NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 東京都パートナーシップ制度、2022年11月から運用開始へ【後編】

Writer/Jitian

東京都パートナーシップ制度、2022年11月から運用開始へ【後編】

2022年11月からの制度運用開始に向けて、2022年5月10日に東京都の同性パートナーシップ制度である「東京都パートナーシップ宣誓制度」の素案などが公表されました。前回の記事では、素案の内容にフォーカスしました。今回は、同日に公開されたパブリックコメントから、東京都パートナーシップ制度や、実現が期待されている同性婚のニーズ、同性愛者をはじめとするLGBTQ当事者向けの施策に対する疑問や反対意見を深堀りします。

東京都パートナーシップ制度の “意義”

多くのLGBTQ当事者が、東京都パートナーシップ制度の導入を期待しています。

そもそも「パブリックコメント」とは?

パブリックコメントとは、市役所などの公的機関が条例のような規則を制定、改廃する際に、事前に募る意見のことです。いわゆる「有識者」のような専門家でなければならないといった条件もなく、一般の人が気軽に送ることができます。

都政のような大きな機関だけでなく、みなさんがお住まいの自治体でも、制定する予定の条例についてパブリックコメントを募っている場合もあります。昨年の2021年11月頃には、東京都武蔵野市の住民投票条例についてのパブリックコメントが話題になりましたよね。

今回の東京都パートナーシップ制度に対するパブリックコメントは、2022年2月に集められたものです。なお、今回の記事で紹介するパブリックコメントの例は、寄せられた意見そのものではなく、東京都によって趣旨を踏まえて集約、要約された内容です。

また、以下のパブリックコメントに対する私の解釈は、あくまでも私自身の捉え方であり、意見を出された方の意図と異なる場合があるかもしれません。

首都・東京に同性パートナーシップを認めてもらえる安心感

前回の記事でも触れた通り、同性パートナーシップ制度は法的拘束力がない自治体の条例にすぎません。それでも、同性カップルが直面している生活上の困りごとや不安をある程度解消してくれることは間違いありません。

たとえば、今回のパブリックコメントに下記のような意見が寄せられていました。

―これまで、性的マイノリティとして隠れるように暮らす等、精神的な安心感が得られにくかったが、本制度によって、自分の存在を社会に認められたような気持ちになれる。また、不安定な関係から新たな関係へ移行したり、家族等にもカミングアウトするきっかけにもなる―

戸籍上異性同士のカップルであれば、結婚し、戸籍がつくられることで家族であると法的に保障されますが、同性カップルはそれがかないません。東京都パートナーシップ制度が導入されたとしても、同性カップルが法的に結婚できないことに変わりありませんが、東京都という権限の大きな自治体がパートナーシップを認めてくれる安心感は大きいことでしょう。

また、家族へのカミングアウトは、あらゆるカミングアウトのなかでも大きなハードルになることが少なくありません。拒絶されたら深く傷付きますし、最悪の場合には絶縁状態になることも考えられるからです。

もちろん、東京都パートナーシップ制度を利用することとカミングアウトは、直接的には関係ありません。しかし、パートナーシップ宣誓をすることで、大きな決断を要する家族へのカミングアウトを後押ししてくれる、きっかけを与えてくれることにもなるのですね。

東京都パートナーシップ制度を、どこまで法的な結婚に近付けられるかが課題

繰り返しになりますが、東京都パートナーシップ制度には法的拘束力はありません。一方で、パブリックコメントには下記のように、法律婚に近しい法的効力を求める声もやはりありました。

―行政や民間を問わず、病院(手術同意、付添、面会等)や不動産(賃貸、購入(ローン))、高額商品の購入、保育園や教育機関において、証明書を活用することで、夫婦又は親族等と同様の扱いとなるようにしてもらいたい。また、証明書により、パートナーの代理人となれるようにしてほしい―

―法律婚や事実婚と同等の法的効果やサービスが受けられるようにしてほしい(医療、住宅、相続、税制、職場における福利厚生、養子縁組や里親制度、外国籍パートナーの在留資格など)―

現在、たとえばライフネット生命では、一定の条件を設けたうえで死亡保険金の受取人に同性パートナーを指定できるなど、一部企業では結婚した異性カップルと同等のサービスを同性カップルに提供する企業もあります。

しかし、これはあくまで「企業努力」。すべての企業が、同性パートナーシップ制度を利用している同性カップルに対して、異性カップルと同等のサービスを保証しなければならないと法的に定められているわけではありません。

また、相続、税制、在留資格といった項目は、国の法律で決められていることであり、残念ながら条例で変えられるものではありません。

しかし、東京都パートナーシップ制度が導入されることにより、結婚した異性カップルにのみ提供されているサービスや、結婚した社員にのみ認められている福利厚生などを、見直す動きが加速することが見込まれます。

法律で決められている項目はすぐに変えられるわけではない分、変えられるところから変わっていくことを期待したいですね。

東京都パートナーシップ制度に対する疑問の声

同性パートナーシップ制度そのものをよく理解していない人も少なくないのだと、あらためて実感しました。

同性カップルの困りごとが理解されていない

先ほど書いたように、同性カップルは生活するうえで様々な困難や生きづらさがあります。ですが、下記のようなパブリックコメントから、それがまだ十分に理解されていないということがあらためて分かりました。

―性的マイノリティの方々に対しての社会の理解は進んでおり、現行法や行政の対応等により当事者の人権は十分に保障されていると感じる。本制度の導入によるメリットが無いし、必要性も感じられない―

―「生活上の不便等」が具体的にどのようなものかがわからないこともあり、性的マイノリティの方々が求めている制度となっているのか疑問である―

まず、同性カップルは「現行法や行政の対応等により十分に保障されている」と言える状況にはありません。繰り返しになりますが、法律婚できる異性カップルにある相続、税制、在留資格といった「特権」はすべて、同性カップルには保障されていません。

東京都パートナーシップ制度が導入されても、これらの項目が同性カップルに保障されるわけではありません。この時点で、同性カップルの人権は守られていないと言えるはずです。一度だけでなく、具体的な困りごとについて何度も声を上げていくことが大事ですね。

また、これらの意見は東京都パートナーシップ制度を導入することに懐疑的ではあっても、実際には東京都パートナーシップ制度を導入すること自体には賛成意見の方が多いのです。

東京都によれば、都が2021年度に実施した調査で、全体の約7割、LGBTQ当事者の約7.5割がパートナーシップ制度を必要な施策と回答しているとのことです。LGBTQ当事者だけでなく、多くの人々が支持してくれている事実が嬉しいですし、心強いですよね。

とはいえ、後に記載する反対意見から分かるように、LGBTQ当事者や同性カップルに対する理解はまだまだ道半ばだと言えます。

理解を広めるうえで「数字」がやはり重要になりますが、制度運用開始後、東京都が制度の利用者数等を定期的に公開するそうです。このリアルな数字によって同性カップルやLGBTQ当事者が可視化され、同性婚法制化につながってほしいと強く思います。

東京都パートナーシップ制度を利用することで、カミングアウトにつながる?

東京都パートナーシップ制度を利用できる対象者が基本的に「性的マイノリティ」に限定されていることに対する指摘も含まれていると、私は解釈しました。

―対象者の要件に「性的マイノリティ」が入っているため、宣誓することは、カミングアウトを強制されているように感じる。また、第三者が他者の性自認や性的指向を決めてしまうことにつながるのではないか―

―本制度の導入により、性的マイノリティの中にも公認(制度利用者)と非公認(非制度利用者)という分断を生む可能性がある―

東京都パートナーシップ制度を利用することと、病院で「性同一性障害」や「性別違和」の診断書をもらうことなどとは、まったく別の話です。病院で「性的マイノリティですね」と診断してもらわないと制度を利用できないわけでもありません(そもそも、性別違和(性同一性障害)の診断はありますが「性的マイノリティ」の診断はありません)。

この制度を利用した人が病院で「性的マイノリティです」と診断が下されたかのような “公認” の性的マイノリティになるわけでもありません。

また、東京都パートナーシップ制度は、すべての同性カップルやLGBTQ当事者のカップルが利用、申請をしないといけないわけではありません。もちろん、都に届け出る際にパートナーシップが公になることもありません。

原則オンラインで手続きするため、自分のあずかり知らないところで、身近な人に制度を利用したことが知られる可能性もないはずです。

とはいえ、少なくとも届け出るカップルの一方は、自身が性的マイノリティであると宣誓することになるため、届け出を処理する職員にはSOGI(性的指向、性自認)が明らかになってしまいます。

