02 自分の体を知る大切さ
03 恋をするって楽しいこと
04 「どうせ男なんて」
05 援助交際の先にあったもの
==================(後編)========================
06 結婚相手は “普通の人”
07 お母さんはパンセクシュアル
08 全員に認められたいわけじゃない
09 自然に性を語れる世の中に
10 性に悩む子どもを受け入れたい
01 4人の子供の母として
ご飯は毎日1升
「一番上が高校1年生。次が中1、その次が小3で、一番下が3歳です。小3以外は女の子」
「今年から学校がバラバラになっちゃったので、子どもたちに覚えててもらわないと、学校行事とか忘れちゃうんです(笑)」
3女1男の子どものお母さん。家事をこなすだけでも骨が折れる。
「お米を炊くのは、朝5合と夜5合で毎日1升。ほんとよく食べるんです」
「特に男の子は運動量が女の子と違いますね。自転車で走り回ってますよ(笑)」
住まいは埼玉県の自然豊かな住宅地にある。
長男は友だちと連れ立って自転車に乗り、近くの山へクワガタを採りに行くのが大好きなのだ。
「長女は吹奏楽部で、次女はテニス部で、それぞれ部活で体力使いますし」
「家事を手伝って欲しい気持ちはあるんですけど、部活が忙しそうなので、家にいる時くらい休ませてあげたいくらい」
アレルギー体質の娘のために
子どもたちは、土日も部活の練習などがある。
休日に家族みんなで揃って出かけることは減ってしまった。
「自分がやりたいもののために、時間を費やすことができるようになった子どもたちの成長を喜びながらも、やはり少し寂しい気持ちはありますね」
そんな家族のために毎日食事を用意して、掃除をして、洗濯をして、学校行事にも参加して・・・・・・。
さらには自宅で自然食品の販売を行っている。
「玄関先のちょっとしたスペースで、ほそぼそとやっている程度ですけど(笑)。製菓材料とか調味料とか、主に食品を扱っています」
自然食品の販売を始めたのは4年ほど前から。
きっかけは、子どもの体を思いやる母親としての視点だった。
生まれてすぐ、長女に食物アレルギーがあることが発覚したからだ。
乳製品を食べると蕁麻疹が出てしまっていた。
「周囲にも食物アレルギーで悩んでいる人が多いことを知って、自分が使っていた食品を、紹介を兼ねて販売することにしたんです」
そして長女のアレルギー反応が収まった今も販売を継続。
地元の有機栽培農家とも繋がりができ、手づくりの加工食品や調味料も仕入れている。
「もし売れ残っても、食べてくれる人は家にいくらでもいるんで(笑)」
そう、食べ盛りの子どもたちが4人もいるのだ。
02自分の体を知る大切さ
ピンチはチャンス
母としての役割を果たし、自然食品販売の仕事という二足の草鞋を履きこなしながら、さらにもうひとつの草鞋を持っている。
「性への真の理解」を広めるためのセミナー講師も務めているのだ。
「出産を通して、助産師という仕事は素晴らしいなと思って、性に関わる仕事をしたいと考えるようになったのが最初です」
「そんな時、親子や大人のための性教育を行なっている協会を見つけて、助産師の方が代表を務めていると知り、参加してみたんです」
「そしたら、本当に真面目に取り組まれていて。義務教育にしたほうがいいのでは、と思ったくらい」
そこで2017年4月から1年、講師養成コースを受講した。
「そのコースでは、いろいろなことを学びました。思春期の体の変化からホルモンの話、家庭でどうやって子供に性について伝えるのか、など」
例えば、夫婦の営みを子どもに見られた時にはどう説明するのか。
「小さな子なら、好きな人とはギュッと抱き合いたいし、ギュッとしたら安心するよね、って伝えます」
「小学生くらいになったら、そろそろ精子と卵子のことを教えます。生物学的に説明したら、まったく嫌らしいことはありませんよ」
「見られたピンチは性について教えるチャンス。“ピンチはチャンス” なんです(笑)!」
家庭と学校での性教育
実際に家庭では、絵本を読むなどして性についての正しい知識を自然に伝えるようにしている。
「小3の長男には『ぼくのはなし』という絵本を読んであげています」
「ぼくは、どこから生まれたの?」という小さな男の子の素朴な疑問を、男の子のひとり語りにより丁寧に優しく解き明かす内容の絵本だ。
「お母さんが妊娠して “ぼく” を産んだというところから、精子と卵子がどうやって出会うのかというところまでしっかり説明してあるんです」
「お父さんのペニスを、お母さんのワギナに入れて、精子を届けるんだよ、とはっきり書かれています」
「うちの子はその場面を気に入っちゃったらしく、もう何十回も読まされてます(笑)」
