INTERVIEW
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「レズビアンの自分」を受け入れ、周りに打ち明けたら、心の壁が消えた。【前編】

インタビュー中の荒木千慧さんの印象は、さっぱりとした快活な人。話している最中は笑いが絶えず、常にニコニコ笑顔で、底抜けの明るさを感じさせてくれた。しかし、過去を紐解いていくと、今の笑顔を浮かべられるようになったのは、数年前からなのだと知った。自分自身を押し殺していた子どもの頃、荒木さんが胸に抱いていたものとは――。

2021/02/27/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
荒木 千慧 / Chie Araki

1993年、宮城県生まれ。小学生の頃から、男の子に恋心を抱きつつ、女の子にも興味を覚えていた。工業高校、ダンスの専門学校を卒業後、地元で就職し、22歳の時に自身がレズビアンであることを受け入れる。2019年4月に上京し、さまざまな職業を経て、現在はフリーランスでコーチング、オイルマッサージ、イベント企画などを行っている。

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INDEX
01 個性豊かで大好きな家族
02 変わりたいのに変われない自分
03 好きなものと華奢な精神力
04 自分の将来を考えるタイミング
05 恋愛対象は “多分” 男の子
==================(後編)========================
06 「自分はレズビアン」と受け入れること
07 カミングアウトが取り除いた心の壁
08 こだわらなくていい性別
09 今の自分が東京でできること
10 悩みに悩んだ先にあるヒント

