02 スクールカーストのトップ
03 中2で訪れた人生の転機
04 正体不明のモヤモヤ
05 Xジェンダーという答え
==================(後編)========================
06 本当の自分を知ってほしい
07 全校生徒の前でカミングアウト
08 学校への不信感 再び不登校に
09 YouTuber “ぺさ” としての活動
10 性別からの真の解放
01 YouTuber “ペさ” になるまで
高1の6月にYouTubeデビュー
「高1の6月から “ぺさ” としてYouTubeで動画の投稿を始めました」
YouTubeに動画を初めて投稿したのは中学生の頃。
友だちとみんなでエンタメ系の動画を撮るうちに、撮影や編集の面白さを知った。
「どうせ一人でやるなら、自分のことについて発信しようと思って、LGBTに関する動画を撮って投稿しました」
最初は単なる自己満足だったが、動画の中で思い切って坊主にしたところ、再生回数が伸びて驚く。
「想像以上に再生回数が伸びちゃって・・・・・・。ちょっと怖くなりましたね(苦笑)」
しかし、同じようにLGBTやXジェンダーのことで悩んでいる人から、「ぺささんの生き方、かっこいいです」「参考になります」というコメントがつくようになった。
「すごく嬉しくて、もっと何かできることあるんじゃないのかなって思いました」
もっと動画を撮りたくなった。
両親から注がれた愛
愛媛県松山市で居酒屋を営む両親のもと、一人娘として生まれた。
真面目だが優しく寛容な母と、頑固で頼もしい大黒柱のような父。
「母親とはすごく仲がいいです。周りからはいつも『姉妹みたいだね』と言われてます」
「父親は頑固で、直接話すのは今でも少し苦手ですね(苦笑)。いつも母親が間に入って、うまく気持ちを伝えてくれてます」
「両親の教育方針で、基本的にはゲーム禁止、漫画禁止でした。テレビはOKだったんで、アニメはたくさん観てたんですけど」
「友だちは『りぼん』を読んだり、DSでポケモンをしたりしてたので、ちょっと羨ましかったですね」
「けど、『体を動かすゲームならいいよ』ってWiiフィットを買ってもらったり、母親が見ているあいだ、決まった時間内だけゲームをさせてもらったりもしました」
しつけにはちょっぴり厳しいが、温かく優しさにあふれた家庭。両親や周りの人から愛情を注がれ、大切に育てられた。
写真は変顔ばかりのやんちゃな子
幼少期はやんちゃで、底抜けに明るい子だった。
「小さい頃は、いつもみんなでワイワイふざけてましたね。当時の写真を見ると、どれも変顔ばっかりで」
一番古い記憶は、おじいちゃんおばあちゃん、親戚とひな祭りで集まったときのこと。
「みんなで食べるためにおむすびがたくさん作ってあったんですけど、延々と食べ続けてみんなの分がなくなっちゃって。父親にすごく怒られました(笑)」
当時の楽しみは、日曜日に放送されるテレビアニメ。
「アンパンマンや戦隊ヒーロー、プリキュアが大好きでした」
男の子のもの、女の子のもの関係なく、自分が好きなものを楽しんでいた。
02スクールカーストのトップ
目立つのが大好きな人気者
小学校に入学すると、明るく活発な性格はさらに目立つように。
「友だちは多くて、男女関係なくみんなと仲良くしてました」
「目立つ子だけじゃなく、例えば図書館で一人で本を読んでるような、おとなしい子とも、本が好きっていう共通点で仲良くなったり」
クラスのみんなからの投票で、学級委員を務めることもあった。
「先頭に立って何かをやるのが好きでした。目立ちたがり屋だったと思います(笑)」
小学1年生の途中からは、友だちに誘われ、小学校のバレーボールチームに所属した。
「放課後も土日も練習で、当時はとにかく『バレーボール大好き! 楽しい!』って感じでした。高学年になってからは、キャプテンもやりました」
スポーツに打ち込み、いつもたくさんの友だちに囲まれた人気者で、みんなとワイワイ盛り上がるのが大好き。
だが、そんな明るさだけではなく、人ときちんと向き合うまっすぐさも持ち合わせていた。
「人の悪口を言うのがあまり好きじゃなくて。悪口を聞いても否定も肯定もせず、そうなんだって受け止めるだけでしたね」
