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Writer/Jitian

トランスジェンダーと女子大「トランスは女子大に存在しないのか?」

2018年に、お茶の水女子大学がトランスジェンダー女性を学生として受け入れると発表し、2020年度から実際に受け入れを開始しました。この話題に、2018年当時ですでに社会人となっていた私も大いに関心を寄せました。実は私自身が女子大出身だからです。今回は、現代における女子大、女子校の存在意義、および女子大とトランスジェンダーとの関係を考えます。

現代に女子大が存在する意義

入学者を性別で限定する学校の数は、全体的に見てどんどん減りつつあります。ピーク時の1975年ころに比べ、女子校はその半分、男子校は3分の1ほどにまで減少しています。特に高校以下では、男女共学に路線を変更する学校が少なくありません。

性別だけで学ぶ機会を失わないための女子大

一方、現在入学者を「女子」に限定する女子大は、全国で80校近くあります。意外と多いなと感じた人もいるのではないでしょうか。

男性に比べて高等教育の広まりが厳しく制限されていた明治時代。女子大は、女性にも高等教育が必要だという考えから設立されました。実際、私の母校は日本最初の女子高等教育機関です。

それから約120年。まだ私の親の世代が10代だった頃は、女性が四年制大学に進むことは憚られていました。しかし、今となっては大学に進学する女性は一般的になったと言っていいと思います。120年前と比べれば、かなり平等に近付いていると言えるでしょう。

しかし、まだ男女で教育の機会が平等かと言うと、まったくそうではないのが現実です。
2018年、複数の医学部の入試において、女子だというだけで不利に扱われていたという事実が露見しました。これは全国的に連日取り上げられていたので、記憶に新しいと思います。

こういった女性差別をなくすためにも、広く女性をエンパワーメントするというミッションを女子大の多くが掲げています。よって、個人的には女子大は「まだしばらく必要」だと考えています。

女子校出身者の「受け皿」としての女子大

これはあくまで個人的な感覚ですが、女子大に通う学生の中には、女子校出身者が少なくありません。小学校からずっと女子校に通い、男子がいたことのない環境にずっと身を置いている人もいます(私自身は、高校まで男女比半々の共学校にいたので、女子高出身者が思っていたよりいることに少しびっくりしました)。

そういった女子校出身者の人々が、総じて男性が苦手なわけではありません。しかし、依然と似たような環境であれば安心して学べます。よって、小学校~高校で女子校が存在する限り、女子大も存続すると思います。

同年代の男性がいない環境で過ごす、貴重な経験

個人的に女子大で過ごして一番印象的だったことは、同年代の男子がいない環境で様々な経験をできたことです。

例えば、サークルに男女がいた場合、特に比率的に男性が多いと、部長などといったサークル内の役職に、女性は就きづらい傾向があります。実際、私の所属サークルが交流していた共学大学では、女子部員が役職に就くということに対し、当人が女子だからという理由だけで男子部員から批判的な声が上がっているところもありました(どうやら、女性が役職に就くと組織が軟弱化すると、本気で思っているらしいです)。

一方、女子大であれば、役職に就く人もそうでない人も、必ず全員「女性」です。環境的要因であれ、学生内の組織であれ、役職に就くという経験をするというのは、今後の社会生活で一つ自信になると個人的に確信しています(実際、私も役職に就きました)。

女性が昇進するのを自然に任せて待つのではなく、ルールや環境で、会社役員や議員に女性の登用比率を定めることも、女子大で何かしらの役職を担うということと、根本的には繋がっていると考えています。

「何事も経験」と言いますが、それは個人の経験だけでなく、「女性がトップに就く」環境を社会全体が経験することが大事だということです。

また、女子大では、役職以外でも様々な場面で環境的要因による女子大ならではの経験がもたらされます。例えば、ゼミで発言することや、重い荷物を運ぶことなどです。一つ一つは小さなことかもしれませんが、「女だから」と機会を奪われることがない、空気を読む必要がない環境で4年間過ごしたことは、私にとって貴重な財産になっています。

女子大で学んできた、様々なトランスジェンダーの学生

ところで、「女子大がトランスジェンダー女性の受入の検討を始めた」というニュースを聞くと、現時点で女子大にはシスジェンダー女性の学生しかいないと感じる方もいるでしょうか。しかし、実際にはそうではありません。なぜなら、Xジェンダーの私が女子大の卒業生だからです(笑)。

