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Writer/雁屋優

Aro/Aceでノンバイナリーの私が海外移住を考える①

2022年7月10日に投開票が行われた参議院議員選挙では、党内の会合でLGBTQに対する差別的な文言が書かれた冊子が配られたことが報じられるなどの不祥事がありながら、自由民主党が大勝しました。同性婚や選択的夫婦別姓の導入に消極的な政権与党に、多くの有権者が賛同したのです。そんな選挙結果を眺めながら、私は考えました。海外移住です。

Aro/Aceでノンバイナリーの私

「日本が住みやすい国になるように動いていくことも大事だけれど、現状で私が楽に息をできる場所が日本の他にないか検討してみるのも一つの手段なのではないか」と考えるようになりました。海外移住は目的や家族の形態によって考えることや必要な情報が変わるので、今回海外移住を検討する私、雁屋優のプロフィールから見ていきましょう。

Aro/Aceとは?

私の恋愛指向/性的指向は、アロマンティック/アセクシュアルです。

インターネットで、同性婚するために海外移住された同性愛者の方の投稿を目にしたことはあるけれど、Aro/Ace(アロ/エース)の話はあまり目にしたことがない。そんな方もいらっしゃるかもしれません。

Aro/Aceとは、他人に恋愛感情を抱かないアロマンティック、他人に性的に惹かれないアセクシュアル周辺のセクシュアリティのグラデーションのことを指します。詳しくは以前の記事を読んでみてください。(https://lgbter.jp/noise/0149/ https://lgbter.jp/noise/0150/ https://lgbter.jp/noise/0156/ )

私は、他人に恋愛感情を抱かず、性的にも惹かれない、自身の恋愛指向/性的指向をとても静かなものだと感じています。また、私は同居人や家族のいない生活スタイルを望むAro/Aceです。

ノンバイナリーとは?

私の性自認はノンバイナリーです。

ノンバイナリーとは、性別を男性/女性の二つで分ける性別二元論ではなく、男女どちらでもない、男女どちらでもある、性別を定めないと決めている、などさまざまに認識する性自認を指します。

私は数あるノンバイナリーを指す言葉のうち、私は無性である、何にでもなれる可能性があるという意味を込めて、Xジェンダーを好んで使います。

残念ながら、日本の戸籍において、性別は男か女かしか認められていません。最近性別欄で、「その他」の項目が増やされているのを見かけますが、戸籍上は男か女どちらかにならなくてはなりません。

私のその他の属性について

セクシュアリティの話を先にしましたが、海外移住において大事なことは、他にもあります。例えば、私の職業や年齢です。ワーキングホリデーなる制度が使えるかどうかには年齢が関係しますし、職業次第でビザの種類も違ってくるのです。

2022年7月現在、私は個人事業主としてライターをしている27歳です。Aro/Aceでノンバイナリーであるだけでなく、多くのマイノリティ性を持っています。髪や目の色素が薄く、視覚障害を伴うこともある遺伝疾患、アルビノ。発達障害の一つ、ASD(自閉スペクトラム症)。うつ病。そして最近、消化器系の持病も追加されてしまったところです。

そんな特殊なプロフィールの私が海外移住を検討する様子が役に立つか、疑問に思うかもしれません。しかし、例えば「発達障害の人にわかるように指示を明確にしていたら、発達障害でない人も仕事がやりやすくなった」という話があります。

多くのマイノリティ性がある私が過ごしやすい場所は、そうでない場所に比べて、他の人にとっても過ごしやすい可能性が高いと考えます。その意味で、この検討の様子は皆さんの役に立つと思います。

LGBTQの一人として、同性婚ができる国に住んでみたい!

元々漠然と「住むのは日本じゃなくてもいいかもしれない」と思っていた私ですが、その思いを強くしたのは、2022年7月の参議院議員選挙でした。

同性婚も選択的夫婦別姓も、参院選では焦点になっていない?

参議院議員選挙の結果を残念に感じたことは、否定できません。しかし、私にとって、選挙の結果と同じくらい衝撃だったことが選挙期間中にあったのです。それは、期日前投票に行った際に協力した出口調査でした。

出口調査には、どの党や候補者に投票したかだけではなく、どのような政策課題を重視して投票を行ったかを聞く箇所がありました。経済、環境、新型コロナウイルス対策、国際情勢、などなどさまざまな政策課題が並ぶなか、選択的夫婦別姓や同性婚をはじめとしたジェンダーやマイノリティの課題は選択肢にすらありませんでした。

今は国際情勢も不安定で、新型コロナウイルスの感染拡大も収まらず、不況でもあります。そういう時期に、選択的夫婦別姓も同性婚も重大なイシューになりえないと考える人が少なくないのも予想できることです。マイノリティの歴史は、政治に無視されてきた歴史と見ることもできますから。

でも、それが、政治を監視し、社会に働きかけていく役目も持つメディアでも通ってしまう考えなのだとしたら、この社会で、誰がマイノリティの人権の話をするのでしょうか。社会が不安定にあるときこそ、マイノリティの人権を守らなければならないのに、平然と後回しにされたのです。選挙結果を待つまでもなく、絶望しました。

LGBTQの一人として、同性婚ができる国に興味がある

選挙結果が出てから、思い出したのは大学時代に学んだ、オランダの地誌のことでした。地誌とはその地域の環境や文化、産業、制度などを学ぶ学問です。高校までの地理でアメリカや中国のことを学んだことを覚えている方も少なくないでしょう。

オランダというと、風車とチューリップのイメージが強くあり、オランダをイメージした商品にもそれらが描かれることが多いです。しかし、LGBTQとしての私の着眼点はそこではありません。オランダは2001年に同性婚が法制化された国なのです。(参考:https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/world/ )

同性婚が法制化されてから、20年以上経つ国と聞くと、オランダに興味が出てきませんか。20年あれば、生まれたばかりの子どもは成人します。オランダは、同性婚ができるようになってからそれなりに月日の経過した国なのです。

どこへ行っても差別はある?

