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Writer/酉野たまご

ノンセクシュアルの友人が結婚する-LGBTQ+の恋活事情

「自分は絶対に結婚できない」と思っていた、ノンセクシュアルの友人。結婚だけでなく、恋人を作ることすら諦めていた彼女は、あるときから一念発起して恋活に励むようになった。そのきっかけとなったのは、「自分がノンセクシュアルだと気づいたこと」だった。

ノンセクシュアルの友人が、結婚する

ノンセクシュアルの友人から、結婚の報告を受けた

ノンセクシュアルの友人が、来年結婚する。

本人からその報告を受けたとき、まるで自分事のような嬉しい思いと同時に、なんともいえない感慨がしみじみ湧き上がってきた。

ここ数年、恋愛に対してポジティブに向き合い、体当たりでぶつかっていこうと努力していた彼女の姿を見て、影ながらずっと応援してきたから。

LGBTQ+当事者だからこそわかる、パートナー探しの道のりの険しさと、シンプルに同世代の女性として感じる、恋活の難しさ。

時にそれらを分かち合い、お互いに話し合ってきた友人の立場として、心からの祝福と、彼女を労いたい気持ちがあふれてきたのだ。

そもそも、ノンセクシュアルとは?

その友人(仮にN)と出会うまで、私はノンセクシュアルとアセクシュアル、アロマンティックの違いすらよくわかっていなかった。

ノンセクシュアルもアセクシュアルも、他者に対して性的欲求を抱かない人のことを指す。
ただし、ノンセクシュアルは「恋愛感情を抱くものの、他者への性的欲求は抱かない」、アセクシュアルは「恋愛感情の有無にかかわらず、他者への性的欲求を抱かない」という点に違いがある。

そして、アロマンティックは恋愛指向のひとつで、「他者に対する性的欲求の有無にかかわらず、恋愛感情を抱かない」。

当事者でない人からすると、深く理解するにはちょっと時間がかかりそうな、複雑な定義だと思う。

私自身、友人Nと話すようになってから、やっと「ノンセクシュアル」というセクシュアリティ像が自分の中にくっきりと描かれるようになった。

そして、ノンセクシュアルといっても、人によってそれぞれ感覚の違いがあり、他者に対する性的欲求の抱き方も異なることを知った。

友人Nは、出産や子育てに対して昔から抵抗を感じており、その前段階となる性行為にも必要性を感じない、したくないというタイプであるらしい。そんな彼女が、結婚したいと思えるパートナーと出会うまでに至ったいきさつを、この機会に聞いてみることにした。

LGBTQ+を自認したことで生まれた変化

ノンセクシュアルであることをポジティブに捉えて

友人Nが自分のセクシュアリティに気づいたのは、ほんの4~5年前のことである。

LGBTQ+についての認識が世間で広まっていく中、たまたまSNSで見かけた「ノンセクシュアル」についての記述に共感をおぼえ、「これは自分のことかもしれない」と思ったのだという。

「それをきっかけに、恋人を作ろう! って思ったの」
「えっ? ノンセクシュアルだって気づいた直後に?」
友人Nの話を聞いていた私は、思わずオウム返しをしてしまった。

「うん。これで、自分の性質について相手にちゃんと説明できるって思ったから」
友人Nは明るい調子でそう語った。

セクシュアリティを自覚することは、本人にとって必ずしもポジティブな変化をもたらすことではない。孤独を感じる人も、焦りや不安に駆られてしまう人もいる。

しかしながら、「これで自分のパーソナリティーを他人に説明できる」と、前向きな感情を抱く人も、中には存在するのだ。

友人Nの快活さが、同じマイノリティの立場である私にはとてもまぶしく感じられた。

LGBTQ+であるがゆえの苦悩と安堵

「でも、それなら、自認するまではちょっと大変なこともあったんじゃない?」
私の質問に、友人Nは頷いた。

好意を寄せてくれる人が現れても、性行為をしたいと思えないから、自分からスキンシップをとるのに抵抗がある。

そして、肌が触れないように気をつけて接していると、相手もそれを察して離れていく。
離れていく相手を見送っては、申し訳ないという気持ちになる。その繰り返し。

一方で、自分から恋愛感情を抱く相手は、すでに恋人がいる人ばかりだったという。
その理由は、「叶わない恋だとわかっていれば、安心して相手に近づけるから」。

「でも、それだと友達としては仲良くなれるけど、自分が好きな人の恋人になることはできないから、私って一生恋愛できないんだろうなって思ってたの。だから、自分がノンセクシュアルだとわかって、かえって安心したんだよね」

そう言って笑う彼女に、LGBTQ+である私は強く共感をおぼえた。

私自身、自分が同性愛者だとわかっていなかった頃は、同性を好きになるのは間違った感情だと思い込んで生きていた。

自分で自分の感情を否定しながら生きるのは苦しかったけれど、「普通」になれない自分が悪いのだ、と心の中で言い聞かせていた。

だから、「私の感情が間違っているわけではなかった」という思いと、「私も恋をしていいんだ」という気づきが入り混じった安堵感は、私にもおぼえがあった。

「それで、恋人を作ろうと思って・・・・・・具体的にはどう行動したの?」
興味を抑えきれず聞いた私に、友人Nは軽やかに答えた。

「マッチングアプリに登録したの。3つくらい、同時進行で」

「LGBTQ+ではなく一人の人間として見てくれた」。ノンセクシュアル友人の恋活が実るまで

友人流・マッチングアプリでの恋活の手順

マッチングアプリを始めた友人Nは、とにかく熱心に恋活に励んでいた。

当時は会うたびに「今は2人の人とやりとりしていて、明日は初めて会う人とお茶して・・・・・・」といった報告を聞き、恋愛相談にも乗っていた。

私自身、マッチングアプリを通じて現在のパートナーと出会いはしたものの、彼女ほどアグレッシブに恋活をしていたわけではなかったので、彼女の話を聞きながら素直に尊敬の念をおぼえた。

