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Writer/Sogen

ホモフォビアはご存知ですか

同性愛者に対する嫌悪感、恐怖感、さらには差別・偏見などの感情を総称して「ホモフォビア」と呼びます。欧米でよくあるヘイトクライム(憎悪犯罪)以外に、アジアでもさまざまな形をとったホモフォビアが見られます。

ホモフォビアによる被害は同性婚が可能な国でも起き続けている

2つの例からホモフォビアの実態を知り、少しでも理解を深めていければと思います。

ケース1:「愛の首都」とも呼ばれるパリで起きたヘイトクライム

パリでは、今ごく普通の光景としてLGBTのカップルを見かけますが、そんな都市でもホモフォビアはあります。ホモフォビアについて、特にパリでよく語られるケースとしては、2013年4月、Wilfred de Bruijn氏に起きたヘイトクライムが挙げられます。

英紙The Guardianによると、Wilfred氏は、同性のパートナーと共に腕を組みながら街を歩いていた際、「あ、ホモだ!」と叫び声が後ろから届き、突如複数の者から蹴られ殴られたのです。その後、彼とパートナー二人とも病院に運ばれました。

フランスでは同性婚が同年2013 年5月に法制化されました。ちょうど、法制化されるかどうか、同性婚法案の決議が行われていた頃です。同じ日の夜、もう一組の同性カップルが襲われ、同時にLGBTセンターには数多くのアンチLGBTのポスターが貼られました。

現地のLGBTグループ SOS Homophobieは、「襲撃が行われたその一週間だけでアンチLGBTから60通もの苦情が殺到した」と述べています。どれも同性婚法案を通そうとしていた当時大統領のFrancois Holland氏に対する反対の声でした。

Wilfred氏はその後、勇気をもってFacebookにて自身に起きた事件を公表しました。「これを見せて申し訳ないが、これがホモフォビアの顔だ」と、自分の痛ましい写真を添付し、述べたのです。瞬く間に、世間およびメディアから注目を集めました。

ケース2:ロンドンのプライドパレード後に起きたホモフォビア攻撃

BBCによると、2018年、50才のTommy Barwick氏は、ロンドンのプライドパレードに参加した後、ホモフォビア攻撃に遭いました。Tommy氏は、「突然後ろから襲われ、背中がつぶれた感覚だった。死ぬかと思った」と述べました。また、「自業自得だ」という言葉をかけられながら、暴力を振るわれていたのです。

彼の脊椎は傷つけられ、事件の後、車いすでの生活を送ることに。また、彼が構えていた店も畳むしかありませんでした。残念ながら、証拠不足により、Tommy氏を攻撃した犯人は現在でも逮捕されていません。

このような事件は絶えず起きています。

イギリスでは、同性婚が2014年に法制化されて以降、LGBTへのヘイトクライムが年間約1.6万件、同性婚が可能となる前より3倍以上増えています。イギリスにおいてはヘイトクライムを実証できれば、検察官は被告人の刑罰を重くさせる要求ができます。しかしながら、「証拠不足」「加害者の顔を覚えていない」などといった理由により、多くのケースは法廷までに辿り着かないのが現状です。

ヘイトクライムは摘発しにくい

「LGBTに対するヘイトクライムは、8割以上通報されていない」とロンドンのLGBT慈善組織・Stonewallが述べました。また、警察もこのような事件に対し、掴める証拠が足りないため、無力を感じています。

フランスもイギリスも現在では同性婚が可能です。アジアや他地域と比べ、LGBTへの受容性は高いはずですが、現にヘイトクライムが続々と起きています。すなわち、ホモフォビアによるヘイトクライムは、同性婚が合法か否かと関係なく起きていると言えます。

逆に、合法化されたがゆえに、アンチLGBTのコミュニティの「ヘイト」が悪化しているのも考えられます。ヘイトクライムを防ぐには、同性婚などといった権利獲得だけでなく、社会の理解を得るための「外部とのコミュニケーション」も必要に思えます。