01個性豊かで大好きな家族

地元愛あふれるのどかな街

宮城県白石市で生まれ育った。
仙台から車で1時間ほどの、山と田んぼが広がる街。

「自然があふれているので、過ごしやすいところです」

「住んでいる人ものんびりしてて、街を出たがらない人が多い気がします。みんな地元愛が強いから、同世代の子も結構残ってますね」

家族は、今も白石市で暮らしている。

祖父母、両親、自分と弟の6人家族。

「昔から、じいちゃんがすごく厳しくて、怖いんです。箸の持ち方とか門限とか、とにかく怒鳴るんですよ」

「そのおかげで、今は箸をキレイに持てるので、感謝してます(笑)」

「ばあちゃんは控えめでやさしくて、好きですね」

正反対な両親

母は祖父に似て、やや頭の固い人。

「小学生の頃から、『勉強して、就職して、安定した給料をもらいなさい』って、言われてました」

母が看護師をしていたこともあり、自分もいつか看護師になるのだと思っていた。

「お母さんからは、『あんたはおっちょこちょいだから、看護師は無理』って、言われてましたけどね(笑)」

「厳しかったけど大好きで、お母さんが家にいる時は、金魚のフンみたいについて回ってました」

幼稚園児の頃、忙しい仕事の合間に作ってくれるお弁当が、とてもうれしかったことを覚えている。

「心配性で、子どもが一般的ではない道を選ぼうとすると、すぐ口出ししてくるところは、イヤだと感じる時期もありましたけどね」

「今となってはお母さんの気持ちがわかるし、うれしいな、って思います」

一方、父は少年のような自由人。

「お父さんはやりたいことを自由にやってきた人で、アニメとお菓子が大好きなんです(笑)」

「車もすごく好きで、仲間とチームを組んで、レースに出たりしてるんですよ」

幼い頃は、一緒に公園に行き、サッカーやキャッチボールをしてくれた。

「子どもがやることも、笑って見ててくれて、面白い父親です」

「両親が正反対だから、真面目な相談はお母さんにして、趣味の話はお父さんにするみたいに、役割が分かれてますね」

「ブラコンなんです」

弟とは2歳離れていて、産まれた時からずっと仲良し。

父の影響できょうだいともに車やバイク好きになり、2人でツーリングに行くことも。

「小さい頃はよくケンカしたけど、それでも弟が大好きでしたね」

「今も好きすぎて、弟の写真をコラージュして、友だちに見せて回ってます。自分、ブラコンなんです(笑)」

弟と自分の性格は、真逆。

弟は子どもの頃から自信があり、我が道を進んでいく。その姿に憧れる。

「きょうだいじゃなくて、私がストレートだったら、弟に惚れてたんじゃないかな(笑)」

02変わりたいのに変われない自分

うまく出てこない言葉

幼い頃の自分は、消極的で引っ込み思案。

「小学1年生の時に、朝のホームルームで『1分間スピーチ』があったんです」

1日1人、昨日の出来事や今朝の朝食などについて、1分間話すというもの。

「自分は前に立っても何もしゃべれなくて、泣いてしまったんです」

ひと言もしゃべっていなかったが、担任が見かねて「もういいよ」と、言ってくれた。

「言葉が出ない自分に嫌気がさして、悔しくて泣けてくるんですよね」

唯一、スポーツは得意だったため、体育の授業や運動会では輝くことができた。

しかし、それ以外の場では静かに、目立たないようにしてしまう。

「できないことはやらない、挑戦しない子でした」

居場所を作る方法

友だちとコミュニケーションを取ることも、苦手だった。

「人と目を合わせることができなくて、いつも下を向いていた気がします。周りの子も、どう話しかけたらいいか、困ったと思いますね」

近所の友だちとは、毎朝一緒に登校していた。

「何をしゃべったらいいかわからないから、毎朝『今朝は何食べたの?』って、聞いてました(笑)」

「うまく話せなかったのは、人目を気にしていたからなんですよね」

人の目が気になるようになったのは、小さい頃の経験からくるものかもしれない。

弟が産まれてから、母が自分をかまってくれていない気がしてしまったのだ。

「家族は大好きだけど、みんなずっと弟ばかり見てる気がして、家の中に自分の居場所がないように感じてしまったんです」

「だから、外に居場所を作るため、幼いながらに “無難な人” でいようと考えました」

その結果、人の顔色をうかがう子どもになってしまったのだろう。

「自分の発言で怒ったんじゃないかとか、笑ってくれてるかとか、気にしましたね」

憧れのアイドル

小学校中学年で、モーニング娘。に熱中する。
興味を引かれたメンバーは、後藤真希。

「クールで尖ったイメージがあって、そこが魅力的に感じて、好きでした」

自分にはない要素を持っていたアイドルが、憧れの存在になった。

同じ理由から、弟にも憧れていたのだ。

「ただ、クラスの中で目立つ子に対して、周りの子が『うざいよね』って、話しているのを聞いちゃったんです」

「積極的で目立つと悪口を言われるんだ、と思ったら、さらに引っ込み思案になっちゃいました(苦笑)」

03好きなものと華奢な精神力

怒られては休む日々

中学校では、女子バスケットボール部に所属。

「顧問の先生がめっちゃ厳しくて、部員全員がよく怒られてたんです」

「当時の自分は打たれ弱かったから、怒られた次の日は休んでました(苦笑)」

それでも、バスケットボールは好き。部活を休んだ日は、地元のスポーツセンターで練習に励んだ。

「どうしても顧問が怖くて、2年生の半ばに退部しようと思ったこともあるんです」

顧問に「退部します」と告げ、友だちが所属していたテニス部に入る。

「顧問には止められました。でも、その時はテニス部でやっていきたいと思ったんです」

