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Writer/Jitian

東京パラリンピックとLGBTQ

2021年9月5日に、東京パラリンピックが閉幕しました。オリンピックを含めて、開催までの道のりには紆余曲折がありましたが、概ね予定通り進み大事件もなく終わったことに、胸をなでおろしているところです。さて、今回はパラリンピックとLGBTQについて考えたいと思います。

オリンピックより良かった? パラリンピック開会式&閉会式

個人的には、オリンピックよりパラリンピックの開閉会式の方が、テーマが全体的に通っていて好印象でした。

パラリンピック開会式は「パラ・エアポート」

まずはパラリンピックの開閉会式を振り返りたいと思います。

パラリンピック開会式のテーマは「パラ・エアポート」。「飛行機」と言われて一般的にイメージされるようなどれも同じような形をした機体ではなく、様々な形をした飛行機や乗り物が行き交う空港という設定を舞台に、全体を通してショーが繰り広げられました。

東京オリンピックの開会式は火消しに歌舞伎、ジャズピアノ演奏等、一つ一つは確かに非常にクオリティが高かったですが、全体を通したテーマのようなものが感じられず、「日本らしさ」を切り貼りしたような印象が否めませんでした。

一方、東京パラリンピックの開会式は、パフォーマーそのものに障害の有無や生きづらさ、年代などの多様性が感じられたのはもちろんのこと、「空を飛ぶことを夢見る片翼の飛行機」という1つのストーリーが展開されたこともあり好印象でした。

また、LGBTQの観点では、冒頭からトランスジェンダー女性であるタレントのはるな愛さんがアップで放映されたことも記憶に残りました。

特に、主役である片翼の飛行機役を務めた方は、てっきり幼く見えるプロのパフォーマーの方だと思っていたのですが、オーディションを勝ち抜いた弱冠13歳と後に知って、衝撃を受けました。

パラリンピック閉会式のバラバラな衣装がまさに「調和のとれた不協和音」

東京パラリンピック閉会式のテーマは「ハーモニアス・カコフォニー(調和のとれた不協和音)」でした。開会式と比べると一つのストーリーが展開されていくものではありませんでしたが、特に個人的には後半のシーンで「調和のとれた不協和音」が感じられました。

それは、障害をもった方を含む人々が、色味もデザインもそれぞれ異なる衣装を着て、振り付けも個別に違いながらも、思い思いに踊る様子をカメラがワンカットで映し続けたシーンです。

オリンピックやパラリンピックでは、国や地域ごとに統一した色のジャージや競技用のユニフォームを着用することが当たり前の光景です。また、オリンピックを含む開閉会式の他のシーンでは、衣装に統一感がありました。

しかし、後半のシーンでは、カラフルさや衣装の「多様性」が印象的に残りました。原宿系のかわいいものからロックなものまで、様々なテイストの衣装を着た人々が一堂に会する光景は、言い表すのは難しいですがまさに「調和のとれた」状態が確かに実現していました。

また、見終わった後には、東京パラリンピックの閉会式のワンシーン上だけではなく、様々なバックグラウンドをもった状況の異なる人が、それぞれ個性を活かしつつ楽しく生きられる社会を実生活で実現するにはどうすればいいのか、考えさせるものがありました。

LGBTQのパラアスリート

東京オリンピックでもLGBTQであることをカミングアウトしたアスリートが数多くいましたが、それは東京パラリンピックも同じでした。

LGBTQのパラアスリートは前回の約3倍

オリンピックの記事でも紹介したLGBTQとスポーツについて発信している “OutSports” によると、東京パラリンピックでLGBTQであることをカミングアウトしたパラアスリートは少なくとも36人にのぼると言います。これは前回のリオパラリンピックに比べると、3倍近く増えたことになるそうです。

ただでさえ障害者というマイノリティでありながら、LGBTQ当事者という、複数のマイノリティ性をもっているということを、保守的だと言われているスポーツ業界でカミングアウトしたという意義はとても大きいと思います。非常に勇気の要るカミングアウトを尊敬します。

カミングアウトしたLGBTQのパラアスリートは・・・

ただ、やはりここでもカミングアウトした人々の特徴がいくつか見受けられました。

第一に、カミングアウトしたパラアスリートは、アメリカ、イギリス、ブラジルなど、欧米の選手しかいないということです。東京オリンピックでも、カミングアウトしているLGBTQアスリートが増えたとはいえ、欧米の選手が大半でしたが、パラリンピックに至ってはアジア、アフリカ系のLGBTQパラアスリートはいませんでした。

もちろん、カミングアウトしていないというだけで、実際にはアジアやアフリカ系でLGBTQのパラアスリートの方もいるのではないかと思われます。しかし、日本を含むこのような地域の障害者が、LGBTQであることもカミングアウトしながら生きるのは、まだまだ困難に満ちているということの表れなのではないでしょうか。

女性の比率が高く、男性が極端に少ない

東京パラリンピック開催時点で、LGBTQ当事者あることをカミングアウトしたパラアスリートの大半が女性(女性の身体で生まれてきた人を含む)ばかりだということも、大きな特徴の一つだと思います。

別の記事で紹介したように、業界はまったく異なりますが、日本の芸能界ではゲイやトランスジェンダー女性といった、生まれ持った身体が男性であるLGBTQタレントの方が数も知名度も圧倒的です。

それに対し、LGBTQのパラアスリートではゲイやトランスジェンダー女性の割合が極めて少ないです。例えば、ゲイであることをカミングアウトしているパラアスリートは、馬術で出場したイギリスのリー・ピアソン選手、ただ一人だけです。ゲイの選手がたった一人というのは考えにくいことです。

