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Writer/チカゼ

胸オペ体験記 inタイ~ノンバイナリーのぼくの記録④

術後から1ヶ月半が経過した。手術痕のカサブタも徐々に剥がれてきて、このままケアを続けていけば数年後にはきれいに治りそうな気がする。胸オペ体験記も4回目に突入し、いよいよ後半戦である。今回は再診の様子や帰国後の生活、それからぼくが実行している傷跡ケアの方法について書いていこうと思う。

※本記事はあくまで「ぼく」個人の胸オペ体験記である。ここに書かれている内容はすべての人に当てはまるものではなく、また手術の結果等を保証するものでもない。そのことを留意の上で、あくまでひとつのサンプルとして読み進めてほしい。

胸オペ1週間後の再診

手術を受けたのは2022年6月22日で、そのちょうど1週間後の29日に再診を受けた。

胸オペ後に発見した謎のしこり

再診では執刀医の先生が、術部全体の経過を診てくれた。その際に「気になることはありますか?」と問われたので、胸オペ体験記③でも書いた通り、術後の眠気や吐き気についてたずねた。これは麻酔の影響だそうで、そのうち消えると教えてくれた。

あともうひとつ、脇下あたりにあったしこりについても質問をした。実は退院してから2、3日後に押すと痛みのある直径3センチくらいのしこりが肌の内側にあるのを発見して、ずっと気を揉んでいたのだ。

先生はそのあたりを触診すると、「手術とは無関係のもので、おそらく良性の腫瘍だと思う。乳房を持つ人にはよくあるものだけど、3ヶ月経っても痛みが消えないのなら帰国後検査を受けてください」と言っていた。

とりあえず悪性のものではなさそうでほっとした。現在はそのしこり自体がすっかり消えて無くなったので、安堵している。

このしこりについては、脂肪というか肉がなくなったからこそ気づけたんだろう。このあとググって知ったんだけど、胸オペ後に腫瘍に気づく人はわりと多いらしい。胸オペを予定している人は、このこともぜひ頭の片隅に置いておいてほしい。

「あなたの理想の体を作ることができましたか?」

最後に先生が、「私はあなたの理想の体を作ることができましたか?」とおそるおそる訊いてきた。「もちろんです!」と元気よく答えると、先生は安心してくれたのかにっこりと笑ってくれた。

仕上がりを気に入っているか再診でも確認してくれるっていうことは、つまりそれくらい真摯にぼくの性別違和と向き合ってくれたってことだ。先生の誠実さに、胸を打たれた。

ぼくの理想を叶えるために、きっと先生もたくさん試行錯誤を重ねたんだろう。患者の希望通りの身体を「作る」ってめちゃくちゃなプレッシャーだし、すごく神経を使う作業だと思う。先生が心からぼくの望む容れ物を作ろうと誠心誠意がんばってくれたのが読み取れて、泣きそうになってしまった。

ドレーン除去と抜糸

先生の診察後、看護師さんによるドレーンの除去と抜糸が行われた。ドレーンの除去は人によってまったく違うらしいんだけど、ぼくはけっこう痛かった・・・・・・。看護師さんに「いくよ! 息を止めて!」と言われ、ひと息にずるずるっと抜かれたのだが、癒着した肉が剥がされる感じがしてまじで呼吸が止まるかと思った。

抜糸はそれほど痛くなかったけど、プチプチとひとつずつ縫い目を切られている感覚は生々しくわかって、逃げたくなる体をベッドに押し付けつつ涙目で天井を見上げていた。この抜糸、地味に時間がかかって辛かった。できれば二度と経験したくない。

抜糸が終わると切開跡にガーゼと防水テープがぺたりと貼られ、術部にバストバンドを気持ちゆるめに巻かれた。

術部のケア方法と、移動で気をつけたこと

診察と施術が一通り終わると、今後の術部のケアについて説明された。

※以下に記すケア方法は、すべての人に適しているとは限らない。そしてぼくが移動の際に注意したことを厳守してさえいれば、絶対に大丈夫だと保証するものでもない。あくまでこれらは一例であり、胸オペを体験した1人の人間からのアドバイスとして受け取ってほしい。

術部のケアについて

ぼくが指示された今後のケア方法は、ざっとこんな感じ。

・ガーゼと防水テープは1週間剥がさずにいること。
・そのあとは傷跡を目立たなくする市販の軟膏を塗ること。
・今日からシャワーを浴びてもかまわないけど、入浴(湯船やプール等)は3ヶ月後から。
・この先3ヶ月はナベシャツやブラジャー、ブラトップ、バストバンドで固定し続けること。
・激しい運動や筋トレは3ヶ月後から可能。

