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Writer/雁屋優

ビアンバーに行ってみたい

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないこの時期ですが、私は行きたい場所があります。それは、ビアンバーと呼ばれるところです。どうして行きたいのか、考えてみました。

ビアンバーを検索するようになった

ある時期から、私はスマホでとある言葉を検索するようになりました。それは、ビアンバーです。

存在を知ったのは、友人の言葉

大学生だった数年前、LGBTについて調べている友人にゲイバーやレズビアンバー、ミックスバーの存在を教えてもらいました。ゲイバーやビアンバー(レズビアンバーの呼び名です)はその名の通り、ゲイやレズビアンの人が出会う場所です。

ゲイやレズビアンなど、対象のセクシュアリティ限定のお店もあれば、曜日やイベントによってさまざまなセクシュアリティの方々が入れるお店もあります。

ミックスバーとは、さまざまなセクシュアリティの方が集うバーです。

「そういう場所があるんだよ。よかったら行ってみる?」。そう説明されましたが、そのときは成人したばかり。バーというだけで、価格が高いのではないかと怖がり、断ってしまいました。

居場所としてのビアンバー

そんなときに、『ゲイ風俗のもちぎさん』(もちぎ、KADOKAWA)の書籍化前の漫画をTwitterで読んで、ゲイバーはそんなに怖くないのかなと思うようになりました。もちぎさんの優しくおもしろい描写が、私のなかの偏見や恐怖を少しずつ溶かしていきました。

ただ、私はゲイの方であっても、男性である時点で、恐怖の対象になってしまうのです。男性が怖い、という気持ちは拭えるものではありません。だから、この時点でゲイバーに行ってみようとは思いませんでした。

そして、友人の説明を思い出し、ビアンバーに興味を持ちました。女性オンリーのバーや女性オンリーの日に行けば、私でも、誰かと話せるかもしれない。そう思ったのです。そして、そこには私の居場所もあるのかもしれません。

気になるけど怖い

しかし、ビアンバーは基本的にレズビアンの女性が友人や恋人を求めて行く場所です。そこにアセクシュアルである私が、つまり誰のことも恋愛対象にはならない人間が行くことは、邪魔ではないのだろうか、と不安になりました。

セクシュアリティを明らかにしたとたんに、話しかけられなくなったりしたら、それは悲しいです。話してみたくて、ビアンバーに行こうとしているのですから。だから、ちょっと怖い。

レズビアンではなく、アセクシュアルで、居場所を探してバーに来たと明かしたときの反応を想像しては震える夜もありました。勝手な想像ですが、友達や恋人を見つける場にいる人々は、恋愛対象にならない人間に対して冷酷になるような気がしたのです。

事前情報を集めるようになった

何が起こるのかわからないからこそ、私はビアンバーについて、事前情報を集めました。

コミュ力がなければ楽しめない?

ビアンバーに行ってみたいと思うようになった私ですが、よくわからないお店に行くのはやはり怖いので、事前情報を集めることで、不安を拭い去ろうとしました。自分をレズビアンではないと思っているのに、私はビアンバーに行っていいのか、また、お酒もそんなに飲めないのに楽しめるのか、そして、最大の問題。コミュニケーション力です。

私はコミュニケーションに難があります。発達障害の特性の一つということもありますが、そもそも会話の経験値が少なく、だからこそ、うまく会話ができません。会話を楽しむことは、私にとってハードルが高いのです。それなのに、人と話してみたいと思っている。矛盾がひどいとは、自分でも思います。

もちろん、バーには接客のプロである店員さんがいるので、コミュニケーションが下手でも何とかなる可能性は高いです。そんなことは、わかっているのですが、どうしても怖くて、お店の情報を調べ続けていました。

曜日ごとにイベントなどがある

気になるお店を調べていくと、曜日ごとにイベントなどがあったり、曜日ごとに入店できるセクシュアリティの人が違ったりしました。このイベントのときなら、私も行っていいかな、このときには行けないかな、などと考えて、そして熟考のすえ、まだ足が動きません。

一番怖かったのは、やはり、セクシュアリティを理由に、疎外されないか、ということでした。そしてその不安は事前情報を集めても、あまり消えませんでした。これには私自身の人間不信もあったと思います。近いマイノリティ性を共有する人たちであっても、人間は人間。つまり、人間を信じるというごく当たり前のことができなかったのです。

行けないなかで考えたこと

そうこうしているうちに、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、お店のタイプに限らず、気軽に行くことができなくなりました。

ビアンバーは本当に私の居場所たりうるか

先ほど、居場所を求めてビアンバーに行こうとしていると書きましたが、本当にビアンバーは私の居場所たりうるのでしょうか。というのも、ビアンバーはレズビアンの女性のための場所です。私のようなアセクシュアルの女性は対象外、と言われているような気がします。

そんな気がする、だけなのでしょうか。その答えはさきほども紹介した『ゲイ風俗のもちぎさん』(もちぎ、KADOKAWA)のあるエピソードにありました。このエピソードにおいて、ゲイ風俗は、多様性があるようで実はなく、「男性しか働けない」場所であることが指摘されます。ゲイバーやゲイ風俗などは、マイノリティの人々が受け入れられる場所であると思っていた私は、このエピソードに正直驚きました。

それでも、ビアンバーに行ってみよう

人をカテゴライズすると、必ずそこに含まれず疎外される人がいます。しかし、カテゴライズすることによって、枠に守られ、安心する人もいます。これは、両方事実です。だから、ゲイバーやビアンバーなどの居場所が悪いとはまったく思いません。じゃあ、その代わりにアセクシュアルバーをつくればいいかと言えば、そうでもない気がします。

カテゴライズによって疎外される人がいる今の状況が、最善でないのはわかっています。私も、わかりきっています。多様性とは、何とも難しい概念です。それでも、私は、ビアンバーに行ってみたいです。

理由は恐怖の対象である男性のいない空間で安心してみたいからかもしれません。

その扉を開けてみる

これを書いているうちに、私のなかでも、ビアンバーに行く覚悟ができてきました。

一歩を踏み出せないのは

ここまで何だかんだと言ったり、ビアンバーが怖いと書いてしまっていますが、根底にあるのは、自分のコミュニケーションに対する自信のなさかもしれません。コミュニケーションに自信がないのは、なぜでしょうか。

誰かとのコミニュケーションにおいて、成功体験が少ないから。話すことがうまくないから。いくらでも答えは思いつきますが、一番はきっと、私がセクシュアリティを受け入れてもらったことが少ないからかもしれません。隠して、ごまかして、時には他人を追いつめて認めさせて。そんなことを繰り返してきました。

つまり、誰かに対して、セクシュアリティを否定されないという信頼を抱いたことがないのです。もちろん、この国でそれを抱くことがどれほど難しいかはわかっています。それでも、私の人間不信は、相当なものでした。

パートナーはいなくても、誰かを信じてみたい

アセクシュアルの私ですから、一生に一度は誰かパートナーを見つけなければならない、とは思いません。そんなことは絶対にありません。パートナーを見つけてもいい、見つけなくてもいい。その人生に、貴賤はない。恋愛至上主義のこの世のなかに向かって、私が書いてきたことでもあります。

パートナー以外、プライベートでも誰かのことを完全に信用できない私は、もしかしたら、つらいのかもしれないな、とふと考えてしまったのです。しかし、誰のことも信用できないまま生きるのだって、ありです。誰も愛さない。一人きりが性に合う。そういう人も、いるでしょう。

そして私もそうかもしれませんし、そうではないかもしれません。まだわかりません。それを知るためにも、意を決してビアンバーに行ってみる。それも、選択肢の一つかなと思います。

友人ができたらいいな、とふわっと思いながら

コミュニケーションに自信がないとか、人を信じられないとか、家族や他人にセクシュアリティを否定された経験が多すぎるとか、そんなこともたくさんあります。不安材料はいっぱいあります。

ビアンバーに限らず、新しいお店に行く時点で、不安でいっぱいですが、行ったことのないタイプのお店なので、より緊張してしまいます。それも克服せねば、と思うのですが、なかなかそううまくはいきません。ゆっくり一つずつ頑張ります。

でも、人間不信を直すとか直さないとか、誰かを愛せるとか愛せないとか、深く考えなくていいのかなと思います。もしかしたら、そこで気の合う友人ができるかもしれない。できないかもしれない。

楽しい時間を過ごせるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。それは、別にビアンバーだから、ということではないのでしょう。他のバーに行っても一人で飲むこともあれば、マスターや他のお客さんと会話が弾むこともあります。それは、本当にビアンバーだから、ではないんですよね。

ビアンバーだから、と気負わずに、一つの気になるお店として、その扉を開けてみます。まずは、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着くか、ワクチンが広まることが先ですが。新型コロナウイルスの感染拡大の終わりを待っている間に、飲食店が潰れていってしまうのは悲しいですが、リスクを負ってまで行くのも違う気がします。なので、私は待ちます。

できれば、友人ができて、人と話すことを楽しいなって思えたらいい。心からそう思います。よい出会いを願って。新型コロナウイルスの感染拡大が収まったら、是非行きたいです。

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