また、東京パラリンピックに出場したトランスジェンダー女性の選手はいませんでした。東京オリンピックにトランスジェンダー女性の選手として出場した重量挙げのローレル・ハバード選手が批判的な目も含めてかなり注目されたことを考えると、パラアスリート界でトランスジェンダー女性の選手として声を上げることが相当難しいということは、想像に難くありません。

パラアスリート界に、男性として生きてきた人がLGBTQ当事者であることをカミングアウトすることを、非常に難しくしている大きな原因があるのではないかと考えざるを得ません。

ノンバイナリーのパラアスリート

様々なセクシュアリティの方がいる中でも、やはりノンバイナリー当事者の私としては、ノンバイナリーの選手に注目したいところです。ここでは、3名のノンバイナリーのパラアスリートを紹介します。

ノンバイナリーのパラアスリートとして初めて銅メダルを獲得

ロビン・ランバード選手(オーストラリア/陸上女子100m走/ T34)

まずは陸上/女子100mのT34グループに出場した、オーストラリアのロビン・ランバード選手です。脳性麻痺の障害を抱えています。ランバード選手は、今回の東京パラリンピックでノンバイナリーのパラアスリートとして初めて銅メダルを獲得しました。

ランバード選手は、陸上関連以外の話題、セクシュアリティについてもインスタグラムでかなり積極的に情報発信しています。脳性麻痺の陸上短距離走アスリートとしての顔のほか、パートナーとの写真、ノンバイナリーをエンパワメントするメッセージ、また女性の身体をもって生まれた者の一人として、サニタリーショーツなど、なかなか日本では公に話題にしづらいことまで自身を被写体にして発信しています。セクシュアリティや障害に関わる生活面をオープンにする試みは、当事者以外の人も実情を知れるよい機会を与えていると思います。

ノンバイナリーを発信する50歳のパラアスリート

マリア・ “マズ” ストロング選手(オーストラリア/陸上女子砲丸投げ/ F33)

次に紹介するのは、こちらもオーストラリアの選手である、マリア・ “マズ” ストロング選手(“マズ” はニックネームです)。ストロング選手も脳性麻痺の障害を持ちながら、自身の競技である女子砲丸投げのF33のグループで銅メダルを獲得しました。

ストロング選手の年齢は50歳と、ノンバイナリーを自認し、発信する人の中ではやや高齢な部類だと思います。ノンバイナリーが10代、20代などの若い世代ばかりではないということを証明する一人になっていますね。

ノンバイナリーもさまざまだと主張したパラアスリート

ローラ・グッドカインド選手(アメリカ/ボート混合ダブルスカル)

3番目に紹介するのは、アメリカのローラ・グッドカインド選手。グッドカインド選手が出場したボートの混合ダブルスカルというグループは、下半身に障害があるものの体幹を使える男女が一人ずつ乗って、一緒にボートを漕ぐ競技です。決勝に進出したものの、メダル獲得とはなりませんでした。

グッドカインド選手もインスタグラムでセクシュアリティについても発信しているのですが、前述のランバード選手と比べるとメッセージ画像や風景を映した写真が多いです。

特に2021年7月15日に投稿したノンバイナリーとしてのメッセージ画像は
「ノンバイナリーだからといって必ず人称代名詞を “they/ them” とするべきというわけではない」
「みんな中性的なファッションスタイルをしているわけではない」
「Z世代の “トレンド” ではない」

などと、ノンバイナリーといってもそれぞれが異なると主張しています(「Z世代」とは、一般には1996年から2015年の間に生まれた若者世代を指します)。ちなみにグッドカインド選手は35歳です。

テレビ放送が先か、世間の注目が先か

世間の興味の高まりや理解の浸透を待っていては、いつまで経ってもLGBTQ差別禁止法も同性婚法制化も実現しない気がするのは私だけでしょうか・・・・・・。

東京パラリンピックの放送がない!

東京オリンピックは、NHK以外にも民放で持ち回りの生中継が多く行われていました。一方、東京パラリンピックになった途端、民放での生中継は皆無でした。たまに1時間程度の枠で、車いすテニスなどの注目度の高い競技のハイライト放送はありましたが、せいぜいそのくらいでした。

パラリンピックになると一気に放送時間が無くなるのは、言ってしまえば「いつものこと」です。しかしながら、今回は自国開催なので民放も多少なりとも放送するのかと思っていたのですが、ほとんど変わらずびっくりしました。

「視聴率が取れないから放送しない」と、いつまでも浸透しないのでは?

オリンピックに比べてパラリンピックの放送が民放で極端に少ないのは、単にパラリンピックの様子を放送しても視聴率が「取れない」からだそうです。

この問題を知ったとき、最初は視聴者側、つまり私たちの問題だなと思いました。しかし、今は必ずしもそうではないのではないかと思っています。つまり、視聴者側がいつか関心を持ったら放送するというスタンスでは、いつまでも現状のままなのではないかということです。この構造は、LGBTQへの理解が世間一般に広まるのを待ってから法整備などを始めるという、LGBT理解増進法のスタンスと似ていますよね。

まず、知る機会がないとなかなか興味を持てません。是非ともテレビ局側には、現在視聴者側が関心のある番組だけを提供するのではなく、あらゆるマイノリティの実情が知れ渡るような番組、お涙頂戴の消費型コンテンツではない番組づくりを期待したいです。

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