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Writer/Jitian

2022年冬季北京オリンピックとLGBTQ

厳格な新型コロナ対策のなか、冬季北京オリンピックが2022年2月4日から開催されています。開催前から中国の人権問題で注目を浴び、欧米諸国の外交ボイコットも行われた北京オリンピック。LGBTQアスリートはどのようにしてオリンピックに臨んでいるのでしょうか。今回は、北京オリンピックにおけるLGBTQを取り巻く環境を取り上げます。

北京オリンピックに、前回大会の2倍以上のLGBTQアスリートが参加

2021年に開催された東京オリンピックと同じように、北京オリンピックにおいてもLGBTQ当事者であることを公表しているアスリートが前回より増えています。

北京オリンピックでもLGBTQ当事者が “増加”

オリンピックは、単なるスポーツ大会としてだけではなく、人権にスポットの当たる国際的なイベントとしての側面も大きいです。多様性やSDGsといった言葉が日常的に聞かれるようになった昨今においては、あらゆる人々に寄り添ったスポーツの祭典であるかどうかが、より注目されてきています。

LGBTQ当事者であることをカミングアウトしているスポーツ選手を中心に取り上げているメディア “Outsports” によれば、東京オリンピックに出場していたLGBTQアスリートの数は、2021年8月4日時点で前回のリオデジャネイロオリンピックの3倍以上と、過去最多記録を一気に更新しました。

この傾向は、人権問題で前々から着目されていた北京オリンピックにおいても同じ傾向となりました。“Outsports” によると、2022年2月7日時点で、北京オリンピックに参加しているLGBTQアスリートは36人になるということです。これは、前回の冬季オリンピックである平昌大会と比べると、2倍以上になります。

アスリートのカミングアウトに勇気づけられる

保守的であると言われているスポーツ業界で、LGBTQ当事者であるとカミングアウトする現役アスリートが増えているという傾向は喜ばしいことです。以前に比べてありのままの自分で生活しやすくなった表れとみえます。有名な選手がカミングアウトすることによって、「自分一人だけじゃないんだ」と勇気づけられるLGBTQ当事者もいるでしょう。スポーツとセクシュアリティで悩んでいる子どもや若者のロールモデルにもなります。

一方で、北京オリンピック開催時点でLGBTQ当事者であるとカミングアウトしているアスリートが欧米の選手に限られていることにも、目を向けなければなりません。

欧米選手しかカミングアウトしていないことは、東京オリンピックから変わりなし

今回カミングアウトしている選手は、カナダ、アメリカ、そしてイギリスなどの欧米諸国の選手たちです。これもやはり2021年の東京オリンピックから同じ傾向です。これら以外の国や地域にもLGBTQ当事者のアスリートはいるはずですが、カミングアウトをしていないものと考えられます。

確かに、夏季オリンピックに比べて、冬季オリンピックは「冬の競技」に限られるので、そもそも参加選手の数や規模がどうしても小さいです。実際、東京オリンピックに参加していたLGBTQアスリートの中には、中南米やオーストラリアの選手も数多くいましたが、これらの国や地域から冬季オリンピックに参加する人数は少ない、ということも限られた選手のカミングアウトになると言えます。

しかしながら、日本や中国など、数多くの北京オリンピック出場選手を輩出している東アジアの国々で、カミングアウトしている選手が一人もいないことは、問題視すべきだと思います。

カミングアウトは個人の自由であり、してもしなくても周りがとやかく言うことではありません。しかし、LGBTQアスリートがまったくいないということはないはずなのです。これらの国々ではLGBTQアスリートが声を上げづらい状態であると考えられます。声を上げたい選手がカミングアウトしやすくなるためにも、日本でもLGBT差別禁止法などの法整備が一刻も早く進むことが望まれます。

北京オリンピックで、人権にスポットライトが当たっているのか?

北京オリンピック開催前には、外交ボイコットがニュースで頻繁に取り上げられました。

人権問題と言えば・・・中国?

先ほど、オリンピックは人権にも注目が集まるスポーツの祭典だと書きました。一方で、中国と言えば、LGBTQの扱い以前に、人権問題に関するニュースが度々聞かれる印象があります。香港、台湾、新疆ウイグル自治区・・・・・・。これらに関するニュースは、海外情勢に詳しくない人でも聞き覚えのあることでしょう。

そういった問題を受けて、北京オリンピックにおいては、欧米諸国を中心に、政府関係者を開会式などに派遣しない、いわゆる「外交ボイコット」が行われたというニュースもよく聞いたという人が多いのではないでしょうか。

北京プライドハウス、確認できず

2021年の東京オリンピックでは、LGBTQ当事者への支援などを目的とした「プライドハウス東京」プロジェクトが立ち上がりました。「プライドハウス」とは、オリンピックをはじめとした大きな国際的なスポーツ大会において行われているLGBTQ当事者支援プロジェクトです。なお、「プライドハウス東京」については、その場限りのプロジェクトではなく、現在も「プライドハウス東京レガシー」という施設として新宿に残っています。

