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Writer/Jitian

同性カップルに対する「国民感情」は確実に変化している

2023年5月30日、愛知訴訟の判決「結婚の自由をすべての人に」について画期的な違憲判決が名古屋地裁で下され、全国的にも話題になりました。さらに、プライド月間に入って間もない6月4日には、テレビ番組「新婚さんいらっしゃい」にフランスで結婚した同性カップルが出演。同性カップルの受け入れについて、社会は確実に変わりつつある一方で、日本の法整備は遅々として進んでいないように思います。

札幌地裁を超える、名古屋地裁の判決

判決要旨を読んで、LGBTQ当事者として日本で生きることにポジティブな感情を抱くことができました。同性カップルが家族のかたちのひとつとして受け入れられていると感じ、よろこびで満たされました。

同性カップルの差別的状況を認める

全国各地の裁判所で行われている「結婚の自由をすべての人に」の訴訟について、2023年5月30日、愛知訴訟で、憲法の次の2項目に違反しているという違憲判決が下されました。

◎憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

◎憲法24条2項
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

画期的だと言われているこの判決の判決要旨を読んでみると「同性カップル」「伝統的な家族観を大切にする人」の両方に目を向けていることが読み取れます。

そして、同性カップルの具体的な「困りごと」、すなわち差別的状況により踏み込んだ内容となっていることが分かりました。

同性カップルは異性カップルと変わらない

今回の判決で、名古屋地裁は同性カップルの現状について次のように言及しています。

・同性カップルは、自然生殖の可能性が存しないという点を除けば、異性カップルと何ら変わらない。
・同性カップルは、現行の法律婚制度で受けられる法的利益を享受できない状態に陥っており、同性カップルと異性カップルとの間に、著しい乖離が生じている。
・同性愛者を法律婚制度の利用から排除することで、大きな格差を生じさせ、手当てもなされていないことについて、合理性が揺らいできている。
・その不利益は、結婚契約等公正証書を締結するなどしても解消できない。
・地方自治体においては、同性パートナーシップ制度の導入が増加しているが、これにより弊害が生じたという証拠はない。

同性カップルが異性カップルと変わらないこと、同性カップルが法律婚できないことで困りごとがあること(差別されていること)を認めている点で、まさに「画期的」と言えるのではないでしょうか。

また、憲法14条は「法の下の平等」を定めたものです。国は、「当事者の性的指向にかかわらず、異性と結婚できるから問題ない」と主張しています。

しかし、この点についても名古屋地裁は「同性愛者にとって同性との婚姻が認められないということは、婚姻が認められないのと同義」と言い切っています。

「現実」も考慮し、同性カップルに対する国民感情にも配慮

ここまでの内容を見ると、名古屋地裁の判決は同性カップル側に全力で傾いているように見えます。しかしながら、判決文をよく見ると、名古屋地裁は「子どもを産み育てるための、異性カップルによる法律婚」を重視する人たちのことにも目を向けています。

判決では、現状の法律婚や国民感情について、次のように述べられています。
・現状の婚姻制度は、男女の結合関係を営み、種の保存を図る関係を統制するために設けられたものである。
・2018年以降は、同性婚賛成派が過半数を超える国民意識調査結果が多いものの、未だに反対派も2~3割程度存在することは無視できない。
・このため、現行の法律婚制度をそのまま同性カップルにも「拡張」すると影響が大きい。現状の法律婚とは別の法律を設けるという方法もあるのではないか。

以上を踏まえると、今回の名古屋地裁の判決は、同性カップルの差別的状況を認め克服しようという姿勢も見せながらも、同性カップルが社会に全面的に認められているとは言えない現状も考慮した、現実的なものであると評価できるでしょう。

「新婚さんいらっしゃい」に同性カップルが登場

テレビ番組「新婚さんいらっしゃい」に同性カップルが出演することは、実は2度目になります。

同性カップルでも、終始なごやかでハッピーな雰囲気

公募で選ばれた一般の新婚(マジョリティ)カップルをゲストとして迎える、長寿トークバラエティー番組「新婚さんいらっしゃい」。2023年6月4日放送回に、フランスで結婚したという男性の同性カップルが登場しました。

「新婚さんいらっしゃい」と言えば、異性カップルが登場することが当たり前だから、同性カップルが登場するのはこれが初めてかと思いきや、実は同性カップルが初めて登場したのは、2013年のことなのだそう。

2023年6月4日の放送回では、2013年の放送回や、そこから10年を経ての社会の変容に触れながら、穏やかで幸せな雰囲気に包まれているようでした。

老若男女いる観覧席の中から、同性カップルの竹田純さんと、パートナーでリトアニア人のクリスさんが手をつないで登場。どちらかがオネェとして「嫁役」を振る舞う表現を強いられる風でもなく、竹田さんがクリスさんを “My husband” と紹介したことが印象的でした。

