02 トラウマになった小5のいじめ体験
03 幼なじみに指摘された、女子への恋
04 私ってレズビアンなんか?
05 髪を切ってボーイッシュ路線に変更
==================(後編)========================
06 隠岐島にあるユニークな高校へ進学
07 FTMの同級生にうち明けてボロ泣き
08 男の子として扱ってもらいたい
09 手探りの初交際は、わずか1カ月
10 大学でもアルバイトでも、自分らしく主張したい
01近所では公文の子で有名
家事はお姉ちゃんとお父さん
大阪府岸和田の出身。お姉ちゃんがふたりと弟がひとりの4人きょうだいだ。
「子どもの頃、弟とはよく家事のことなんかで言い合いのケンカをしてました。弟が感情的になるので、それに乗っちゃう感じで。でも、今は仲がいいです」
お母さんは公文の先生をしている。
「きょうだいは、もちろん、みんな公文でした。私が中学に入るときにビルの中に教室を借りたんですけど、それまでは家で授業をしてました」
自宅の一部屋を教室にして、専用のドアを作って生徒が出入りしていた。毎日、10人以上の生徒がやってきて、小さい子が間違って居間に入ってくることもよくあった。
「学校が終わって夕方に子どもたちがくるので、晩ご飯や家事はお姉ちゃんとお父さんがしてましたね」
上のお姉ちゃんは10歳年上で、しっかり者。お父さんは魚市場に勤めていて、夜中2時に仕事に行き、夕方には帰ってくる生活だった。
下のお姉ちゃんも、毎日、お弁当を作ってくれた。
「近所や学校では “公文の子” で有名でした。同級生にも生徒が何人もいましたし」
小学生の頃は何も手伝わないですんだが、中学になると上のふたりは自立して家を出てしまい、突然、一番上になってしまった。
「めんどくセーって思いながら、自分のお弁当だけは作ってました。弟の分は作ってあげませんでした(笑)」
水泳が一番好きだった
子どもの頃は運動が得意な女の子だった。
「外で遊ぶことが多くて、早くから自転車に乗りたがった、って親がいってました」
公文のほかにも、5歳からエレクトーン、ジャズダンス、水泳と、習いごとが多かった。
「公文は月、水、金と3日あるんですよ。ほかの子は2日なのに、何で? って泣きながらやってたこともありました」
「習い事で一番好きだったのは、水泳でしたね。水泳だけは一生懸命やって、ずっと続けたいと思ってました」
ところが、小学5年のときに水泳教室がなくなってしまった。
「6年生になったらバタフライを教えてもらうはずだったんですよ。もう最悪って思って。ダンスも好きじゃなかったから、習い事は嫌になっちゃいました」
公文の勉強は好きじゃなかったが、そのおかげで学校の成績はよかった。
「小学校のときは、どうやってサボろうか、いつも考えてましたけど、中学に入って、やっててよかったと思いました」
02トラウマになった小5のいじめ体験
これっていじめなの?
小4までは、男の子たちとドッジボールやサッカーをして遊ぶことが多かった。
「女の子たちは縄跳びをしたり、教室で折り紙をしてましたけど、自分はサッカーが好きで男の子グループに入ってたんです」
「男女の区別なんて考えてなかったから、それで何の問題もありませんでした」
しかし、5年生になると、次第に男の子のなかに女の子ひとりで入ることに違和感を感じ始める。
「雪季はドッジボールに行かないほうがいいのか。女の子のグループに入らなきゃって、勝手に思い始めた感じです」
「なんだか浮いてるなぁ、とは感じてました。図工で作ったものをいじられたりしているうちは、まだよかったんですが・・・・・・」
女の子のなかでは、自分がいじられキャラだったことが分かった。
筆箱を男子トイレに投げられて、取ってこいと言われたり、突然、ビンタされたり、おかしなことが起こる。
「えっ? て思いましたけど、それでも、それが何なんだかよく分からなかったんです」
すると、ほかのクラスだった幼なじみが見かねて、「雪季、あんた、いじめられてない?」と、声をかけてくれた。
「それでも、はっきりそれがいじめだと気がつかなかったんですよ。そのうち、クラスの全員にいじめられるようになって、さすがに分かって」
「お腹が痛いってウソをついて、学校を休みました」
弱い自分が嫌
学校に行かない日が1週間続いたとき、先生が家にやってきた。
「なんだ、お腹が痛いのか? もう大丈夫だから学校に来いっていうんですよ。何が大丈夫なのか分からん、って思いました」
親は「行かんでもいい」といってくれたが、おそるおそる学校に行ってみると、いじめはすっかり終わっていた。
「多分、先生が、萩本が学校に来ないのは何でだと思う? ってみんなに話したんだと思います。それが、また最悪って思って」
自分の問題なのに、先生に解決してもらった。そんな弱い自分が許せなかった。
「終わってよかったって思う人もいるでしょうけど、私はそう思えませんでした」