指示されるケアのやり方はどうやら本当に個々人によって違うみたいなので、再診の際はできるだけ細かく医師や看護師に確認したほうがいい。特にガーゼと防水テープについてなんだけど、ぼくのように「1週間は張り替えないで」と言われるのはわりかし特殊な例らしいので。

また、ナベシャツやブラジャー、ブラトップ使用許可はちょっと嬉しかった。というのもぼくは上背が足りないため、バストバンドだと胸部だけでなく胃の辺りも圧迫されるから、ちょいちょい吐き気をもよおしてしまって辛かったのだ。

空港での移動はカートを利用

再診でもしこり以外特に問題はなかったため、晴れて予定通り帰国できることになった。出国前に義務付けられていたPCR検査も無事パスし、7月2日スワンナプーム空港発羽田空港行きの深夜便に乗り込んだ。

空港内でチェックインを済ませ荷物検査を受けたあと、ぼくが最初にした行動は、手荷物カートを確保することだ。いちばん大きな荷物はもちろん預けたが、サコッシュとキャリーオンバッグ(キャリーケースの持ち手に引っ掛けられるナイロンバッグ)は手荷物として機内に持ち込んでいた。

このキャリーオンバッグにはMacBookとiPadを入れていたので、けっこう重たかったのだ。いつもならふつうに担いで移動するところだが、今回は術部への影響を考え、できるだけカートを利用した。

しかし羽田空港到着後はすぐにカートを確保できず、しばらく担いだままarrivalの長い歩道を歩いてしまった。そのせいなのか、ちょっとだけ切開跡から出血してしまって、帰宅後うろたえた。

病院やランドホーさん(もとい担当さん)にすぐ連絡したところ、「少量の出血ならまず問題はないと思うので様子を見てください」と指示を受けた。幸いにも出血はすぐに治まったからよかったけど、こういう事態を避けるためにも空港ではできるだけカートを利用し、移動の際は極力、術部に負荷をかけないようにすることをおすすめする。

空港からはリムジンバスで帰宅

羽田空港から帰宅する際、ぼくはリムジンバスを利用した。大荷物で空港内から電車のホームまで移動し、座れるかもわからない鈍行に乗り込む・・・・・・なんてあまりにもリスキーすぎる。

リムジンバスなら空港のすぐ外にターミナルがあるため、移動距離もそれほど長くならない。なによりカートを乗せたままバス停で待つこともできるし、飛行機から降りたあと一度も荷物を担ぐことなく自宅付近に到着できる。

タクシーよりは料金も抑えられるし、空港内のバスチケット売り場で乗車券を買うこともできる。ちなみにあらかじめ予約しておくのはおすすめしない。なぜなら飛行機が時間通りに到着するとは限らないから。

羽田空港からも成田空港からもたくさんのリムジンバスが出ているので、タイでの胸オペ及びSRSを希望してる方は自宅付近に到着するバスを調べておいたほうがいいかも。

自宅付近のバス停までパートナーに迎えに来てもらい(本当は空港まで来てもらいたかったんだけど、あいにく早朝着の便だったため始発がなかった)、重い荷物を引き受けてもらって無事帰宅した。

2022年の6月末から7月にかけての異様な酷暑の中、荷物持ちのためだけに迎えに来てくれたパートナーには感謝しかない。

ノンバイナリーのぼくの帰国後の療養生活

帰国後1ヶ月半が経ち、ほぼ通常通りの生活ができるようになった。しかしまだまだ療養期間中ではある。そんな今のぼくの生活の様子をまとめてみよう。

※ぼくの療養生活、バストバンドやナベシャツの使用方法がすべての人に適しているとは限らない。ぼくの使用する軟膏や傷パッドの効果効能を保証するものでもない。あくまでぼくはこのように生活していた、というだけであり、参考程度に読んでほしい。

ぼくの思うノンバイナリーらしい胸だったため

よく「ナベシャツよりも病院でもらったバストバンドでしっかりと固定したほうがいい」という情報をSNSでは見かける。でもそれは、「術後の胸の状態やそもそものバストバンドや持っているナベシャツのフィット感(圧迫度合)による」と、ランドホーの担当さんに言われた。

万人に共通した手術、術後のケアは無いと思っておいた方がいい。

「うっすら残す」選択をしたぼくの場合は、バストバンドで締め付けすぎると形が悪くなるような気がして、帰国後すぐにナベシャツへ切り替えた。術後1週間は例に漏れずバストバンドでぎゅうぎゅうに固定していたんだけど、胸の上部にバンドの跡がくっきり付いてえぐれたような形になっていたので、それも不安だったし。

