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Writer/きのコ

「ポリアモリー合コン」を開催するうえで大切にしていること

複数の人と同時にそれぞれが合意の上で性愛関係を築くライフスタイル「ポリアモリー」。ポリアモリー当事者の私は、複数愛に興味がある人たちの交流会やトークイベントなど、さまざまなイベントをおこなっている。今回は、私が運営に関わるポリアモリー関連イベントの中でも、出会いの場「ポリアモリー合コン」についてまとめてみたい。

ポリアモリー合コンにおける「哲学対話」

ここでは、ポリアモリー合コンの成り立ちと、このイベントで使っている「哲学対話」という手法について説明する。「哲学」という名前がついているとなんだか小難しい印象を受けるが、実は小学校でも使われているようなシンプルな対話手法だ。

ポリアモリー合コンとは

ポリアモリー合コンは、私と対話力育成コーチの武つぐとしさんの共催で、2019年8月から毎月のようにおこなっているイベントだ。

前身には「ポリーラウンジ」という交流会があるが、こちらは悩み相談などをするような、真面目な雰囲気のイベントになることもままある。参加者の一部から「安心安全に、ポリアモリーフレンドリーな人と出会いたい」という要望が出るようになった。

とういわけで、ポリアモリーフレンドリーな人々が心理的安全性のある状況で出会える(必ずしも恋愛の文脈だけではなく、友人づくりなど幅広い意味での”出会い”も含む)場として始めたのが、このポリアモリー合コンだ。

ポリアモリー合コンでは、「哲学対話」という対話手法を使っている。

哲学対話という手法

哲学対話とは、子供の思考力を養うために1970年代にアメリカで始まった「子供のための哲学(Philosophy for Children)」に由来する対話手法だ。

哲学者の思想を教えたり抽象的な問題について議論したりするのではなく、また各人が1人で思索にふけるのでもなく、身近な問いから出発して皆で一緒に考え、語りあっていくもの。中学校や、ときには小学校や幼稚園でおこなわれることもある。

語りあうことを通して共同で思考を広げ、深めていく対話のかたちといえよう。

武さんはもともとはコミュニケーションが嫌いで、他人とのコミュニケーションを避けるつもりでコンピュータ業界に勤めたという。しかし、この業界で働いていても結局は他人との相互理解の壁にぶつかるようになり、「コミュニケーションを避けていては、いいものは作れない」と考えて対話の場づくりを始めた。

そんな折、東京大学大学院総合文化研究科の教授・梶谷真司さんと出会い、彼の教える「哲学対話」を知ったそうだ。

よりよいコミュニケーションを模索しつつ哲学対話を学ぶ中で、武さんは「哲学対話を趣味としてでなく、本気で世の中に広めていきたい」と思うようになった。そして哲学対話を使った出会いのイベント「対話コン」を始め、愛や性にまつわるコミュニケーションについてより深く考えるようになっていく。

そんな時にポリアモリーという概念を知り、私の主催する交流会「ポリーラウンジ」に参加してくれた。

全員が対等な立場で問いかけあいコミュニケーションを深めていこうとする時、「哲学対話」という対話手法と「ポリアモリー」というパートナーシップのあり方は非常に相性がよいといえる。

彼との出会いがきっかけとなって、私達はポリアモリーフレンドリーな出会いのイベント「ポリアモリー合コン」を開催するようになり、今も毎月イベントをおこなっている。

全員が対等に対話するために

ポリアモリー合コンには、いくつかのルールがある。それらは私達主催者も含め、その場にいる全員が対等に対話できるようにするためのものだ。

心理的安全性を高めるルール

他のイベントもそうだが、ポリアモリー合コンを皆にとって「心理的安全性が高くて居心地のいい場」にするためにはグランドルールがある。

私自身、数々のイベントを主催するなかで、居心地のいい場づくりのため多くの点に気を遣うようになった。

梶谷さんの説く哲学対話にも、このようなグランドルールが設定されている。

1. 何を言ってもいい。
2. 人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
3. 発言せず、ただ聞いているだけでもいい。
4. お互いに問いかけるようにする。
5. 知識ではなく、自分の経験にそくして話す。
6. 話がまとまらなくてもいい。
7. 意見が変わってもいい。
8. 分からなくなってもいい。

(梶谷真司著『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』)

武さんと私がポリアモリー合コンにおいて大切にしているのは、「いかに主催者がもっている ”権力” を削るか」「いかに自由に何でも話せるようにするか」という点だ。

そのために、たとえば「その日の哲学対話でテーマとする問いはその場にいる人たちで立てる」「哲学対話はオフラインで開催し、コミュニティボールを使うことで、”主催者が指名する” というファシリテーション作業をなくす」といった運営をおこなっている。

これらは哲学対話において、主催者か参加者かに関わらず全員が対等な関係でいるために採用している軸だ。

哲学対話の「コミュニティボール」とは

なお、コミュニティボールとは、哲学対話で使う毛糸のボールのことをいう。

● ボールを持っている人だけが話す。他の人は黙って聞く
● 発言したい人は手をあげてボールを受け取って話す
● 人が話している間でも手をあげていい
● 他の人が手をあげても、慌てずゆっくり最後まで話せばいい
● 話し終わったら、手をあげている人の中から選んでボールを渡す(手をあげている人どうしで譲り合わない。
誰にボールを渡すかは、もっている人が決める)
● 一部の人だけでボールが回らないように心がける

(梶谷真司著『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』)

といったように、話の流れを整理するために使う物だ。

コミュニティボールには、マイクのように話をする人と話を聞く人を分かりやすくし、話し手の緊張感を和らげたり、ボールを投げたり転がしたりして受け渡すことによって場に躍動感や繋がりをもたらす効果がある。

「居心地の良さ」はどんな場でも重要

ポリアモリーや恋愛や性といった繊細なテーマについて語る時、そして初対面の人々と出会って仲良くなろうとする時には、その場の心理的安全性、簡単に言えば「居心地の良さ」がとても大切だと考えている。それは、決してポリアモリー合コンにだけ必要なものではない。

安心安全な出会いの場

ポリアモリーに限らず、出会いを求める時や愛や性をテーマに語る時には、その場の心理的安全性の高さが重要になる。

一般的な合コンや街コンなど、私もさまざまな出会いイベントに参加した経験があるが、そのような場で最初からポリアモリーのことをカミングアウトできるような心理的安全性を感じたことは、残念ながらなかった。

そういった経験を通して、自分と同じようなマイノリティ性をもつ人間には、マイノリティ性に対して開かれた安心安全な出会いの場が必要だと感じたこともあって、ポリアモリー合コンを開催を継続している。

何でも語りあえる居心地の良さ

とはいえよく考えてみれば、恋愛に限らず他人と人間関係を結びたいと思う時には、どんな場やどんな関係性においても「何でも自由に語りあえる居心地の良さ」が重要なはず。

だから、ポリアモリーだけが出会えればいいとか、このイベントでだけ出会えればいいとかいうことではない。

誰もがごく自然に哲学対話のようなグランドルールに基づいたコミュニケーションをとれるような社会になればいい、という思いでこれからもポリアモリー合コンを開催していきたいと考えている。

 

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