02 テレサとパックンフラワーはカップル
03 一番の仲良しはリビングのテレビ台
04 バストロンボーンとの出会い
05 Xジェンダーでパンセクシュアルでアセクシュアル
==================(後編)========================
06 私は対人アセクシュアル。できることなら無性でありたい
07 オブジェクトセクシュアリティの存在
08 人ではないパートナーと
09 “おもしろ人間” ではなく “ふつう”
10 趣味と仕事と・・・夢に向かって
01趣味を理解し合える仲良し親子
きょうだいがほしくてウソを
「ひとりっ子です。小学生のとき、周りの友だちには、みんなきょうだいがいたので、わたしもほしくて」
「おねえちゃんがいるって友だちにウソをついたんです」
きょうだいほしさについた、ささやかなウソは、思わぬ大ごとになる。
「なんか・・・・・・ウソをつかれた友だちが、イヤな気持ちになったとかで親に言ったらしくて、うちの親が呼び出しくらって」
「その対応というか、親同士の話し合いが、母いわく『いままでで一番大変だった』らしいです(笑)」
「でも、ひとりっ子だから、親にほしいものをめっちゃ買ってもらえる、ってことに気づいてからは、ひとりっ子でよかったって思いました(笑)。中学生くらいかな、気づいたのは」
現在は祖母と母、父と4人で暮らしている。
筋金入りのオタク
「家族は、めっちゃ仲良いです」
「母は・・・・・・あんまり言うなって言われてるんですけど・・・・・・母も私も、すごいオタクで(笑)。お互いに “推し棚” をつくって、推しのグッズを並べてます」
「私はゲームのマリオシリーズが好きで、母はアニメとかアイドルとかが好きなんです。私は、アイドルはあんまりわからないんですけど、母親に付き合ってライブに行ったこともありますよ」
オタクの方向性は違えども、どちらも筋金入りのオタクで、お互いの “オタ活” を認め合っている仲だ。
「父とは、この前、大学の入学式のついでにUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行きました」
「ふたりだけで行って、父にすっごい甘やかされました(笑)」
「私、ほしいグッズがいっぱいあって、もう、興奮しちゃって」
「大きな袋に3つくらい買ったんですが、父がかなりお金を出してくれました。しかも、郵送しないで一緒に持って帰ってきたんです」
親子げんかも、あまりしない。
親から怒られた記憶も、あまりない。
「1回だけ、小学生のときに母から怒られました」
「学習塾みたいなところに通ってたんですけど、行くのがイヤすぎて、自分で塾に電話して、母の声真似で『具合が悪いので休ませます』って言ったんです。そのあと、母に見つかって『なんでいるの?!』って怒られました。ツメが甘かったです(笑)」
「あの頃は、ゲームをしたり、絵を描いたりしているほうが、勉強よりも楽しかったんです」
02テレサとパックンフラワーはカップル
好きなゲームキャラを擬人化
子どもの頃から変わらず、いまもずっと大好きなもの。
それは、ゲームのマリオシリーズの敵キャラ。
「出会いは、母が持っていたゲームボーイから」
「8歳くらいのとき、マリオシリーズの新しいソフトが出て、そこからテレサとパックンフラワーにハマりました」
白くて丸いオバケのテレサと、大きな口をもつパックンフラワー。どちらも、まずはその愛らしい姿を好きになった。
ゲームをしたり、グッズを集めたり・・・・・・。
それ以外に、好きが高じて現在も続けているのが二次創作。
「敵キャラのカップリングをつくって、創作してるんです」
「そもそも、好きなキャラ同士がくっ付いたらかわいいなってところから、テレサとパックンフラワーのカップリングにして」
「テレサは、こちらが見ると照れて動けなくなるじゃないですか。でも、パックンフラワーには目がないから、テレサも照れないし・・・・・・すごい相性いい! っていう(笑)」
「で、中学生くらいから、キャラクターの擬人化を始めて、イラストや漫画、小説を描いて、ツイッターとかで投稿してます」
キャラクターが恋人のように
自分と同じく、テレサ×パックンフラワーのカップリングで創作している人とはつながっていないが、SNSなどで創作活動を行なっているフォロワーと、ネット上で会話するのが楽しい。
