NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 ホラーゲーム「Dead by Daylight(DbD)」。LGBTQ当事者は身近にたくさんいる

Writer/Jitian

ホラーゲーム「Dead by Daylight(DbD)」。LGBTQ当事者は身近にたくさんいる

2021年6月9日の記事「LGBTQプライド月間マーケティングは ”便乗” か?」で、私が現在はまっている「Dead by Daylight(以下、DbD)」というホラーゲームにて、プライド月間に合わせたゲーム内アイテムの配布について触れました。さらにその後、DbDではアイテム配布にとどまらず、プライド月間に合わせたイベントを数多く行っていることを知りました。今回は、DbDでのLGBTQエンパワーメントの取り組みから、「LGBTQ当事者はどこにでもいる」ということについて改めて考えたいと思います。

アイテム配布だけではなかった、DbDの本気度を感じる取り組み

こんなにLGBTQを盛り上げるために取り組んでいるホラーゲームは、そうそうないのではないでしょうか。

プライド月間に乗じて儲けよう、というだけではなさそう

DbDが取り組んだ2021年のプライド月間での取り組みについて、私が同年6月上旬の時点で知っていたのは、ゲーム内で使用できるプライドフラッグのアイテムの無料配布だけでした(これは2021年6月いっぱいだけではなく、コードを入力すればいつでも無料でゲットできるとのこと)。しかし、DbDのLGBTQに対する取り組みは、これだけではありませんでした。

DbD公式ウェブページ内にて作成されているプライド月間のページの冒頭には、開発スタッフ、ゲームプレイヤーのLGBTQ当事者およびアライのためにプライド月間を盛り上げると書かれています。

個人的に、日本でLGBTQフレンドリーを掲げる会社は、社員か顧客かのどちらかにしか向いていない印象なので、社内外に目を向けているというメッセージを掲げてある時点で好印象でした。

ホラーゲームでLGBTQコンサルティング

アイテム配布以外の具体的な取り組みの一つとして、ビデオゲーム内のLGBTQカルチャーのコンサルティングなどを行う団体 “GaymerX” と組んで、改めてゲーム内のLGBTQコンサルティングを受けると発表しています。

実は、これはかなり先進的な取り組みではないかと思っています。ゲームだけではなく、あらゆるエンタメコンテンツにて、LGBTQのキャラクターは、これまで連続殺人犯など変人、もしくは社会不適合者扱いされる描写がかつては多かったです(近年でも、例えば日本では、病に侵されて同性愛者になるという映画が制作されて大炎上しましたが・・・・・・)。

殊に、ホラーというジャンルにおいては、LGBTQを含むマイノリティを揶揄する表現が無意識で現れる可能性がないとは言い切れません。

DbDは、殺人鬼がサバイバーを追いかけ回して処刑するというゲームなので、例えば殺人鬼にLGBTQのキャラクターが多いという現象が起きても、一昔前、二昔前ならなんらおかしくなかったでしょう。

LGBTQ当事者団体から監修を受けるという取り組みは、口だけではなく具体的な行動に移していると言えます。

LGBTQのキャラクターでDbDをプレイするのも夢じゃない?

現時点では、DbDにLGBTQやクィアだと明記されているキャラクターは、殺人鬼にもサバイバーにもいません(ホラーゲームにおいてセクシュアリティは、基本的に関係ないのでいちいち明記していないとも取れますが)。

しかし、DbD開発チームがLGBTQに関して知識を深めることによって、今後クィアなキャラクターが追加されるかもしれないと思うと、LGBTQ当事者のプレイヤーの一人としてはワクワクが止まりません。恐らく、課金してでもキャラクターをゲットして、レインボーフラッグのアイテムを着けてゲームをプレイすることでしょう(笑)。

このほかにも、スマホアプリ版(日本未配信)のゲーム内ポイント2倍など、どちらかというと全プレイヤー向けでLGBTQには関係のなさそうなキャンペーンもありました。しかし、それを考えても全体的に見れば、LGBTQを主題にしたゲームではないのにもかかわらず、LGBTQにかなり寄り添っていると言って過言ではないと思います。

あくまで、DbDはメジャーなホラーゲームの一つであり、LGBTQ団体やLGBTフレンドリー企業が制作したゲームでもなければ、LGBTQをテーマにしているわけでもないのですから。

LGBTQに関連する長時間配信と高額寄付

特に一番驚いたのは、2021年6月19日(日本時間)にYouTubeで行われた配信でした。DbDのLGBTQに対する取り組みはとどまりません。

4時間越え

2021年6月19日(日本時間)には、YouTubeのDbD公式チャンネルにて #IntoTheRainbow と題してLGBTQを主題にした動画配信も行われました。

この配信が、4時間も行われたことにまず驚きました。その数週間前に行われたゲーム5周年記念の全プレイヤー向け動画配信(1時間ほど)よりも、よっぽど長かったのです。ほかにDbD公式チャンネルで行われている4時間レベルの長時間配信としては、トップオブトップのプレイヤーが集う公式大会くらいしかないことを考えれば、企業としてLGBTQを本気で盛り上げようとしている姿勢が伝わってきます。

