NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 ノンバイナリーでも改名は可能! すべてのトランスジェンダーが改名を成功させる方法とは?【その2】

Writer/チカゼ

ノンバイナリーでも改名は可能! すべてのトランスジェンダーが改名を成功させる方法とは?【その2】

前回の記事では、ぼくが改名に際して実際に提出した使用実績や申立書の内容などを紹介した。今回は実際に家庭裁判所へ申立を行なったときの様子や、約1時間の面談における前半部分(主にぼくへの個人的な質問)について、語っていこうと思う。

トランスジェンダーの改名申立当日

書類をかき集めて申立を行なったのは、10月28日。ぼくは郵送ではなく、直接家庭裁判所に赴いた。

「トランスジェンダーで、改名の申立に来ました」と明確に言おう

いざ家庭裁判所の受付に行くと、やっぱり緊張してしまって、職員さんにモゴモゴと「あの・・・改名の申立なんですけど・・・」と告げるので精一杯だった。すると職員さんに間髪入れずに「苗字ですか?」と訊き返されてしまって、余計なダメージを食らう羽目になったのだ。

そうですよね。そりゃあフーディーにバックパック背負ったチビの人間が、よもや「トランスジェンダーで性別違和のために改名したいんです」などと言い出すなんて思いつきもしないっすよね、とやさぐれた気持ちになった。

ぼくは男女どっちにも見られたくないんだけど、実際は「女性」にしか見られないという事実を無駄なところで思い知らされて、無駄に傷ついた。その人は悪くないのにイラッとしちゃって、その後の応答もぶっきらぼうになってしまった。

そして明言しなかったものだから、その方は申立に必要な書類などを引っ張り出してきて手続きの方法を説明してくれようとした。こういうすれ違いを起こさないためにも、心臓はバクバクすると思うけど、最初にはっきり「トランスジェンダーで、性別違和による改名の申立に来ました。書類のご確認をお願いします」と言ってしまったほうがいいかもしれない。

改名の申立の際は、時間に余裕を持とう!

前の記事で書いた通りぼくは、裁判所に提出する書類(返却されない)を事前にコピーしておくことをしないまま、受付時間ギリギリに行った。改名の申立は、きちんと準備し、時間に余裕を持って行ったほうがいい。

フリーランスって生活リズムがぐっちゃぐちゃで普段の起床時間が12時とかだったりするため、どうしても朝起きることができなかったのだ。ぼくと同じように朝が弱い人はちょっときついかもしれないけれど(だいたい夕方で閉まっちゃうし)、この日だけはどうにか頑張ろう。

ノンバイナリーのトランスジェンダーであるぼくが受けた改名申立の面談①

申立からちょうど1週間後、11月4日に家裁から電話が来た。そこで面談日の打診をされ、11月16日に日程が決まった。ここからは実際の面談の前半部分の様子や、質問内容について詳しく紹介していく。

改名申立の面談担当の職員さんは「当たり」だったけど

トランスジェンダーの改名申立の許可は、ぶっちゃけ面談担当職員ガチャ・裁判官ガチャ的な要素がでかい。結論から言ってしまえば、ぼくは「当たり」だった(こんな大事なことに当たり外れがあってたまるかよって話だけど)。

でも、正直かなりデリカシーに欠ける質問もされて、終わるころにはぐったりしてしまった。ここから実際の様子を語るけれど、でもこれはけっしてその職員さんを責め立てる意図があるわけじゃないことを断っておきたい。そうじゃなくて「もっと別の訊き方があるのでは」「こういう質問は嫌だよ」ってことを、家裁の職員さんや裁判官──ひいては世間に伝えたいだけなのだ。

ノンバイナリーのトランスジェンダーであるぼくが、改名申立の面談で最初に訊かれたこと

最初に訊ねられたのは、学歴と経歴。

このときどういうわけだか職員さんは「高卒で、今は働いていらっしゃるのよね?」と断定口調で問うてきた。ぼくは髪色が派手だからかよくアパレル関係の仕事に就いていると勘違いされることがあって、だから最初は特に疑問にも思わず「いいえ、最終学歴は〇〇大学の大学院修了になります」と答えたのだけど。その途端、職員さんは「やだごめんなさい、失礼しました! すごいですね!」と敬語に切り替えたのだ。

これには正直、だいぶモヤっとした。最近マイナビで学歴差別疑惑も出ているけれど、こういう対応は正直いかがなものかと思う。だってこれじゃまるで、「高卒の人」はすごくなくて、タメ口でもかまわない相手だって言っているようなものじゃないか。

そもそも「高卒」と決めつけた理由がわからないし、普通に「学歴は?」と訊いてくれればよかったのにな。こういう文脈で自分自身の学歴を「すごい」と言われたって、1ミリも嬉しくないよ。

改名の申立書に、学歴・経歴欄も作るべきでは

申立書には学歴や経歴を書くスペースは無くて、あるのは「職業または在校名」欄だけ。ぼくはそこに「自営業」とだけ記載したのだが、職員さんからは「これじゃわからないわよ〜、だって自営業って、いっぱいあるから!」と苦情をもらった。 “フリーランスは「自営業」または「個人事業主」とだけ記載すれば良い” とインターネット上では見かけたのでその通りにしたまでなのだけど、会社員にだって「いっぱいある」だろう。

その方は「あちこち見たけどわからなかった」とおっしゃっていたが、ぼくの提出したクライアントさんとの契約書や発注書・請求書なんかには、思いっきり「原稿料」と書かれている。すなわち本当にしっかり確認してくれていれば、「物書きかな」くらいは想像がつくはずだ。そして最初にそれを訊ねなきゃならないんなら、学歴及び経歴を記載する欄も作ってほしい。