自分にもお父さんと同じものが付いていて、そこから精子が運ばれていって、命になるってすごい。
体のしくみを知って驚くと同時に、自分の体を愛しく大切に思う瞬間だ。
「長女と次女は、すでに学校で性教育を学んでいるので、私が絵本を読んでいても聞こえないふりをしてますね(笑)」
「でも、一般的な学校での性教育には疑問があります」
「基本的に受精より前のことは伝えられないままなのに、中学校の教科書ではいきなり性感染症のことが書かれているので、どうやって感染るのか、どうやって防ぐのか、が伝わりにくいんです」
「うちの子どもたちが通っている学校では、小学校でも中学校でも、専門家を招いて性教育の授業を行なっていて、小学4年生で性交についても説明しているそうです」
小学6年生くらいになると、性交について何となく知っている子も増える。
話題に上がると恥ずかしがったり、騒いだりすることもある。
だからこそ、余計な先入観に囚われず、素直に話が聞ける早めの段階で、性に対する正しい情報を教えることが肝要なのだ。
03恋をするって楽しいこと
女子卓球部の憧れの先輩
幼稚園の頃の自分は、いつも誰かに恋をしている子だった。しかも、恋の相手はひとりではなかった。
「あの子のことも、あの子のことも好きって感じで。その時の相手は男の子でしたね」
「でも、告白なんかはできなくて」
「初めて告白したのは小学校4年生くらい。言葉を直接伝えるのはできないから、手紙を書いて、その子の家の郵便受けに入れました」
相手はクラスのリーダー的な存在。女子にも男子にも優しい子だった。
「返事は来なかったんですけどね(笑)」
中学生になってからは、3年間ずっと先輩に憧れていた。
同じ女子卓球部の先輩。つまり相手は女性だった。
誕生日にはプレゼントを渡したりもしていたが、恋というよりも、ファンとして追いかけているような感じ。
「周りの友だちにも、それぞれ好きな先輩がいて。みんなでキャーキャー言ってる感じでした。それが特別なことだとはまったく思っていませんでした」
しかし、先輩が卒業したあと、それがちょっと “特別なこと” なのかもしれないと思うようになった。
「友だちは、先輩が卒業してからはそんなに話題にしていなかったんですが、私は『まだ好きかも』と感じていて」
「私が先輩を想う『好き』は、みんなの『好き』とは違うかもって気付き始めたんです」
それでも、取り立てて気にすることはなかった。
初めての恋人は年上の女性
「どうして私は男の人も女の人も好きになっちゃうんだろう、おかしいんじゃないかな、なんて気持ちはまったくなくて」
「だって、恋するのって楽しいじゃないですか」
恋愛は楽しいもの。
思い切り楽しもう。
そう思った。
そして高校生になって、レズビアンやゲイの存在を知り、自分と同じように女性を好きな女性との出会いを求めて、ネットで検索した。
レズビアンに関する掲示板で “バイセクシュアル” という言葉も知った。
自分はそうなんだろう、と思った。
「そして出会ったのが初めての恋人です」
9つ年上の社会人の女性。
大人が行くようなオシャレなレストランに連れて行ってもらったり、勉強を教えてもらったりした。
一緒にいて、とても楽しくて、とても満たされたが、喧嘩も多かった。
「頭がいい人だったから、私が知らないような難しい言葉を使うことがあって」
「それが続くと、まるでバカにされているような気分になってしまったんです」
それでも、初めての恋人のことが好きだった。
実は、それまでに何人かの男性と付き合ったりもしたが、みんな1ヶ月も経たないうちに別れていた。
恋人としてカウントできないくらい、付き合いが浅かったのだ。
初めての恋人とは、別れてしまった今でも、友だちとしての関係は続いている。
人生において、大切な人のひとりなのだと言えるだろう。
04 「どうせ男なんて」
男女の恋愛に憧れて
男性と付き合っても、なぜだか長くは続かなかった。
「私にも原因があったんだと思います。連絡をマメにしすぎるところがあって、追っかけすぎるタイプなので、相手から『ちょっと距離をおきたい』と言われちゃったりとか(苦笑)」
「いつも1ヶ月も保たないから、高校生の頃の私は、男性とは長続きするのは無理なんだ、と思っていました」
しかし、初めて女性と付き合って、長続きする関係を築くことができた。
男性との付き合いと、女性との付き合いでは、何が違うのだろう。
「なんだろう・・・・・・。女性と一緒だと何をしてても楽しんですよね。友だちでもあり、恋人でもあるっていうか・・・・・・なんだろう」
「女性の方が、一緒にいてラクというのはありますね」
男性との付き合いに対しては、憧れもあったのかもしれない。
