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Writer/酉野たまご

LGBTQ+を傷つけない言葉選びを考えてみた

LGBTQ+への理解が少しずつ広まってきたとはいえ、不用意な発言や態度で悪気なく相手を傷つけてしまうということはある。私自身、自分も当事者でありながら、誰かを傷つけるような言葉選びをしてしまっているかもしれない。

LGBTQ+当事者として意識したい言葉選び

ふと引っ掛かった「女子力高い」というワード

先日、仲のいい友人同士、何人かでおしゃべりしていて、少し引っ掛かった言葉があった。

メンバーの一人である男性が、毎日お風呂上がりにスキンケアを欠かさないという話をしたとき、女性メンバー数人が驚き、笑いながら「女子力高い!」と言ったのだ。

言った本人たちは悪意も揶揄の気持ちもなく、ただそのメンバーが毎日スキンケアをしているという話題の意外性に反応して、自然と出たワードなのだろう。

私自身、数年前までは何の気なしに使っていた言葉である。
ただ、LGBTQ+についてのアンテナが敏感になってきたこの頃は、あまり積極的にこの言葉を使いたいとは思えなくなっていることに気がついた。

「女子力」という言葉を使うときは、スキンケアやヘアケア、ファッション、メイクなどの身だしなみに気を使っているかどうか、あるいは家事をどれだけしているか、いわゆる「可愛い」「女子っぽい」アイテムを好んで選ぶかどうか、に着目して発言することが多い。

何をどれだけ頑張るかは個人の自由で、何を好むかも人それぞれなのに、それを「女子」という性差のある言葉で安易に括ってはいけないような気がしたのだ。

自分のことを「女性である」とか「女性らしい」と思いたくない人のことも、あるいはそう思っている、思われたいのに「意外だ」と反応されてしまう人のことも、傷つける可能性のある言葉だと改めて感じた。

何気ない言葉選びでLGBTQ+当事者を傷つけていないか?

たとえば、トランスジェンダーの方やゲイの方、ノンバイナリーの方と一緒に話す機会があったら、私は「女子力高い」という言葉を口にしないよう気をつけると思う。

ただ、先述の女性メンバーたちも決して悪気があって「女子力高い」と言ったわけではないはずなのだ。だとすると、無意識の言葉選びによって、私自身もLGBTQ+の当事者の方を傷つけている可能性がある。

この機会に、言葉を扱う仕事をする者として、そしてLGBTQ+の当事者として、日常的に使っている言葉を一度棚卸ししてみようと思った。

その上で「注意が必要だ」と改めて感じるワードをピックアップし、代替できる言葉はないか、どのような態度が望ましいかについて考えてみることにした。

LGBTQ+当事者として引っ掛かったワード集

ファッションについての気になる言葉選び

近年、ファッションに興味が出てきたため、雑誌やSNSでファッションについての記述を目にする機会が増えた。

そこで最近「これはどうしたらいいんだろう?」と思ったのが、「フェミニン」「ガーリー」といったワードである。

「フェミニン」は元来「女性らしさ」を表す言葉であり、ファッション用語としてはふんわりとしたやわらかなシルエットや色合い、フリルやレースを使ったデザインなどを指すことが多い。「ガーリー」も、少し意味合いは異なるもののほぼ同じような定義である。

自分の好きな洋服や着物のコーディネートを見ていて、「こういうフェミニンなコーディネートも可愛いなあ」という感想が無意識に出てくることがあるのだけど、誰でも自由に装えるはずの服装を「女性らしい」「少女らしい」という意味の言葉でまとめてしまっていいのだろうか、とつい悩んでしまうことも多い。

ただ好きだと思う服を着たいだけのLGBTQ+当事者の方に、「女性らしい」「少女らしい」という意味の言葉をぶつけていいのか? と不安を感じてしまうのだ。

LGBTQ+の思う「男性らしい/女性らしい」という言葉の背景

ファッション用語と似たような状況で悩むことが多いのが、「男性らしい/女性らしい」あるいは「男性的/女性的」といったワードである。

以前、接客の仕事に携わっていた頃は、便宜上どうしても「女性らしさを強調してくれるデザイン」や「男性的な雰囲気が苦手な方でもOK」という言葉選びをしてしまう場面が多かった。

そもそもセールス業などは、ターゲット層をしぼるために「10代~20代の女性」や「年配の男性」など、限られた層に特化した言葉選びをするよう指導されることも多い。

「女性でなくても、女性らしさが苦手な人でも、好きだと思ったら使っていいのに・・・・・・」と心の中で思いながら、半ば無理やり「女性らしいアイテムが好きな方におすすめです」などとセールストークをしていた記憶がある。

「男女別で分かれる」および「トイレ問題」においての言葉選び

そして最近、特に困ったのが「男性と女性で分かれてください」と言わなければいけない場面である。

その場では便宜上、どうしても男女別にチーム分けをしなくてはいけなかったのだ。
正直、とても心苦しかった。もやもやした感情を抱いてしまった人はいないだろうかと、恐る恐る場の空気をうかがいながら発言した。

体の性の事情ではなく、単純に意見交換をスムーズにするためのチーム分けだったので、「次からはLGBTQ+の方がいらっしゃることを想定して、性別でチーム分けをしなくても済むようにしよう」と、ひっそり決意するしかなかった。

この他にも、「男性用トイレと女性用トイレが別の場所にある場合」など、見た目の性や体の性と性自認が異なる方がいたら? と思うとすんなり言葉選びができず、焦ったり空回ったりしてしまう場面は何度かあった。

私自身がシスジェンダーの女性で、見た目と体の性、心の性が一致しているからこそ、そうでない方の気持ちを想像しきれていないのではないか・・・・・・とより不安になってしまう。

