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Writer/雁屋優

LGBTカップルも使用できる婚前契約(プレナップ)とは?

2021年12月7日、小池百合子東京都知事は、同性パートナーシップ制度を来年度中に導入すると発言しました。パートナーシップ制度は同性婚とは完全に別物ですが、朗報であることに間違いはありません。婚姻制度よりも法的拘束力の低いパートナーシップ制度を利用することになる同性カップルの人々にも、法的な契約を交わし、合意を何らかの形で残しておく手段はないものでしょうか。その手段の一つとして、婚前契約書(プレナップ)を見ていきます。

婚前契約書(プレナップ)とは?

海外の著名人や国際結婚をされる方のもの、という認識が強い、婚前契約書(プレナップ)。そもそも、婚前契約書(プレナップ)とは何なのでしょうか。

婚前契約書(プレナップ)は結婚前の合意形成

英語の「Prenuptial-agreement」を和訳すると婚前契約になります。英語圏では、略してプレナップもしくはプリナップと言うようです。本記事では、婚前契約書(プレナップ)と表記します。

婚前契約書(プレナップ)は、結婚前のカップルが、婚姻届を提出する前に自分達の結婚生活におけるルール、財産関係、離婚する際の取り決めなどをしておく、法的にも意味のある契約です。書き方によっては法的に無効になる場合もあり、実際作成するときには専門家の手を借りるのが賢明といえます。

婚前契約書(プレナップ)作成時に決めること

財産防衛のため、といったイメージがある婚前契約書(プレナップ)ですが、二人で決めておけることの範囲は広く、結婚生活における詳細なルール、財産の管理、離婚する際のことと多くのことを決められます。例えば、子どもをもつかもたないか、家事や育児の分担はどうするかといったことも、婚前契約書(プレナップ)に含めることができます。

もちろん、具体的な財産管理についても決められるので、離婚時の火種を減らすことにも繋がります。また、結婚生活を始める前にお互いの望む結婚生活について話す機会を設けることは、円満な結婚生活において大事な要素です。

海外では一般的な存在となっている婚前契約書(プレナップ)

海外のものと思われがちな婚前契約書(プレナップ)ですが、婚前契約書(プレナップ)を交わしている著名人としては、日本では深田恭子さんが挙げられます。

国際結婚をする方が、相手から婚前契約書(プレナップ)の話をされて初めて存在を知ることもあるようです。海外、特に欧米では、婚前契約書(プレナップ)は、日本よりも認知度が高いものです。

LGBTの人々も婚前契約書(プレナップ)を使える

パートナーシップ制度は、婚姻制度ではありません。だからこそ、婚前契約書(プレナップ)を参考に互いの合意形成しておく必要があると、私は考えます。

同性婚できないけど、LGBTの人たちに婚前契約書(プレナップ)の話をする理由

日本でパートナーシップ制度を施行する自治体は増加していますが、同性婚は未だ法制化されていません。各自治体の、パートナーシップ制度を説明するサイトには、「同性婚とは異なるものである」ことが明記されています。異性愛者の婚姻とは違い、パートナーシップ制度によって得られる法的効果はありません。

自治体が二人の関係を証明し、宣誓を受け付けてはくれますが、法的に配偶者としての扱いを受けることはできません。

しかし、その状態であっても、同居したり、同一家計になったりすることはありえます。そうなれば、財産の管理も発生しますし、生活のルールを決めておくことも、別れるときのことを取り決める必要性もあります。

法的な拘束力のある契約がない場合には、それがある場合に比べて、トラブルの解決が困難になることが考えられます。トラブルで疲弊することで、LGBTカップル双方が損をするのは火を見るより明らかです。

LGBTだからこそ、二人の生活について明記しておく

LGBTの人々、特に同性カップルには、法的な拘束力のある利用可能な契約が限られています。養子縁組の利用も知られていますが、将来同性婚が法制化されたときに養子縁組をしていたら困るのではないか、という危惧も聞かれます。

そんななか、LGBTの人々の新たな選択肢としても、婚前契約書(プレナップ)を活用することは一考の価値があるでしょう。

結婚生活をデザインする手段、婚前契約書(プレナップ)

「そうは言っても、契約なんて、何だかドライで馴染まない」「将来別れるって想定して結婚するなんておかしい」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、婚前契約書(プレナップ)は、本当にドライでネガティブなものでしょうか。

婚前契約書(プレナップ)は弱い立場の人を守ることにも繋がる

アメリカでは日本よりも訴訟や裁判が身近に存在し、良くも悪くも、“訴訟大国”と言われています。そのこともあってか、事前に契約を結んでから結婚することは、選択肢の一つとして受け入れられています。

一方、日本では、家庭への公的な介入に非常に強い拒絶反応を示す傾向があります。日本民法の仕組みが、家庭への公的な介入よりも私的自治を優先していることも大きく関係していると言われています。

心で結びつく関係に契約をもちこむのは何だか馴染まないという意見も、一理あります。しかし、どのような関係性にも権力勾配は存在しています。例えば、「財産をもつ者、もたない者」「収入を得る人、得ない人」といったものです。愛情が翻って憎しみに変わったとき、弱い立場に置かれた人を守るのは、契約かもしれません。

異性愛者、LGBTカップルにとっても、婚前契約書(プレナップ)は関係性を壊さない

婚前契約書(プレナップ)を作成するときの合意形成は関係性を壊すものではなく、むしろ関係性を深め、お互いの望むものをすり合わせるのに役に立ちます。同居か別居か、仕事についてはどうか、家事をどう分担するか、どのような生活を望むか、子どもを望むか、など多くのことを二人で話し合い、言葉にしていく過程は、お互いの価値観について理解を深めるきっかけになるでしょう。

もちろん、どうしても譲れないところで合意できず、お別れになってしまうカップルもいるかもしれません。しかし、相手を深く知って、程よい距離のお付き合いができるようになる可能性もあるのです。異性愛者のカップルがそうであるように、LGBTのカップルも結婚や同居が最善という場合ばかりではありませんから。

カップルにとって最善の形は何かを模索し、デザインする。婚前契約書(プレナップ)のそのような過程が、LGBTカップルの関係性もよりよくしてくれる可能性は大いにあります。

婚前契約書(プレナップ)の活用で多様な関係性を作れる

今までは、結婚は異性愛者だけのもので、同居、同一家計、親戚付き合いなど多くのものが付随していました。結婚が異性愛者だけの制度であることは、2021年12月現在の残酷な現実ですが、LGBTカップルやパートナーとしての生活を婚前契約書(プレナップ)でデザインすることはできます。

LGBTに限らず、パートナーとの関係は人それぞれにある

『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ、講談社)では、契約結婚が描かれ、多くの人々の心に響きました。カップルの関係性は、カップルの数だけあるものです。その形の一つとして、私は婚前契約書(プレナップ)を用いた関係性を提案します。

婚前契約書(プレナップ)を知り、ぜひご自身の求める関係性や生活について考えを深めてみてください。きっと、ご自身の大事なものやその優先順位といった新たな発見があるはずです。

結婚とはかくあるべき、パートナーシップとはかくあるべき、といった固定概念ではなく、結婚もパートナーシップも自分達で自分達の使いやすいようにデザインし、合意して作っていくものだと考えるのがスタンダードになれば、幾分か生きやすい世の中になることでしょう。

法的な拘束力がない日本のパートナーシップ制度ですが、婚前契約書(プレナップ)は、LGBTカップルの生活を下支えする一つの方法だと思っています。

婚前契約書(プレナップ)で多様な関係性をデザインする

婚前契約書(プレナップ)が、日本でもどんどん普及していってほしいと私は考えています。婚前契約書(プレナップ)は、婚姻やパートナーシップに求めるものがお互いに明確にされるため、円満な生活に繋がるというのはもちろんのこと、婚姻やパートナーシップの要素を分解して、本当に求めているものを選び取ることにも繋がっていくからです。

例えば、私は、別居で、別家計で、週一回晩ごはんをともにするようなパートナーシップなら結んでみたい気が少しだけしています。一方で、伝統的な家族観を大事にしたい人は、そのように取り決めることもできます。婚前契約書(プレナップ)の普及は、人々に選択肢を増やすものであり、誰かの選択肢を減らすものではありません。

婚前契約書(プレナップ)を皆が結ばないといけない、ということでもなく、婚前契約書(プレナップ)を活用した関係性の作り方もある、という話をさせていただきました。実際に婚前契約書(プレナップ)を作成する場合には、法律の専門家に相談することをおすすめします。

婚前契約書(プレナップ)は、専門家に相談を

婚前契約書(プレナップ)の経験のある法律の専門家も増えてきているようなので、インターネットで検索して連絡し、相談してみましょう。残念ながら、まだこういったことに理解のない法律の専門家もいますので、相談先を選ぶのは慎重かつ入念な調査のもとで行うことをおすすめします。

東京都で来年度中にパートナーシップ制度が実現されることは喜ばしいことです。しかし、パートナーシップ制度は婚姻制度ではありません。やはり、同性婚法制化が必要です。もっと言うなら、より多様な関係性が法的に保護される必要があります。婚前契約書(プレナップ)の作成は、パートナーとの関係性、ひいては互いの人生について考える契機となる可能性を秘めています。婚前契約書(プレナップ)の作成を、二人のこれからの選択肢に加えてみるのもいいでしょう。

これからも、同性婚法制化を目指して、婚姻やパートナーシップ制度についてさまざまに考えていきます。

 

 

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