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Writer/Jitian

「同性愛」「BL」も身近になった?

2本の映画『ファンタスティック・ビースト:ダンブルドアの秘密』と、『チェリまほ THE MOVIE:30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』。これらには、公開から約2ヶ月経った2022年6月4日現在もロングラン上映が続いているという以外に、同性愛、いわゆるBLを取り扱っているというもう1つの共通点があります。『チェリまほ』ならいざ知らず、『ファンタスティック・ビースト』も? と思う人もいるかもしれません。今回は、この2つの映画を通して、BLや同性愛がフィクションで描かれる意義を考えます。

映画『ファンタスティック・ビースト』の同性愛:ダンブルドア教授とグリンデルバルド

『ハリー・ポッター』シリーズでも主要なキャラクターの一人であるダンブルドア教授(校長)には、同性愛者の側面がありました。

意外?「魔法ワールド」シリーズに同性愛の要素

以前の記事で、『ハリー・ポッター』シリーズの原作者であり、映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズなど、「魔法ワールド」シリーズの制作に携わっているJ.K.ローリング氏が、実はトランスフォビア(トランスジェンダー差別主義者)なのかについて深堀りしました。

その一方で、今期公開された映画『ファンタスティック・ビースト:ダンブルドアの秘密』では、「魔法ワールド」シリーズファンの間で以前から話題に上がっていた、ダンブルドア教授と、同シリーズで悪役として描かれているグリンデルバルドの同性愛的関係を感じさせるシーンがありました。

LGBTQ当事者でもありBL好きでもある私自身も、このシーンをかなり期待して映画公開当日に観に行ったのを昨日のことのように覚えています。

多様性が尊重される時代だからと、今作から追加された設定ではない

『ファンタスティック・ビースト:ダンブルドアの秘密』で、ダンブルドア教授とグリンデルバルドの親密な関係が描写されたことに対して、「LGBTQがブームだから」「同性愛を取り入れたら話題になるから」この設定を採用したと思われている人がいるかもしれません。

しかし、二人の関係性は今作から採用されたわけではありません。前作である『ファンタスティック・ビースト:黒い魔法使いの誕生』の時点から、二人の関係性を確認できます。

望んだものが映る「みぞの鏡」。ダンブルドア教授が鏡を見つめると、そこにはある男性が映っていました。この人物こそが、若き頃のダンブルドアと愛を誓い合ったグリンデルバルドです。

物語ではその後、二人が若い頃に “特別な” 関係にあったことが示唆されます。ただ、今作のように踏み込んだ描写ではなく、親友とも捉えられるような描写に留まっていました。

当時、すでに原作者であるローリング氏が、二人は同性カップルであるなどと言及していたとされています。しかしながら、前作での二人の描かれ方に対して、一部のファンからは、二人の関係が同性カップルであったときちんと描写すべきだという意見もあったといいます。それが今作で実現したかたちです。

なお、「みぞの鏡」自体は、『ファンタスティック・ビースト:ダンブルドアの秘密』が公開されるずっと前である2001年の映画『ハリー・ポッターと賢者の石』の時点でも登場します。

そのシーンでもダンブルドア校長が登場しているのですが、その際にはダンブルドア校長の視点で鏡に何が映ったのかまでは明確に描かれていません。もしかしたらそのときも、鏡に映っていたのはグリンデルバルドだったかもしれないなと、いちファンとしては考えています。

”人格者” ダンブルドア校長が同性愛者だという設定がもたらす影響力

個人的に注目ポイントだと思うことは、あらゆる人から人望を集める人格者であるダンブルドア校長に同性愛者の側面があるということです。

現在でも、LGBTQ当事者を「異常者」だと信じてやまない人もいます。そのため、かつては、LGBTQ当事者が殺人鬼などの異常なキャラクターとして用いられることも少なくありませんでした。

一方、ダンブルドア校長は『ハリー・ポッター』シリーズだけでなく、『ファンタスティック・ビースト』シリーズでも一貫して「最も信用できる大人」として描かれています。

そんなダンブルドア校長が、一方で同性愛者でもあるという設定は、LGBTQ当事者への偏見によい影響を与えてくれることに間違いありません。

映画『チェリまほ』のBL:安達と黒沢

BLという「ファンタジー」映画が、にわかにリアリティを感じる内容に変化したことに驚きました。

もともとはBLの最たるファンタジー「スパダリ」ジャンル

『チェリまほ』はBLマンガ原作の映画です。2020年にドラマ化したことで、一気に世間に知れ渡りました。

『チェリまほ』の大きな特徴は、恋愛経験のないまま30代になった主人公・安達が、触れた人の心を(自分の意思に関係なく)読めるようになったというファンタジー設定です。しかし、個人的には『チェリまほ』が「スパダリ」ジャンルに部類される時点で、一種のファンタジーだと思っています。

「スパダリ」とは「スーパーダーリン」という和製英語の略称。BLマンガジャンルの一つ、またはキャラクターの要素です。大して取り柄のない地味な主人公が、高学歴、高身長、高収入のいわゆる3K要素を持ったようなキャラクターから、なぜか好かれるストーリーパターンのことを指します。少女マンガにもよくあるような話の流れですね。

主人公・安達に恋する黒沢は、高身長、顔が整っている、常に営業成績トップ、料理上手、気遣いができて周りから信頼されている・・・・・・といった要素をすべて兼ね揃えているキャラクターです。こんな完璧なスペックのキャラクターは現実にはそうそういません。だから、「スパダリ」ジャンルは一種のファンタジーなのです。

思いもよらなかったシリアス展開

そんなファンタジー要素たっぷりの『チェリまほ』ですが、映画の後半ではいきなりあらゆるファンタジー要素が排除されて「一般的には結婚適齢期とされる、30代前半の同性カップルが直面する問題」が描かれます。

詳しいことを書くとネタバレになってしまうので、残念ながらこちらで細かく説明することは控えさせていただきます。しかしながら、「スパダリ」というリアリティのない世界を求めてストーリーを追い続けてきたファンにとっては、映画後半のシリアス展開に面喰った人もいるのでは・・・・・・と、いちファンとしては感じました。

ですが、『チェリまほ』のハートフルな世界観を崩さずに、同性カップルにできるだけ寄り添った描き方がされていて、いちLGBTQ当事者としては概ね満足いく展開となっていました。

マリフォーへの寄付

今回、『チェリまほ』が映画化されるにあたって、原作者の豊田悠先生が原作使用料の一部を、同性婚法制化に向けて活動している団体「Marriage for All Japan」(マリフォー)に寄付したと発表しました。

かねてから、現実の同性愛者とはまったく別のファンタジーな世界としてBLが描かれているとか、BL作者やBLファンがゲイや同性愛者のアライであるとは限らないといった認識が強かったと思います。

私自身はLGBTQ当事者でもありBL好きでもありますが、「ただの」BL好きな人が、果たして実生活でも同性愛者やLGBTQ当事者の人権問題を自分事として感じているだろうか? と聞かれたら、正直に言って懐疑的に感じていました。

BLマンガ原作者の行動から、「ただの」BL好きな人が同性愛者のアライになってくれたり、マリフォーの活動に注目してくれたりしたら嬉しいなと思います。

フィクションでLGBTQを取り上げる意義

身近にいるLGBTQ当事者から話を聞けるとは限らない分、フィクションが一役買ってくれていると感じています。

LGBTQ当事者の問題を身近に感じられる

LGBTQ当事者は、だれの身近にも必ず存在していると言っていいでしょう。もし「自分の周りにはいないけど」「会ったことないけど」と言う人がいたら、それは単に身近にいるLGBTQ当事者がセクシュアリティを打ち明けられないだけのことです。

身近にLGBTQ当事者がいると気付いてもらうには、LGBTQ当事者が実際に声を上げて存在に気付いてもらうことが重要です。しかし、声を上げるのはとても勇気の要ることです。バッシングに遭って、最悪の場合、家族と絶縁状態になったり、(あってはならないことですが)退職に追い込まれたりする可能性もあるからです。

そういったなかで、好きなコンテンツの中にLGBTQ当事者が出て来て、それとなく当事者の生活を描写することは、「LGBTQ当事者を身近に感じる」ことにつながります。

アライでないシスジェンダー・ヘテロセクシュアルの人たちにとっても、「LGBTQ当事者のドキュメンタリーを見て現実を知りなさい」と急に言われてもハードルが高いと感じるかもしれませんが、元々好きな映画や本に登場するのであれば、抵抗感が薄まるのではないでしょうか。

『ファンタスティック・ビースト』の重要シーン、中国ではカット

日本ではBLを中心に様々なところでLGBTQが取り上げられるようになっている一方、中国では残念なニュースがありました。前述の映画『ファンタスティック・ビースト:ダンブルドアの秘密』内の同性愛関係をほのめかす一部のシーンが、中国公開版ではカットされたというのです。理由は「現地から要求されたから」とのこと。

もちろん、中国にも『ファンタスティック・ビースト』シリーズのファンはたくさんいるはず。頑なに制作陣の作ったそのままの作品公開を優先しようとした結果、公開すらかなわないことは避けるべきです。

しかし、ダンブルドア教授とグリンデルバルドの関係性が、今作においてとても重要なのにもかかわらずカットされてしまったことは、『ファンタスティック・ビースト』シリーズのいちファンとしても、LGBTQ当事者としても、とても残念に思います。

きっと、私と同じようにLGBTQ当事者であり『ファンタスティック・ビースト』ファンでもある中国人の方もいるはず。そういった方は、このシーンをきっと心待ちにしていたと思います。

いつか、中国や、LGBTQへの差別が激しい国や地域でも、気兼ねなく『ファンタスティック・ビースト』の重要なシーンを見られる日が来ることを祈るばかりです。

今後も、実際に起きているLGBTQ当事者の問題だけでなく、LGBTQ当事者をエンパワーメントしてくれるフィクション作品にも引き続き注目していきましょう。

■参考URL

映画「ファンタスティック・ビースト」、中国で同性愛のせりふを削除(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/61102854

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