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Writer/酉野たまご

私が同性婚でもパートナーシップ制度でもなく、「事実婚」に興味を持った理由

TBSラジオのPodcast番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』。ある回では、事実婚について視聴者から募集したエピソードをもとに、パーソナリティのお二人がトークを繰り広げていた。戸籍上の性別やセクシュアリティを問わず、誰かとパートナー関係になりたいと思うあらゆる人たちにとって、この話が少しでも参考になればと思う。

同性カップルである私たちが、未だパートナーシップを結ばない理由

同性の恋人と出会い、「一緒に暮らしたい」と思うようになるまで

私はマッチングアプリを通じて現在のパートナーと出会った。

戸籍上、女性である人だけが入会できるそのアプリ(※現在はサービス終了)で出会った人の中で、彼女は最も話しやすく、親しみが持てる存在だった。

数ヶ月間メッセージと電話を重ね、初めて対面でデートをした日にお付き合いをスタート。裏表のない彼女の性格と、自分のことを大事に思ってくれていることが伝わってくる誠実さが、お付き合いの決め手だった。

付き合ってすぐに喧嘩やすれ違いも経験し、遠距離ほどではないが決して近距離とはいえない、中距離恋愛の苦しさも味わった。会える頻度が少ない分、一緒にいる時間をとても濃密に感じ、おそらく一般的なカップルよりも速いスピードで仲が深まっていったのだと思う。

会うとお互いにリラックスでき、離れると気持ちが不安定になる。その繰り返しの中で、次第に、「彼女と一緒に暮らしたい」という思いが募っていった。

パートナーシップを結ぼうと思った、のだけれど・・・

付き合い始めて一年も経たないうちに、私と彼女は同棲を始めた。その頃には、ごく自然に「彼女と結婚したい」と思うようになっていた。

ただし、現在の日本ではそれが叶わない。だから、住んでいる地域でパートナーシップ制度を利用しようと考えた。同性婚ができないのなら、せめてパートナーシップを結びたい―それは、当時の私にとって当たり前にも等しい考え方だった。

しかし、私たちは結局、現在に至るまでパートナーシップを結んではいない。

なぜ私たちはパートナーシップ制度を利用していないのか?

パートナーシップ制度を未だに利用していない理由は、いくつかある。
一つは、私も彼女も、本籍地と現在住んでいる地域が違うことだ。

私の本籍は父親が生まれ育った地域に置かれており、その地域の戸籍を取り寄せるには、車で半日以上かかる現地の役所まで出向くか、必要書類を書いて郵送しなければならない。彼女の境遇も同様で、二人分の戸籍をわざわざ取り寄せ、その上で平日に時間を空け、パートナーシップの届出をするというのはかなり大変な作業に思えたのだ。

そして、最も大きな理由は、パートナーシップを結ばなくても現状、特に支障がないということ。もちろん、いざというときに私と彼女が他人同士としてしか見なされないのは困るけれど、それ以外のデメリットは見つけられなかった。

携帯電話の家族割も、一緒に住んでいるという自己申告だけで適用してもらえたし、幸い引っ越しも無事に終えることができた。

私たちは、新しい生活を二人で構築するのに必死で、非常時のことまで考えられず、パートナーシップを結ぶという話はどんどん延び延びになっていった。

事実婚の世界は、同性カップルにとっても他人事ではなかった

おもしろいPodcast番組を探していて、 “ふうふ” の形、という副題のついたエピソードが目に留まった。そして、「事実婚」の世界が、実は同性愛者である自分にとっても他人事ではないということに気付かされた。

Podcastを通じて初めて知った、「事実婚」の実態

先日、TBSが母体のPodcast番組「OVER THE SUN」を聴いていて、事実婚がテーマとなっているエピソードに出会った。

視聴者からのお便りをもとに、実際に事実婚をしている人や、過去に事実婚をしていた人の実態について語るという回だった。

事実婚、という言葉は知っているはずだったけれど、自分には関係ないものと思い、あまり深く考えたことはなかった。しかし、そのエピソードを聴けば聴くほど、他人事ではないように思えてきたのだ。

「事実婚」とは、婚姻の意思がありながら婚姻届を提出していない状態のことであるという。「同棲」との違いは婚姻の意思の有無にあり、いわゆる「内縁」や「婚約」が事実婚に近い状態なのだそうだ。

法律婚をしないことで、婚姻届の提出や名義変更等の手続きは省略できるが、遺産の相続や税金の控除、パートナーの手術同意書にサインする際などに不都合が生じるのが「事実婚」の実態である。それでも、事実婚を選択する人はかなりの数存在するのだ。

事実婚についての話を聴きながら、ふと思った。
私は今、結婚できるとしたら、本当に結婚したいのだろうか?