「でも、やっぱりバスケが好きで、1週間でバスケ部に戻りました(笑)」

「プライドみたいなものはないから、顧問に『やっぱりバスケやりたいです!』って、言えたんですよね(笑)」

美しかったBL小説

小学校6年生の時に、女の子の間でBL(ボーイズラブ)小説が流行。

その影響を受け、中学生の時に、自作のBL小説を1回だけ書いたことがある。

「唯一の自作小説を、親友に見つかったんですよ」

性的な描写をしていたことに、気づかれてしまう。

「それから『エロ』呼ばわりされました(苦笑)」

男性同士の恋愛に、抵抗感を抱くことはなかった。

友だちに薦められて読んだBL小説は、挿絵が美しく、ファンタジーのように感じたからかもしれない。

ただ、女性同士の恋愛が存在するとは、考えたこともなかった。

04自分の将来を考えるタイミング

転機をくれたダンス

小学生で後藤真希に憧れた自分は、モーニング娘。のバックダンサーになるという夢を抱く。

「後藤真希がめちゃくちゃ好きだったからって理由で、すごく単純ですよね(笑)」

テレビを見て、振りを真似するようになる。

中学生になると、体育でダンスの授業があった。

「その時に、やっぱりダンスが好きだって思って、休み時間にも踊りたくなったんです」

前日に覚えたダンスを、休み時間に披露すると、友だちが褒めてくれた。

「やったこともないダンスを褒めてもらって、すごくうれしくて、めっちゃ天狗でしたね(笑)」

「そこから注目を浴びることの楽しさに気づいて、自分から発言していくようになりました」

小学生の時のように、目立つ子が悪口を言われるような場面もなかった。

だから、目立ってもいいんだ、と思えたのだ。

男だらけの工業高校

「当時は、親に金銭的な迷惑をかけたくない、と思っていたから、工業高校に進んで、すぐ就職するつもりでした」

進学した工業高校は、ひと学年240人中、女子は17人だけ。

「実は、体ががっしりして男らしくなった男の子たちは、ちょっと怖かったんです」

「だから、入学して間もなくは誰とも話さず、休み時間もずっと席に座ってじっとしてました」

ある日、別のクラスのムードメーカー的な男の子が、「名前なんていうの?」と、声をかけてくれる。

「その子が仲良くしてくれたおかげで、ようやく馴染めるようになりました」

「その男の子は明るい人気者で、3年間ずっと好きでしたね。・・・・・・連絡先も知らなかったけど(笑)」

ダンスという夢

高校卒業後はすぐに就職するつもりだったが、将来を真剣に考え、ダンスの専門学校への進学を選ぶ。

母はあまりいい顔をしなかったが、なんとか説得した。

「それまではYouTubeとかを見て、独学で練習してました。専門学校に入って、ようやく本格的にダンスを始めた感じです」

さまざまなジャンルを教わる中で、1つのダンスと巡り会う。

「ブレイクダンスを教わった時に、ピンときたんですよね。力にも自信があったし」

「先生からも『ブレイクダンスいけるんじゃない?』って言われて、のめり込んでいきました」

その後、プロになる夢は叶わなかったが、卒業後は地元でダンスのインストラクターとして働いた。

05恋愛対象は “多分” 男の子

男の子とのおつき合い

「幼い頃から、男の子が好きでした」

小学生の頃に好きだった子は、スポーツが得意で成績も良く、みんなにモテるタイプ。

「6年間くらい好きで、一度だけバレンタインにチョコを渡したことがあります」

中学生になり、初めて男の子と交際する。

「いろんな子に告白してる男の子がいて、自分も告白されたんですよ」

「周りにカップルもいたし、おつき合いって何かわからなかったから、その子とつき合ってみようかなって」

初めての交際が始まり、一緒に登下校する日々が始まる。

「一緒にいて、楽しかったですよ。ただ、今思えば、友だちよりちょっと仲いいくらいの関係でした」

彼との関係は、4カ月ほどで終わってしまったが、違和感を抱くことはなかった。

高校でも、同級生の男の子に告白されたため、つき合うことに。

性的な興味の対象

男の子を好きになり、おつき合いする一方で、女の子にも興味があった。

「気になり始めたのは、小学校高学年かな。かわいい子を、よく見てたんですよね」

「特定の誰かが好きというよりは、女の子という存在が気になる感じでした」

体育の授業中、走る女の子の揺れる胸を、つい目で追ってしまう。

「廊下を歩いていたら、女友だちがおんぶみたいに背中に抱きついてきたんです」

「その時に、『おっ、柔らかい』って、ドキッとしたこともありました(笑)」

男の子に対して抱く感情とは、何かが違う気がした。

「女の子に対して恋愛感情を抱くとは思っていなかったので、 “目の保養” みたいに思ってました」

「女の子とつき合いたい、と思うこともなかったんです。そこまで好きになる子もいなかったし」

「男の子は普通に好きだけど、女の子は性的に好き、みたいに捉えていたんだと思います」

中高生になっても女の子が気になったが、誰かを好きになることはなかった。

「それに、女の子が気になる、ってことは、誰にも話しませんでした。周りの子と違う感覚だと思ったから」

「社会人になるまで、自分は男の子が好きなんだ、って思ってましたね」

 

<<<後編 2021/03/03/Wed>>>

INDEX

06 「自分はレズビアン」と受け入れること
07 カミングアウトが取り除いた心の壁
08 こだわらなくていい性別
09 今の自分が東京でできること
10 悩みに悩んだ先にあるヒント

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