「どこへ行っても差別はある」とはよく聞く言葉です。日本ではLGBTQへの差別や女性差別、人種差別などがありますが、それが海外に行った途端ゼロになることはありません。ヨーロッパではアジア人として差別されることがあるとの情報を多く目にしますし、前述のオランダも同性婚ができる国だからLGBTQに対する差別がないなんてこともないでしょう。

それでも、法的に同性カップルが承認される国とされない国では、明らかに意識の差があるでしょう。法が同性カップルを認めるか否か、それは大きな意味を持つのです。同性婚をしたい人だけでなく、LGBTQとして生きる人々、ひいてはその社会にいるすべての人に影響があります。

海外移住に対する不安

ただ単に「海外移住、いいかもしれない」と思っているだけでは夢物語です。海外移住の不安についても考えていきましょう。

一番の悩みの種は言語

何と言っても、一番の悩みの種は言語です。英語の読み書きはそこそこできますが、そもそも日本語でだって人と話すのが得意ではない私です。英会話ができるかと言われたら、日常会話がどうにかできる程度としか言えません。現状で、英語を使って、ビジネスの交渉や会議は難しいです。

英語ができれば何とかなる国が多いと聞くけれど、その英語が難関なのです。診察を受けるのも行政の手続きも、その国の言語もしくは英語でやらなければなりません。その上、ある程度の英語力がないと、移住すらできない国がほとんどです。

大きな問題ですが、私は別件でも英語を避けて通れないため、どちらにしろ英語をやる他ありません。まずは読み書き、そして話せるように頑張っていきたいと思います。今はいろいろな学習方法があることですし。

医療体制や治安も気になる

先ほど私は診察を受けていると話しましたが、医療体制や治安も気になるところです。国民皆保険の日本と違い、海外では医療費がとんでもなく高い国も存在します。有名なのはアメリカですね。また、医療へのアクセスの方法も異なるようです。

日本では、不調があればすぐに近くの病院へ行き、診察を受けられましたが、診察を受けるまでに数日~数週間かかるような国や、救急車が有料のところもあります。受けられる医療も、国によって認可されている治療や薬が違うため、日本とまったく同じとはいきません。

それから、治安も大事なことです。国際情勢が不安定で世界的に景気もよくない今、犯罪被害に遭うリスクを考えないわけにはいきません。日本で生活しているときよりも、防犯意識を高く持つ必要はあります。

一人暮らしできる? 食事は?

さらに、生活事情も検討したいところです。

人と同居すると不安定になる私の性質上、単身者向けの物件を程よい値段で借りられる場所が望ましいですし、近くに日本食スーパーなどがあるとなおいいですね。麵つゆやポン酢、醤油や味噌などの日本の食材が全然手に入らない生活は適応が大変でしょうし。

こう考えると、私が住める国は相当限られている気がします。

比較検討を始めよう

「私自身は同性婚をするつもりがないんだし、移住しなくてもいいんじゃない?」と面倒くさがりの私が囁きます。しかし、移住するかを検討できるのはおそらく今なのです。

背中を押したのは、周囲の言葉

ライター仲間や先輩に海外移住を検討している話をしたところ、不思議なことにほとんどの人が応援してくれました。「移住するなら若いうちにやってみて、ダメだったら戻ってくればいい」と何人もに言われました。

移住したら必ずその国に死ぬまでいなければならないわけではないのです。それに、異なる文化の中で生活するのは、体力のある若いうちに始めるのがいいですし、ワーキングホリデーの制度も若いうちにしか使えません。

私には、日本にいなければならない理由が今ありませんし、これからもおそらくできないでしょう。自分一人の考えで、行き先を決められる環境にあるのです。

楽園なんてどこにもない?

全部が揃った完璧な楽園なんて、どこにもないと思います。でも、日本は、LGBTQに対する差別を禁じる法律を作る気が微塵もないような政党が政権を取っている国です。差別を禁じる法律を作らないことは、差別をし続けても良いと言っているのと同じことです。

楽園はどこにもなくても、私にとって、日本よりもいいと思える場所はあるかもしれません。そういう場所があるのかどうか、海外移住を検討しながら探していきたいです。

自分で考えて選んだ結果なら、きっと納得できる

LGBTQの人々のなかには、日本から出る選択肢を持てない方もいると思います。私だって、確実にその選択肢を持てる、とは思いません。海外移住をするなら、そのための準備がたくさんいるし、移住してからも苦労が絶えないことは想像に難くありません。

でも、自分で決めたことなら、頑張ろうと思えますし、納得もできます。自分で考えて選ぶために、海外移住という選択肢をしっかり検討していきます。

 

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