結婚=法律婚に、抵抗や疑いを抱いていなかった頃

もともと、私は結婚というものに対して抵抗感はなかった。特定の誰かと安定した、揺るぎない関係を築いていくためには、その手続きが必須だと信じていたからだ。

本やドラマや映画に出てくるカップルたちの多くは、たいてい最後には結婚していた。
「結婚しよう」という相手の言葉に、涙ぐんだり、幸せそうに微笑んだりして頷く描写はあっても、「待って、それは法律婚をしようっていうこと? 私は自分の苗字を変えたくないから、ちょっと相談させてもらいたいんだけど」といった切り返しをする描写は見たことがなかった。

結婚式には特に憧れを抱かなかったけれど、「私はこの人とずっと一緒にいる」という決意を、誰かと二人で固めてみたいという思いはずっと持っていた。

そのためには法律婚の手続きが、つまり婚姻届の提出が必要不可欠だと思い込んでいたのだ。

法律婚って本当に必要? 事実婚の理由を知って揺らぎ始めた心

Podcast番組「OVER THE SUN」では、事実婚に関するさまざまな話を聴くことができた。

「苗字を変えたくない」「既存の婚姻関係に自分たちを当てはめるのに違和感がある」等、事実婚をする理由は人によってそれぞれだけど、聴いているうちに、「法律婚をしなければならない」という理由はまったくないことに気がついた。

私とパートナーが異性同士であっても、あるいは同性婚が法律上認められる状況であったとしても、法律婚をするかどうかは私たちの自由なのだ。

パートナーのことは大好きで、可能であればこの先ずっと一緒にいたいと思う。それでも、法律婚をしたいか? と改めて問われると、「したくないかもしれない」という思いが次第に大きく膨らんでいった。

それと同時に、少し前向きな気持ちも湧いてきた。

「同性同士では結婚できないから」というネガティブな理由からではなく、積極的に「法律婚をしない」という現状を私は選んでいるのだ、という発想の転換ができたからだ。

「結婚できない」私は、本当に「結婚したい」のか?

事実婚について知った私が、法律婚に抵抗を感じる理由

私が改めて、法律婚に躊躇をおぼえる理由は3つある。

一つは、日本では夫婦別姓がまだ認められていないということ。つまり、結婚すると私かパートナーのどちらかが姓を変えることになる。

私は自分の姓が変わるイメージも、パートナーが私と同じ姓になるイメージもうまく思い浮かべることはできない。三十年近く呼ばれ慣れて、親しんできた自分の姓を手放すことには、多少なりとも抵抗を感じる。

二つ目は、法律婚=イエ同士の結びつき、という印象が強いということ。古い考え方かもしれないけれど、結婚すると、相手の家族や親族と無関係ではいられないという気がする。私たちがそう思っていなくても、自分やパートナーの親族がどう思うかはわからない。

私たちは同性同士のカップルであるがゆえに、お互いの親族との関係は薄い。相手のご両親ときちんと対面したこともなく、親戚に不幸があっても同行はしない。里帰りの際も、ただ相手を送り出すだけである。

家族ぐるみで仲良くなるという幸せな未来も有り得るけれど、親族間で揉めたり、何らかのトラブルが起こった際にパートナーの家族を巻き込んでしまったりと、望まない結果が生まれてしまう可能性もある。

私は、パートナーと私の関係の外で、不要なトラブルを生みたくないとどうしても思ってしまうのだ。

そして、三つ目の理由は「夫婦」という関係性に対する先入観である。

私たちは同性同士なのでそもそも「夫婦」とはならないのだけれど、異性同士であれば「ご主人」「奥さん」と呼ばれる可能性がある。呼ぶほうに悪気はなくても、当たり前のように男性側を主(あるじ)と見なすような関係性に、私は自分たちを当てはめたくないと思う。