動画の内容は、DbDからも公式に認められているLGBTQ当事者でもある個人のゲーム実況者たちのプレイ動画の切り抜きやメッセージでした。

実況者のセクシュアリティは、ゲーム実況という見栄え重視のプラットフォームであるからか、ド派手なドラァグクイーンがやや多かったものの、ノンバイナリーなどLGBT以外の人も少なくなく、多様な顔ぶれでした。

相当なLGBTQ知識レベルをうかがわせる配信内容

プライドフラッグも、見慣れているレインボーだけではなく、トランスジェンダーやパンセクシュアル、アセクシュアル、デミセクシュアルなど、日本では当事者団体以外ではほとんど見かけないニッチなフラッグも、用語を含めて特に説明もなく、当たり前のように流れました。

日本ではまだ「LGBT」以外のセクシュアリティの浸透率は非常に低いです。各セクシュアリティについていちいち説明しようとすると啓発的でエンタメとしてはつまらないものになりがちです。

しかしながら、セクシュアリティやフラッグをあえて説明しないで当たり前のように使う姿勢にも、また驚きました(もしかしたらゲーム企業のあるカナダでは、LGBT以外のセクシュアリティの認知度も高いのかもしれませんが)。

いずれにしても、携わっているスタッフが相当な知識レベルのLGBTQ当事者やアライでなければ、この配信は成立しなかったと思います。

高額な寄付

さらに、動画配信中には寄付を受け付けていました。最終的には日本円にして100万円を超える金額が集まりました。集まったお金は、LGBTQの若者支援を行う ”The Trevor Project” という団体に寄付されるとのことです。

日本に比べて、欧米の方が寄付の文化が根付いていると言われています。しかし、LGBTQ当事者団体主催でもないのに、4時間のゲーム配信でこれだけの金額が集まるのかと、また驚きました。日本のゲーム配信やゲーム会社の配信ではおよそ考えられないことばかりでした。

多種多様なDbDプレイヤーたち

考えてみれば当たり前のことですが、LGBTQ当事者だってゲームをする人はするし、しない人はしないのですよね。

今回だけ取り上げられたわけではない、DbDのクィアなプレイヤーたち

今回のプライド月間を祝うDbDのゲーム配信において特筆すべきは、登場した実況者たちは必ずしも ”今回だけ特別に” 取り上げられたわけではないということです。2021年に出演した実況者の中には、2021年5月に行われたゲーム5周年記念配信にも出ている方もいるのです。

5周年記念の動画に出演した実況者たちは、世界中に数多いる実況者の中でも特に有名で、無論ゲームスキルもトップレベルの実況者たちばかり、いわば精鋭です。

世界中のプレイヤーが最新情報を待ち望んで観ていた配信の中に、クィアな人が登場しているということは、全人口に対するLGBTQ当事者の割合を考えれば、当たり前のようでもあります。

ですが、やはりなかなか当たり前ではないとも思います。少なくとも、LGBTQの人たちが笑い者としてや特別枠としてではなく、トッププレイヤーかつ有名なゲーム実況者の一人として、LGBTQ当事者がマジョリティと肩を並べて出演するということは、まだ日本ではあまり考えられないことではないでしょうか。

いずれにしても、うれしく思う私です。

英語話者だけなのは偶然か、必然か?

ただし、5周年記念の配信では日本人を含む英語を母語としない実況者も登場した一方で、今回のプライド配信では英語話者しか登場しませんでした。私は日本語字幕がない状態で己の英語力を最大限駆使して動画を視聴したので、内容理解もいまひとつ高くないと思います。

ぜひ、このDbDの素晴らしい取り組みを英語が苦手なプレイヤーにも届けやすくするために、英語話者以外のLGBTQ当事者の実況者も取り上げて欲しかったな・・・・・・。

最初はそう思いました。しかし、立ち返って考えてみると、トップレベルのスキルを持ったクィアなゲーム実況者が、そもそも英語圏以外にはほとんど存在しないも同然なのではないか? と気付いたのです。

改めて調べてみると、日本にもオープンリーなLGBTQ当事者のYouTubeチャンネルは少なからずあります。しかし、発信しているコンテンツはLGBTQ当事者向けのものが主体です。ゲーム実況などのエンタメを主としていて、かつそのゲームの中でトップレベルのスキルがある人は、残念ながら見つかりませんでした。

しかし、トップレベルのスキルを持ったLGBTQ当事者ゲーマーは、英語圏でなくても絶対にどこかにいるはずなのです。クローズドなだけで、実はすでにゲーム実況もしていて、しかも視聴者数も多く人気である可能性も十分にあります。

現に、私はまだまだ初心者レベルですが、毎日コツコツと楽しむ範囲でゲームをしているライトなゲーマーでもあり、LGBTQ当事者でもあり、そしてゲーム配信こそしていませんが、こうして記事を書いている発信者でもあるのです。

いつかセクシュアリティをオープンにしたトップレベルのゲーム実況者が日本からもたくさん出てきたらいいなと思います。

思いがけずDbDのLGBTQに対する熱心な取り組みに触れて、LGBTQ当事者はどこにでもいるということを改めて自覚しました。

LGBTQを遠い世界だと思っている人を啓発するだけではなく、私のような「LGBTQに対する感度が高い」と思っているような人に対しても、LGBTQを盛り上げる取り組みはやはり重要であるということは言うまでもありません。

 

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP