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Writer/Moe

フェムテックが向き合う身体は、LGBTQの身体でもある

生理、妊娠、避妊、セルフプレジャーなど、生物学的女性の身体のあらゆる健康課題を解決するためのサービスやプロダクトが注目を集めている。「フェムテック」だ。女性のものと思われがちだが、LGBTQ視点での取り組みも重要な側面だ。

女性の身体の悩みを扱うフェムテックとLGBTQ

Female bodyを持つのは女性だけ?

「フェムテック(Femtech)」はfemale(生物学的な女性)とtechnology(技術)を組み合わせた造語で、女性の身体の健康にフォーカスしたサービスやプロダクトを指す。ドイツ発の、月経や妊娠可能性をトラッキングするアプリ「Clue」を開発した起業家イダ・ティン氏によって2016年に提唱された、比較的新しい概念だ。「Clue」は徹底してジェンダーニュートラルな視点を重視しているが、詳しくは第2章で後述する。

フェムテックのアイデアは、今や世界中に広まった。生理や妊活のアプリの他にも、避妊ツールや遠隔医療、卵子凍結事業など、その目的や切り口はさまざまだ。また、セクシュアルヘルスやセルフプレジャーに関するプロダクトも多く展開されている。

日本国内でフェムテックというと、どのように捉えられているだろうか。例として、経済産業省のフェムテック事業紹介のウェブサイトを見てみる。ここで掲げられているのは「働く女性の妊娠・出産や更年期等ライフイベントに起因する望まない離職を防ぐ」というアプローチ。

紹介されている事業を見ると、月経・PMS、妊活・不妊治療、産後ケア、更年期、婦人科疾患・・・・・・などなど。そこで描かれているターゲット像は「妊活や出産を経て働き続ける女性」という、かなり限定的なものになっている印象を受けた。

経済産業省の描くフェムテックのターゲット像に、私は何か足りないものを感じずにはいられなかった。妊活や出産を望んでいる女性と、働き続ける(または働き続けたい女性)が、必ずしもイコールではない。それと同じくらい気になるのは、生物学的な女性の身体に悩みを持つのは、女性だけではないという視点が欠けていることだ。

フェムテックはLGBTQにも関わること

NOISE記事「月経に悩むノンバイナリーの私が、子宮とサヨナラすることにした話」では、ノンバイナリーのライター・きのコさんが、女性の身体を持つことや定期的にやってくる月経への苦悩を経て、子宮を全摘出する決意に至った経緯が細やかに、かつライトに書かれている。

これを読んで、私は生理のわずらわしさに共感する気持ちと共に、子宮全摘出とはとても勇気のいる決断だと、驚きも感じた。そして、「生理って面倒だよな、ヤダな」と毎月文句を言いながらもそのままの身体で生きていけている私の感覚とは、違和感の強さが違うのだろうと思った。

そのような感覚を抱えて生きているノンバイナリーやLGBTQの人々は沢山いるのだということに気づいた。だからこそ、female(生物学的な女性)な身体への苦悩に向き合うフェムテックは、LGBTQの人々に役立つことがあるだろうし、役立てられるべきだし、フェムテック事業を提供する側もLGBTQ視点を忘れては、今後の発展は限られてしまいそうだ。

フェムテックのパイオニア「Clue」のLGBTQ包括性

「Clue」が押し出すジェンダーニュートラル

フェムテックという言葉をそもそも生み出したドイツの会社「Clue」は、設立当初からLGBTQに向けた発信を積極的に行っている。生理アプリにありがちだったピンクなどの色合い、ウサギや子ネコなどのイラストなどをあえて排除し、ジェンダーニュートラルなアイコンをブランドイメージに使用しているところからも、その意図が読み取れる。

「Clue」は、昨年6月のプライド月間に新しいカスタマイズ機能について発表した。LGBTQを含む全てのユーザーに向けて、月経サイクルをトラックするだけでなく、ホルモン剤やその他の薬を摂取する時間をリマインドしたり、より安全なセックスのため、パートナーが複数いてもログを残せるようにするなど、充実した機能を備えている。