実際、私のパートナーはいわゆる “メンズライク”な服装(この表現もどうなのだろうか)やヘアスタイルを好む女性で、女性専用トイレに入るとぎょっとされたり、じろじろ見られたりすることが多い。

「男性なのに間違えて女性用トイレに入ってきたのでは?」というあからさまな態度を取られることもしんどいけれど、ちらっと見られたり、自分が入るトイレを間違えたのではないかと、焦って出て行かれたりすることも辛いとパートナーはよくこぼしている。

「女性らしく見られたいわけじゃないけど、男性だと思われたくもない。男性なのか女性なのかわからない、と戸惑わせてしまうのも申し訳ない」というパートナーの言葉から、性別で分けるような発言をする際のためらいや戸惑いすら、誰かにとっては負担になってしまうのだと改めて気づかされた。

LGBTQ+が傷つかないための「代わりの言葉選び」

では、これまでに挙げたワードの代替となる言葉はあるのか? あるいは、より自分や周囲がもやもやせずに済む反応はあるか、考えてみた。

「女子力高い」に代わる言葉選び

「女子力高い」というワードは、単純に「マメだね」「頑張ってるね」「すごいね」といった言葉、あるいは「そういうの好きなんだ、いいね」といったリアクションに置き換えたらいいのかもしれない。

「意外だね」という言葉も悪くはないけど、言う状況や関係性によっては、相手を傷つけかねないので、シンプルに褒めるだけでいいのではないかなと思う。

このあたりは、LGBTQ+であるかどうかにかかわらず必要な配慮である気がする。

あるいは、スキンケアを頑張っているという人に対しては「保湿には何を使っているの?」とか、「参考にしてる動画とかある?」など、話題を広げていくのもいいかもしれない。

「女子力高い」という言葉にほんの少し含まれる、「あなたは私たちとは違うね」という拒絶のニュアンスを振り落として、そこから話を展開させていけると素敵だなと思う。

ファッション用語はLGBTQ+を疎外しない使い方で

少し考えたり調べたりして見たものの、「フェミニン」や「ガーリー」といったファッション用語に代わりそうな言葉選びはあまり思いつかなかった。

むしろ、「女性らしい」「女の子らしい」「少女らしい」といった直接的な表現よりも、よりマイルドにファッションのイメージを伝えられる言葉だという気がする。

振り返ってみれば、私が「フェミニン」や「ガーリー」という言葉に引っ掛かってしまったのは、SNSで着物について「フェミニンなデザインで可愛い!」という投稿をした際、知人が時間差で「フェミニンという言葉を安易に使うのはどうかと思う」という投稿をしていたことがきっかけだった。

自分に向けられた投稿とは限らないと思いつつも、可愛い画像を見て浮かれた気持ちで何気なく言葉選びをした自分を責められたような気持ちになり、ショックが大きかったのだ。

ファッション用語はLGBTQ+をはじめ、特定の誰かを弾き出すためではなく、「こういう雰囲気の服装がしたい」というあらゆる人の心に寄り添うために使えば、そこまで問題視する必要もないのかもしれない。

「男性らしい/女性らしい」という言葉選びは極力避ける

幸い、販売の仕事を離れてからは、「男性らしい/女性らしい」「男性的/女性的」というワードを使う機会もかなり減った。

私個人の結論としては、これらの言葉は「ぐっとこらえて使わない」のが一番な気がしている。

スマートではないかもしれないけれど、どうしても使わないといけない場面では「一般的に男性らしい/女性らしいと言われる・・・・・・」や「いわゆる男性的/女性的な・・・・・・」というふうに防御線を張りながら話すことで、少しでも言葉の暴力性を軽減できるのではないか、とも思っている。

LGBTQ+当事者として目指していきたい、言葉選びの姿勢

LGBTQ+当事者でも悩む、「男女の区別」問題

私が現在最も悩んでいるのが、「男女別で分かれてください」「男性用/女性用」といった区別においての言葉選びである。

今のところ、体および見た目の性で区別が必要な場面において、どのような言葉選びをするべきか、どのような態度をとるべきかという正解は見つかっていない。

以前、LGBTQ+をテーマにした映画『片袖の魚』を観た際、トランスジェンダー女性である主人公にトイレの場所を聞かれた人物が「あそこに “誰でもトイレ” がありますよ」と答えるというシーンがあった。そのときの主人公の複雑そうな表情が忘れられない、というのも大きい。

男性に見える、女性に見える、あるいは「男性か女性かわからなく見える」という視点で相手を眼差すこと自体が、もはやナンセンスなのかもしれない。

夢の中で実感した、LGBTQ+を意識した言葉選び

少し前に、変わった夢を見た。

夢の中で私は、迷子の子どもを発見して、その子どもの親らしき人を探していた。
探し回ってようやく見つけた人物に、私は「この男の子のお母さんですか?」と言いかけて、はたと我に返った。

「私はどうして、この子どもや目の前の人の性別を決めつけるような発言をしようとしているのだろう?」

そう考えて、咄嗟に私の口から出た言葉は「この子の保護者の方ですか?」という言葉だった。

目が覚めてから、夢の中すら自分の言葉選びとLGBTQ+の問題について考えを巡らせていたことに少しおかしさを感じつつも、「夢の中にしては、良い判断ができたのではないか」と思った。

あの夢がきっかけとなり、今私はこの文章を書いている。

自分も相手もLGBTQ+当事者であり得るという意識を常に持ちながら、相手を傷つける言葉選びを少しでも減らしたい。これからも日々模索を続けていく。

 

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