2024年3月27日、タイの下院で同性婚を認める法案が可決されました。上院や王室の承認を経て、年内には成立する見込みとのことです。日本国内でも、同性カップルの現状に対する札幌高裁や東京地裁の判決が3月に発表され、大きなニュースとなりました。しかし、日本の同性婚法制化は近い将来、本当に実現するのでしょうか?
世界やアジアでの同性婚にまつわる状況
世界地図で見ると、同性婚やそれに準ずる制度の整備状況は、欧米とそれ以外の地域との間で差があることがはっきりと分かります。
タイでアジア3番目の同性婚法制化へ
セクシュアリティを表す言葉が18もあると言われる、東南アジアの ”ほほえみの国” タイ。
LGBTQ当事者にとってタイと言えば、やはり性の多様性に寛容な国というイメージが大きいのではないでしょうか。日本国内で性別適合手術を受けられるようになった現在でも、タイで手術を受けるトランスジェンダー当事者の方が少なくありません。
私が好きなNHK BS1の世界紀行番組「世界ふれあい街歩き」でも、先日の放送回で取り上げられたタイのリゾート地・パタヤでは、トランスジェンダー当事者が街に溶け込んでいました。ショービジネスを中心に自律して生活している姿が印象的でした。
そんなタイで、2024年3月に同性婚を認める法案が下院で通過し、いよいよ同性婚が法制化されるとのこと。
もしかしたら「逆に、タイってこれまで同性婚が法的に認められていなかったの?」と驚いた読者もいるかもしれませんね。私自身も、タイといえばLGBTQに理解のある国と思っていただけに、同性婚法制化まで意外と時間を要したなと感じます。
世界を見渡すと、同性愛に対する根強い偏見の目が・・・
2019年に、アジアで初めて台湾で同性婚が法制化されました。この出来事は、アジアに住むLGBTQ当事者にとっては画期的なものとして、NOISE読者である皆さんにも記憶に深く残っていることと思います。
その後、2023年にネパールで同性カップルの結婚が法的に認められました。タイでも実現に向けて動き出している現状。しかし、ほかのアジアの国々、そして日本は追随する動きを見せるのでしょうか?
個人的には、残念ながらかなり難しいと思います。
NIJI BRIDGEにて公開している「性的指向に関する世界地図」(ILGA World の報告書を参照して、認定NPO法人虹色ダイバーシティが日本語訳)を見ると、世界で同性愛がどのように受け止められているのか、状況が一目で分かります。
ヨーロッパ、南北アメリカ大陸の多くの国では、同性カップルの法的な結婚や、異性カップルと同等の制度が定められているところが多いです。
一方、アジアやアフリカでは、イスラム教を信仰する人々(ムスリム)が多いインドネシアやアラブ諸国を中心に、同性愛行為などが犯罪とみなされている国が多いように見えます。死刑となっている国もちらほら・・・・・・。
世界史に関わる仕事をしている身としては、イスラム教や、ムスリムが大事にするものを否定するつもりはありません。しかしながら、1000年以上の長い歴史のなかで脈々と受け継がれてきた価値観を、わずか十数年程度で180度変えることは、やはり容易ではないと感じます。
アジアとヨーロッパの間に位置するロシアでも、2023年11月に最高裁がLGBT活動組織を「過激派」に認定しました。性の多様性への理解を促進するための活動が制限され、事実上は違法とされています。
インドの最高裁では、2023年10月に同性婚は法的には認められないとしたものの、LGBTQ当事者への差別には反対する姿勢を見せました。日本を含め、イスラム教徒が多数派でないアジアの国では、インドと近しい状況の国が多いのではないでしょうか。
差が現れた、札幌高裁と東京地裁の同性婚法制化訴訟
札幌高裁の判決には、良い意味で驚きました!
婚姻を定めた憲法24条に違反
2024年3月14日のニュースを、心待ちにしていた同性カップルやLGBTQ当事者はたくさんいたと思います。
この日、札幌高裁は日本で同性婚が法的に認められていないことについて、婚姻について定めた憲法24条に違反すると判決を出しました。
一審の札幌地裁では、法の下の平等を定めた14条には違反するとしたものの、24条には違反していないとしていました。札幌高裁は、画期的だと言われていた札幌地裁の判決よりもさらに踏み込んだ判決を下したと言えます。
この判決を出した裁判官には、同性婚法制化を望む人々からは称賛の声が上がるでしょう。
一方、”伝統的な家族観” を重視する人は、苦々しい思いでこの判決を受け止めたことが想像されます。今回の裁判官は、本当に思い切った発信をしてくれたと心から尊敬します。
東京地裁は、微妙な判決・・・
一方、札幌高裁と同日に下された東京地裁の判決では、同性カップルの現状を「違憲状態」としました。
個人的には、はっきり言って煮え切らない判断です・・・・・・。
「違憲状態」という聞き慣れない言葉に対して、ある弁護士のかたは、「違憲」とするとあまりにも影響が大きいためにひねり出した「司法がおもんぱかって出した温情判決」だと一刀両断しています。
なぜ東京地裁は「違憲」と言い切らずに「違憲状態」と保留のような形をとったのか?
そのヒントとなるものが「同性カップルに異性カップルと同等の権利を認めることが、社会的にまだ承認を得られているとは言えない」とする東京地裁の結論にある、と私は考えています。
同性パートナーシップ制度の広がり
同性パートナーシップ制度の急速な広がりは、東京地裁の判決と矛盾しているように感じます。
同性パートナーシップ制度の地域格差は、解消されつつある?
東京地裁の判決を聞いて「いやいや、同性パートナーシップ制度は加速度的に各自治体に導入されてるし、社会的に承認されてるだろ!」と私は思いました。
そこで、同性パートナーシップ制度の導入状況をまとめているウェブサイト「みんなのパートナーシップ制度」や各自治体のウェブサイトで、同性パートナーシップ制度の状況を改めて確認してみました。
同サイトによれば、同性パートナーシップ制度の全国人口普及率は7割近くまで届いています。2022年11月に、人口最多の東京都で導入された影響が大きいのでしょう。
ただ、実際には2024年4月現在での人口カバー率はもっと高いと思われます。
たとえば、最近まで人口カバー率0%だった山形県と島根県。しかし、島根県では2023年10月から「島根県パートナーシップ宣誓制度」を、山形県でも2024年4月から「山形県パートナーシップ宣誓制度」を、それぞれ導入しました。
それ以外にも、人口カバー率が県全体で見ると低かった福井県、山梨県、岐阜県、鳥取県でも、昨年2023年秋から2024年春にかけて、県全体に適用される同性パートナーシップ制度を導入しています。
自民党の強い支持基盤となっている保守層が多数派の地域では、なかなか導入が進んでいないだろうと思い込んでいました。しかし、たったここ半年間でもこれだけの県で同性パートナーシップ制度が導入されたと知り、驚きを隠せません。
唯一人口カバー率0%となった宮城県
一方、これだけ導入している自治体が広まっているからこそ目立つのが、人口カバー率0%の宮城県です。
現在、仙台市で同性パートナーシップ制度導入の検討を進めているとのことですが、県内で導入している市町村はまだ1つもありません。
東京地裁で第1回口頭弁論期日のあった2019年4月から判決が出るまでの間に、同性パートナーシップ制度の普及率は急上昇しました。
2019年の時点であれば「同性カップルに異性カップルと同等の権利を認めることが、社会的にまだ承認を得られているとは言えない」という東京地裁の言い分は通用したかもしれません。
ですが、2024年4月現在では、もうその論理も成り立たなくなっているのでは? と感じます。
東京都のパートナーシップ宣誓制度導入から約1年半
私の「足元」である、東京都の状況を見てみましょう。
首都でもあり、人口最多でもある東京都の動きは、日本国内への影響力の大きさもさることながら、世界的にも注目されているはずです。
東京都の発表によると、2022年11月からパートナーシップ宣誓制度の運用が開始されて以降、2024年2月末時点で1,111組が制度を利用しています。
2022年の東京都の婚姻件数が75,179組とのことなので、単純に比較はできませんが、法的に結婚した異性カップルと東京都に届け出た同性カップルの数の比率は、およそ100:1程度かなと思います。
同性カップルがマイノリティであることには変わりありませんが、決して少なくない割合だなと私は感じました。
近年、全国的なニュースとして度々取り上げられるようになった、同性婚というトピック。しかし、まだ国会で本格的な議論がなされているようには思えません。
日本での同性婚法制化に向けて全国で活動を行っている団体「Marriage for All Japan(マリフォー)」の裁判がすべて最高裁まで進めば、国会議員は重い腰を上げるのでしょうか? それとも、国会議員の世代交代が進んだり、自民党が下野したりしない限り、議論のテーブルにすら上がらないのでしょうか?
いずれにしろ「同性婚法制化実現というゴールは、もうすぐそこに見えている!」とはまだ言えないでしょう。札幌高裁の判決内容に、国会議員は少しでも関心を向けてほしいものです。
■参考情報
・タイ下院、同性婚認める法案を可決 年内にも法制化の見込み(BBC NEWS JAPAN)
・同性婚めぐる現行法の規定、札幌高裁が「違憲」と判断 東京地裁は「違憲状態」(BBC NEWS JAPAN)
・性的指向に関する世界地図(NIJI BRIDGE)
・ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定 コミュニティーの不安募る(BBC NEWS JAPAN)
・インド最高裁、同性婚の合法化認めず LGBT差別は禁止(Forbes Japan)
・「違憲」と「違憲状態」・・・どう違うの?(弁護士法人 古庄総合法律事務所)
・みんなのパートナーシップ制度
・東京都パートナーシップ宣誓制度(東京都)
・令和4年 東京都人口動態統計年報(確定数)のあらまし(東京都)