INTERVIEW
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MTFの私にとって、同じ境遇の友だちが安定剤だった。【前編】

大きなリアクションとお日様のような笑顔で、場をパッと明るくするトランスジェンダーMTFの大古一人さんは、その豪快さの中に他者への気遣いを忍ばせている人。「同性に好意を持つことに抵抗はなかった」とあっけらかんと話す大古さんも、すぐに将来を描けたわけではなかった。自分は男なのか、女なのか。本当に進みたい道はどれか。その答えを見つけるためには、自ら動くしかなかった。

2018/12/11/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
大古 一人 / Kazuto Ogo

1989年、福岡県生まれ。小学4年の時、父親の転勤で神奈川県・川崎に移り住む。中学生から砲丸投げを始め、高校でも優秀な成績を残す。大学で福祉と心理学を学び、卒業後は高齢者グループホームに就職。そのかたわら、川崎のミックスバーにも勤める。2016年に、タイにて性別適合手術を行い、現在は占い師としても活躍している。

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INDEX
01 好きなものを「好き」と言えた幼少期
02 学校という社会の中での恐怖と安心
03 胸がときめく相手は男の子
04 心の内側に放置した悩みと不安
05 生まれ変わった高校生の自分
==================(後編)========================
06 未来のための現実的な選択
07 ようやく見えた本当のセクシュアリティ
08 MTFの私として生きていく道
09 涙と衝撃のカミングアウト
10 いじめられていた自分に見せたい今

