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Writer/雁屋優

Aro/Aceを知ろう② 他者に性的に惹かれないアセクシュアルとは?

前回の記事では、恋愛感情を抱かないアロマンティック(Aro)について解説しました。続く2回目となる本記事では、アセクシュアル(Ace)について解説します。他者に対して、性的に惹かれる/惹かれないといった話をするため、性的行為やそれを連想させる文章が出てきます。ご自身の心や体調を考慮した上で、この先を読み進めるか、ご判断ください。

アセクシュアル(Ace)とは?

アセクシュアル(Ace)は、見えにくい性的指向であると言われています。

性的指向の一つであるアセクシュアル

アセクシュアルは、他者に性的に惹かれない性的指向です。アセクシュアルが「見えにくい」または「見えない」性的指向といわれるのは、他者に性的に惹かれないことを自覚するのが、他の性的指向を自覚するのに比べて、時間がかかったり気づきにくかったりする傾向があるからかもしれません。

アロマンティック/アセクシュアルを自認する私も、相手に「性的に惹かれていない」ことに気づくまで、ずっと「自分が相手を好きじゃないのに、好きだと思いこもうとしていただけ」だと考えていました。

性的魅力を感じない、性的に惹かれないアセクシュアル

性的に惹かれないとは、どういうことなのでしょうか。多くの人は、恋愛対象であれば、性的にも惹かれるようで、恋愛の意味で惹かれることと、相手に性的に惹かれることは、ほとんどセットのように考えられています。

例えば、あなたが「パートナーに性欲を感じない」とか、「パートナーとセックスしようとしたけれど、何だか気分が乗らなかった」とか、人に打ち明けたら、一般的に返ってくる答えは、「本当は好きじゃないんだよ」をはじめとしたものであることは、容易に想像がつきますね。私も、漫画や映画で、そんなシーンを目にしたことがあります。

本当は、性的に惹かれていないだけで、恋愛感情はあるかもしれないのに。性的に惹かれていなくても、恋愛ではなくても、パートナーを大切に思う気持ちが存在するかもしれないのに。

アセクシュアルは、時に「恋愛感情を抱かない」という意味も含めた言葉として使われることがあり、他にもいくつかの定義があります。この記事では、アロマンティックは恋愛感情を抱かない恋愛指向、アセクシュアルは他者に性的に惹かれない性的指向、として解説していきます。

アセクシュアルの人々を待ち受ける困難

アセクシュアルであると知られたり、他者との性的行為に興味を抱かないと認識されたりすると、他のセクシュアルマイノリティの人々同様、多くの困難が生じます。

「正常じゃない」という評価

アセクシュアルであることを自覚した際、多くの当事者は、アセクシュアルを隠すことを選択します。その理由は明白です。それまでの人生で、アセクシュアルであることに対する理解を得るのが容易でないと実感しているからです。それどころか、理解を得るのは困難で、非常に疲弊し、心無い言葉を投げかけられもする現実を知っているからです。

それでも、黙っていれば、アセクシュアルだなんて、わからないのだから、大したことではないだろうと言う、無理解な人もいます。黙っていても、アセクシュアルの人々は、誰かに性的に惹かれることこそ正常で、性的に惹かれないのはおかしいとする、有形無形のメッセージを、日常的に社会から受け取っています。

性的魅力を高めることを目指す人々をターゲットにした広告、芸能人なら誰がタイプかといった会話など、挙げればきりがありません。そして、精神科や心療内科の問診票にさえも、アセクシュアルの人々へのプレッシャーがあります。

精神科や心療内科の問診票には、「最近、性欲を抱かなくなった」かどうかを尋ねる項目があるのです。精神疾患の一つの特徴として、性欲の減退が挙げられることがあるため、仕方ないのかもしれませんが、私が受診してこの質問を見たとき、いい気持ちはしませんでした。

パートナーにさえ、理解してもらえないことも

さらに、悲しいことに、アセクシュアルであることを理解してほしいと強く思う相手の代表ともいえる、パートナーにすら、理解してもらえないことがあります。

「アセクシュアルなのにパートナーがいるの?」と疑問に思った方もいるかもしれませんが、性的に惹かれないからと言って、恋愛感情を持たないとか、誰かと特別な関係を持たないとか、決まっているわけではないのです。

しかし、上にも少し書いたように、一般的な認識では、恋愛感情と性的に惹かれることはセットで考えられています。いわゆる、「セックスができない相手のことを好きなわけがない」とする考え方です。

「性的に惹かれていないけど、共に生きていきたい気持ちはある」

もし、自分のパートナーにそう打ち明けられたら、あなたはどう思うでしょう。自分に性的魅力がないのだろうかとか、本当は自分のことを好きではないだけだろうとか、いろいろなことが頭をめぐるかもしれません。