欧米とは異なるアジアのホモフォビア

前述したヘイトクライムは欧米でよく起きますが、アジアではあまり見かけません。ただし、ホモフォビアがないわけではありません。私は大阪で4年間働いたことがありますが、残念ながらホモフォビアの感情を持っている同僚がいました。

アジアにおけるホモフォビア

LGBTの国際NGO・OutRight Action Internationalによると、アジアでは欧米ほど「見える犯罪」が起こりにくく、陰湿な差別が多いとのこと。

例えば
・ネット上で批判され、差別を受ける
・トランスジェンダーの同性愛者は、公衆トイレの利用を拒否される
・家族によって家に監禁される
・セクシュアリティを理由に、金銭やセックスを目的とした恐喝を受ける
・行政機関から無視、差別される
・セクシュアリティの矯正を目的としたレイプを受ける
・職場での無視など、いじめを受ける

上述したのはあくまで一部の例です。実際、ホモフォビアによる被害は、日常生活において発生するもので、同性愛者は日頃から多方面で差別を受けています。

私が日本で感じた生きづらさ

海外では、日本は全体の調和を重んじる社会であり、結果、出る杭は打たれるという文化だと言われることが多く、私自身も、日本は異なるものを排除したがる傾向があるように感じます。

以前、日本の職場でたまたま同性愛のトピックに触れた時、同僚たちは「気色悪い」「理解できん」「よくわからん」と相次いで口にしました。理解が無いのだなと思いつつ、私は自分のセクシュアリティを隠しながら、みんなと同じように頷いていたのを覚えています。

同性愛者への反応を除けばとてもいい人たちの集まりなのですが、私は一生嘘をつき続ける会社生活が受け入れられず、やがては退職を決めました。いまは、台湾に住んでいますが、LGBTへの寛容性や理解が日本より浸透していると感じられ、ゲイとしてとても生きやすいです。

ホモフォビアによるヘイトクライムの通報が少ないもう一つの大きなワケ

証拠不足などといった理由以外に、アジア以外でも「ホモフォビアによる被害」がなかなか通報されない大きな理由は、もう1つがあります。フランス、イギリスなど同性婚が可能な国では、通報しやすい面があります。一方、同性愛自体が認められていない国では、当事者にとって「通報=カミングアウト」です。通報すると、自分までもが同性愛者という理由で逮捕されてしまう場合もあるのです。

逮捕されるほどの話ではありませんが、日本でも私は似たようなことを感じたことがあります。「より風通しの良いオフィス環境を」と考え、職場で体験したホモフォビアの発言を人事部に通報しようと考えましたが、結果あきらめました。自分にいいことは何一つないと思ったからです。

通報によって、自分がゲイであることを露呈してしまいますし、その後のキャリアにも影響しかねません。そういった現実的なことを踏まえ、私は多くのLGBTと同じように、最終的には耐え忍ぶことを選びました。

ホモフォビアはなぜ生まれるのか

形式は異なりますが、ホモフォビアによる被害は地域に違わず世界中で起きています。しかし、ホモフォビアによる被害は通報されにくいうえ、摘発も難しいと言われています。そもそも、ホモフォビアが生まれる原因になにが考えられるのでしょうか。

男女の固定概念によってもたらされるホモフォビア

20世紀の知名な精神科医フロイト氏をはじめとする心理学者たちによれば、ホモフォビアとは「社会が押し付けた男女の固定概念」によって生まれます。幼い頃は、誰しも男女の違いを意識しませんが、社会環境に影響され、少しずつ「同性への恋愛感情は悪だ」と考えるようになります。その感情は次第にホモフォビアへと移り変わり、場合によっては犯罪行為にまで発展していきます。

ホモフォビアを持つ者のなかには一部、同性愛者である者もいます。自分が同性愛者であることを受け入れられず、ヘイトクライムへと走っているのでしょう。

また、社会環境と一概にいっても要因はさまざまにあります。「男尊女卑の考え」「宗教観」「周りに(カミングアウトした)LGBTがいない」「教育水準」などと多岐にわたります。

アジアのホモフォビアは欧米の影響?

