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Writer/雁屋優

Aro/Aceを知ろう① 恋愛感情を抱かないアロマンティックとは?

2022年1月から、NHKで『恋せぬふたり』と題したドラマが始まりました。キャッチコピーには、「この社会に生きる全ての人がきっと笑顔になれる、ラブではないコメディ。」とあります。「恋せぬ」「ラブではない」と少し気になる言葉があります。このドラマは、アロマンティック/アセクシュアル(Aro/Ace)を扱っているのです。アロマンティックとアセクシュアル、そしてその多様性について、3回に分けて解説していきます。まずはアロマンティックについて見ていきましょう。

アロマンティック(Aro)とは?

アロマンティックは恋愛指向の一つです。

恋愛指向の一つ、アロマンティック

性的指向は知っているけれど、恋愛指向と言われてもよくわからないという方も多いかもしれません。

恋愛指向とは、どんな性の人に恋愛的に惹かれるか、または惹かれないかということを指します。そして、恋愛指向の中で「他者に恋愛的に惹かれないこと」を示す言葉、それがアロマンティックです。

多くの人は、「他者に恋愛的に惹かれること」と、「性的に惹かれること」は、ほとんど同じようなものだと言います。そのような人にとっては、「他者に恋愛的に惹かれること」「性的に惹かれること」を分けて考えることが、そもそも不思議なくらいなのかもしれません。

他者に恋愛的に惹かれることもなく、性的に惹かれることもない私自身も、以前は「他者に惹かれない」の一言で自分を理解していたので、アロマンティック/アセクシュアルの概念に出会ったときには少々混乱しました。

他者に恋愛的に惹かれる「ロマンティック」の対概念として、他者に恋愛的に惹かれない「アロマンティック」があります。ただし、これは二元論ではなく、グラデーションになっているものなのです。

他者に恋愛的に惹かれないアロマンティック

恋愛の意味で他者に惹かれないことを示す言葉、アロマンティック。もし誰かが、「自分はアロマンティックである」と言ったら、「他者に恋愛的に惹かれない」ということを意味しています。「アロマンティックである」という言葉は、それ以上の何の意味も含みません。

ひどい恋愛をしたとか、異性にトラウマがあるとか、人間不信であるとか、アロマンティックの背景やきっかけなどは何一つ示していません。「アロマンティックである」と打ち明けてくれた人に対して、上記のような過去があるのか確かめるのは、その質問自体が相手を落胆させ、信頼を失うことにつながります。

アロマンティックへの偏見や差別

アロマンティックの人々も、他のセクシュアルマイノリティの当事者と同じく、偏見や差別にさらされています。どのような状況にあるのか、その一部を知ってください。

下世話な勘繰りを受けることも

アロマンティックであることをカミングアウトすると、さまざまな偏見や差別をぶつけられることがあります。その一つとして挙げられるのが下世話な勘繰りです。

「過去にひどい恋愛をしたの?」
「異性にトラウマがあるのか」
「人間不信なの?」

といった質問に始まり、アロマンティックであることは人としておかしいから治療すべきだと言う人さえいます。さらには、「自分が治してあげる」「カウンセリングを受けに行こう」といった発言まで飛び出すのです。

これが運悪く遭遇するレベルの発生率ならばどれほどよかったでしょう。残念ながら、こういった相手にはかなり頻繁に遭遇します。

そして下世話な勘繰りには、ひたすら精神を削られます。アロマンティック/アセクシュアルを自認する私としては、「放っておいてほしい」としか言いようがありません。付け加えておくと、私の過去にトラウマや人間不信があろうとなかろうと、アロマンティックを自認する自由はあります。

アロマンティックである理由の説明を求めること自体が、間違っているのです。ヘテロロマンティック(異性に恋愛的に惹かれる恋愛指向)の人に、「どうしてこの人を好きになったの?」と聞くことはあっても、「どうしてヘテロ/ロマンティックなの?」「どうして女性(男性)が好きなの?」とは聞かないでしょう。

このことからも、アロマンティックである理由の説明を求めること自体が差別的であることがわかると思います。

社会生活での困難

アロマンティックであることを伏せて社会生活を送ることは、他のセクシュアルマイノリティに比べて一見簡単に思えます。誰かと手を繋いでいるところを見られて不審がられる可能性も低い、同性同士の入居で大家さんに怪しまれることも少ない――。周囲にアロマンティックであることを隠し通すのは不可能ではありません。

しかし、隠し通すには大きな困難が伴います。未だに、「行き遅れの女性には何か問題がある」「男は所帯を持ってこそ」という偏見を持った人が存在するからです。そのような根強い偏見は、意識せずとも、社内や社外での評価を左右します。

パートナーがいないことで半人前だとみなされてしまうのです。つまり、アロマンティックの人は、会社をはじめとした組織から正当な評価を受けられていない場合があります。同じ能力を持っていても、パートナーがいる人の方が社会的に一人前だとみなされてしまいます。アロマンティックの人々は、偏見によって、昇給や昇格、チャレンジできる業務を増やす機会を、不当に奪われているのです。

職場での不当な評価だけでなく、血縁者や知人からお見合い相手やパートナー候補を紹介されて断るのに苦労することもあります。血縁者や知人といった、今後も関係性が続く相手であるからこそ波風立てずに断らなければならないことが多く、興味もないのに一度は会ったりデートしたりするしかないといった、非常に面倒な事態にもなります。

LGBTコミュニティで疎外されることも

近年、日本でも、東京以外の多くの街にLGBTコミュニティが存在しています。私がそのようなコミュニティへの参加にやや消極的なのは、SNSでセクシュアルマイノリティ当事者の、アロマンティックに対する否定的な発言を見たことがあるからです。

アロマンティックの人々は、LGBTコミュニティで疎外されることもしばしばあります。残念ながら、私の心配は杞憂ではなかったのです。社会から見れば、セクシュアルマイノリティの括りですが、恋愛をする/しないでその中にも分断が生じることがあるのかもしれません。

無理解から来る衝突

・アロマンティックであるがゆえに、恋愛的なアプローチに気づかずにいて気まずくなった。
・告白されてアロマンティックであることを告げたら、相手が偏見をぶつけてきたり怒り出したりした。

といったという経験談は、アロマンティックの人々の間ではよく話に上がります。

幸いにも、私に思いを告げてくれた人は話せばわかる人だったので、そこで傷つくことはなかったのですが、無理解から来る衝突を知っていたので、打ち明けるのは非常に怖かったと記憶しています。

アロマンティックかもしれないと思ったら? カミングアウトされたら?

アロマンティックかもしれないと思ったからと言って、特別何かをしないといけないわけではありません。しかし、先ほども書いた通り、アロマンティックへの偏見や差別を目にして生きているからこそ、カミングアウトには、恐怖が伴います。

アロマンティックであるとカミングアウトされたら?

親しい人から「自分はアロマンティックである」とカミングアウトされたらどうすればいいのでしょうか。伝えた上でどうしてほしいかは、当事者によって千差万別です。それでも、あなたにわかってほしい、あなたならわかってくれる、と信頼されてのことなのです。
あなたを信頼してのカミングアウトであることをまずは受け止めてほしいと思います。

もちろんその信頼を重荷に感じて関係を絶つのもあなたの自由です。しかし、許可なく他の人に当事者の恋愛指向をばらしてしまう、アウティングだけは絶対にしないでください。命に関わります。

アロマンティックである相手との関係性を続けていきたいと願う場合には、どのような意図でカミングアウトしたのか、普段どのように気遣ってほしいのかを聞いてみるといいと思います。恋愛話を自分に振らないでほしい、パートナー候補を紹介してくる人から守ってほしい、特に何もしなくていいから知っていてほしいなど、それぞれに求めるものは違います。

すべての要望に応えろと言うのではありません。できる範囲で、あなたの負担にならない程度に助けになってくれるとありがたく思います。“アロマンティックだから◯◯ということを求めているだろう” と決めつけるのではなく、相手と話し、何を思っているのかを知った上で、行動を決めていきましょう。

自分がアロマンティックかもしれないと思ったら

ここまで読んでいて、「あれ、アロマンティックって自分のことかもしれない」と思った方もいるかもしれません。私も、インターネットの記事や、友人の助言、そして何より思いを寄せてくれた人を友人として好ましく思っていても、恋愛感情を持てないことに気づく経験を通して、自分の恋愛指向を知りました。

アロマンティックを取り巻く社会状況に問題意識があり、それを自分の手で動かしたいと思うのならそのような運動に参加するのも一つですが、そうしないのも一つの手です。

アロマンティックであることを他者へ明かすにしろ明かさないにしろ、この社会で生きていくのは困難です。知識や職業上のスキル、人脈など、自分が生きていくためにあなたが必要だと思うものを進んで身につけてください。

アロマンティックは一つの在り方として肯定されるべき

アロマンティックの状況について、希望のないことを書いてしまったのですが、残念ながらこれは事実です。現在、社会で起きていることの一部に過ぎません。

一つの恋愛指向として、アロマンティックを尊重する

アロマンティックは、治療されるべきものでも、おかしなことでもありません。恋愛指向の一つとして、尊重されるべきものです。世の中での割合いの多い少ないに関わらず、恋愛指向や性的指向の人々にある権利も当然認められ、また人々の意識の上でも尊重されるべきです。

アロマンティックである人々が、何か他の恋愛指向や性的指向の人々に比べて劣っているとか、人間味がないとか、そういった言葉に耳を貸す必要はありません。

そして、②へ続く

他者に恋愛的に惹かれない「アロマンティック」について見てきました。

恋愛指向の一つであるアロマンティックを、皆さんが知るきっかけになれば嬉しいです。また、アロマンティックであることは、何も特別ではなく、一つの尊重されるべきアイデンティティなのだと思える人が増えることを願っています。

次回の記事では、アセクシュアルについて解説していきます。

 

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