01好きなものを「好き」と言えた幼少期

手術をしなきゃいけない自分

生まれてから小学3年生まで、福岡で過ごした。

「福岡に住んでた頃の記憶は、ギリギリあるかなって感じです」

「男女関係なく遊んでたけど、友だちは女の子が多かったですね」

外で駆け回るよりも、ままごとをしている方が楽しかった。

「周りの男の子と自分は違うと感じ始めていて、馴染めなかったです」

「母親に服を買ってほしくない、って思っていたことも覚えていますね」

「男の子っぽい服は嫌だったけど、女の子らしい服も好きじゃなかったんですよ」

幼いなりの感覚で、男女どちらが着ても違和感のないユニセックスな服を選んでいた。

小学生になると、男女が分けられることに疑問を抱き始める。

「健康診断やプールの着替えで分けられるたびに、なんか違うなって」

「ずっと一人でグルグル考えるような、葛藤しているような感じでした」

当時は、興味本位で “ニューハーフ” がメディアに取り上げられる時代だった。

「テレビで特集が組まれていて、たまたま見たんです」

「自認まではいかないけど、自分も同じなのかなって思いましたね」

性別を変えるということは、理解できなかった。

しかし、テレビに出ていたニューハーフが手術をしていたことは、強く印象に残った。

「私も手術しないとダメなんだな、みたいに感じた気がします」

自由にいさせてくれた両親

ひとりっ子だった自分は、友だちとままごとに興じ、女の子向けのおもちゃを欲しがった。

両親は「男らしくしなさい」とはとがめず、自由にさせてくれた。

「父から『なんでナヨナヨしてんだ』って言われたことがあるけど、それだけでしたね」

「家に呼ぶ友だちも女の子ばかりだったけど、両親が追及してくることはなかったです」

特に、母親は寛大な人だった。

「ある程度『勉強しなさい』とかは言われましたけど、性別に関することはなかったですね」

「『セーラームーン』が好きだったんですけど、毎週ビデオに録画してくれました」

父親は、仕事人間のイメージ。

「工場勤務で夜勤もあったから、家にいる時はいつも寝てましたね」

「気分屋でヒステリックな人だったから、母や私に手をあげることもありました」

夫婦ゲンカも多かった。

「両親のケンカを見るのは、ただただ悲しいですよね」

「今は父が糖尿病で、週3~4回透析に通っているので、夫婦関係も落ち着いたみたいです」

02学校という社会の中での恐怖と安心

自分を追い込む言葉と暴力

父親の転勤で、小学4年の時に神奈川県・川崎に引っ越した。

「福岡を離れることに悲しさは感じなくて、都会へ行けるワクワク感が強かったです」

子どもながらに、テレビで見た都会に憧れていた。

新天地では、毎日笑って過ごすはずだった。

「最初は、方言をいじられたんです」

「徐々にナヨっとした所作をいじられて、『オカマ』って言われるようになって・・・・・・」

方言で話す転校生は、少しナヨナヨした男の子。

意図せず目立ってしまう部分が多く、クラスの男の子たちからいじめられた。

中学校に上がっても、同級生の顔ぶれはほとんど変わらず、いじめはひどくなる。

「小学生の時は言葉だけだったけど、中学生になると暴力も多くなりました」

「身体的な痛みが伴うと、余計に辛かったですね」

校舎の屋上に行き、自殺を考えたこともあった。

このまま殴られ続けるくらいなら、飛び降りた方が痛くないんじゃないか――。

しかし、ギリギリのところで踏みとどまった。

「今は我慢して、社会人になって手術をすれば道が開けるのかな、って期待がありました」

「ほんのちょっとの希望が残っていたから、自殺まではいかなかったです」

状況を一変させた大事件

中学2年の中盤を過ぎた頃、堪忍袋の緒が切れてしまった。

「それまではずっと黙って耐えていたんですけど、ぶち切れちゃったんです」

「いじめっ子を、ボコボコに殴っちゃいました(苦笑)」

その時の記憶は、ほとんどない。

状況を変えるために、ただただがむしゃらだったのだろう。

「その事件をきっかけに、徐々にいじめはなくなっていきましたね」

ゲイの彼氏と愛情表現

中学2年の終わり、ゲイの友だちができた。

「もともと友だちだと思ってた男の子に、急にキスされたんですよ(笑)」

突然のキスから、2人の関係が始まった。

「高校に上がるぐらいまで、おつき合いというか、キスしたりする関係が続きました」

「私は一緒にいる時だけの感覚だったけど、彼は好意があったと思います」

男の子との行為は、違和感を抱くどころか、しっくりきた。

「特に抵抗感もなく、当たり前の感覚でしたね」

「2人の関係は秘密にしていたけど、同級生にはバレていたかも」

「まだまだ隠し方も、うまくなかったですから(笑)」

彼とは別の高校に進学し、会う機会が減った。

「つき合っていたのかも定かじゃないけど、『別れましょう』って終わらせました」

03胸がときめく相手は男の子

恋した人と同じ部活

中学校に上がったばかりの頃、同じクラスの男の子に恋をした。

「小学校から一緒の子だったんですけど、中学で初めて同じクラスになったんです」

「たまたま席が近くて、話すようになったら、意識し始めてしまって」

彼はいじめに加わらず、普通に声をかけてくれた。

部活の話題が上がり「決めてないんだよね」と告げると、「陸上部入ろうぜ」と誘われた。

「そのひと言で、入ろうって決めたんです」

「好きだった子は四種競技をやっていたんですけど、私は砲丸投げ一本でした」

身長が高かったため、顧問から長身の選手ほど有利な砲丸投げを薦められたから。

「『記録を残せば、高校受験を有利に進められるよ』って、悪魔のささやきもありました(笑)」

練習を続けると、大会で記録を出せるようになった。

県大会にも行けるだけの実力がついた。

「好きな人を追って陸上部に入ったのに、私の方がうまくなっちゃったんです(苦笑)」

「いつからか、大半の時間は、私だけ別メニューで練習するようになってました」

「好きな人とは部活終わりに話すくらいで、何のために入ったんだろうって(笑)」

友だち感覚だった “彼女”

同性に好意を抱くことには、まったく抵抗を感じなかった。

しかし、異性とつき合う同級生を見ているうちに、冒険してみたくなる。

「一度だけ、女の子とつき合ったことがあるんですよ」

同い年の彼女は、ボーイッシュないで立ちの子だった。

どちらが告白したかは覚えていないが、二人で映画を見に行き、ご飯を食べに行った。

「デートみたいなことは気を使わずにできたけど、友だちと遊ぶ感覚でしたね」

「だから、デートプランを考えなきゃ、みたいなワクワクした気持ちは一切なかったです」

「チューぐらいは、友だち同士のおふざけみたいにできたんですよ」

しかし、いざ行為に移ろうとすると、踏み出せない。

「初めて母以外の女性の下半身を見て、自分にも同じものがついている感覚になったんです」

「嫌とかじゃなくて、本能的にこれじゃないぞって」

彼女には「ごめん、できない・・・・・・」と謝った。

「今考えると、すごく悪いことをしましたね」

彼女とは、その後すぐに別れることになった。

04心の内側に放置した悩みと不安

男らしくなっていく体

自分の内面に対して、戸惑うことはほとんどなかった。

一方で、身体的な変化には、嫌悪感を抱くようになっていく。

「胸のふくらみがないことは、あんまり気にならなかったです」

「筋肉がついちゃうのも、砲丸投げをしてるからしょうがないと思いましたね」

「でも、男性器はずっと嫌だったし、体毛が生えてくることも嫌でした」

毎朝お風呂に入り、腕や脚の毛を剃ってから、中学に通っていた。

「声変わりとか、男の部分が目立つようになると、余計に嫌悪感が増しました」

「今できる最善を尽くそうと思って、毛を剃ったり手入れしたりしましたね」

ホルモンや性に関する知識はなく、手術をするお金もなければ、親に打ち明ける度胸もなかった。

自分のできる範囲で、目の前の問題を対処していくしかなかった。

「その一環として、髪はボブくらいに伸ばしてましたね」

「先生に『切りなさい』って言われても、『嫌だ』って拒否してました(笑)」

いずれ二手に別れる道

自分自身のことは、ゲイなのかトランスジェンダーなのか、よくわかっていなかった。

手術をして女性になるか、このままゲイとして生きていくか。

「その二択しかないって、軽くは考えていましたね」

「でも、中学のゲイの彼に女扱いされた時は、うれしかったんですよ」

「逆に、向こうがそっけない時は、すごく嫌でした」

ドライだった彼には、もう少しくっついていたいという思いが、届かないことも多かった。

近い未来の悩み

それでも、中学生の自分が性別に関して、深く考えることは少なかった。

「いじめがほとんどなくなってからは、将来というより、近い未来のことばかり考えていましたね」

進学するか、働くか。

当時はSNSもなかったため、セクシュアリティに関する悩みを共有する相手もいなかった。

新宿二丁目には、同じような人がいることはわかっていたが、行けなかった。

「お酒が飲めないとダメだと思っていたから、高校を卒業してからかなって」

両親から、口うるさく「高校に行け」と言われたため、進学の道を選んだ。

家から自転車で10分の高校に進むため、中学3年から本気で勉強に取り組む。

「近所の高校に受かるために必死だったので、性別のことは後回しでしたね」

その甲斐あって、無事に志望校に合格した。

05生まれ変わった高校生の自分

激変の高校デビュー

高校に進んでからも、砲丸投げは続けた。

「ペースを崩すことがあんまり好きじゃないので、またやってみようかなって」

部活は変わらずに続けたが、学生生活は大きく変わっていった。

「中学でいじめっ子を殴った時から、なぜだか気持ちがオープンになっていったんですよね」

「それで、高校に入ってからは、化粧をするようになりました」

「入学したての頃は化粧してなかったんですけど、ある日突然吹っ切れちゃって」

「でも、高校の同級生には感づかれていたのか、驚かれなかったし、いじめもなかったです」

ギャル系の濃いメイクをして、エクステでのばした髪をコテで巻いた。

男子用ブレザーは着たくなかったため、陸上部のジャージで登校した。

「『朝練があるんで』って言い訳して、ずっとジャージで過ごしてましたね」

女友だちは、同じ仲間として接してくれた。

親に言えなかった秘密

派手なメイクは、毎朝学校で仕上げていた。

「母が近所の目を気にするかなと思って、家ではできなかったです」

誰よりも早く教室に入り、化粧をして、家に帰る前にメイクを落とす毎日。

エクステは「髪が長い方がいいんだ」と言って、母親からの追及をかわした。

「親には気を使っていたけど、メイクをしてると落ち着きました」

他者からも女性に見え、女性扱いしてもらえたからかもしれない。

「高校ではいじめもなかったし、素直に楽しかったですね」

マイノリティの昼食会

同学年の中には、仲間外れにされている男の子が数人いた。

「歩き方とか仕草を見れば、自分と似てる人かどうかわかるんですよ」

「一人で寂しそうにしてる子に声をかけて、一緒に屋上でご飯を食べてました」

集まった4~5人の同級生は、ゲイやMTFの子たち。

「私自身いじめの経験があったから、同じ目に遭う子を作りたくなかったです」

「自殺を考えたこともあったけど、このぐらいのことで死んじゃうなんてかわいそうだから」

そのグループでランチを共にすることはあっても、放課後に遊ぶことはなかった。

「あくまで学校内だけのグループでしたね」

「学校から出たら、自分なりの方法で生きていかなきゃいけないって思うんです」

「サバイバルの方法は自分で見つけないといけないから、外ではほとんど会わなかったですね」


<<<後編 2018/12/13/Thu>>>
INDEX

06 未来のための現実的な選択
07 ようやく見えた本当のセクシュアリティ
08 MTFの私として生きていく道
09 涙と衝撃のカミングアウト
10 いじめられていた自分に見せたい今

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