念のため再診のときに「バストバンドじゃなくていいんですか」と質問したんだけど、先生に「バストバンドでも別にいいけど、苦しくない?」と聞き返されてしまった。

それにバストバンドと比較して圧迫具合もさほど変わらない感じがしたため、ぼくはナベシャツを常用することにした。

ちなみにバストバンドというのは、胸オペ直後に胸に巻かれる固定用のバンドのこと。サラシ風のものやマジックテープ式のものなどいろんなタイプがあるんだけど、ぼくに装着されたのはマジックテープ式のものだった。

胸オペってつまりは乳腺と脂肪を摘出するわけだから、皮膚をきちんと体にくっ付けなきゃならない。バストバンドやナベシャツの装着を怠ると皮膚がたるみが出てしまったりするらしいので、術後は医師の指示通り忘れないで。

軟膏と防水傷パッド

“再診のときに貼ってもらったガーゼと防水テープが1週間後に剥がれたあとは、ガーゼも防水テープも貼り替える必要はない” と看護師さんに言われてはいたけれど、やっぱりちょっと心配だったので、ぼくは念のため現在も傷パッドを貼っている。

ぼくが使用しているのは、アトファインという手術痕専用のテープ。皮膚が引っ張られたり衣類との摩擦によってケロイド化するのを防ぐもので、防水の役割も果たしてくれるらしい。

これは美容整形外科医の友人におすすめされた市販の商品だ。術後2週間くらいまで切開痕の端っこだけ若干ケロイドになりそうな気配がしてたんだけど、現在はすっかり閉じてきれいになってきた。これの効果は大きいと思うけど、体質や状態によっても異なるので使用の際は医師とよくよく相談した上で自分で判断して欲しい。

アトファインと併せて、手術痕を薄くするダーマティックジェルという軟膏も使っている。看護師さんが教えてくれたもので、実際にヤンヒー病院で手術を受けた人たちの間でものすごく人気らしい。

以下、参考URLを貼っておく。
・アトファイン:https://atofine.jp/scene/wound-care/index.html
・ダーマティックスジェル:https://osakadou.cool/detail/001952_dermatix.html

腕を上げない、重いものを持たない

「胸オペ直後は腕を上げることができない」という体験談を、ときおりインターネット上で目にすることがある。でも、よく聞く「腕を上げることができない」は、“あげるのがこわい(心配)”というニュアンスも、実際は少なくないのかもしれない。

ぼくの場合はあまりそれを感じなかった。そのせいで油断してバンコクでのホテル療養生活中はかなり頻繁に腕を上げ下げしちゃってたんだけど(洗濯物を干していた)、これはけっこうまずい行動だったらしい。

「痛みがないのなら腕を上げてもかまわない」と勘違いしていたんだけど、傷口が広がってしまうからこそのNG行為なんだよと先の美容整形外科医の友人に叱られてしまった・・・・・・。

「手術痕の一部のケロイド化の気配はこの行動ゆえのものだったのかもね」と、その友人は指摘していた。幸いにもすぐに治まったからよかったけど、胸オペ後の腕の上げ下げはくれぐれも厳禁である。胸オペを予定してる人は、絶対に気をつけてほしい。

あとは重複してしまうが、重いものを持たないというのも心がけている。秋に引越しを控えているのでちょっとずつ家の中のものを整理しなきゃいけないんだけど、たとえば冬物の衣類が詰め込まれたスタックボックスは持ち上げないようにしたりとか、できる限り意識するようにしてる。

術後1ヶ月から3ヶ月の過ごし方が予後に影響するらしいので、まだしばらくは用心していかなきゃなあ。

胸オペ済みノンバイナリー・下着問題

画像はインナーを着用しているからわかりにくいかもしれないが、仕上がりはこんな感じ。うっすら残ったふくらみ、理想の「性別不詳な身体」を手に入れたおかげで、ずいぶんと呼吸がしやすくなった。

ブラトップがカパカパに

さっきちらりと「再診の際に3ヶ月間はナベシャツやブラジャーで固定してという指示があった」と書いたが、ぼくがふだん使用しているのは主にUNIQLOのブラトップだった。気分で画像のようなノンワイヤーのブラレットを着用することもあるにはあるが、基本的にはタンクトップ型のものをつかっていた。

しかし術後試しに持参していたブラトップを着てみたところ、かっぱかぱになってしまっていた。ナベシャツ代わりにAAカップ用のXSを愛用していたんだけど(ぼくのそもそものサイズはB~Cカップ程度)、それでも大きすぎて固定の役割は果たせそうにない。