「友だちが彼氏のことを話しているのを聞いて、私も彼氏のことを友だちに話したかったのかな」
男女の恋愛に憧れて付き合っていた時、相手を本当に好きだったのかと問われると、ハテナマークが浮かんだ。
「やっぱり女性の方がしっくりくるなって」
「年上の女性と付き合っている時に、友だちと友だちの彼氏とダブルデートで遊園地に行ったことがあって、それがすごい楽しかったんです」
「友だちの彼氏も、同性カップルを前にして最初は戸惑っていたかもしれないけど、普通に接してもらえて、うれしかったですね」
母親からの置手紙
そのあとも、男性と付き合ってみることはあったが、やはり続かなかった。
女性から彼氏宛に電話があったり、ドタキャンされたりするたびに、「浮気されているかも?」と思って詰め寄ってしまっていた。
「相手からすると、私ってウザかっただろうなぁ・・・・・・(苦笑)」
「でも、付き合う相手が女性だと、私が追いかけるだけでなく、向こうから追いかけてくれる感じで、いい関係が保てたんですよ」
男性が相手だと、頼りたい、守ってほしい、と過度に期待しすぎて追いかける傾向があったのかもしれない。
「そういうのがあって、男とは続かない、どうせ男なんて、という先入観ができてしまって、余計続かなかったんでしょうね」
とはいえ、家族とではなく、友だちや恋人と外で過ごす時間が増えた高校生時代。
たまに、部屋に手紙が置いてあることがあった。
外出や外泊の多い娘を心配した母親からだった。
「とても心配ですが最後はあなたを信じています」と書いてあった。
「信じている」という言葉は、「門限は守りなさい」「外泊は控えなさい」と言われるよりも威力がある。
「母を裏切ってはいけない、と思いました。でも、結果として裏切ってしまっていたんですが・・・・・・」
05援助交際の先にあったもの
誰かに大事にしてほしかった
高校2年生で初めての恋人と出会う前、何人かの男性と付き合ってみたあと。
誰かに求められたくて、満たしてほしくて、大人の男性に体を売ってしまった。
「誰でもいいから、その時だけでも大事にしてもらいたかったし、きっとセックスに対する興味もあったと思う」
「たぶん、お金が目的じゃなかった。ことが終わって、お金をもらう時が一番虚しかったから」
「置手紙にあった、母の予感は的中してたんです。母は私を信じてくれていたのに、裏切ってしまっていました・・・・・・」
援助交際をしていたのは1年間。
「強制終了」となる出来事があったのだ。
「10万円払うから行為を撮らせてほしいという男性がいたんです。それで、いいよって言っちゃって」
「でも、その人が言うには、前にお金を渡したら逃げられちゃったから今は渡せない、コインロッカーにお金を入れておいて、終わった後に鍵を渡すから取り出して、と」
そう言われて、札束も見せられた。
コインロッカーに札束を入れるところも確認した。
だから相手の言うことを疑っていなかった。
しかし、すべてが終わってからコインロッカーを開けてみると、1番上の1枚以外は、1万円札ではなく、ただの紙切れだった。
「思い切り泣きました。お金がもらえなかった悔しさからじゃなく、私は何をやっているんだろうって・・・・・・」
私の経験から感じてほしい
援助交際では、やはり何も満たされることはなく、虚しさだけが残った。
「エイズになっているかも、と本気で怖くなって検査にも行きました。そこで、もう二度と援助交際なんてしないと思いました」
「そこで気づかなければ、もっと大変なことになっていたかも」
「無駄な経験などないというか・・・・・・、誰にも同じような経験はしてほしくないけど、私の経験を誰かのために活かせたらいいなと思っています」
だから、この経験はできるだけオープンにしている。
性教育のセミナーでも話し、家族にも話した。
「援助交際のことを聞いた長女と次女には、怒られました。なんでそんなことしたの? バカじゃない?! って」
「そうです、その通りです(苦笑)」
「でも、娘にも他の女性にも、自分の体を大切にしてほしいという気持ちを、そのまま『自分の体を大切に』と言葉で伝えるよりも、私の経験を話すことで、自分で感じてくれたほうがいいのかなって思って」
長女も次女も、母の過去を知ったあと態度が変わることはない。
さらに根掘り葉掘り聞くこともない。
いつも通りの様子だ。
「バカじゃない?! って終わって、もう忘れちゃってるかも(笑)」
<<<後編 2018/11/03/Sat>>>
INDEX
06 結婚相手は “普通の人”
07 お母さんはパンセクシュアル
08 全員に認められたいわけじゃない
09 自然に性を語れる世の中に
10 性に悩む子どもを受け入れたい