「Clue」の公式インスタグラムでは、生理に関する知識だけではなく、「私達の身体は私達のアイデンティティを決定しない」「LGBTQIA+を包括する性教育と個々のジェンダーを肯定する医療へのアクセスは命を救う」など、ジェンダーニュートラルな視点でのメッセージや情報を発信している。

また、自社メディア記事では世界中にユーザーを持つ強みを生かし、LGBTQユーザーの声を紹介している。次項では、そんなリアルな悩みが伝わってくる記事の一部を紹介する。

トランスジェンダー、ノンバイナリー視点で語られる生理

「全ての女性が生理を経験するわけではない。そして、生理を経験する全ての人が女性というわけでもない」。説得力のある、こんな一文を含む記事では、自分を女性として認識しない人々が生理の時にどのように過ごしているか、その時に感じる不安や違和感について語られている。

「出血している感覚を感じたくないから、タンポンを使うんだ」「(生理中に)外出する時は胸をバンドで巻いて、平らになった胸を見ることで少し気がまぎれる」と言った声や、「生理不順はトランス男性の間でよくある経験の様に思えるので、(生理不順が無いと)『自分は十分にトランスじゃない』と思うときがある」といった複雑な感情を語る声もあった。

それを踏まえ、生理に悩む全ての人に役立つ情報がいくつか紹介されていた。特に、「自分のアイデンティティを積極的に肯定する服装(胸バンドや股間パッドを含む)や言動をしよう」とか、「ピルや注射、IUDを使って生理を止めるのもアリ」とか、「女性的なものとは関係ない、新しい名前を付けて生理を呼んでみよう」と言ったアドバイスに、LGBTQ視線を包括したユニークさを感じた。

トランス男性の妊娠・出産経験にもインタビュー

「Clue」は、生理と同じくらい「女性らしさ」と結び付けられやすい妊娠や出産についても、LGBTQ視点から捉えなおすような取り組みをしている。アプリ内には「Clue Pregnancy mode(妊娠モード)」を設置し、妊娠フェーズのトラッキング、メンタルヘルス、そして産後リカバリーに関するサポートを提供。

「pregnant woman(妊娠している女性)」と言わず、「pregnant people (妊娠している全ての人)」という用語遣いを重視し、ジェンダーニュートラルの指針をここでも徹底している。

自社メディアには、アメリカ・カリフォルニア州のトランス男性の妊娠・出産の経験をインタビューしている記事を掲載。トランスジェンダーの人々へ医療を提供する場所はあるが、妊娠・出産に対応をしたことのあるのはカリフォルニア州でもまだ少ないことや、出産の現場というのは女性が多いところであり、人によっては女性に囲まれることに困難を感じるかもしれないということを心に留めておいて欲しい、など経験者ならではのアドバイスに溢れていた。

「妊娠にまつわる文化は、どうしたらトランスジェンダーの妊娠者たちをインクルードしやすくなるだろうか?」という問題提起もされていた。出産経験者のトランス男性によると、妊娠中に出会うあらゆるプロダクトや資料などが「母性」にフォーカスしていると感じられたそうだ。「違和感ほどではないが、私がここに含まれていないと感じた」「もっと子供を産むプロセス自体にフォーカスした資料があってもいいはずだ」と語っている。

また、記事中のトランス男性が「妊娠中の服装について悩まされた」と言っていたことも大事な点だと思った。「オーバーサイズのTシャツやスウェットパンツは自分のスタイルではないし」「男性的美的感覚に合う妊娠服が合ったら良いと思う」というコメントをしている。

