2022年6月、東急ハンズの公式Twitterが「ゴリラゲイ雨」というホモフォビック(同性愛嫌悪的)な言葉を使っておもしろおかしくツイートしたことで、多くの人から非難を受けました。セクシュアルマイノリティの人々、特に同性愛者に対して、あまりにも配慮がないと私は感じました。どうして、このような差別的な発信が企業によって繰り返されてしまうのでしょうか。
東急ハンズのツイートとその後
東急ハンズのツイートが炎上し、どのような謝罪の言葉を述べたのか、経緯を改めてまとめます。
「ゴリラゲイ雨」ツイートから始まった炎上
そもそも、インターネットやSNSに馴染みのない方には、「ゴリラゲイ雨」が何なのかもイメージしにくいかもしれません。これは、「ゲリラ豪雨」をもじったネットミームやネットスラングと言われるものです。
ゲイの人々が今よりずっと物珍しい目で見られ、からかいの対象として消費されていた頃には当たり前にインターネットで見られた、おふざけに用いられてきた言葉です。昔であっても許されるべきではなかったのですが、今はより許されない言葉なのです。
そのような経緯のある言葉を有名企業である東急ハンズが公式アカウントでツイートし、「来たら困るけど見てみたいかも」などとふざけたのです。2022年6月16日現在、当該ツイートは削除され、当該ツイートについての謝罪文がツイートされています。
企業の公式アカウントがそのような言葉をツイートすること自体も問題ですが、「見てみたい」や「来たら困る」といった表現をしたことも、より醜悪です。ゲイの人々は、動物園の動物ではなく、人権を持つ生きた人間です。興味本位で存在を見られたり、気持ち悪がられて排除されたりするのは、明らかな人権侵害です。
当該ツイートが、今もあるセクシュアルマイノリティの人々への差別を煽ったことは、東急ハンズ公式アカウントの「中の人」の意図に関係なく、事実です。
何もわかっていない謝罪
多くの批判を受け、東急ハンズ公式アカウントは当該ツイートに対する謝罪をツイートしました。しかし、その謝罪は、「差別する意図はなかった」「ご不快に思われた方に謝罪する」と何もわかっていない謝罪のお手本のような謝罪でした。
意図がどうあれ、その言葉はゲイの人々、ひいてはセクシュアルマイノリティの人々への差別を煽る効果を持ちます。不快にさせたから謝罪するのでもありません。
交通事故を起こして、「ご不快にさせて申し訳ありません」と言いませんよね。「これこれこのような損害を与えてしまって申し訳ありません」と言うものです。それと同じで、「損害を与えて申し訳ありません」と社内外に謝罪すべきなのです。
不買や批判が広がるなかで、擁護の声も
「東急ハンズ行くのやめよう」「がっかりした」などの不買や批判の声が上がる一方、「そんなことで叩くなんて」と東急ハンズを擁護する人も見受けられました。「大したことじゃないのに、過敏に反応しすぎだ」と言うのです。
大したことではないと東急ハンズを擁護する声に賛成することはありませんが、では不買に転じるのかというと、それも何だか違う気がします。東急ハンズの社内にも、セクシュアルマイノリティの人々はいるはずです。
抗議の不買によって、東急ハンズの業績が悪化したら、その人々の生活が厳しくなるのではないでしょうか。そう思ったら、「不買だ!」とは言えなくなってしまいました。
それでは、企業の差別について、消費者であり、労働者である私達は、どうしたらいいのでしょうか。企業と消費者がどうあるべきか、考えていきます。
東急ハンズがALLYになるために
企業は「差別をしない」だけではなく、差別に毅然と反対の意を示す「反差別」であるべきだと言われ始めています。そんななか、差別的な発信をしてしまった東急ハンズが反差別を掲げ、ALLYになるには、何が必要なのでしょうか。
LGBT研修だけでなく、差別の構造を知る講義を
このような炎上の後に、企業がよく発する言葉があります。「LGBTの方々についてあまりにも無知だったため、LGBT研修を実施します」といったものです。方向性として明確に間違っているわけではないものの、少しずれているのではないでしょうか。
当該ツイートは、セクシュアルマイノリティの人々に対して無知だったから起きたものでしょうか。公式アカウントの「中の人」は、ゲイが誰を指し示す言葉なのか、知っていたことは明白です。その上で当該ツイートをし、ゲイの人々を笑いのネタにしたのです。
性自認や性的指向について学び、何が差別に当たるのか、どのようなサポートが求められているのか学ぶLGBT研修に意味がないとは言いません。それも、一つの大切な学びの場です。ですが、この件において、「中の人」が知らなかったのは、LGBTのことというより、差別が生じる構造ではないでしょうか。
