複数の人と同時にそれぞれが合意の上で性愛関係を築くライフスタイル「ポリアモリー」。ポリアモリーの話をしていると「複数人で結婚したいの?」と訊かれることも多い。この記事では、同性婚をめぐる世の中の意見と絡めて、これからの婚姻制度について考えようと思う。
同性婚への複雑な思い
同性婚を認めないことは違憲
2021年、日本における同性婚の実現を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟において、同性婚を認めないことは違憲であるとする判決が札幌地裁で出された(その後、控訴により、札幌高裁に係属中)。
その一方で岸田文雄首相が2023年2月28日の衆議院で、国が同性婚を認めていないのは「国による不当な差別であるとは考えていない」と述べ、批判の声が相次いでいる。憲法審査会で、野党側は同性婚を認めないのは憲法違反ではないかと指摘したうえで、審査会で議論するよう求めた。
このように、日本の同性婚の議論は一進一退の様相にあるといえるだろう。
今回は、この判決を含めた同性婚、ならびに複数婚の議論に対する私の考えをまとめてみたい。
同性婚の次は複数婚?
同性婚への前進となった違憲判決。そして与党と野党の同性婚を巡るせめぎ合い。こういった社会情勢において「もし同性婚が認められるなら、次は複数婚も認められるのでは?」という発言が散見される(この中には、同性婚や複数婚に対してポジティブな意見も、ネガティブな意見もある)。
また「同性婚はいいけれど、そもそも婚姻制度そのものをなくしたい」というコメントも目につく。
同性婚は一夫一婦制の ”拡張”?
私自身は同性婚の議論を、複雑な思いで見守ってきた。
「たとえ同性婚が認められても、それが1対1のパートナーシップにおいてのみ適用されるものであるかぎり、一夫一婦制が拡張されるほどポリアモリーはますます少数化して、その存在を無視されていくのでは・・・・・・?」という不安があったからだ。
婚姻制度が “拡張” されるのは婚姻制度の “強化” に他ならず、婚姻制度を利用しない人・利用できない人は、結局マイノリティとして排除されていくのではないか、と危惧していた。
日本の婚姻制度を ”薄める”
婚姻制度の要らない社会のために、まず婚姻の範囲を広げる
しかし、私の危惧とは別に今回の判決にまつわる議論を見ていく中で、同性婚によって婚姻制度を ”薄める” ことができる、という考え方もあることを知った。
婚姻制度の根本には、家父長制(家族に対する統率権が家父長である男性に集中し、女性が隷属的な立場に置かれる家族の形態)がある。婚姻制度を同性同士でも利用できるものにすることで、その家父長的な部分を揺るがすことができるというのだ。
婚姻制度の要らない社会を作っていくためには、婚姻の範囲を広げるという前段階が必要、ということだ。
日本の婚姻制度を ”薄める” 方法
婚姻制度を ”薄める” には、いろいろな方法が考えられる。
同性婚や選択的夫婦別姓制度の導入によって、従来の婚姻制度そのものを多様化していくこともできるし、また今多くの国や自治体でパートナーシップ制度やシビル ユニオン(※)が生まれつつあるように、婚姻制度に類似した別の制度を作って選択肢を増やしていくこともできる。
※シビル ユニオン:
同性のパートナーシップを法的に承認する取り決めのこと。
結婚とは区別されるものの、法的には男女の夫婦とほぼ同じ権利が付与される。
1989年にデンマークでシビル ユニオンが制定されて以降、多くの国で制定されるようになった。
ベルギーの「法定同居」
たとえばベルギーでは1998年に「法定同居 (Cohabitation légale)」という制度が整備されたこともあり、現在も旧来の婚姻制度自体は残っているものの、これを利用する人は減りつつある。
婚外子の割合も50%を超え、ベルギーでは従来の婚姻制度が形骸化していっている、ということができるだろう。
私としても、現在の日本の婚姻制度を強化するのではなく、その権威をやわらげていきたいと思っている(なお、婚姻制度の廃止もやぶさかではないものの、婚姻それ自体を望む人も多いので、全面的な廃止よりはこれを残しつつも良い意味で形骸化させるのがよい、という立場をとっている)。
婚姻制度の ”形骸化” とポリアモリー
まず婚姻制度を誰でも使える制度に
私は今までも再三「ポリアモリーという言葉が必要ない世界を作るためのプロセスとして、まずポリアモリーを誰でも知っている概念にする必要がある」と述べてきた。
同性婚によって婚姻制度を多様化することも、同じように「婚姻制度があってもなくてもいい世界を作るためのプロセスとして、まず婚姻制度を誰でも使える制度にする必要がある」ということだと考えられる。
誰でも使えるし、使わなくても困らない婚姻制度
「 まず婚姻制度を誰でも使える制度 にする必要がある」という考え方に基づいてなら、私も今の同性婚訴訟を応援していくことができそうだ。
同性婚によって、現在の婚姻制度を薄めて形骸化させる。
そのことによって婚姻制度を「誰でも使えるし、使わなくても何も困らない制度」にしていきたいと思っている。
結婚という選択肢を選んでも選ばなくても、人々の生きやすさが変わらなくなるように。