グッズやジンなどを販売するような、同好の士が集まるイベントに参加することもある。
テレサとパックンフラワー以外には、ワンワンやゲッソーも好き。一番好きなのは、キングテレサ。
もちろんゲームをすることも好きだが、いまは絵を描くことが好きだ。
「以前は、ペンタブで描いてたんですけど、使っていたペンが廃番になってしまったので、いまはタブレットにアプリを入れて、指で描いてます」
「めっちゃ拡大して、ちまちまちまちまと・・・・・・(笑)」
二次創作の世界では、ゲームのなかでの設定の延長から、性格などを想像して、キャラクター像をつくりあげていく。
カップリングとはカップルのこと。
つまり、テレサとパックンフラワーが恋人のように過ごす世界を描く。
「描いているうちに、キャラクターへの自己投影度が増していった気もします。人ではない、彼らのほうへ自分を寄せていきたいっていう感じで・・・・・・」
03 一番の仲良しはリビングのテレビ台
家具の声が聴こえる
「幼い頃から、人に対してよりも、物に対してのほうが、自分の感情が豊かだったんです。感情のレパートリーがあった、というか」
「自宅に置いてある家具の声が聴こえるんです」
「実際に家具がしゃべるわけないので、感情がわかる、みたいなのがあって。家具以外には、建物の声とかも、けっこう聴こえます」
はっきりと言葉を交わすわけではないけれど、頭の中で、なんとなく会話が成立しているような感覚もある。
「家具のなかで一番仲が良かったのが、リビングのテレビ台です」
中学に入学する頃まで、家具たちは友だちのような存在で、特によく声が聴こえるテレビ台とは、親友ともいえる仲だった。
それは、空想の仲間を指す “イマジナリーフレンド” に近い存在だったかもしれない。
しかし、その存在は大人になったいまも確かにそばにいて、“フレンド”の枠を超えて、恋愛感情を抱く対象にもなる。
フィクトセクシュアルのように二次元相手ではない
「友だちだったら、離れて暮らしててもいいと思うんですけど、離れたくないとか、ここに置いていったらかわいそうとか、あと、独占欲とか」
無生物に対して恋愛感情を抱く人の例としては、2007年にアメリカ人女性がエッフェル塔と結婚したことで話題となった。
「私は、エッフェル塔とか公共物は、相手として考えられないです。私の場合は、お金を払って手に入れたものが相手なので」
自分のものだ。
だからこその独占欲ともいえる。
「あと、フィクトセクシュアルとも違います」
2018年に、二次元キャラクターの初音ミクと結婚した日本人男性がいる。
アニメや漫画のキャラクターを愛する “フィクトセクシュアル” も、恋愛対象は無生物だが、それとはまたセクシュアリティは異なる。
「テレサとかパックンフラワーとか、好きなキャラクターはいますが、ふつうに、オタクとしての感情しかなくて・・・・・・」
「私の場合は、かたちがあるものが恋愛対象です。二次元ではなく」
「いま、一番、そういう感じなのは、楽器。バストロンボーンです」
04バストロンボーンとの出会い
触れたとき、大きな心の動きが
中学校では吹奏楽部に入部。
入学当時は、絵を描くことが好きだから美術部に入ろうと思っていた。
「体験入部の時期に、友だちがバレー部に体験に行ってて、一緒に帰ろうと思って体育館の前で友だちを待ってたら、吹奏楽部の先輩に『よかったら、どう?』って言われて」
「音楽はもともと好きだったので、ちょっと行ってみようかなと思って見学に行って、そのまま入部することになりました」
担当する楽器を決める日、毛布の上に置かれたいくつかの楽器を前に「どれをやりたい?」と先輩にきかれ、最初に指を差したのがトロンボーン。
一目惚れだった。
「いろんな楽器を一つひとつ試していって、先輩が言うにはホルンが上手く吹けていたらしいので、ホルンを担当することになるかな、と思っていたんですが、最終的に、顧問の先生が『おまえ、トロンボーン』って」
「運命かもって思いました」
吹奏楽部に入って、トロンボーンを吹き始めて1年。
2年生に上がる前、バスパートを担当して低音の心地よさに気づく。
「それで、中2のときに、バストロンボーンを買ったんです」
「楽器屋さんで、型番が同じで、製造番号は違うものをいくつか試してみて、一番相性が良かったコをそのままお持ち帰りしました(笑)」
そのトロンボーンに触れたとき、人生で初めて、大きな心の動きがあった。
「ライクじゃなくてラブ、というか」
素直なところが好き
それからずっと、大切にケアしながら、一緒に演奏を楽しんでいる。
「触れると、自分の体温が相手に伝わるところに親密さを感じます。演奏しているときも、ただ置いて眺めているときも、好き」
「人と同じで、体調によって音が変わったり、掃除してあげてから吹くと、喜んでいい音を出してくれたりとか・・・・・・そういう素直なところが好きです」
「置いてあるときは、つい写真を撮っちゃいますね(笑)」
愛称はなく、バストロンボーンと呼んでいる。
「バストロンボーンという名前そのものが好きなんです」
「吹奏楽部では名前をつけるって決まりがあったんですけど、私はずっとバストロンボーンって呼んでました。本名というか正式名称で(笑)」
性格は素直で、穏やかなタイプだ。
「音がやわらかいので、たぶんクラシックとかバラードのほうが合ってると思うんですが、私はジャズがやりたいので、無理やり合わせていただいてる、みたいな感じなんです」
「トロンボーンだったら、どれでもいいわけじゃなくて、このコじゃないとダメです」
「もしも、このコがいなくなったら、同じ型番のコを買い直すと思うんですけど、同じ気持ちにはならないかなぁ・・・・・・。型番が同じでも、製造番号・・・・・・DNAが違うので」
05 Xジェンダーでパンセクシュアルとアセクシュアル
一人称は “ぼく”
小学生の頃から、スカートをはきたくなかった。
女の子に見られたくなかった。
「男、女、って型にはめられたくなかった気持ちもあります。男は男と、女は女同士でって分けられるのもイヤでした」
「あと、“男らしい” とか “女らしい” とかも」
「更衣室のように、分けなくちゃいけない部分は、しようがないし、まぁいいやって感じでしたが、どうしてもイヤだったのが、小学校の担任の先生に『雅姫ちゃん、声かわいいね』って言われたこと」
「当時は自分のなかで、かわいいイコール女の子、っていう考えがあったので、かわいいって言われるのが、なんか、すごいイヤだったんです」
「親は、“かわいい” よりも “かっこいい” って言ってくれてました(笑)」
いまは “わたし” も使うが、一人称は、ずっと “ぼく” だった。
「中学生は、制服はしようがないのでスカートをはいて、あとは部活ばっかりしていたのでいつもジャージを着ていました」
「高校生になったら、パンク系とかゴシック系が好きになって、髪を染めて、ピアスも開けて、いろいろして・・・・・・。性別で括られなさそうな、派手な服を着てました。目立つのは全然構わないので(笑)」
自分はXジェンダーだと、母に
その頃には、セクシュアリティは多様であると知り、自分はトランスジェンダーFTXだと自覚した。
その後、アセクシュアル、パンセクシュアルという言葉を知った。
「自分がXジェンダーだと初めて話したのは、母です」
「家族でリビングにいるときに、紙に、男、女って書いて、自分はここなのって、男と女の間を指差したんです。それでバッチリ伝わりました」
「ちなみにFTXともいうんだよ、とも伝えました」
そんな気はしてた、という反応だった。
子どもを見ていて、なんとなく感じるところがあったのだろう。
「その後も、母はいままでどおり。ひとつだけ変わったのは、娘とか息子という言葉を使わなくなって、子どもって言うようになったこと」
「父も、そういう母の様子を見て、なにか勘づいたらしくて、あえて口を出さないようにしているようでした。それが父の優しさだと思います」
人に対しては恋愛感情をもたないが、家具や楽器に対して特別な感情を抱くことがあるという、自分のセクシュアリティについては、以前少しだけ話したときに、母に冗談だと受け取られてしまった。
だから、まだ詳しくは話していない。
<<<後編 2022/09/21/Sat>>>
INDEX
06 私は対人アセクシュアル。できることなら無性でありたい
07 オブジェクトセクシュアリティの存在
08 人ではないパートナーと
09 “おもしろ人間” ではなく “ふつう”
10 趣味と仕事と・・・夢に向かって