INTERVIEW
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「恋愛しないなんてもったいない」と言わないで。【前編】

端正な容姿に凛とした佇まい。バウシュ由梨亜さんは、その場にいるだけで誰もが目を奪われるような魅力を持つ人だ。言葉の端々に自分らしさを大切にする芯の強さが宿るが、「アセクシュアルっていう概念を知って、自分も人間だったんだと安心しました」と笑う様子には、これまでの葛藤も垣間見える。そんな由梨亜さんの軌跡を追った。

2021/12/18/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Koharu Dosaka
バウシュ 由梨亜 / Julia Bausch

1999年、東京都生まれ。ドイツ人の父と日本人の母を持つ。幼い頃から「自分は自分、人は人」という考えのもと、自分らしくのびのびと生きてきた。中高生の頃から周囲の恋愛至上主義に違和感を覚えるようになり、大学3年生でアセクシュアルを自認。以降、「アセクシュアルという概念があることを知ってほしい」という思いを抱くようになる。

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INDEX
01 三つ子の魂百まで
02 世渡り上手の優等生
03 クールな“人好き”
04 恋愛は「いつか自然とするもの」
05 好きってどんな気持ち?
==================(後編)========================
06 衝撃を受けた女子大のリアル
07 徐々に見えてきた周囲とのズレ
08 アセクシュアルを自覚
09 恋愛至上主義に対する思い
10 アセクシュアルの私が、これからの社会に期待すること

01三つ子の魂百まで

ドイツ人と日本人の両親のもとに誕生

両親はフランスで出会って結婚し、長女である自分が生まれる前に日本に移住。国際色豊かな家庭だが、日本で生まれ、東京で育ち、日本人として生きてきた。

「父とは片言のドイツ語と日本語を交えて、母とはお互いに日本語で話しています。両親はなぜかフランス語で話してるので、いつも何を言ってるのかわかりません(笑)」

母はふざけるのが大好きな明るい人。

「一日の出来事を一人でミュージカル調に演じて教えてくれたりと、見ているだけで面白いんです。でも、仕事で英語やフランス語の翻訳をしていて、カッコいいところもあって」

父は物静かだが、ふざける母を見ていつもニコニコ楽しそうにしている。

「凝り性で、ハマっていることがあるとそれに没頭するんです。私は父に似てるかな」

両親もきょうだい同士も仲が良く、実家は居心地がいい。いつかは実家を出たいという気持ちもあるが、将来のことはまだ考え中だ。

合理主義で冷静な子ども

幼いころから人と話すのが好きで、好奇心旺盛な子だった。真面目と称されることも多く、性格は今とほとんど変わっていないと思う。

幼少期を振り返ると、幼稚園の年中のときのエピソードが印象的だ。

「お弁当の後、お昼休みには園庭で遊ぶんですけど、先生がいいよって言うまでは外に出ちゃいけないんですね」

ある時、早々にお弁当を食べ終わって待っていたら、隣の部屋から年長の男の子がひとり、先生の目を盗んで飛び出したことがあった。

「その時に『あーあ、いけないんだ』って思ったのが、なぜか脳裏に焼き付いてます。昔から、決められたルールはきっちり守る方だったので」

ただし、打算的なところもあった。

誰かに見られている時はルールに従うけれど、人目がなくてそのルールに合理性がなければ従う必要はないと思っていたのだ。

「車が通っていなければ赤信号でも渡っていい、みたいな」

優等生然としながら、冷静で合理主義。幼少期からぶれない自分らしさを持っており、周りに流されることは少なかった。

02世渡り上手の優等生

自分の世界に没頭

小学校に進んでも、好奇心旺盛で、気になったものはなんでもやってみる性格は健在。手先が器用で、芸術的なセンスに恵まれていた。

「ピアノやバレエを習ったり、絵を描くことや工作に没頭したりしてました。好きなことにはとことんのめり込む性格なので、毎日充実していて」

本やマンガもたくさん読んだ。古い少女マンガが好きで、一番のお気に入りは萩尾望都の『ポーの一族』。

絵の美しさや、生と死を扱うストーリーの深さに魅了され、夢中になって何度も読んだ。

「ポーの影響で、幼い頃から『生きること、死ぬこととはなにか』『愛情とはなにか』と考える機会が多かった気がします。哲学や倫理が好きなのも、いろんなことを難しく考えすぎるのも、そのせいかもしれません」