「悪口を聞いてもいい気はしないし、『自分は誰かを悪く言ったりは絶対にしないぞ』って思ってました」
「人の話にしっかり耳を傾けようっていうのも、心がけてました。母親がすごく優しい人なので、その影響もあるのかな」
人気YouTuberとして活躍する現在も、自分の動画に批判的なコメントがついても、真面目に回答するようにしている。
コミュニケーションを何より大切にし、一人ひとりと真摯に向き合う。
そんな “ぺさ” としてのスタンスの土台は、幼い頃からすでにできあがりつつあった。
憧れの人は明石家さんま
小学3年生のとき、学校の100周年記念で「将来の夢を書いてください」と言われる。
書いた夢は「芸能人」。
憧れの人は明石家さんまさんという、ちょっと変わった小学生だった。
「目立ちたがり屋だったし、おしゃべりがとにかく好きで。『おしゃべりと言えば明石家さんまさん・・・・・・。じゃあ芸能人やろ!』みたいな」
芸能人になるという夢は、中学生になっても続く。
中学校に上がるとスマホや漫画、ゲームが解禁され、見える世界が広くなった。
好きなもの、やりたいことはどんどん増える。
ゲームをやり始めれば、「ゲームを作るプログラマーになりたい」「シナリオライターになりたい」。
ファッションにハマれば、「ファッション業界で活躍したい」「服を作る人になりたい」。
音楽にものめり込み、「自分で音楽を作ってみたい」。夢はどんどん広がり、ひとつに絞るのは難しかった。
小学生の頃はただの憧れだった芸能人。
しかし、中学生で「芸能人や有名人になれば、本業だけでなくいろんな夢を叶えやすくなる」と気付くと、よりリアルな目標になった。
現在は人気YouTuberとして活躍している。芸能人ではないが、立派な有名人だ。
「自分が思い描いてた夢は、あながち間違いじゃなかったなって、思ってます」
03中2で訪れた人生の転機
痴漢に遭い不登校に
中学校ではバレーボール部に入部。
「小学校からやってた自分たちのチームが、そのまま中学校にごそっと移る感じで。メンバーほとんど変わらずなので、やりやすかったですね」
小学校から打ち込んできたバレーボールを、ともに頑張ってきた仲間と続けられるのが嬉しかった。
2年生からは、部のキャプテンに就任。大好きなバレーボールに熱中し、たくさんの友だちに囲まれ、はた目から見れば順風満帆の生活だった。
しかし、心の中は少し違っていた。
「その頃あたりから、心の底に『なんか違うな』みたいなモヤモヤがあって。でも、自分でもなんなのかよくわからなかった」
そんな中、2年生の夏休みに転機が訪れる。友人たちと立ち寄った本屋で、痴漢の被害に遭う。
「通りすがりの男性にお尻を触られて、ショックで頭が真っ白になって・・・・・・。まさかこんな田舎で、まさか自分が被害に遭うなんて思ってなくて」
友だちがすぐに追いかけてくれたが、結局、男性が捕まることはなかった。
警察に相談することにもなり、強いショックを受ける。
「痴漢に遭ってから、外に出るのが嫌になっちゃって。夏休みの部活に行かなくなりました。そのまま2学期も登校できなくて」
女性として見られることへの嫌悪
それまで感じていたモヤモヤは、漠然としていて、「性別への違和感」と言えるようなものではなかった。
「昔からかっこいいものが好きで、スカートは全然履きたくなかったです」
「女子生徒の制服も嫌で、昼休みや放課後はスカートを脱いで体操服のパンツに履き替えたり、胸元のリボンを外したり」
女の子特有のフリフリしたものも嫌いだった。
「母親から女の子らしい服を勧められても『やだ!』って。放課後はかっこいい服に着替えて友だちと遊んで、服を褒められるのが嬉しかったですね」
子どもの頃からいつも「ボーイッシュ」「かっこいい」と言われ、自分でもそれを受け入れていた。
「ありのままの自分でいられる環境だったから、心の底のモヤモヤも、人に相談するほど大きくならずに済んでたんだと思います」
だが、痴漢に遭ったときを境に、モヤモヤは一気に大きくなる。
同時に、それが「女性として見られることへの嫌悪感」を含んだものだということにも気付きはじめた。
04正体不明のモヤモヤ
自分は男?