一方、アジアのホモフォビアは欧米の影響だと主張する者もいます。

アジアの多くの国は、古来より社会風土として同性愛を受け入れていた傾向にあります。日本は江戸時代、中国では漢の時代において、多くの将軍などがゲイでした。そこで、「アジア諸国が同性愛を厳しく禁じ始めたのは、欧米の影響」だと、一部のメディアおよび評論家は分析しています。

もっと言えば、ホモフォビアは、「グローバリゼーションの副作用」だと。それによって、元々は同性愛を受け入れていたアジアの諸国は、再び禁じるようになったと言われています。日本の場合、明治維新の際、同性愛を嫌う文化を取り入れたのではないかと推察されています。

自分で「価値判断」をしなければならない時代が来ている

アジアのホモフォビアは社会環境や欧米の影響に起因する考えがありますが、どちらもマクロな意味での環境や考えの影響が大きいと理解できます。

現代は実に複雑な時代になってきていると思います。同性愛のトピックス以外にも、インターネットにまつわるプライバシーの問題やグローバリゼーションによって起きている環境問題など、さまざまに挙げられます。

先入観にとらわれず、自ら価値判断を行わなければならない時代が来ていると考えます。私たちがいま思っていることは果たして正しいのか。それを一度問うてみるのが、理解不足による差別を解決する糸口となるのではないでしょうか。

ホモフォビアに対して私たちができること

UNESCO(ユネスコ)のホモフォビアへの取り組み

UNESCOはホモフォビアに対し、さまざまな取り組みを行っています。セミナー、国際会議などを通じて「ホモフォビアによるヘイトクライムをいかに防ぐのか」というテーマで教育し、正しいこころのあり方を世間に広めています。また、世界各国からアンケートを取り、ホモフォビアによるヘイトクライムに関連する統計を集めています。

アジアにおいては、2015年バンコクで行われた地域会議により、中国・インドネシア・フィリピン・タイの4カ国間で同性愛を性教育に導入する取り組みユニットが組まれました。さらには、偏見を持つ先生が生徒に対する悪影響、悪循環を断つべく、先生への啓発活動も行われています。

ホモフォビアによるヘイトクライムを発信すること、気づくことの大切さ

ホモフォビアによるヘイトクライムは、家庭内暴力と似ている部分があると、数多くのLGBT組織が口を揃えて言っています。摘発しにくい上、LGBT当事者も通報しにくい精神的なハードルを持ち併せているからです。

だからこそ、私たち一人ひとりにできることは、やはり「発信をすること」「気付くこと」です。LGBT当事者には言えぬ事情があるなか、親友として、家族としてどうか手を差し伸べてほしい。それは、警察に通報することでも身近にあるLGBTのNGOに連絡することでもどんな方法でも構いません。特にアジアの場合は、「見える犯罪」が少ないため、一人ひとりの力がより大切です。

私が日本で経験したヘイトクライムは、欧米で起きているそれとは比べ物になりません。しかし、時々こう思います。

日本で働いていたあの時、人事部に通報していたら私はどうなっていたか。

ホモフォビアの発言を正してくれる他の仲間もいれば、本当は、私はもっと勇気を持ってアクションを取れていたと思います。

■参考情報
・Gay man reveals bloodstained ‘face of French homophobia’ on Facebookhttps://www.theguardian.com/world/2013/apr/09/gay-man-french-homophobia-facebook

・‘I thought I was going to die’ in homophobic attack
https://www.bbc.com/news/uk-54470077

・Violence On the Basis of Sexual Orientation, Gender Identity and Gender Expression Against Non-Heteronormative Women in Asia
https://outrightinternational.org/sites/default/files/386-1_0.pdf

・Hating Gays: An Overview of Scientific Studies
https://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/assault/roots/overview.html

・Homophobia Is Not an Asian Value. It’s Time for the East to Reconnect to Its Own Traditions of Tolerance
https://time.com/5918808/homophobia-homosexuality-lgbt-asian-values/

・Homophobic and transphobic violence in education
https://en.unesco.org/themes/school-violence-and-bullying/homophobic-transphobic-violence

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