自分のボディ・イメージに合う服が見つからないことで、自分に対して気持ちが良くないという状態は、妊娠期間中は特に困難を強いるのではないだろうか。

「Clue」はこうした声を取り上げ、医療や助産の現場にも、LGBTQ視点の必要性があることを訴えている。

フェムテックフェスで見た、LGBTQ視点の取り組み

フェムテックフェスに行ってきた

10月14日~16日に六本木アカデミーヒルズで開催された、「Femtech Fes!  2022」に行ってきた。

私が行ったのは初日の夕方ごろ。平日にもかかわらず沢山の人がやって来ていた。六本木ヒルズという場所柄もあって、ビジネス風の服装の人々が目に付いた。スポンサーにも大手企業が付き、フェムテックの国内での盛り上がりを感じた。

「あなたのタブーがワクワクに変わる3日間」というこのイベントのキャッチフレーズに、私はすでにワクワクしていた。生理のことやセクシュアルヘルスのことを、大々的に取り上げるイベントは、私にとってとても新鮮だった。

生理用品やデリケートゾーンのケアなど、今までも世の中に溢れていたような展示内容は、女性向けのものが多い印象だったが、それでも国内外からのスタートアップ企業による革新的な商品やサービスも沢山あった。あらゆるニーズに応えるセルフプレジャープロダクトや、自宅で排卵期やホルモン状態のチェックができる検査キットなど、実にさまざま。

日本のスタートアップ企業によるLGBTQ向けの取り組みにも出会ったので、紹介したい。

セクマイ向けセクシュアルウェルネス事業を展開する「nopole」

nopole」は、「あらゆる愛のキッカケを提供し、全ての人が自分を楽しむ世の中の実現を目指す会社」という、楽しげなキャッチコピーを持っている。メイン事業のひとつとして、FTMやレズビアンなど、セクシュアルマイノリティ向けのセクシュアルウェルネス事業を展開している会社だ。

「フェムテックフェス!2022」で展示されていた製品は、「nopole Zero」というもの。テニスボールより二回りほど大きい柔らかいシリコン製の球体で、5段階の振動を設定できるようになっている。これを、カップルがお互いの好きなところに当てて楽しむ、というコンセプトのセクシュアルウェルネスアイテムだ。

「男性と女性」という身体の組み合わせを前提としたプレジャーグッズが多い中、「nopole」のアイテムはLGBTQなどより多くの人が楽しめるような画期的なものだ。実は、昨年9月までクラウドファンディングで資金集めをして実現されたそうだ。

現在も閲覧可能なクラウドファンディングのページでは、「nopole」代表モリタジュンタロウ氏自身の経験や苦悩、製品開発に至るまでの調査や研究のプロセスについて知ることができる。沢山の思いが詰まった、まさに「たまもの」のような製品だと思った。

そして、クラウドファンディングによってこれだけの資金が集まるということは、それだけLGBTQ向けのセクシュアルウェルネスに関心が集まっているという実情を忘れてはならない。

セクシュアリティ問わず、自分の身体を心地良く

フェムテックというと、その言葉の響きからしていかにもフェミニンなイメージを感じるかもしれない。でもこれには、背景がある。

提唱者のイダ・ティン氏は、男性の多いビジネスの場において、生理や妊娠などの課題をうまく話し合うためにこれらを括って「フェムテック」と言うカテゴリーを作ったのだ。

女性の身体特有の課題や悩みなどを、「フェムテック」と括れば、男性でもビジネスのディスカッションで口に出しやすくなり、かつこれらの課題の存在感を高めるためにも有効だったのだろう。

実際フェムテックフェスに行って開発者たちと話して感じたのは、まごうことなく存在するfemaleな身体に向き合い、その悩みを解決することに一番フォーカスが当てられているということ。そこに、セクシュアリティによる差別化は無い。

心地良さを探求するフェムテック、活用しない手は無いでしょう。

■参考情報
全部知ってた? フェムテックの元祖Clue総まとめ。企業意識と最新デジタル避妊薬 | ランドリーボックス
Clue (@clueapp)インスタグラム
Why Founder of Clue Ida Tin Coined the Term ‘FemTech’ |insider.com

 

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