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Writer/雁屋優

選挙結果に絶望しても、私は立ち止まらない

2021年10月31日に投開票が行われた、第49回衆議院議員選挙。同性婚法制化やLGBT差別解消法案に消極的な自由民主党が多くの議席を獲得するという結果になりました。マイノリティであるLGBT当事者やALLYの声は、国会には届かないのでしょうか。来年夏の参議院議員選挙まで、ただ待つしかないのでしょうか。そうではない、と私は考えます。

一夜が明けても、LGBTに厳しい現実

自由民主党が多くの議席を獲得したことに、絶望しなかったといえば、嘘になります。

LGBTやALLYの声は届かないのか

2021年10月31日。ハロウィンらしいこともせずに、私は次々に更新される開票速報を見つめていました。個人事業主として働く私は、インボイス制度がどうなってしまうかが今後の生活を左右するから。そして、どの党が政権を取るかでも、LGBT当事者である私の息のしやすさが変わってくるから。ハロウィンなんて、吹っ飛んでしまっていました。

夜が深まるにつれ、自民党の議席獲得の速報が増えていきます。あのときの私は、祈っていたのではありません。ただ、これ以上絶望させないでくれと、それだけを思っていました。

投票に行って、自分がよいと思う候補者と政党の名前を書きました。私は、この選挙において、自分にできるだけのことをやったはずです。でも、結果はLGBT当事者にとって、そして、私にとって、酷なものでした。

ジェンダーや同性婚は選挙のメインイシューにはなりえない?

選挙期間中、候補者の街頭演説を聞く機会がありました。そこでは、ジェンダーも同性婚も、一言も触れられませんでした。地元の経済を活性化すること、新型コロナウイルスの対策を徹底することを熱弁する候補者の様子、それらに頷く有権者を見ていて、私は気づきました。

有権者の多くにとって大事なのは、他の誰かの権利が守られることよりも、自分の今の生活がよくなると確信がもてることなのだ、と。LGBT当事者の私にとっては、ジェンダーや同性婚、LGBT差別解消法案は、自分の生活がよくなることに直結しています。

しかし、そうではない人達の方が、有権者には多いのです。生活がよくなると期待させてくれる方に、もっと言えば利益をもたらしてくれると思える候補者に票が集まるのも、当然といえば当然です。

ひとしきり嘆いて、それでもまた前を向く

私は、人権の話をしているのに。かつて女性に参政権がなかったように、婚姻の権利を奪われている人々がいることを、社会全体の問題として捉えてほしいと願って、ここNOISEでも書き続けてきました。けれど、有権者の多くにとっては他人事なのです。

しかし、生活もお金も切実な問題です。この日本では、他人の苦しみに構っている余裕などもっていない人の方が多いでしょう。それを理解した上で、私は嘆きました。

人権侵害を容認する投票行動が、こんなにも多かったことに絶望しました。私やさまざまな人々が発信してきたことの、届いていない場所の広さを思い知らされて、それでも、「まだやるべきことがある」「書くことがある」と決意を新たにしました。

投票以外の政治参加とは?

選挙で投票する以外に、政治に働きかける方法はないのでしょうか。なじみがないかもしれませんが、実はいくつかの方法があります。

ロビイング

公民の教科書で、圧力団体という言葉を目にしたことはありませんか。ロビイングは、個人や企業、NPOなどの団体(圧力団体)が、行政や政治に働きかけ、自分達の事業や活動をやりやすくしたり、権利向上を実現したりするものです。

しかしこれには、法律の知識や政治家や官僚と渡りあう精神力も必要で、大変なことであるのは間違いありません。特に、個人で知識をつけ、うまく話せるようになり、といったことをすべてやろうというのは現実的ではありません。一人ではなく、チームを組むのが前提になってくることが多いです。

政策提言

ロビイングの一つに含まれることもありますが、今回はあえて分けて紹介します。政治家に○○な政策を実現してほしいと要望するのが、政策提言です。ロビイングと同じく、知識は必要ですが、最近では政策提言のプラットフォーム、PoliPoli(https://polipoli-web.com/ )の登場もあり、以前よりは実行に移すハードルが下がったといえます。

署名活動

駅前などのリアルな場所やインターネットで署名を集めて、関係機関に提出し、要望の実現に繋げていくのが署名活動です。以前、履歴書から性別欄や顔写真をなくそうという動きがあることをお伝えしましたが、このとき用いられたのも署名活動です。

マイノリティこそ積極的に政治参加を

LGBTは性的少数者と表記されることもあるように、圧倒的に少数です。選挙という多数決の場において、不利であることは認めざるをえません。だからこそ、積極的に政治参加をしていく必要があるのです。マイノリティの政治参加の例を紹介します。

明智カイトさんのロビイング

著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(2015年、光文社新書)がある、明智カイトさんは、ロビイングによって、社会を変えました。2012年に自殺総合対策大綱の見直しが行われた際に、LGBT当事者の自殺率の高さに言及され、その対策案が盛りこまれたのです。

自殺総合対策大綱とは、政府が自殺対策を推進する際の指針のようなものです。そこでLGBT当事者の自殺リスクについて言及されたことは、LGBT当事者を支援する必要性があるという認識を強めるのに、大切な一歩でした。

◎参考
市民アドボカシー連盟 明智カイトさん:シェアからはじめる「草の根ロビイング」
https://publicaffairs.jp/interview_kaitoakechi_13/

糸井明日香さんの政策提言

生まれつき色素が薄く、髪や目の色も薄い遺伝疾患、アルビノ当事者の一人、糸井明日香さんが前述のPoliPoliで行った政策提言があります。「理不尽な校則をなくし、民主的な学校運営を目指す」というものです。

アルビノは約2万人に一人の確率で生まれるとされています。黒髪の人の多いこの国では、アルビノ当事者や元々色素の薄い人々の生来の頭髪に対して、「黒染め」を強要する学校や職場が存在しています。

このような現状に対し、糸井さんをはじめとする人々は、学校から変えていこうと、理不尽な校則をなくすための政策提言を行いました。現在、国会議員の方が政策として実行すべく、動いているようです。

◎参考
ブラック校則をなくし、学校内民主主義を!
https://polipoli-web.com/projects/nwDeOeyGe82D8XwRn9Gk/story

履歴書に関する署名運動

履歴書から性別欄、年齢欄、顔写真をなくそうとする署名活動がそれぞれあります。change.orgといって、インターネットで署名を集めるサイトを利用し、集めた署名を関係機関に提出しました。

これらは、LGBT当事者にも関係のある話です。性別欄に記載した戸籍上の性別と顔写真から読み取れる性別が違っていたら、応募の段階でトランスジェンダーであることが採用側に知れてしまいます。アウティングの強制でもありますし、トランスジェンダーであると知ることで、採用側が無意識であれ意識的であれ、それを理由に不採用とする可能性もあります。

実際に、職務遂行能力に無関係な情報である性別や年齢、顔写真があれば、採用側に差別の意図がなくても、採用結果に偏りが出るという研究もあります。

賛成したいキャンペーンに、インターネット上で署名するのは、そんなに難しいことではありません。数分でできます。こうなったらいいな、と思うキャンペーンがあれば、署名してみるといいでしょう。

◎参考
・履歴書から写真欄もなくそう
https://www.change.org/p/%E5%B1%A5%E6%AD%B4%E6%9B%B8%E3%81%8B%E3%82%89%E5%86%99%E7%9C%9F%E6%AC%84%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%9D%E3%81%86

・日本でも行われている見た目への差別 履歴書の写真欄削除は差別解消の第一歩になる
https://wezz-y.com/archives/81810/3

少しずつ、確実に前へ

政治参加と聞くと、難しそうで、とっつきにくそうに思えるかもしれません。しかし、できることはあるのです。

小さなことから始めてみよう

高度な政治のトピックについて、すぐに議論できるようになるのは、誰でも無理です。少しずつ体験し、積み上げていく必要があります。それをしたいと思わないのなら、しなくてもいいのです。しかし、LGBT当事者やALLYにとって、少しずつでも動く人が増えないと住みやすい社会が実現しないことはまた事実です。

いいなと思ったキャンペーンの概要を読み、署名してみるところから始めるのがいいかもしれません。

政治は、あなたの生活を握っている

時折、「日本が嫌なら、出ていけ」というような主張を目にすることがあります。この主張自体は、横暴で、マジョリティであるがゆえの特権に守られた側からの攻撃であることに間違いはありません。しかし、実際に「出ていく」ことは可能です。

それは、海外移住という選択肢です。しかし、海外移住には多くの困難が伴います。ビザ、永住権、生活習慣や文化、価値観の相違、そういったものを乗り越えるタフさが必要です。もちろん、語学力も欠かせません。

移住したい国がある方、かつ様々な条件面をクリアできる方は海外移住によって、いくつかの問題を解決するのも、一つの選択肢です。

でも、「出ていきたくない」人も、「出ていけない」人もいます。日本の政治は、そのような人々の生活も握っているものです。

息のしやすい国になることを願って、動いていく

現在、日本は大変息苦しい国です。LGBTをはじめとしたマイノリティへの酷な対応や自己責任論の蔓延。息苦しさを加速させる要素は、枚挙にいとまがありません。だからこそ、今在る私自身が生きやすくなるように、まずは私にできることを少しずつでもやっていく必要があると考えています。

LGBT、ALLYに関わらず、この国に生きるすべての人の目標が完全に一致するとは思いません。賛同できるところだけ協力しあい、それぞれに居心地のいい社会をつくる努力をしていけるのがよいのではないか、と考えます。それこそが、多様性を認めあう、ということかもしれません。

政治は、怖く感じるかもしれませんが、避けては通れないものです。自分にできることから、関わったり考えたりしてみませんか。

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