あなたが思いついたそれらのことは、残念ながら事実かもしれません。ただ、そのとき思い至る可能性に、「自分のパートナーはアセクシュアルなのかもしれない」を入れておいてほしいのです。

どのような性別に見られるかによって、理解されにくいことも

アセクシュアルであることを周囲が信じてくれるかどうかには、他者からどのような性別だと判断されるのかも関わっているのかもしれません。明確なデータはない話ですが、私は、この話を聞いて可能性として大いにありえると感じました。

「男は皆狼だ」といった発言をする人は、残念ながら現在もいます。男性だと判断される人は、「性欲が強くて当然」で、「他者に性的に惹かれないなんてありえない」と見られがちです。

皆さんが見てきた物語で、スカートめくり(もちろん許されることではありません)をしたり、グラビア雑誌を教室で見せびらかすように見たりするのは、多くの場合、男の子ではなかったでしょうか。

これを書いている私も、「他者に性的に惹かれない男性」をイメージするのは少し難しいです。男性は性欲が強いものだ、と刷りこまれてきているからです。しかし、アセクシュアルで、ジェンダーが男性の人は、たしかに存在しています。

アセクシュアルかもしれないと思ったら? カミングアウトされたら?

自分がアセクシュアルであると気づいたり、誰かにアセクシュアルであると打ち明けられたら、どうすればいいのでしょうか。

アセクシュアルであるとカミングアウトされたら?

アセクシュアルであると打ち明けられた時、たずねられる雰囲気であれば、その言葉を本人がどの意味で使っているのか、しっかり説明を聞いてください。打ち明けられて混乱している最中に大変かもしれませんが、アセクシュアルは、人によって、微妙にニュアンスの違う場合がある言葉なので、最初に確認することをおすすめします。後に誤解が生じる可能性を減らすために必要なことです。

何を求めて、あなたにカミングアウトしたのかによっても、その後の対応は異なってくると思います。もちろん、何らかの対応をしなくてはいけないわけではありません。あなたにはあなたの人生があるので、「今後は付き合っていられない」と本人から離れる自由もあります。

しかし、絶対に、許可なく他人に本人の性的指向を広める「アウティング」だけはしてはいけません。その人の命に関わる話です。その人のことを嫌だとか、もう関わりたくないと思ったら、静かに離れればいいのです。

アセクシュアルであると打ち明けてくれたその人に向き合いたいのであれば、どうして欲しくて打ち明けたのか話を聞き、あなたのできる範囲で、理解者になることができます。

性的な話題をする人から遠ざけて欲しいのかもしれませんし、ただ知っていて欲しいのかもしれませんし、性的に惹かれていなくてもあなたを大事に思っていることを伝えたいのかもしれません。

自分がアセクシュアルかもしれないと思ったら?

「もしかして、自分はアセクシュアルなのではないか」と思った人もいるかもしれません。そのようなときに、どうすればいいのでしょうか。自分が本当にアセクシュアルかどうか、「明らかにする」必要はありません。セックスしたくないのにセックスしてみることも、何らかの診断を得ようとすることも、必要ないどころか、有害とも言えます。

アセクシュアルであることを隠し通すのは不可能ではありません。実際、私も、説明したいとも思わないもしくはその必要がない相手には、話しません。私が異性愛者の女性だと勝手に思っているのは察せますが、それを一つ一つ訂正するのも、面倒な話です。

でも、この人には伝えたいと思うことがあるかもしれません。そんなときは、慎重に、言葉を選んで、説明してみましょう。それで否定されたとしても、あなたのせいではありません。その人はあなたの理解者にはなりえなかった。ただそれだけなのです。

自分にとって安心できる居場所を探していきましょう。どこにもない、なんてことはありません。あなたの安らぐ場所は、誰かのそばであってもいいし、誰もいない自分の部屋であってもいいのですから。

アセクシュアルも尊重されるべき一つのアイデンティティ

アセクシュアルであることを、恥に思うことはありません。アセクシュアルの人々は、他の性的指向の人々と同様に、尊重されるべきです。

どんな性的指向も、尊重されるべき

恋愛をするのもしないのも、性的に惹かれるのも惹かれないのも、そのどれもが、尊重されるべきことです。性的に惹かれないことも、恋愛感情がないことも、異常などではありません。一つの在り方です。

そして、③へ続く

①では「アロマンティック(Aro)」について書きました。
アロマンティックは、恋愛感情を抱かない恋愛指向です。

②では「アセクシュアル(Ace)」について書きました。
アセクシュアルは、他者に性的に惹かれない性的指向です。

最終回となる③では、アロマンティック/アセクシュアルの多様性について書いていきます。この記事でも少し触れた、パートナーを求めるかどうかをはじめとした、アロマンティック/アセクシュアルのなかの多様性を見ていきたいと思います。

 

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