登校せず家で過ごす時間が増えるにつれ、モヤモヤはどんどんあふれ出て、抑えきれなくなってきた。
「女性として見られるのが嫌」という自覚はある。
しかし、それ以上のことは自分でも何もわからない。正体不明のモヤモヤに、不安だけが募った。
勇気を出し、3学期からは再び学校に通った。それでも、男性への不信感とモヤモヤは消えない。
「そのとき、自分を恋愛対象として好きでいてくれた女の子がいて。痴漢に遭ってからは男性をシャットアウトしてたので、自然にその子と向き合うようになりました」
「ちゃんと向き合ってみたら、その子に対して恋愛対象としての『好き』って感情が湧いてきて」
「自分でも全然嫌じゃなかったし、むしろ心がすごく楽になりました」
もともとボーイッシュで、周囲からは「かっこいい」と言われ続けてきた。
そして、初めて自分から女の子を好きになった。自分でもその感情には違和感を抱かず、自然なことに感じられた。
「女の子が好きだし、ボーイッシュだし。もしかして、自分は男なのかな?と思いました」
膨らんでいく不安
だが、自分自身に「男として生きていきたいのか?」と問いかけてみると、それも違う。
「女としては見られたくない、けど男でもない。じゃあ自分はいったい何者なんだろうって」
自分の立場の曖昧さに、言いようのない不安と恐怖を覚えた。
「やっぱり、自分のあるべき姿に名前があると安心するじゃないですか。例えば、『病名が分からない病気です』って言われるよりも、病名があった方が対応方法が見つけられるような気がして」
「それと一緒です。自分がなんなのかわからないことに、すっごい不安を抱いて」
不安はどんどん大きくなり、再び学校に通えなくなった。
自分は何者なのか。なぜ女性として見られるのが嫌なのか。
そのときは明確な答えを出せず、ただひたすらに悩み続けた。
05 Xジェンダーという答え
「Xジェンダー」の概念との出会い
学校に通えない日々が続く中、自分なりにモヤモヤの答えを見つけようと、インターネットでいろんなことを検索した。
「最初は性同一性障害について調べようとしたんですけど、『性同一性障害』っていう言葉も知らなかったから、なんて調べたらいいかわからなくて」
「テレビでよく見てたはるな愛さんが頭に浮かんだので、『はるな愛』で検索しました」
はるな愛さんのWikipediaを見て、初めてLGBTという言葉を知る。LGBTについて詳しく調べるうちに、Xジェンダーという概念にたどり着いた。
「WikipediaのXジェンダーのページを見たら、『男性でも女性でもない』と書いてあって。自分はもしかしたらこれなのかもしれない、と思いました」
「Xジェンダー」で検索すると、当事者のブログやweb記事がたくさん出てきた。隅から隅まで読み漁るうちに、自分はXジェンダーなんだろうな、と思うようになった。
セクシュアリティについての確信
「それでも、自分が本当にXジェンダーなのか、確信が持てなくて不安で。だから、同じ当事者の人と交流するところから始めようかなと思って、Twitterのアカウントを作りました」
「#Xジェンダー」のハッシュタグをつけて、それまで一人で抱えていた気持ちを、初めてネットの海に放出した。
「最初は、自分のことやLGBTという世間であまり理解されてないことについて、ネットで発信するのは怖かったです」
「けど、だんだん『所詮赤の他人なんだから、何言われても関係ないやん』と割り切れるようになってきて」
自由に思いを発信したり、同じXジェンダーやLGBTの人と交流したりするうちに、「自分はXジェンダーなんだ」という確信が持てた。
長いあいだ悩み続けたことの答えが見つかり、スッキリした。
「他の人の投稿を読んでると、みんなこういう悩みを持ってるんだな、こういう人が他にもいるんだなって安心できて」
「今まで知らなかったことをたくさん知れて、視野も広がりました」
ネットで知り合った女の子と付き合ったこともあった。
「遠距離恋愛をしてて、彼女の住んでるところに会いに行ったりして」
「結局、仲良くなりすぎて『カップルじゃなくて友だちでいいじゃん』ってなって別れてしまったんですけど、今でもすごくいい友だちです」
正体不明のモヤモヤに名前がついた。
インターネットを通して世界が一気に広がり、パートナーや同じ悩みを持つ仲間もできた。
だんだんと「自分のことを周りの大切な人たちにも知ってもらいたい」「みんなにウソをつきたくない」という気持ちが強くなっていく。
セクシュアリティについて、周囲にカミングアウトするときが近づいていた。
<<<後編 2020/01/11/Sat>>>
INDEX
06 本当の自分を知ってほしい
07 全校生徒の前でカミングアウト
08 学校への不信感 再び不登校に
09 YouTuber “ぺさ” としての活動
10 性別からの真の解放