また、制度を利用して賃貸借契約を結んだり、医療機関で利用したりする場合、各窓口やその組織内で性的マイノリティであるお客様、もしくは患者の近親者として自分のSOGIが明らかになってしまうことも想定されます。

自分たちのSOGIが他人に知られることに抵抗感のある人にとっては、今回の制度設計に不満を感じるところもあるでしょう。アウティングを防ぐためには、この制度を「性的マイノリティ」とSOGIで限定せず、SOGIに関係なく法的な結婚以外の手段でパートナーシップを宣誓したい人とすれば、制度を利用する人=性的マイノリティということを他者に知らせることにはなりません。今後はそのような広い配慮も含めた内容へと改善されればと期待しています。

東京都パートナーシップ制度の対象を「性的マイノリティ」に限定したことについて、東京都は今後も対応を求められると思います。都には、ぜひ丁寧な説明などをお願いしたいところです。

東京都パートナーシップ制度に対する反対意見

ここからはLGBTQ当事者を否定するような意見も取り上げるため、不快になる方がいらっしゃるかもしれません。ご注意ください。

同性カップルを認めることと少子化は関係ない

東京都パートナーシップ制度に対して、同性婚法制化に関する議論でもよく見られるような反対意見も寄せられていました。

―性の多様性を認めることは、伝統的な家族制度の崩壊につながる―

―本制度は性の多様性を学校教育に持ち込むことになり、偏った価値観の押し付け、過激な性教育の実施につながる。その結果、子供の健全な成長に悪影響を及ぼすおそれがある―

―本制度を導入することで、少子化の加速や日本の衰退につながるおそれがある―

「伝統的な家族」とは、一対の夫婦と子どもがそろう家庭を指すものと思います。一方で、多様な家族のかたちは、日本でもすでに存在しています。同性カップルとその子どもという家庭以外にも、ひとり親家庭、親でなく祖父母に育てられている家庭、親子に血のつながりのない家庭など、その家族それぞれの「かたち」があるはずです。それらの存在を否定し「伝統的な家族」のみをよしとする価値観こそ偏っているのではないでしょうか。

また、東京都パートナーシップ制度が導入されたところで、異性愛者が同性愛者に意図的に変わることはありません。逆に、制度が導入されないために同性愛者が異性愛者に変わることもありません。性的指向が「変わる」ことは有り得ますが、無理矢理に「変える」ことはできないのです。

東京都パートナーシップ制度が導入されても、法的に結婚したい異性カップルは結婚するし、子どもを産み育てたい異性カップルはそのようにします。東京都パートナーシップ制度が導入されたことが直接的な要因となって異性カップルの数や出生率が下がることは、極めて考えにくいです。

東京都パートナーシップ制度が導入されることは、マジョリティへの逆差別?

さらに耳が痛くなるような、こんな意見も・・・・・・。

―性自認の定義が曖昧で、女性専用スペースでの犯罪が増加するなど社会が混乱する懸念があり、性自認を含まない同性間のパートナーシップ又は性的マイノリティに限定しないパートナーシップ制度とすべき―

先ほど書いたように、東京都パートナーシップ制度を利用することは “公認” の性的マイノリティになることではありません。トランスジェンダーが自身のジェンダーアイデンティティによって生活することとも別の話です。

―マイノリティの人権を蹂躙すればバッシングされる社会である。声の大きなマイノリティの声のみに耳を傾けるのでなく、マジョリティの本音にも耳を傾けてほしい。マジョリティへの逆差別につながるおそれもある―

マジョリティ(シスジェンダー・ヘテロセクシュアル)のカップルは法的な結婚ができる時点で、日本社会はマジョリティに十分寄り添っていると言えるのではないでしょうか。

また、異性婚ができる現状にプラスして東京都パートナーシップ制度が利用できるようになることは、結婚した異性カップルの「特権」を脅かすものではありません。「マジョリティの本音」がマイノリティの人権を蹂躙することなのだとしたら、それは差別だと言われても仕方ないのでは・・・・・・。

2回にわたって東京都パートナーシップ制度を取り上げました。賛成、反対意見、様々ありますが、個人的には予定通り2022年11月から制度運用が始まること、そして多くのカップルがこの制度を利用し、同性婚に関する世論が一層盛り上がることを期待しています。

■参考URL
「東京都パートナーシップ宣誓制度(案)」等の公表について(東京都)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/05/10/08.html

 

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP