他者の配偶者や恋人を何と呼んでいますか? 無意識に、「旦那さん/奥さん」や「彼氏/彼女」など、性別を判断して呼んでいませんか?
LGBTの中には、パートナーが同性の人や性別の枠がないXジェンダーと呼ばれる人もいます。パートナーの性別を決めつける呼び方は、知らず知らずのうちに、相手を傷つけているかもしれません。
異性カップルでも問題になる他者のパートナーの呼び方
2021年3月5日のハフポスト日本版(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6037932cc5b67259f8940da5)に掲載されていた、「異性カップル間の、夫の呼称に関するアンケート」の回答結果に対するコラムが、大変興味深かったので紹介します。
コラムでは、相手のパートナーの呼び方と、会話中の呼び方に関する悩みが挙げられていました。
他者の夫に対する呼び方は「旦那さん」「旦那さま」が最多
ハフポストがおこなったアンケートによると、会話中に他者の夫について話す際には、「旦那さん」「旦那さま」と呼んでいる人が過半数を超えていました。
確かに、普段の会話でも、女性の配偶者に対しては、「旦那さん」が一般的に使われている印象です。「旦那さん」よりもかしこまった言い方をするときは、「ご主人」などを使う人が多いと思います。
ハフポストのアンケートでは、男性の配偶者について言及するときの呼び方については、含まれていませんでしたが、「奥さん」や「奥さま」が一般的です。LGBT当事者の私でも、普段の会話で相手方の配偶者を、「旦那さん」や「奥さん」と呼んでいます。違和感なく使用してきましたが、改めて考えると、知らないうちに相手を傷つけていたかもしれません。
呼び方に違和感を覚える人もいる
ハフポストによると、他者の夫について話す際に、呼び方に困ったと答える人も少なくなかったとのことです。呼び方に困って、違和感を覚えながらも、「旦那さん」や「旦那さま」を使っているケースもあると考えられます。
また、他者の夫や妻を「パートナー」と呼ぶと、聞き慣れていない人は、違和感を覚えるケースもあります。日本では、まだ「パートナー」という言葉が一般的ではなく、「配偶者・恋人=パートナー」と、意味が繋がらない人もいるのではないでしょうか。
また、「パートナー=LGBTカップル」と認識している人も、少なからず存在すると考えられます。異性カップルに「パートナー」を使うのには、違和感を覚える人がいる点にも注意が必要です。
時代に見合う呼び方を求める声も
近年は、LGBTの認知度が上がっており、「旦那さん」や「奥さん」など、性別によって使い分ける呼び方を、避けたいと考える人もいます。現在は多くの場合、「パートナー」や「お連れ合い」などの言葉で代替されますが、前述したように、実際に使用すると意味が通じないこともあり、非常に厄介な問題です。
そのため、「旦那さん」や「奥さん」などの呼び方を改め、時代に合った新しい呼び名を作るほうがよいとの意見も聞かれます。なるほど、「パートナー」など、これまで使用されてきた言葉を使うよりも、新しく代替できる呼び名を作るほうが、浸透しやすいかもしれません。
02LGBT当事者のパートナーの呼び方に関する問題点
では、LGBT当事者にとって、パートナーの呼び方で問題となるポイントには、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、LGBT当事者の目線からパートナーの呼び方の問題点について考えます。
LGBT間では相手のパートナーをどう呼んでいるか?
そもそも、LGBT当事者間では、相手のパートナーをどのように呼んでいるか?
LGBT当事者間では、自己紹介として、自身のセクシュアリティを話すことが一般的。特にL・G・B等、相手のパートナーの性別がわかっている場合は、相手のセクシュアリティに合わせて、「彼女」「彼氏」と呼ぶことが多いでしょう。
私はバイセクシュアルなので、同性の恋人は「彼女」と呼んでいましたし、周囲からも「彼女」と呼称されていました。このように、同性愛者間では、「彼女」「彼氏」を違和感なく使用しているケースが多いのではないでしょうか。
トランスジェンダーやXジェンダーは呼び方に困ることも
同じLGBTでも、性別にとらわれないXジェンダーなどの場合、本人に対して男女を示す呼び方ができないため、相手のパートナーについても同様に「パートナー」など、性別を含まない呼び方しか使えません。
トランスジェンダー場合は、見た目の性と性自認が一致しないケースもあります。現在の日本では、性別で呼び方が変わるため、見た目の性で一方的に判断され、不本意な呼び方をされる可能性があります。
見た目だけで自身が「旦那さん」「奥さん」と呼ばれることに、嫌悪感を抱いたり、傷ついたりする人もいるでしょう。
呼び方で悲しむ人がいる以上、性別によって呼び名を変える文化を、変えるべきではないでしょうか。
LGBTは自分のパートナーを示す呼び名も使いにくい
LGBT当事者として、私にはもう1 点困っていることがあります。それは、公の場で使うパートナーの呼び方です。
「パートナー」と呼ぶと、LGBTなのではないか? と思われる恐怖心が生まれ、なかなか使えません。私の場合は、人前では「恋人」「同居人」などと、場面によって使い分けています。
しかしながら、パートナーシップ制度を利用している場合などは、「恋人」でもないし「配偶者」ともいえないため、呼び方に困るかもしれません。相手のパートナーの呼び名だけでなく、自身のパートナーを指す言葉も、必要であると感じています。
LGBTでも使えるようにパートナーの新しい呼び名を作るべきか
他者のパートナーの呼び名として、LGBTでも使えるような新しい呼び方を作るほうがよいのでしょうか? それとも、「パートナー」など現在使われている言葉を浸透させるほうがよいのでしょうか?
