます。その前に、旧社名が印字されたブロマイドが欲しい! というファンが殺到したのです。

社名を変更すべきだと考えていた私にとっては、旧社名の印字されたブロマイドを記念に買っておきたいという意識はちょっと理解しがたく、驚きました。

今回の問題は、規模感やステークホルダーの多さなど、あまりに大きすぎます。「社名を変えなくてもよかったのに」「社名が変わるのはさみしい」という問題ではないと思うのです。

もちろん、ただ看板を変えれば解決する問題ではありません。

しかし、日本史上まれにみる重大犯罪を行った加害者の名前をブランド名として掲げるという行為そのものが、人権を軽んじているというメッセージになるのだと気付く必要があります。

そのためにも、ジャニーズ事務所の取引先だけでなく、ファンも「グループ人権方針」に目を通してほしいなと感じています。

改めて・・・ジャニーズ事務所だけの問題ではない

今回、ジャニーズ事務所「グループ人権方針」から調べたことを通して、差別に対して明確にNOを示すことは、今、世間から注目されている人たちだけではなく、世間、ひいては日本全体の問題なのだと感じました。

LGBTQに関する法律や条例に関する議論でも、「市民の間に理解が広がるのを待つのではなく、ルールを先に制定することで、市民の意識が変わっていく」ということもたびたび言われてきました。

人権意識をアップデートするために必要なことは、実際の事例を知ることで「差別反対」という気持ちを持つこと。そして、差別を起こさないための仕組みづくり、構造改革も同じくらい大事であることは言うまでもありません。

あらゆるセクターが差別を撲滅するために今後どのような仕組みを整えていくのか、引き続き注視していきましょう。

■参考情報
グループ人権方針(株式会社ジャニーズ事務所)
1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)(国際労働機関)
ILO中核的労働基準(ヒューライツ大阪)
履歴書の性別欄が空欄に!企業が性別を把握するのは不可能?(クラウドスタッフィング)
アメリカでは履歴書に写真は不要?性別、年齢も書かないって本当?(English Journal)

 

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