それにせっかくぺたんこにした胸が、カップの形や厚みのせいで実際よりも「盛れて」しまうのも気に食わない。

とりあえずAmazonでナベシャツを3枚ほどポチって帰国までに自宅に届くように手配をし、今はそれらを使用している。ちなみにタイに滞在している間は、術後ずっとヤンヒーでもらった1枚のバストバンドを装着し続けなければならない。

つまり帰国するころには、あまり清潔とは言い難い状態になっている。そのため、家に着いてすぐにきれいなものを着ることができるようにあらかじめ洗い替えを用意しておいたほうがいい。

実際に帰ってきてすぐにバストバンドを手洗いしたところ、数日分の汗と日焼け止めをたっぷり吸ったそれからは泥みたいな茶色い汁が出てきて戦慄した・・・・・・。

「ぼくの思うノンバイナリーらしい体」にふさわしい下着がない

固定が外れたあとの下着問題には、今も頭を悩ませている。無駄に「盛れて」しまうブラトップは使い物にならないのでぜんぶ捨てたが、画像のようなブラレットは締め付けがきつい。

もちろん通常のブラジャーよりは遥かに楽だけど、カップがないぶん締め付けでバストトップを潰して目立たなくさせるものだから、普段使いはちょっとやだ。せっかく胸オペしたのに「ブラジャー」的な形のものを常用しなきゃいけないなんて、興醒めもいいところだ。ブラレットはあくまで、気分でたまに着用するだけがいい。

そうTwitterでぼやいたら、思春期のお子さんを持つ親御さんから「ティーンズ向けのインナーはどうでしょう」と教えてもらった。ああいうのって胸元にリボンのついたキャミソールくらいしかないんじゃないの? と半信半疑で調べてみたところ、そのデザインの多様性に驚かされた。

もちろんいかにも「女子」っぽいキャミソール、スポブラみたいなものも健在だったが、それこそジェンダーレスな無地のタンクトップ型なんかもいろんな下着メーカーから売り出されている。

しかも透けやすい白ばかりじゃなくて、グレーやネイビー、ブラックなどなどカラバリも豊富で、大人が着てもさほど違和感はない。ぼくは乳頭縮小術はしなかったから胸元が二重になっているだけのものでは心もとなかったので、バストトップのみを自然にカバーしてくれる薄いコットンのパッドが入ったものを試しに買ってみた。

着てみたところ変に「盛れ」たりすることもなくわりといい感じだが、襟首や脇下が詰まっていて(おそらく無防備な子どもの肌見えを防ぐためのデザインだろう)ちょっと息苦しい。服からチラ見えしてしまうところも気になるし、第一ぼくのような小柄ではない人にとっては選択肢に入らない気がする。

ノンバイナリーやその他のブラジャーを着けたくない人のためのインナーを

結論のひとつ。「どっちつかずな身体」を選択したぼくのようなノンバイナリーの人間にふさわしい、バストトップのみをカバーしてくれる──胸の形をきれいに整えたり盛ったりしないインナーを作ってほしいという要望を、UNIQLOのご意見箱に送った。国際ノンバイナリーデーである7月14日にTwitterで呼びかけたんだけど、けっこうな反響があってたくさんの人が協力してくれた。

ぼくみたいな性別不詳な身体のノンバイナリーだけじゃなく、ホルモン治療を始めて胸がふくらんできた人、ブラジャーの締め付けが嫌いな人、バストトップが透けるのを気にしている人、それこそティーンズの子たち、たくさんの人に需要があると思う。UNIQLOさん、どうかこれ、実現させてほしい。その他のブランド、ニッセンさんやグンゼさんも、ぜひご一考いただければと思う。

胸オペ後の下着・どうするか問題について語ったところで、今回は締めよう。

次回はいよいよ最終回だが、改めて胸オペをした現在の心境や自分の中に存在していた強烈な性別違和について振り返ってみようと思う。

胸オペを考えている人への心理的なアドバイスみたいなものにも言及するつもりなので、当事者の方はぜひ読んでみてほしい。

ちなみにUNIQLOのご意見箱はこちらから。
https://faq.uniqlo.com/articles/FAQ/100005544/?l=ja

UNIQLOであれば比較的みんな店舗へ足を運びやすいから、実際に手に取って確かめることができる機会が多いと思う。

今後、ぼくみたいな既存の下着で合うもののない人間が困らないようにしていきたいから、賛同してくれる人は要望を送ってくれると嬉しい。

 

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