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Writer/きのコ

月経に悩むノンバイナリーの私が、子宮とサヨナラすることにした話

ノンバイナリーとかジェンダークィアとかXジェンダーという言葉で自分を名付けるようになってから、もう10年近く経つ。身体女性ならではの月経が煩わしくて、月経コントロールのためにミレーナを入れようとした矢先、子宮筋腫で「器質性月経困難症」と診断された。今回は、そんなノンバイナリーで身体女性の私が、子宮とすったもんだしてきた様子を綴ってみたいと思う。

ノンバイナリーとしての私と月経

「女性の身体で生まれたからには、子供を産まなければいけない」というプレッシャーをずっと感じて生きてきた。女性とか男性っていう性別や性自認がよく分からないけど、身体が女性に分類されるなら、”女性” をしなければならない、と思っていた。

ノンバイナリーとしての私

私はノンバイナリーだ。ジェンダークィア、Xジェンダーといった表現を使うこともあるけれど、おおよそは同じ意味で使っている。
ノンバイナリーとは、性自認が女性または男性という二分法(バイナリー)に当てはまらないことをいう。日本では、宇多田ヒカルがノンバイナリー当事者として知られている。

私は自分が女性か男性かという以前に、性別・性自認という概念がよく分からないし、よく分からない概念を使いたくないし、よく分からない概念に基づいて自分のジェンダーを世間から決めつけられたくもない。だからある種の主義、男女二元論への抵抗としてノンバイナリーを名乗ってきた。

身体女性の私と月経

しかし自認はノンバイナリーであっても、身体はどうしようもなく女性だ。そのことが、たまにぼんやりつらくなる。

スポーツや筋トレが好きだけど、どんなに頑張っても、男性には敵わないことが多い。どんなに鍛えても、男性に比べると腹筋をバキバキに割るのは難しい。

身体女性だから、小学校高学年の頃から月経だってある。妊娠や出産に興味がないわけではないけれど、私が望んでもいないのに、身体が勝手に妊娠の準備を毎月整えることには閉口している。頼んでないよ・・・・・・。

低用量ピルでの月経コントロール

月経コントロールする理由

そういう月経の煩わしさもあって、20代前半の頃から、低用量ピルで月経をコントロールしてきた。

月経をコントロールするのは、単に出血や月経痛が鬱陶しいというのもあるけれど、何よりセックスが好きで大切な趣味だからだ。月経のタイミングだからセックスできないとか、妊娠の可能性があるとか、そういうことでセックスの楽しさを削がれたくない。

セックスが好きで、安心安全に楽しみたいから、月経コントロールと避妊と性病予防には人一倍気を遣っているつもりだ。

低用量ピルも完璧ではない

だけど、低用量ピルでの月経コントロールだって完璧というわけではない。低用量ピルを呑んでいても月に1度どうしても月経はくるし(3ヶ月に1回しか月経が来ないようにできる低用量ピルもあるが、私の身体には合わずコントロールがうまくいかなかった)、来てしまえばどんなに軽くて短くてもやっぱり月経は煩わしい。

毎日同じ時間に低用量ピルを呑む のも面倒くさい。服薬をうっかり数日忘れてしまえば、月経が来てしまう。きちんと服薬管理ができないと、むしろ月経のタイミングがめちゃくちゃになってしまうことがある。

できれば月1回ではなくて、もっと年単位で月経が来ないようにしてしまいたい、と考えるようになった。

ミレーナ(IUS)を入れようとしたら

IUS(子宮内システム)の一種「ミレーナ」

低用量ピルを呑むのも面倒になってきたし、ピルを呑んでいても月経がなくなるわけではないので、私はミレーナを子宮に入れようと思い立った。

ミレーナというのは、IUS(Intrauterine System:子宮内システム)の一種だ。子宮内に設置する小さな双葉のような器具で、柔らかいプラスチックでできている。コレが黄体ホルモンという女性ホルモンを数年のあいだ子宮内に放出し続けることで、避妊効果をもたらすという仕組みだ。

効果は低用量ピルと同じだが、毎日服薬する面倒くささがない。毎日服薬する必要がないということは、うっかり服用を忘れて月経が来てしまうこともないということ。低用量ピルに比べてはるかに楽だ。

体質にもよるが、場合によっては月経が数年間こなくなる人もいるという。コレを使わない手はない。ということで、産婦人科を訪れた。

子宮筋腫のせいでミレーナが入らない

産婦人科で改めて受けた検査で、「子宮筋腫が多すぎ・大きすぎてミレーナが入らない」と言われた。ミレーナを入れる前に、子宮筋腫を小さくする治療が必要なんだそうだ。

私の子宮に子宮筋腫があるのは知っていたし、毎年の健康診断では数年前から「しばらく様子を見ましょう」と言われていて、あまり気にしていなかった。子宮筋腫のできる女性は多いし、ありふれた良性の腫瘍だと思っていたからだ。私の母だって、子宮筋腫をいくつも切除する手術をしたことがあると言っていた。それが、ミレーナが入らないほど子宮筋腫があるって、どういうこと?