ここでは、他者のパートナーの呼び方として、新しい呼称が生まれる可能性について、考えます。
相手のパートナーを知っているなら今までの呼び方でもよいのでは?
相手のパートナーの性別が明確であれば、「旦那さん」や「奥さん」を使用してもよいのではないかと考えます。問題は呼び方ではなく、相手や相手のパートナーが不快に感じることのない呼称で、会話をスムーズに進めることが大切だと感じるからです。
また、男性なら「旦那さん」、女性なら「奥さん」を使用しなくてはいけない決まりはないため、会話の相手が了承すれば、呼び方は自由でもあります。もちろん、性別を連想させる呼び方で呼ばれたくない、と考える人もいるので、知らない相手に「旦那さん」「奥さん」などの呼び方を使うことにリスクがある点も理解しましょう。
「パートナー」ではだめなのか?
新しい呼び方を作らなくても、「パートナー」や「お連れ合い」など、現在使用されている呼び名を使えばよいという意見もあるかもしれません。
しかし、「パートナー」と聞くと、結婚していない連れ合いを指していると、勘違いしているケースもあります。「ビジネスパートナー」など、恋愛関係にない場合にも使用される言葉であるため、浸透しにくいのかもしれません。
また、LGBTのカップルを示す言葉を連想するため、当事者にとって、使いにくく感じることがデメリットです。「パートナー」を一般的な呼称にするのは、まだまだ時間がかかりそうだと言わざるをえません。
新しい呼び方が広まる可能性について
「パートナー」ではなく、他の新しい呼び方が広まる可能性もあります。
現在、日本では夫婦同姓が当たり前だった文化に変化が起き、選択的夫婦別姓制度の導入が検討されています。家族の形に多様性が生まれた結果、これまで男女だけで考えられてきた法律も変わろうとしています。それに伴い、「パートナー」など、既存の言葉ではなく、まったく別の新しいパートナーの呼び方が、生まれる可能性もあるのではないでしょうか。
相手がLBGTでも傷つけないパートナーの呼び方は?
日本人の約10%を占めると考えられているLGBT人口。
会話中に、悪意なく「旦那さん」や、「奥さん」などの呼び方をしてしまうかもしれません。しかし、何気ない言葉が、相手を傷つけることを理解しておく必要があります。
ここでは、日常的に耳にする「お客様」「患者様」のパートナーに対する呼び方について説明します。
病院やお店での呼び方
お店や病院など、人と接する職業では、相手方のパートナーを、どのように呼ぶか迷うと思います。「旦那さま」「奥さま」と呼んでしまいがちですが、パートナーが異性とは限らないため、呼び方に気を付けなくてはいけません。
接客業や医療の場で、相手のパートナーについて言及するときは、「ご家族さま」「お連れさま」など、性別を連想させない呼び方を心がけるとよいでしょう。
LGBTかわからないときは「パートナー」が無難
相手のセクシュアリティがわからないときは、「パートナー」を使うのが無難です。
「夫」「妻」など、漢字は成り立ちや意味を持つ言葉であるため、性別を表す漢字が使われている呼び方は、LGBT当事者にとって苦痛に感じることもあります。LGBTへの配慮も考え、個々に意味を持たないカタカナである「パートナー」を使用することが、現段階で、最もニュートラルな表現といってよいでしょう。
「パートナー」との呼び方が定着すれば、LGBTが暮らしやすくなるだけでなく、恋人や配偶者の呼び方に迷うこともなくなります。
また、他者のパートナーについて言及するときの呼び方に、違和感を覚える人が増えれば、ジェンダーを感じさせない、新しい呼び方が生まれるかもしれません。パートナーの呼称も、時代に合わせて変えていくべきでしょう。