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Writer/Jitian

「もしトラ」とLGBTQ・・・トランプ氏の公約はトランスフォビアか?

最近、日本国内でも「アメリカ合衆国大統領選挙でトランプ氏が返り咲いたら、どうなる?」を予想・検証する、いわゆる「もしトラ」が話題に上がることが増えてきていますよね。「もしトラ」で話題に上がるトピックと言えば、経済・外交問題が多いように思います。しかし、日本に住むLGBTQ当事者、特にトランスジェンダー当事者は「もしトラ」を注視しておくべきだと感じています。

もしトラ検証1:前トランプ政権における、トランスフォビア的政策

「もしトラ」に備えるうえで重要なことのひとつは、トランプ氏が大統領を務めていた際に、どのような政策を行っていたのかをふり返ることでしょう。

性別=生まれたときの身体的性別?

トランプ氏は、大統領就任時にトランスフォビア(トランスジェンダー差別)と捉えられるような政策を行っていました。

たとえば、2017年には旧Twitter(現X)にて、トランスジェンダー当事者がアメリカ軍で仕事をすることを認めない、とつぶやきました。もちろん、その時点でアメリカ軍に入隊しているトランスジェンダー当事者は存在しています。このトランプ氏の発言は物議をかもしました。

ほかにも、性差別禁止条項を読み替えようとしたこともありました。簡単に言うと、性別として認められるのは生まれたときの身体的性別(生物学的な性別)とし、ジェンダーアイデンティティに基づく性別(自分の性別をどのよう認識しているか)は、差別禁止の対象から外すよう計画していると発表したのです。

ただ、これについては議論を呼んだ結果、地方裁判所によって施行が差し押さえられました。

トランプ前大統領とLGBTQについては、以前に記事「米大統領選、日本のLGBTQ当事者も他人事じゃない!」を書いているので、気になるかたはこちらもチェックしてみてください。

トランスジェンダー当事者の「もしトラ」は、もう始まっている?

実はすでに、トランプ氏の所属する共和党による、トランスジェンダー当事者にかかわる政策決定の動きは広まっていると言えます。共和党が地盤を持つ州では、主に若者に対する性別適合治療を禁止する法律が相次いで成立しているのです。つまり、「もしトラ」はすでに始まっているのです。

性別不合(性同一性障害、性別違和)の診断を受けたトランスジェンダー当事者が、自分のアイデンティティに従って生きられるようにするための治療、ひいてはトランスジェンダーの存在そのものに対して、懐疑的な見方が広まっていると言えるでしょう。

こうした動きは、日本も他人事ではないと感じています。たとえば、トランスジェンダーの「流行」に乗っていわゆる “性別転換” した人々の後悔をまとめた書籍 『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』 の日本語訳が、角川から『あの子もトランスジェンダーになった:SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』という邦題で出版予定になっていましたが、批判が殺到して中止になりました。しかし、一転して産経出版社から出版されることとなりました。

個人的には、本書の内容をつぶさに読んでいない以上、日本での本書発売中止が「正しい」、発売自体を「トランスフォビアだ」とまでは判断できないと考えています。

ただ、この本が世に広まることで「トランスジェンダーのジェンダーアイデンティティは思い込み。身体的性別が100%正しいのだ」と認知をゆがめる人が増え、トランスフォビアが広まることを懸念しています。

もしトラ検証2:トランプ氏の掲げる公約 “Agenda47” のトランスフォビア的目線

トランスジェンダー当事者に直接的にかかわる公約も入っていました・・・・・・。

バイデン政権による “Gender affirming care”(ジェンダー肯定ケア)

トランプ氏の後に大統領に就任しているバイデン政権は、前に書いたようなトランプ前大統領のトランスフォビア的発言や政策から180度とも言える転換を行っています。具体的には、ジェンダーアイデンティティに基づく生き方を肯定する施策 “Gender affirming care”(ジェンダー肯定ケア)を行ってきました。

トランスフォビアとは対極的です。たとえば、ホワイトハウスのウェブサイトに掲載されている情報によれば、以下のような政策を行っています。

・パスポートの性別欄で、男性(M)、女性(F)のほかに「X」という表記を選べるようにする。
・トランスジェンダー軍人に対する差別的な禁止措置を撤回する。
・LGBTQの若者や、その保護者や学校などに対して、情報提供などの面でサポートする。
・各州の「反トランスジェンダー法案」を非難する声明を出す。

バイデン政権は、初めて黒人女性のハリス氏を副大統領とするなど、多様性を尊重した人材登用が目立っています。その姿勢が、LGBTQ当事者に対する政策にも反映されたと言えます。

パスポートの性別表記については、当時日本でも話題になったと記憶しています。日本では導入の議論すら始まっていないように思いますが、同じような対応を行っているほかの国も増えてきていますよね。

個人的にこの間、人生で2回目のパスポート発行を行ったのですが「初めてパスポートを作った1回目も性別欄はFだったけれど、それから10年以上経った今でも、日本ではMかFしか選べないんだよな」と感じました・・・・・・。

公約から推測される、「もしトラ」のトランスフォビア

一方のトランプ氏は、バイデン政権によるジェンダー肯定ケアを「思春期を阻害し、外見を変異させ、最終的には未成年の子どもに手術を施すことが含まれる」と強烈に非難。自身の公約”Agenda 47”のなかでは、ジェンダー肯定ケアを廃止する公約を掲げています。

具体的には、次のような政策案を打ち出しています。

① 年齢に関係なく(!)、性別と性転換の概念を促進するすべてのプログラムを中止する。
② すべての州で、児童のセクシュアリティによる手術(切除)を禁止する法律を成立させる。
③ 親の同意なしに、未成年の子どもに新しいジェンダーアイデンティティが強制されることから、親の権利を保護する法案を提出する。

先に紹介した書籍『Irreversible Damage』は、未成年や子どものトランスジェンダー当事者の性別適合治療に焦点を当てています。一方、1つめに挙げたトランプ氏の公約は、当事者の年齢に関係なく(ここが大事!)、トランスジェンダーに関するプログラムを廃止とすることとしています。

トランスフォビアだと指摘されることが容易に想像できます。

私は今まで何人ものトランスジェンダー当事者に会ってきましたが、治療によって自分のジェンダーアイデンティティに沿った生きることができると知ったとき、ポジティブな感情を抱いたという方々が多いです。

「もしトラ」が現実のものとなり、トランスジェンダーに関するプログラムを廃止されれば、ジェンダーアイデンティティが原因で心身に支障を来している人が前向きに生活できるようになるきっかけを奪ってしまうかもしれません。

また、3つめの公約も、かなり不安を覚えるものです。

LGBTQ当事者にとって親へのカミングアウトは、最もハードルが高いと言ってもいいものです。残念ながら、親にセクシュアリティを受け入れてもらえない人もいます。

親に自分のセクシュアリティを受け入れられてもらえないがために、LGBTQ当事者に対するあらゆるサポートから遠のいてしまったら、最悪の場合、自ら命を絶つ子どもが出てしまうのではないか・・・・・・と思うのです。

未成年の子どもの権利は、法的にはその親が権利を有すること多いです。しかし、親の有する権利ばかりに目を向けてしまい、肝心の子ども本人の生きづらさから目を逸らしてしまうことがないようにしてほしいです。

トランスジェンダーに関するトランプ氏の公約は、トランスフォビアを超えて、トランスジェンダーの存在そのものを否定しているようにすら私は感じました。

「もしトラ」で一番振り回されるのは、子どもたち

ときの政権によってこうも方向性が変更されると、アメリカ国民、ひいては世界中の人たちが混乱するのではないでしょうか。

トランプ氏私邸で挙げられた、同性カップルの結婚式

これまでの内容を見ると、トランプ氏がLGBTQ当事者の尊厳を1mmも認めない姿勢であるようにも感じますが、実はそうでもないようです。

2024年2月、フロリダ州にある広大な敷地を有するトランプ氏の私邸にて、男性同性カップルの挙式が執り行われました。この男性カップルは、トランプ氏陣営である共和党系のLGBT団体 ”Log Cabin Republicans” の一員と、そのパートナーです。

あるゲイ当事者で挙式参加者のX(旧Twitter)アカウントには、同性カップルとトランプ氏が3人並んでサムズアップしている写真が掲載されています。

これまでの言動から、トランプ氏はLGBTQ当事者をまとめて無視していると思っていただけに、このニュースには驚きました。

これまでの内容から考えると、トランプ氏はLGBTQ当事者すべてを排除しようとしているのではなく、トランスジェンダーに対する風当たりが極端に強いように感じます。

「もしトラ」がもたらすトランスフォビアによって、子どもたちが振り回される?

以前の記事「米大統領選、日本のLGBTQ当事者も他人事じゃない!」を書いた際、アメリカ軍隊におけるトランスジェンダー当事者の生きづらさ解決の道のりが、その時々の政権によって左右され、前進したと思えば後退しているように感じていました。

残念ですが今回、改めてバイデン政権とトランプ氏の公約を調べてみて、同じような感覚を再び覚えました。バイデン氏、トランプ氏、どちらも子どもを大事に思っているが故の政策であることは共通しているはずなのに、なぜこうも180度違うのか・・・・・・。「政党が違うから」だけでは済まされないように思うのです。

どちらが100%正しい/間違っている、と断言できるものではないとは思います。ですが、一つ言えることは、トランスジェンダー当事者の子どもたちが生きやすくなること、これが一番大事なはずです。

時の政権によってトランスジェンダー当事者の子どもたちの生活ががらりと変わることや、何より「もしトラ」の影響によって発生したトランスフォビアによってトランスジェンダー当事者が追い詰められることだけは、なんとしても避けてほしいと願うばかりです。

■参考情報
FACT SHEET: Biden-⁠Harris Administration Advances Equality and Visibility for Transgender Americans(THE WHITE HOUSE)
President Trump’s Plan to Protect Children from Left-Wing Gender Insanity(Donald J. Trump)
発行中止のトランスジェンダー本刊行へ 「不当な圧力に屈しない」産経新聞出版(産経新聞)
トランプ氏の私邸で保守派LGBT団体幹部の同性婚、男性カップルとの写真も(クリスチャントゥデイ)

 

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