さらに、友人Nの恋活にはあるポイントがあった。

プロフィールの文面に「ノンセクシュアル」と記載した上で、マッチングした相手の男性に、毎回必ず自分のセクシュアリティについて説明を行っていたのだ。

「まず私のセクシュアリティについて、少し長くなりますが説明してもいいですか?」

そう切り出した後で、ノンセクシュアルといっても人によって他者に対する性的欲求の抱き方にグラデーションがあること、自分の場合はスキンシップは好きだけれど、性行為に関してはNGな部分があることなどをきちんと伝えていた。

なぜそこまで丁寧に説明をしていたのか?
友人N曰く、最初にセクシュアリティについて説明することで、相手をある程度ふるいにかけられるという側面もあったのだそう。

LGBTQ+についてよく知らないという人も多く登録しているマッチングアプリ内では、「ノンセクシュアルです」と言うだけでさまざまな反応が返ってくる。

説明してすぐに返信が途切れてしまう人、「理解しよう」という歩み寄りの姿勢を見せてくれる人、あるいは夜の事情について強引に聞き出そうとしてくる人・・・・・・。

生々しいリアクションを目にしていく中で、つらい気持ちになることもあったという。
それでもこれが現実なのだと割り切って、友人Nは地道に恋活を続けた。

そしてついに、現在のパートナーである男性と巡り合うときが訪れる。

LGBTQ+ではなく、一人の人間として見てくれる男性

最初のやりとりは、共通の趣味であるディズニーの話題から始まった。

はじめから長文でメッセージを送ってきてくれた彼に、友人Nはいつも通り「詳しくお話する前に、私のセクシュアリティについて説明させてください」と返し、毎回全員に送っている説明の文章を送信した。

彼は、戸惑ったり、逆に興味津々になったりといった反応は見せなかった。

「僕はいいと思いますよ」といった、LGBTQ+当事者としてはつい引っ掛かりをおぼえてしまうようなコメントもしなかった。

「話してくれてありがとうございます」という主旨のリアクションの後、またまた長文でディズニーの話の続きを送ってきたのだ。

まるでセクシュアリティのカミングアウトなどなかったかのように、あっけらかんとしたテンションで。

そんな彼の態度に、友人Nは「この人は私をLGBTQ+としてではなく、一人の人間として見てくれている」と感じたという。

セクシュアリティはもちろん重要なテーマではあるけれど、人間を形作る要素のひとつというだけで、自分の本質はそこだけにあるわけじゃない。友人Nがずっと抱いていたその価値観に通じる感覚を、彼も持っているということがわかった。

趣味が合い、価値観が合うとお互いに感じた友人Nと彼は、初デートの後すぐにお付き合いを始めた。

現在のパートナーと出会って

「ノンセクシュアル」ではなく「自分自身」でいられる相手

現在のパートナーと出会ってから、何か変化したことはある? と、友人Nに聞いてみた。

一番の変化は、「彼といると、自分がマイノリティだということを忘れる」ことだそうだ。
カミングアウトしてもまったく態度が変わらなかった彼は、お付き合いを始めても相変わらず誠実に、丁寧に彼女と向き合ってくれているのだという。

「思っていることは言わないとわからないから、お互いちゃんと言い合おうね」と友人Nに言ってくれる彼は、夜の行為についてもきちんと彼女と話し合い、お互い快適に過ごせるよう工夫してくれているらしい。

「私に合わせてくれているんだけど、彼自身楽しみながら色々考えてくれているのがわかるから、引け目を感じることもないの」

そう語る友人Nは、とても嬉しそうだった。

彼と出会う前に、ノンセクシュアルやアセクシュアルの人とマッチングし、実際にお付き合いをしたこともあったのだけど、こんな気持ちになったのは初めてだという。

「一緒にいることで、自分が自分らしくいられる」というのは、LGBTQ+であるかどうかに関わらず、パートナー選びにおいて重要なポイントなのかもしれない。

ノンセクシュアルの友人の、まぶしい未来

自分には恋愛はできない、結婚もできないと長年思い続けていた友人N。

しかしながら、自分の性質を受け入れて恋活に励みことで、ついには結婚したいと思えるパートナーと巡り会えた。

もちろん、同じセクシュアリティの人全員に当てはまることではないと思うけれど、「恋愛したい」という自分の思いと向き合い、ポジティブに行動することで、彼女のように絶対に無理だと諦めていた道が拓ける展開も起こり得るのだ。

ウェディングドレス姿の友人Nの笑顔を想像して、私はくすぐったい気持ちになった。

ディズニー好きな二人のことだから、式を挙げるとしたらきっと、プリンセスとプリンスが並んだようなほほえましい光景が見られることだろう。

 

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