別のインタビュー記事によると、竹田さんのお父さんはお二人のことを受け入れていないようですが、そのような同性カップルならではのネガティブな話題に殊更触れるわけでもなく、お二人の馴れ初めや新婚生活にフォーカスしながら進行しました。

コーナーの最後に、MCの藤井隆さんが「いまの子どもたちが心に不安を抱える時代が、もっと早く変わればいいのになと本当に思ってるから、二人の幸せを、輝きを、もっと皆さんに与えてください」というようなことをお話しました。

お二人に投げかけられたメッセージを聞いて、同性カップルもこうして社会に受け入れられつつあるのだなと、じんわり温かい気持ちになりました。

個人的には、今度は女性カップルがゲストとして登場してくれることを期待しています。

SNSも概ねよい反応

今回の「新婚さんいらっしゃい」で同性カップルがゲストで出演することは、すでに放送1週間前から話題となっていました。

LGBTQ当事者やアライの中では、性的指向にかかわらず同性カップル出演を歓迎する声が多いようでした。実際、私の所属するLGBTQコミュニティの中でも話題になっていました。

一方、そうではない人たちの中からは、同性カップルが出演することに対して「押しつけがましい」「視聴者が求めているのか」など、不満や疑問を投げかける投稿も見られました。

個人的には、実際に放送されることで、顔と名前を出して出演するお二人にネガティブな言葉がより届いてしまうのではないかと、不安がありました。ですが、番組放送終了後にTwitterをチェックすると、LGBTQ当事者やアライでなくとも、私と同じようにお二人の幸せな雰囲気を感じ取って、好印象を持った視聴者が少なくなかったように思います。

また、お二人が結婚したのはフランスですが、海外で結婚したカップルが日本でどのような扱いを受けるのかについて疑問を持ったツイートも見られました。なお、現状では、同性カップルが海外で結婚していても、日本では関係性を法的に認められません。

私の知人に海外で結婚している同性カップルがいますが、日本で婚姻届を提出しても受理されませんでした。

今回の放送で、現状の日本での同性カップルの日常が、異性カップルと変わりないことや、同性カップルの生きづらさに視聴者が少しでも目を向けたのなら、LGBTQ当事者の一人としてはうれしい限りです。

進展しないLGBT法案

同性カップルは確実に社会に受け入れられつつあるのに、LGBT法案が成立する見通しは依然として立っていません。

結局、いつ成立する? LGBT法案

先ほどまでに書いたように、「民間レベル」では同性カップルの存在が認められつつある一方、同性カップルを含むLGBTQ当事者に対する法制度については、残念ながらなかなか進展が見られません。

同性愛者に対する差別発言が問題となり、2023年2月に総理大臣秘書官が更迭されてから、LGBT法案に関する議論が加速しました。5月のG7広島サミット開催までに「はりぼて」でも成立するかと思いきや、結局のところ6月に入った現在でも成立の見通しは立っていません。

実は、2023年5月に、与党のみで「与党修正案」が提出されましたが、立憲民主党などが超党派LGBT議連での「合意案」を提出、さらに日本維新の会と国民民主党による「独自案」も提出され、異例の状況に陥っているのです。

LGBT法案の議論では、特にトランスジェンダーについての議論が熱を帯びているように思います(「議論」というより「デマの拡散」と表現したほうが適切かもしれませんが・・・・・・)。

広義のトランスジェンダー当事者の一人としては、まずはトランスジェンダーについてのデマをあらため、正しい理解が浸透することを期待しています。ですが、トランスジェンダーについての議論がLGBT法案成立の大きな「足かせ」になるのなら、性的指向に関する「差別禁止」「理解増進」の法案を先に通すこともやぶさかではない、と私は思います。

確実に変わりつつある、LGBTQ当事者を取り巻く日本社会

テレビ番組だけでなく地裁の判決レベルでも、同性カップルへの国民意識は確実に変わりつつあると言えるでしょう。少なくとも、同性愛も異性愛(マジョリティ)と同じく、ひとつの立派な愛のかたちと認められるようになり、「禁断の恋」などとはもう言われなくなりました。

一方、トランスジェンダーについては、理解増進どころかむしろ分断が深まっているのでは、と残念に思うこともあります。ですが、話題になるということは関心が向けられている表れでもあると言えます。

無関心、すなわちトランスジェンダーの存在が認識すらされていない時代よりは前進していると、前向きに捉えたいところです。

あとは、法整備が進むだけ。
政治の場では、LGBTQ当事者の存在を受け止め、差別的状況に向き合ってもらいたいですね。

■参考情報
【判決要旨全文】「同性同士の結婚が認められないのは、14条1項と24条2項違反」名古屋地裁で違憲判決。その内容は?(ハフポスト)
日本国憲法(衆議院)
「新婚さんいらっしゃい!」に初登場…同性婚を果たしたバレエダンサーが幸せになるまで(FRau)
LGBT法案「三すくみ」こう着状態で成立見えず(時事ドットコム)

 

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