パートナーが女性であることを知らない私の祖父母

私が特に性別について言及していないので、祖父母は私のパートナーのことを「彼氏」もしくは「旦那さん」と呼ぶ。そして、たまに私が実家に泊まることがあると、祖父母は「家のことはしなくていいの?」「旦那さんの食事はどうしているの?」といった質問を投げかけてくる。

私はその度に、少し言葉を詰まらせてしまう。

現代においても、男性が外で働いて、女性が家事を担当するというカップルの形を想定する人は一定数いるのだ。

結婚していない私ですらそうなのだから、実際に結婚したら、ありとあらゆる偏ったイメージや先入観をぶつけられることだろう。それをぶつけてくる相手が自分の両親や祖父母だとしたら、見ず知らずの相手に言われるよりもずっとしんどいことだと思う。

同性カップルにも当てはまる、「公正証書」という事実婚のための手段

Podcast番組「OVER THE SUN」に寄せられたお便りの中には、同性同士でお付き合いをしている方の話もあった。

その方は、パートナーシップ制度を利用するのではなく、公正証書を作成するという方法で、パートナーの方と関係を結ぶ予定だという。

公正証書とは、この場合「準婚姻関係公正証書」を意味し、異性カップルが事実婚をする際にも利用することがあるシステムである。そこには、共有財産や二人の関係性について明記できる他、同居についてのルールや努力義務、不貞の概念等についても記載することができる。

私は、同性カップルが公的に認められるためには、パートナーシップ制度か養子縁組しか手段がないのだと思っていた。今のパートナーと出会った頃にはすでにパートナーシップ制度が一般的になっていたので、公正証書を作成するという手段が存在すること自体に新鮮な驚きをおぼえた。

他の地域に引っ越す際には一度解消する必要があるパートナーシップ制度と比べて、公正証書はより法的拘束力が強く、信頼できる手段に思える。

お金も手間もかかるけれど、一考の価値がある選択肢であると感じた。

同性婚の法制化だけじゃない、私たちが考えるべきこと。

パートナーとの関係性について熟考できる、公正証書のメリット

公正証書を作成するというのは、単純に婚姻届を出すよりも、パートナーシップ制度を利用するよりもずっと面倒な手段である。

しかしながら、その面倒さを補って余りあるメリットがあると私は思う。それは、「結婚とは何か?」をパートナーと一緒に考える大事なきっかけになるという点だ。

私とパートナーが今、簡単に結婚できる状況であったとしたら、おそらく結婚の概念について深く考えることはなかったと思う。少なくとも、当面の間は。

公正証書は記載する内容を自分たちで決められる分、「私たちはどういう関係になりたいのか?」を考え、話し合う必要が出てくる。

どういった行為が浮気に該当するのか。
同居の際、家事の分担や家計の負担についてはどのようなルールを設けるか。
良好な関係を維持するために、お互いに意識すべきことは何か。

普段は考えもしないような、でもずっと一緒にいるためには無視できない話題についてとことん話し合い、二人だけのルールを作っていく。

それは、異なるルーツを持った二人の人間が家族という新たな関係性に踏み出すために、かなり重要な役割を担う手段ではないだろうか。

同性婚、事実婚・・・誰もが自由にパートナーとの関係を選べる未来が訪れるまで

事実婚、そして公正証書の存在を知ってから、私は手放しに「同性婚が法制化されたら結婚したい!」とは言えないな、と思うようになった。

選択的夫婦別姓や、夫婦間のジェンダーギャップについての問題が未だ根強い今の日本において、同性婚の法制化と同時に解決すべきことがまだまだ山ほどあるからだ。

ただカップルとしてお付き合いをして、それがずっと続くというだけの気楽な関係も、綿密な話し合いをせずともスムーズに婚姻関係を結べる法律婚のシステムも、そして事実婚も、それぞれに良さがあり、誰もが自分たちに合っている方法を選べる世の中であればいいと思う。

私自身、パートナーと家族になりたいという思いは今でも変わらずにある。

パートナーシップを結ぶか、公正証書を作成するか、そしてもし同性婚が法制化されたら、法律婚をするのかどうか。これからパートナーと話し合い、自分の気持ちと向き合いながら、じっくり考えていきたい。

 

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