ジェンダーアイデンティティに気付かずに女子大に入学

個人的な話になりますが、私が女子大に入学してしまった理由は2つあります。一つは、志望していた共学大学に落ちたという、単純に自分の努力が足りなかったこと。二つ目は、入学時点で自分がXジェンダーだとまだ自認できていなかったことです。家から近くて滑り止めにちょうどいい偏差値であり、戸籍上女性だから受験資格がある(← ここがポイント)という理由だけで母校を受験したのでした。

性別は男女どちらかという二元論的考え方が、現在も一般的です。入学前の高校生のとき、女社会に馴染めないと感じながらも、でも自分は男になりたい、男であるとも思えなかった私は、自分のことを「どちらかと言えば、多分女性だと思う」と考えていました。今思い返すと、ずいぶん不確かな自認です(笑)。

大学に入学してから、ジェンダー論の授業で性別をスペクトラムとして捉えるという考え方を知り、そこからXジェンダー自認に至りました。その際「やっぱり私、間違えて女子大に入っちゃったんだなあ」と心の底から思いました。いくらそこに身を置いても一向に「女社会」に馴染めない感覚も、ようやく腑に落ちました。

とはいえ、年度初め毎に「あなたは今年度も変わらず女性ですか?」などと大学で調査されるわけでもありません。治療もしていないので、戸籍上の性別が変わる可能性もありません。クローズドだった私は、周りから浮かず、何気ない顔をしながらも「女子大生」として馴染めるように精一杯努め、無事大学を卒業しました。なお、女社会に女性として心から馴染むことはできなかっただけで、大学生活そのものは楽しかったです。

ほかにもいた、Ftっぽい人たち

私は普段から中性装や男装をするわけではないので、見た目には広義のトランスジェンダーだとは分からないと思います。

しかし、構内を見渡せばトランスジェンダー男性かもしれない学生は、少なからずいました(もしかしたらボイのレズビアンかもしれませんが)。つまり、トランスジェンダー女性を受け入れるか否かという以前に、そもそも女子大の学生はシスジェンダー女性だけではない可能性が極めて高いです。

すでにトランスジェンダーの対応を考える必要があるはず

女子大の学生はシスジェンダー女性だけではないことを考えると、個人的に対応すべきだと前々から思っていることがあります。トイレ問題です。

実は女子大のトイレはほぼ女子専用です。尤も、構内にいる人のほとんどが女子であることを考えれば普通のことかもしれません。しかし、トランスジェンダーで女子トイレを使うのが憚られる場合、どのトイレを使えばいいのでしょうか。女子大には男子トイレは非常に少ないですが、トランスジェンダーがよく使うだれでもトイレすらも少ないです(これは建物の古さも関係するかもしれませんが)。

例えば、4階建ての建物の中に女子トイレが8か所あったとすると、男子トイレは1か所、だれでもトイレが1か所あるかないか、くらいの比率です。だれでもトイレの設置増加は、トランスジェンダー女性を受け入れる前に改善するのではなく、今からでも着手すべきだと考えます。

すでに女子大内に存在するトランスジェンダー女性

お茶の水女子大学から始まったトランスジェンダー女性の受け入れ。この流れは、日本最古の女子大学である日本女子大学(2024年度から受け入れ開始予定)といった著名な女子大学にも波及し、全国的にもニュースとなりました。

キャンパス内で見かけたトランスジェンダー女性

私が大学に在学していたのは一昔前の話と言っても過言ではありませんが、その当時すでにトランスジェンダー女性と思われる学生を見かけたことがあります。女性装をしていましたが、明らかに体格がよくて筋肉質で、背も高く、声が低かったので間違いないと思います。

もちろん、授業内でジェンダーアイデンティティについてその人が問われたり揶揄されたりすることはなく、ほかの学生と同じように授業を受けていました。

入学を厳しく制限されるトランスジェンダー女性

しかし、当時の大学受験資格で必ず満たしていないといけない項目が「戸籍上女性であること」です。ということは、恐らくそのトランスジェンダー女性は、治療やSRSを行い、戸籍を変更したうえで受験、入学したと思われます。

2020年現在、20歳以上でないと戸籍変更できません。つまり、そのトランスジェンダー女性は20歳以上になってから入学したと考えられます。多くの学生が数え年で19歳で入学することを考えると、入学時点で数年遅れているのです。

トランスジェンダー女性だからという理由で入りたい大学に入る資格がない、入るには治療を乗り越えて戸籍を変更しないといけないというのは、シスジェンダー女性ではないのにすんなり入学、卒業した身からすると、機会不平等だと感じざるを得ません。

現在、在学生も巻き込んで各大学はトランスジェンダー女性受け入れのための準備や説明会、議論を行っています。女子大としての意義や伝統も忘れず、時代に合った大学に進化していくように、卒業生の一人として祈っております。

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