人は人、自分は自分

学校では、真面目でしっかり者の優等生キャラ。リーダーや司会など、人をまとめる役割を担った。

一方で、同級生が悪さをしていても「自分に関係なければいいや」と見逃すドライな一面も。

「例えば、掃除をせずにふざけている子がいても、わざわざ注意したりはしませんでした」

「『人は人、自分は自分』という考えが根底にあって、他人が何をしていてもあまり興味がないんですよね。なので、他人に干渉するのもされるのも嫌いです」

この考え方は、今の自分にもしっかり残っていると思う。

優等生キャラだった理由については、母が過保護で「親の言うことはしっかり聞きなさい」と言い聞かせるようなタイプだったから、と振り返る。

鬱陶しいと感じることもあったが、幼いながらに「大人の言うことを聞いていれば、だいたいうまくいく」とわかっていたため、特に反抗することはなかった。

放課後は友だちと毎日校庭で遊んだりと、子どもらしく無邪気なところもあった。

だが、総じて物事を一歩引いたところから見る、冷静で大人びた子だったように思う。

03クールな “人好き”

スクールカーストとは無縁の優等生

中学・高校ではますます優等生街道を突き進む。勉強にも真面目に取り組み、テスト前は自作の暗記ノートを作ってきっちり準備した。

先生の言うこともよく聞き、読書が好きで休み時間は自分の席で本を読む毎日。周囲からは「典型的な優等生」と思われていた。

「それでも孤立するようなことはなくて、友だちも普通にいました。話しかけられれば誰とでも話すし、楽しそうな話をしていれば自分から輪に入るし」

「話したいときに、話したい人と話したいと思っていたので、特定のグループに属することはありませんでしたね」

いわゆるスクールカーストにも疎く、自分の学校に存在していることにすら気付いていなかった。

今でも、当時の自分が “どのランク” だと思われていたのか見当がつかない。

「もしかしたら陰口を叩かれることもあったのかもしれないけど、別にいいやって。面と向かって悪く言われたら傷つくけど、陰でどう評価されていてもいいんです」

誰かから嫌われているかもしれないなんて、気にしたこともない。
わざわざ自分を嫌っている人を探し出す必要性も感じない。

「なんでみんなそんなに気にするのかな、と思ってました」

自分を守ってくれた「自他の境界線」

クールなものの見方の根底には、人間関係への興味のなさがあると自己分析する。

人が好きで、大好きな友だちも大勢おり、知らない人と出会って話すのも楽しい。

「でも、どんなに好きな人であっても、自分と会っていない時に何をしているかを知りたいとは思わないし、何をやっても自由だと思ってるんですよね」

「好きでもない人と無理して仲良くしたり、固定メンバーでつるんだり、陰口を言った・言わない、みたいな思春期のいざこざが、本当に面倒くさくて、なるべく関わりたくありませんでした」

きっと、自分は他人との境界線がはっきりしているタイプなのだと思う。

「私にとっては、一番楽に過ごせる状態が、お互いに干渉し合わない関係なんですよね」

他人との程よい距離感を見つけ出し、互いにストレスの少ない関係を築く。
自分に合った処世術を身に着け、何不自由なく楽しい学校生活を送った。

04恋愛は「いつか自然とするもの」

「嵐」を知らない中学生

子どもの頃から、恋愛にも、恋愛対象としての異性にもまったく興味を抱かなかった。

小学校高学年にもなると、周りの友だちが芸能人に興味を持ち始める。

「アイドルの○○くんがカッコいい」「俳優の××が好き」などと話すようになったが、話題についていくことができない。

「そもそも家ではほとんどテレビを観なかったので、芸能界に疎くて。嵐って何のこと? 気象情報?  って本気で思ってたくらいです(笑)」

中学に入ると、学校に好きなアイドルのグッズを持参し、「これが○○くんで・・・・・」と、嬉しそうに説明される機会も増える。

「知らない人の顔を見せられても区別がつかないし、どういう人が “カッコいい” と言われるものなのか、全然わかんないんですよ」

「否定したら悪いかな、と思って『そうだね』って答えるけど・・・・・・。みんながはしゃいでる気持ちが、私だけさっぱり理解できなくて」

周囲が恋愛に目覚め始める

思春期になると、周りの友だちが恋バナに花を咲かせるようになる。

「どういう人がタイプなの?」とか聞かれることもあったが、毎回「まだわからない」と答えていた。

「『好きな人いるの?』って聞かれても、『初恋とかまだなくて』って。友だちは『そうなんだ。遅い方なのかもね』って納得してましたけど。ごまかすというよりは、本当にわからなかったんです」

小学生の頃は、中学生になったら自分にも自動的に恋人ができるものだと思い込んでいた。少女マンガなどで、そんなシーンをたびたび目にしていたからだ。

「今は恋愛に興味がないけど、中学校に上がれば、きっとマンガみたいに好きな人ができたり、恋人ができたりするはずって」

「恋愛したい・したくない」といったことは考えたこともなかったが、なぜだか根拠のない確信じみたものがあった。

「小学校を卒業したら中学校に進学する、期末テストが終われば夏休みが来る、っていうのと同じように、中学校に上がれば自然と恋愛することになると思ってました」

だが、実際には恋愛感情はわかなかった。まったく興味が芽生えなかったのだ。

「それでもまだ、自分はそういうことに淡泊な人なんだ、恋愛以外がすごく充実してるから興味がないんだ、と思って気楽に過ごしてましたね」

05好きってどんな気持ち?

少女マンガで恋愛を勉強

中学に入学してからは、しばしば「好きです」と告白されるようになる。
だが、相手が自分に向ける「好き」がよくわからない。

付き合ってほしいと言われても、具体的に何をすればいいの? と困惑してしまう。

高校生になると告白されることにもさすがに慣れ、「相手は私に特別な感情を抱いているらしい」と頭では理解できるようになった。

「でも、そういう “特別な感情” がどんなものなのかは、やっぱり想像できなくて」

友だちの話や少女マンガから、恋愛感情とはこういうもの、付き合うとはこういうこと、と知識を仕入れることでなんとか理解しようとした。

「けど、やっぱり共感はできませんでした」

中高を通してかなりの人数から告白されたが、OKの返事をしたことは一度もない。友だちからは「試しに付き合ってみればいいじゃん」と言われることも多かった。

「そう言われても、自分にとってはあまり興味もない人とずっと一緒にいなきゃいけないなんて面倒くさい、としか思えなくて」

「私は、その時に話したい人と自由に話したいタイプだけど、付き合うってなったらまず相手のことを優先的に考えなきゃいけないんですよね、きっと」

「それを頭の中でシミュレーションしただけで、なんでそんなことしなきゃいけないの? って思っちゃう」

告白してきた相手に嫌悪感を抱くことはなかったが、興味のないことに興味を持つのは、自分にとっては難しいことだった。

いつかは “その時” が来るはず

恋愛感情を持たないことについて、深く悩んだ経験はない。
ただ、中学生の頃に焦りを感じていた時期はあった。

「周りの友だちが彼氏できた、好きな人できたって言っているのにまったくついていけないから、これってまずいのかな? って不安になって」

「そのせいで、一時は、人として大好きな部活の先輩のことを『恋愛対象として好きなんだ』って、思い込もうとしてました」

しかし、やはり違和感が拭えず、悶々としてしまう。
思いきって母に「好きって気持ちがよくわからない」と相談した。

「母には『全然大丈夫よ。中学校で好きな人ができてもどうせ別れるから!』って言われて。そりゃそうだよな、悩むことなんてなかったんだって安心できました」

今頑張ってもどうせ無駄。いつかそのときが来たら頑張ればいい。

「いつになるかわからないけど、きっと “その時” は来るって、のんびり構えるようになって」

趣味や好きなことがたくさんあり、勉強や部活にも精を出し、充実していた毎日。

「今でなくて大丈夫」と割り切れれば、恋愛できないことに固執する必要はまったくなかった。

特に高校進学後は、同じように恋愛に関心のない友だちがたくさんできたため、より心穏やかに過ごせた。

「そもそも自分には恋愛感情がない」と自覚するのは、まだ少し先の話だ。

 

<<<後編 2021/12/25/Sat>>>

INDEX
06 衝撃を受けた女子大のリアル
07 徐々に見えてきた周囲とのズレ
08 アセクシュアルを自覚
09 恋愛至上主義に対する思い
10 アセクシュアルの私が、これからの社会に期待すること

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