とにかく、別の大きな病院でMRI検査を受けることになった。MRIで撮った私の子宮の中を見て衝撃を受けた。なんというか、ブドウを裏返したみたいにびっしりと子宮筋腫が詰まっていたのだ。

器質性月経困難症の診断と治療

器質性月経困難症の治療と疑似的な ”閉経”

というわけで、私には「器質性月経困難症」という病名がついた。ただの子宮筋腫、と思っていたものが病気と呼ばれるほど深刻な状況だったなんて、早く言ってよ・・・・・・という気持ちだ。

とにかくその子宮筋腫を小さくするために、一時的に低用量ピルを呑むのを止めて、レルミナという薬で疑似的な ”閉経” の状態をつくることになった。女性ホルモンを止めて閉経を起こすのだから、更年期障害的な症状だって出る。

いわゆる「ホットフラッシュ」が特にキツかった。1日に何度か、何の前触れもなく急にカッと体が火照って汗をかくのだ。数分で治まるものではあるけれど、タイミングが読めないし発作の最中はそれなりにしんどい。

「いっそのこと子宮を取ってしまおうか・・・・・・」

器質性月経困難症の治療をする中で、「いっそのこと子宮を取ってしまおうか・・・・・・」という考えが頭をもたげてきた。

40歳を前にしてこれからの人生、子育てはしたいとしても、自分での出産はもうしなくてもいいんじゃないかと思っている。京都にいる同性パートナーが「妊活して、一緒に子育てしようか」と言ってくれているし、彼女が産んだ子供を一緒に育てられるなら、私自身は無理に産まなくたっていい。

アルテイシアさん神田つばきさんの子宮摘出エピソードを読んでいたおかげで、子宮を取ることにあまりネガティブなイメージはない。子宮を摘出したからと言って、大好きなセックスにおいて不都合を感じることもあまりなさそうだ。

何より、薬で女性ホルモンを止めている間は、月経も止まる。更年期障害の煩わしさはあるけれど、月経が来ない生活は快適だ。

そんなことを治療中ぼんやり考えていたのだが、実は薬で女性ホルモンを止めていられるのは最長6ヶ月まで。その6ヶ月が過ぎて薬の服用を止めたら、数ヶ月して月経が再開してしまった。

半年以上月経のない生活を満喫した後では、久々の月経はどうしようもなく苦痛でしょうがない。それで、改めて子宮摘出が一気に現実的な選択肢として眼前に迫ってきた。

器質性月経困難症と子宮動脈速塞栓術

実際にどんな方法があるのか調べてみたところ、子宮動脈塞栓術(UAE)という方法を知った。

子宮動脈塞栓術とは、子宮に栄養を送っている「子宮動脈」にカテーテルで塞栓物質を注入して塞ぎ、子宮筋腫の血流を止める治療法だ。子宮筋腫への酸素の供給を絶つことで、組織が死んで縮小していき、子宮筋腫による症状の改善が見られるという。

手術に比べて、子宮動脈塞栓術には以下のような利点があるそうだ。

・開腹手術をしないので、体に付く傷が数mm程度と小さい
・数や部位に関わらず、すべての子宮筋腫に対して一度に治療ができる
・入院期間が3泊4日程度と短く、退院後の回復が早い
・全身麻酔や腰椎麻酔が不要で体への負担が軽く、合併症を起こす可能性が低い

ということで、子宮動脈塞栓術について病院で相談してきた。

結論から言えば、子宮動脈塞栓術で子宮筋腫を壊死させたとしても、機能を低下させるとはいえ子宮は残るので、月経がなくなるとは限らないらしい。それに、子宮頸がんのリスクもゼロにはならない。

これが決め手となって、やはり子宮を全摘出するしかない、と考えるに至った。

子宮とのサヨナラ。全摘出に向けて

ノンバイナリーとして、もともと自分の女性としての身体に愛着はなかった私。性別違和と言っていいのか分からないけれど、女性性を削ぎ落とすことに漠然とした憧れはある。

”女の象徴” と言われる臓器・子宮を取ってしまうのも、ある意味、女性性に抵抗してノンバイナリーを名乗っている私らしいかも・・・・・・なんて思わないでもない。だから子宮にサヨナラしようと思う。女性の身体をうまく着こなせない私のままで、それでもできるかぎり快適に生きていきたい。

それにしても私の子宮、とにかく金はかかるし世話が焼ける。

婦人科での血液検査が5000円、MRI検査が8000円、薬が9000円。(ちなみにもし子宮を温存するなら子宮頸がんワクチンも打った方がいいし、となるとワクチン接種3回で計10万円かかる。)手術で子宮を取るなら26万円だそうだ。なんにせよ、今後も出費が嵩んでいくのは間違いない。溜息が出てしまう。

そんな手のかかる子宮だからこそ、摘出する前には、盛大に ”子宮お別れ会” をやるつもりだ。

女性の身体をもった私達は、大なり小なり女性性とか、出産とかいう圧を受けている。子宮の ”呪い” と言ったっていいかもしれない。その呪いから、女性というジェンダーの圧力から、ノンバイナリーとして解き放たれるきっかけになるようなお別れ会にできればと思っている。

 

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