LGBT研修を受けて、セクシュアルマイノリティの人々への差別をしなくなっても、差別がなぜ生じうるのかを本質的に理解できていないと、また別のマイノリティを差別して、広報に失敗してしまうリスクがあると思います。
以上の理由から、東急ハンズにはLGBT研修を受講して終わるのではなく、差別の構造を学ぶような講義を受講することをおすすめします。
研修や講義を受けるだけでなく、社内制度を整えてみる
研修や講義で学んでも、実践が伴わなくては意味がありません。マイノリティとされる人々が働きやすいように、社内制度を整え、採用のしかたも見直してみてはどうでしょう。
現在、東急ハンズがどのような考えで経営されているのか知るべく、公式サイトの会社概要にある、ハンズの取り組みと書かれたページを読んでみました。「多様な人財が活きる組織風土」として、働き方改革、障害者雇用、女性活躍についてふれられています。近年話題のSDGsを掲げているようです。
しかし、セクシュアルマイノリティの人々に関する記載はありません。現在、同性のパートナーのことを社内制度で異性のパートナーとできる限り同じように扱うようにしている企業も存在しています。これを機に、東急ハンズでも、セクシュアルマイノリティの人々のための取り組みを検討してみてほしいと思います。
SDGsには当然、セクシュアルマイノリティの人々への差別をなくすことも含まれるのですから・・・・・・。
ALLYになることは業績にもつながる
企業として、マイノリティへの差別に関してそこまでやる意味があるのだろうかと思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、商品を買う消費者のなかにも、マイノリティ性のある人々はいます。そのようなときに、使いやすいとして手に取ってもらえたり、企業としての多様性に関する取り組みを応援しているから購入してもらえたりする方がいいのではないでしょうか。
また、多様な人材がいることで、幅広いニーズに対応した商品開発が可能になることでしょう。それは、業績に繋がっていくのではないでしょうか。ALLYになることは、企業にとっても有益だといえます。
消費者として私達はどうあるべきか
消費者としての私達が、企業の差別に対してできることはいったい何なのでしょうか。
わかりやすく抗議の意を示す
企業が差別的な発信をすると、すぐに「不買だ」となる風潮がありますが、相当業績が落ちこまない限りは、企業は差別によるものだと気づきにくいこと、そして抗議の不買でそこで働くマイノリティの生活を危険にさらすリスクがあることなど、不買が抗議として適切と言えない部分があります。
もちろん、不買も一つの抗議です。しかし、企業への抗議が不買によるものだけであるべきとは思いません。
お客さま相談室やお問い合わせフォームにメールを送って、差別的な発信への抗議を伝えるのも、一つの方法です。個人のこのような抗議が積み重なることで、企業が差別への姿勢を考え直す確率が上がっていきます。
忘れずに注視すること
炎上に対して、よく使われる手法が「時間に任せ、ほとぼりを覚ます」ことです。これをやって逃げ切る企業もありますし、逃げ切れず炎上が長期化する企業もあります。しかし、このような手法がある程度有効であることは事実です。
そうさせないために、私達は企業の挙動を忘れずに注視していく必要があります。批判され、謝罪して、その後特に何の対策も打たない。私達が見つめ続けることで示し、そのようなことはあってはならないのだと伝えていくほかないのです。
企業のような大きな組織相手に、個人が見ていることなんか意味があるのだろうか、と思ってしまうかもしれません。しかし、今は個人が発信者になれる時代ですし、個人の感じ方の集合体がよくも悪くも社会を動かします。社会を構成するあなたは、社会に影響され、そして、社会に影響を与えているのです。
生活は、社会と地続きだ
私達の生活は社会と地続きになっています。私が目の前の商品を買うか買わないか、東急ハンズの店舗に寄るか寄らないか、もっと言うならば、何を選び、何を選ばないかは小さなさざ波ではありますが、社会に、企業に影響を与えています。
ただ商品がいいかどうかを見て消費するだけの時代は終わりました。企業としてどうあるのか、どのような取り組みをしているのか、差別に対してどのような姿勢を示しているのかなども、商品の評価項目に加わりつつあるのです。
企業が商品やサービスとして世の中へ生み出すものを、そのまま考えなしに受け取り消費するのではなく、さまざまなことを考えて、企業を選んでいく消費者でありたいと思います。どんな企業を選ぶかで、これから先の社会も変わっていくはずですから。あなたの生活と、社会や企業は地続きなのです。
あなたの選択の積み重ねが未来を作っていきます。企業や社会に自分が影響を与えられることを、改めて意識し、生活していってみてください。