まあ、とにもかくにも “何やってるんだかよくわかんない人” と言われがちなフリーランスは、「職業または在校名」欄に具体的な職種を書いておいたほうがいいのかも。ぼくだったら「文筆業」「執筆業」とかね。ていうかいっそのこと、職務経歴書とか履歴書に一緒に提出してもいいかもしれない。

ノンバイナリーのトランスジェンダーであるぼくが受けた改名申立の面談②

最初の質問だけで、たぶん10分くらい要してしまったと思う。もう少ししっかりと書類に目を通して頂けていたら、1時間近くかかった面談はきっと30分程度で終わっていたんじゃないか。

改名申立の面談で、なぜか国籍について語らなきゃならないストレス

また、「これはさすがに事前にきちんと確認しておいてほしかった」と思う事柄があった。それは、ぼくの人種や国籍のこと。学歴と職業の説明が終わると(もうこの時点で正直クタクタだった)、戸籍謄本を指差しながら「えっと、現在は韓国籍でいらっしゃる?」と質問された。

去年帰化済みで現在は日本国籍だと答えると、「韓国でお生まれになって、いつこちらに?」と問い返されてしまって、正直もう泣きたくなった。以下、そのやりとりの箇条書き。

ぼく:「いや、こちらで生まれてこちらで育ちまして・・・」
職員:「あれ、でもここに『韓国籍』って書いてあるのだけれど」
ぼく:「いやですから、ぼくは在日コリアン3世なんです(※実際は日本と韓国とロシアのミックスなので、あくまで戸籍上の話)」
職員:「そうなんですね、じゃあ生まれたときに国籍をこっちにしてしまえばよかったのにねえ。帰化申請、大変だったでしょう」
ぼく:「ええっと、両親ともに韓国籍なので・・・」
職員:「あらそうなんですね、なるほど〜」

ノンバイナリーのトランスジェンダーとして改名申立の面談をしているはずなのに

上記の内容は、戸籍謄本を見ればすべてわかることだ。出生地も受理者(出生届を受理した区長)も、そこにしっかりと記載されている。それに「国籍を変えておけばよかった」というのも、偏った価値観の押し付けだよ。

ぼくは日本国籍の方が自分のアイデンティティに相応しいと思ったからこそ帰化申請をしたけれど、他国に籍を置きながら日本で生活したいと望む人もいる。ひと口に「在日外国人」といっても、個々人で捉え方や感じ方は違う。それこそ、セクシュアリティと同様に。「こっちにしておけばよかった」なんて、他人が気軽に言うべきじゃない。

ていうかそもそもこれは、「ノンバイナリーのトランスジェンダーであるぼくの、改名申立のための面談」であるはずじゃなかったのか。なぜこんなまったく関係のない他の属性について、ぐじぐじとほじくられなきゃならなかったんだ。

ただでさえ「改名の理由」というセンシティヴでデリケートなことについて話さなきゃならないんだから

ただでさえ「自身のセクシュアリティ」という、普段はおよそ誰にも話さないようなセンシティヴでデリケートなことについて、見ず知らずの他人に詳細に語らなければならない状況なのだ。

ぼくはこうしてものを書く上でセクシュアリティを公表しているけれど、痛みは伴う。そして以前から書いている通り、実生活ではクローズドにしている人間だ。それでもここでは打ち明けたくないことまで打ち明けねばならないし、訊かれたことに答えない選択肢を持っていない。

なにより無神経で傷つく発言をされたとしても、NOという権利を(実質)剥奪されてるような場だ。心証が悪くなったら改名申立の申請が通らないかもしれない、という恐怖も抱えているんだから、抗議することもできない。

だからこそ、せめて最大限の配慮くらいしてほしかった。だってせっかく集めた書類を事前にしっかり読み込んでくれていないって、ぼくはいったいぜんたい何のために各所に走り回ってお願いをして、必死で実績を集めたんだよ。

ノンバイナリーのトランスジェンダーであるぼくが受けた改名申立の面談③

面談に臨む際にぼくが気をつけたポイントを述べて、今回の記事は締めようと思う。

「ノンバイナリーのトランスジェンダー」っぽい服装に

前回も述べた通り、ぼくの容姿は「トランスジェンダー男性です」「FTMです」と言い張るのには無理がある。でも面談当日は、極力「ノンバイナリーに関する知識がない人が想像するであろうノンバイナリーのトランスジェンダー的な人」=「中性的な装いを好む人」に見えるよう念のため工夫はした。具体的にいうと、ユニクロのセットアップにノーネクタイの白シャツという「中性的」な服装を選び、ノーメイクで臨んだのだ。

インターネットやSNSでは「スーツを着るべき」という意見をよく見かけたが、清潔感があればなんでもいい気がする。というのも11月4日に家裁から面談日打診の電話が来た際に「服装はどうすべきですか」と訊ねたのだけれど、書記官の方は「特に決まりはないのでなんでもいいですよ」とおっしゃっていたのだ。

だからある程度きちんとしていてだらしなくなければ、スーツ等の正装でなくてもいい気がする。服装は心証に影響するから清潔感は必須だろうけど、そこまでビシッとしなくても大丈夫そう。

次回、改名申立の面談の本題へ

そんなわけで序盤からかなりしんどい思いをしたんだけれど、それでも冒頭に書いた通りぼくの面談を担当してくれた職員さんは「当たり」だった。デリカシーに欠けてはいたものの、「理解したい」という気持ちは伝わってきたし、少なくとも高圧的ではなかった。

次回から、いよいよ改名申立の面談の本題へ入っていこうと思う。実際にぼくが受けた具体的な質問内容とその対策の提案もするから、次の記事もぜひ読んでくれたら嬉しい。

 

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP