先日、「セクシュアリティは流動性を持ち、後天的にも変容する」という記事を目にしました。時間や環境によってセクシュアリティが変化し、性的マイノリティになり得ることもあるといった内容です。とても興味深く、私自身も感じていた内容であったことから、今回はセクシュアリティの変化や流動性について考えたいと思います。
セクシュアル・フルイディティの概念
流動的なセクシュアリティについて調べていると、「セクシュアル・フルイディティ」といった定義づけがなされていることを知りました。ここでは、セクシュアル・フルイディティの概念や、類似する定義づけの解説をしていきます。
セクシュアル・フルイディティ(sexual fluidity)とは?
セクシュアル・フルイディティ(sexual fluidity)という言葉をご存知でしょうか? セクシュアリー・フルイド(sexually fluid)も同じ意味合いの言葉です。
● フルイド(fluid)=流動的な
● フルイディティ(fluidity)=流動性
といった意味合いを持ちます。
セクシュアル・フルイディティ、セクシュアリー・フルイドは、時には男性を好きになり、時には女性を好きになるといった性的指向が変化する人や、相手の性別関係なく好きになった人が好きというような在り方をさす言葉です。今まで異性と交際していたとしても、ある日突然同性が好きになることが起こり得るのです。
例えば、少し前までは異性と交際していたが、今日は同性に魅力を感じる。時には異性・同性ともに性愛対象となる。このような性的指向の流動性がセクシュアル・フルイディティと定義づけされています。
ジェンダー・フルイドとの違いは?
ジェンダー・フルイドとは、性自認が一定ではなく流動する在り方を指します。
ここには性的指向の流動性は含まれません。
性自認とは、身体的性別に関係なく、自身の性を認識する「こころの性」です。ジェンダー・フルイドは、昨日まで自身を女性として認識していたけれど、今日は自身を男性と認識している、去年まではXジェンダーのように男性でも女性でもないと感じていたというように性自認が流動していくことを定義しています。
セクシュアリティの流動性は環境によって変化する
セクシュアル・フルイディティやジェンダー・フルイドのようなセクシュアリティの流動性は、周囲の環境・人間やメディアの影響、価値観、成長過程などの様々な影響を受けることで生じるものです。
先天的なものではなく、後天的な影響によってセクシュアリティが流動性を持つことがあるのです。
他の性的マイノリティとの類似点
Xジェンダーはジェンダー・フルイドに類似する
Xジェンダーとは、性自認が男性にも女性にも当てはまらない人を指します。人間の性別は男性・女性の2つの枠組みに分けられることが多いですが、「自分はどちらでもない」「男性か女性か選択することに違和感を持つ」という方もいるでしょう。
身体的な性に関係なく、性自認が男性・女性のどちらでもないセクシュアリティを示す、日本で生まれた定義がXジェンダーです。
Xジェンダーには、中性・両性・無性・不定性の4つの分類があり、なかでも不定性Xジェンダーは、日によって性自認が流動する場合のことを指すため、ジェンダー・フルイドと類似する定義ですね。
Xジェンダーは日本で生まれた言葉で海外にはまだ浸透していませんが、ジェンダー・フルイドは英語圏で生まれた言葉なのである程度海外でも認知されている概念です。両者の大きな違いは文化的な面ではないでしょうか。
パンセクシュアル・バイセクシュアルとの分類
セクシュアル・フルイディティ=性的指向の変化・流動を指すのであれば、バイセクシュアルやパンセクシュアルと同じなのではないかと感じる方もいるでしょう。
ですが、セクシュアル・フルイディティとバイセクシュアル、パンセクシュアルは異なるセクシュアリティです。
バイセクシュアルとは、LGBTのBに当てはまるセクシュアリティで、男性・女性どちらも性愛対象に当てはまる人を指します。言い換えれば、男性と女性の2つの性を好きになるということです。
パンセクシュアルとは、相手の性別(性自認)は関係なく性愛対象となる人を指します。つまり、男性・女性に限らず全てのセクシュアリティが性愛対象となります。
そして、セクシュアル・フルイディティは、「今は男性と付き合っているけど、この間まで女性が好きだった。1年前は男女とも性愛対象だった」というように、時期や日によって性愛対象が変化する人のことを指します。
時にはバイセクシュアル、パンセクシュアル、時にはアセクシュアルとなる人もいるかもしれません。セクシュアル・フルイディティとは、性的指向の流動性そのものを指す言葉なんです。
セクシュアル・フルイディティの認識
私は今までセクシュアル・フルイディティという定義を知りませんでした。セクシュアリティに関する講義や講演にも参加してきましたが、耳にしたことはありません。セクシュアル・フルイディティという概念が、日本や海外でどのように認識されているのか見ていきましょう。
セクシュアル・フルイディティの認知が進んだ出来事
アメリカ出身の有名俳優であるジョニー・デップの娘リリー・ローズ・デップが2015年に「セクシュアル・フルイディティ」であることをカミングアウトしました。
この出来事を皮切りに、世界中にセクシュアル・フルイディティの在り方が認知され始めました。
また、アメリカの女優デミ・ロヴァートも自身の性的指向が流動的であると話していることから、セクシュアル・フルイディティに当てはまるのではないかと言われています。
インフルエンサーがカミングアウトしたことによって、アメリカを中心にセクシュアル・フルイディティの概念は認識され始めているといえるでしょう。
日本での認識は?
日本では、セクシュアル・フルイディティという概念がまだ浸透していません。しかしながら、LGBTについて取り上げられることが増えたことから、Xジェンダーに対する認識は少しずつ進んでいます。
不定性Xジェンダーは一種のジェンダー・フルイドと言えるため、ジェンダー・フルイドの概念そのものは認識している方もいるでしょう。ですが、不定性Xジェンダーは性自認の流動性に関する概念です。
日本では、セクシュアル・フルイディティ(性的指向の流動性)を意味する言葉の認識が進んでおらず、人知れず悩みを抱える方もいるのではないでしょうか。セクシュアル・フルイディティという言葉とその概念がもっと日本に浸透することで、世界での認識が深まっていくかもしれません。
セクシュアル・フルイディティから生まれる社会問題
セクシュアル・フルイディティは、性的指向が周囲の環境・人物などによって流動性を持つという概念です。この性質が誤解を生んだ社会問題が、世界にはまだ根強く残っています。
コンバージョン・セラピー(conversion therapy)をご存知でしょうか? 同性愛者やトランスジェンダーなど、性的マイノリティを対象に行われる矯正治療だと認識されています。
その多くは宗教的な理由から行われているものですが、環境によって性が流動するのであれば、治療の一環として「同性愛が間違ったもの」だと教え込もうというものです。
コンバージョン・セラピーでは、会話療法や電気ショック療法などLGBTとしてのアイデンティティを「病気」「間違ったもの」だと扱うような内容を行っています。暴力などで性的マイノリティに対する恐怖や嫌悪感を埋め込むような治療もあります。これは、今でもマサチューセッツ州やニューヨーク州をはじめ、全米の41州合法化されているものです。
性的マイノリティを禁止とする宗教を信仰していることから、若いうちに親が治療を決定し、辛い思いを抱える人も大勢います。
「セクシュアリティは流動性がある」ということを誤解する人たちが、環境を矯正すれば性的マイノリティは無くなるといった間違った考え方を持ってしまったことで生じた社会問題です。
セクシュアル・フルイディティやジェンダー・フルイドの誤った認識を無くさなければなりません。
セクシュアリティは流動する
セクシュアル・フルイディティの概念を通して、性的指向は流動するということ知りました。この概念によって、自分自身が抱えるセクシュアリティの悩みが、解決する方もいるかもしれません。
性的指向の変化は誰でも起こり得る
2020年9月東京都の足立区議が同性愛などに対し「法律で守られると足立区が滅んでしまう」といった差別的発言をしたことが話題となりました。
日本でも世界でも、反LGBT的思考はまだ根強く残っています。
しかし、環境や時間によって性的指向が流動性を持つのであれば、性的マイノリティに対して否定的な人たちも、同じ立場になる日が来るかもしれません。
セクシュアル・フルイディティは病気ではありません。
人間は誰しも多様なセクシュアリティを持つ生き物です。
セクシュアリティは個性
先述したように、コンバージョン・セラピーをはじめ、現在も性的マイノリティを病気だと認識している人がいることは事実です。
しかし、性的マイノリティは病気ではありません。
人の趣味や好みが移り変わるように、セクシュアリティも移り変わる個性と同じ。
第三者の手で強制的に変容させることは出来ないのです。
昨日・今日・明日で性的指向が変容することだってあります。
個性ですから。
私自身もセクシュアル・フルイディティとして差別的な意見を浴びたこともあります。
ですが、差別的な発言を投げられたからと言って、セクシュアリティが変容するわけではありません。
セクシュアル・フルイディティは、性的指向の流動性を表す言葉ではありますが、性の多様性を認める考え方であるという視点を持つことも出来ます。
多くの人がセクシュアル・フルイディティを知り、認める社会が来ることを願います。