冬季オリンピックにおいても、2018年の平昌オリンピックでは、(カナダオリンピックハウスが兼ねるかたちではありますが) “Pride House PyeongChang” が提供されました。

一方、今回の北京オリンピックにおいて、Pride Houseが提供されているか調べましたが、残念ながら確認できませんでした。恐らく、LGBTQを取り上げて保護することが社会的にタブー視されているため、見送られたと考えられます。

北京オリンピックに出場しているLGBTQアスリート

LGBTQ当事者であるとカミングアウトしている選手を、まずは2名紹介します。

ジェイソン・ブラウン選手(アメリカ)

先日行われたフィギュアスケート男子で、6位入賞の成績をおさめたブラウン選手。最終グループに入るほどの優秀なベテラン選手で、表現力や技、人間性などで多くの人を魅了しており、日本でも人気がとても高いです。自身のTwitterアカウントでは、時折日本語を交えてつぶやくことも。

そんなブラウン選手は、昨年のプライド月間中である2021年6月、Twitterでゲイであることをカミングアウトしました。ツイートで上げた画像内メッセージには、”I’ve grown up surrounded by beautiful, creative, strong, proud, successful and supportive LGBTQ+ role models.”(美しく、創造的で、強く、誇り高く、成功をおさめた、支援的なLGBTQ+のロールモデルに囲まれて育ちました)などと書かれています。

現時点では、LGBTQに関する発信を頻繁に行っているわけではないようですが、病気の子どもと家族が利用できる滞在施設であるドナルド・マクドナルド・ハウスのボランティアに参加している様子などが確認できます。困難な人たちに寄り添えるトップアスリートの今後に期待ですね。

ニコレロシャ・シウベイラ選手(ブラジル)

冬季オリンピックには珍しい、南米選手の一人であるシウベイラ選手。氷の上を頭から乗ったそりで滑り降りてタイムを競う、スケルトンという競技に参加しています。

そんなシウベイラ選手は、同じ競技で北京オリンピックにも出場しているベルギーのキム・マイレマンス選手と、女性同士のカップルです。カップルそれぞれがオリンピック選手とは、異性同士でもなかなかいないのではないでしょうか。

2021年12月、シウベイラ選手は、2人でヤドリギの下でキスしている写真を自身のインスタグラムにアップ(欧米には、クリスマスにヤドリギの下でキスをしたカップルは永遠に結ばれるなどの言い伝えがあります)。2人ともトップレベルの選手であるカップルの今後が気になりますね。

レズビアンのシャールカ・パンチョホバ選手。自国では結婚できない逆境

逆境のなかでも奮闘している、スノーボードで北京オリンピックに出場しているチェコのシャールカ・パンチョホバ選手を紹介します。

レズビアンカップルの日常を積極的に発信

スノーボードのシャールカ・パンチョホバ選手。北京オリンピックでは女子スノーボード・スロープスタイル、ハーフパイプの予選に出場しました。

そんなパンチョホバ選手は、2017年のインタビューでレズビアンであることをカミングアウト。自身のインスタグラムでは、スノーボード関連だけでなく、パートナーであるガールフレンドとの写真をたくさんアップしています。

レズビアンカップルの結婚は認められていないチェコ

2021年8月には、家族や友人らとともに森の中で挙げたウェディングセレモニーの風景写真を数多くアップしています。多くの人々と自然に囲まれた、美しくも温かみのある写真が並んでいます。つまり、パンチョホバ選手は、実質的に結婚している状態と言えます。

一方、チェコはヨーロッパの中でもLGBTQ当事者が生きづらい部類に入ると言っていいでしょう。チェコでは、同性カップルは異性カップルと同等の法的なカップルとして認められていません。

2021年6月には、チェコのゼマン大統領が、LGBTQについて公に語ることを禁じる反LGBTQ法案が成立した近隣国であるハンガリーのオルバン首相を擁護しました。さらにゼマン大統領は、トランスジェンダーを不快とも発言したとも・・・・・・。

LGBTQ当事者が生活する国としては、チェコは日本に勝るとも劣らない環境であると言っても過言ではないでしょう。

国内でLGBTQへの理解が進んでいると言えない逆境の中でも、現役アスリートであるパンチョホバ選手が、自身がレズビアンであることを隠すことなく、むしろ積極的に発信する姿に勇気をもらいました。

それと同時に、日本をはじめとするアジア諸国では、アスリートがセクシュアリティをカミングアウトし、パートナーとの生活ぶりを積極的に発信することは、まだまだ難しく、行うにしても時期尚早なのかもしれないと、頭の片隅で半ば諦めるように思っていたことに気付かされました。

日本でもいつかLGBTQ当事者であることを勇気をもって公表し、積極的に発信する現役アスリートが出てきたらいいなと願っています。

■参考情報
At least 36 out LGBTQ athletes in Beijing Winter Olympics, a record (Outsports)
https://www.outsports.com/olympics/2022/1/26/22899981/beijing-winter-olympics-lgbtq-gay-athletes-list

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