しかも、公文の関係でお母さんが校長と仲がよかった。「ウチの子、いじめられてるんじゃないですか」と、直接、文句をいいに行った可能性は十分にある。
「私はお母さんにも相談はしなかったんですけど、クラスの子も公文に来てたし、誰かに聞いたのかもしれませんね。いじめてた、その子も来てましたから」
いじめはなくなっても、クラスの居心地はよくなかった。でも、6年生でクラス替えになれば状況は変わる。
「もう少しの辛抱だ、黙っとこ、と思ってじっとしてました」
03幼なじみに指摘された、女子への恋
負けず嫌いの性格を発揮
中学に入るときに、ひとつの決意をした。
「いじめられたということは、自分にも問題があったんかな、と。また、同じようにいじめられたときは、自分でなんとかしたい。そのためには、強い自分でありたい、と思いました」
もともと負けず嫌いの性格だった。好きだった水泳は、誰よりも飛び抜けて上手になりたいと思って、一生懸命に練習をした。
「公文もイヤやったけど、誰かに抜かされるのは許せなかったんです」
強くなるために選んだのが、得意のスポーツだった。
「水泳部もあったんですけど、だんだん体が女らしくなってきて、水着を着ることに抵抗が出てきて・・・・・・」
結局、同級生にバレーボールをやろうと誘われて、幼なじみの子を誘って入部することになった。
「バレーで一番になればいじめられないだろう、という考えもあって、毎日、一生懸命に練習しました」
バレーはいいけど、人づきあいは苦手
バレーの練習は楽しかったが、部活の仲間とのつき合いは苦手だった。
「休みの日にみんなでご飯に行こう、とか、デパートに服を買いに行こう、とか、カラオケなんかに誘われるんですよ。それが好きじゃありませんでしたね」
でも、練習をすればするほど、試合に出たくなった。
「1年のときは先輩がいるから出られなくても仕方ないんですけど、2年になったら、ライバルに負けたくない、という気持ちが強くなりましたね」
与えられたポジションはレフトだった。そのポジションを同学年の3人で争うことになった。
「レフトで試合に出られるのは、ふたりだけなんです。3人のうちひとりは、小学校からやっていて、断トツにうまいんです」
残るふたりで、残り1つの枠を争うことになった。凌ぎを削るポジション争い。ところが・・・・・。
「そのライバルの子を好きになってしまったんです(笑)」
友だちじゃなくて、恋愛感情や
練習が終わって、ライバルの子、幼なじみの3人で家に帰ったときだった。
「3人とも帰る方角が一緒だったんですけど、ライバルの子が先に別れたんです。その後、ふたりになったときに幼なじみに『雪季、あの子のこと、好きやろ』っていわれたんです」
幼なじみは保育園からずっと一緒の子で、自分のことを一番よく知っている親友だ。
「うん、好きやで」と答えると、「そうやない。友だちとしてじゃなくて、恋愛感情や」と、ズバリ指摘された。
「何でそう思うん? と聞いたら、さっきからあの子の話ばっかりしてるで、って。最初は、この子、何バカなこといってるんやろ、と思いました」
自分が女の子を好きになるなんて、考えたこともなかった。
しかし、それを幼なじみに指摘され、ひとりで考えるうちに、「そうかもしれない」と思うようになる。
「あの子にいわれなければ、セクシュアリティで悩むことはなかったかもしれませんね(笑)」
04私ってレズビアンなんか?
検索で出てきた言葉はレズビアン
幼なじみの言葉が引っかかり、家のiPadで検索を始めた。
「厳しい家で、ケイタイも持たせてもらえなかったんです。みんなが使うiPadだったので、ひたすら調べて、すぐに履歴を消してました(笑)」
キーワードは「女性 女性が好き」。出てきたのは、「同性愛」だった。
「うわー、自分はレズビアンなんか、と思ったら目の前が暗くなりました。今まで女の子として生きてきたのに、どうしたらいいんだ! って感じでしたね」
考えてみれば、男の子を好きになったこともなかった。周りの女子が恋愛話で盛り上がっていても、何となく話を合わせるばかりだった。
「実は、つき合った男の子がひとりいたんです」
小4のときに「好き」といってくれた男の子がいた。
「その子に中学生になってから、もう一度告白されて、嫌いでもなかったので、『いいよ』と答えました」
彼氏ができたことは、女子グループに入り込むには格好のネタだった。
「周りからどうなん? どうなん? って聞かれるので、楽しい、楽しいって答えてました。でも、本当は何とも思っていませんでした(苦笑)」
デートに行くと、彼が手を繋ごうとするので、わざと大げさに「イエーっ」とふざけてごまかした。
「好きでもないのに、好きといったりして。ひどかったですね。それで、ゴメンといって別れました」
それも、クラスの女子が彼氏と別れた話をしているのを聞いて、「私も別れなきゃ」と思ったのが理由だった。
恋愛相談をされてガッカリ
男の子を好きになれないうえに、女の子を好きになってしまう。それは人生の一大事だった。
「最初のうちは、違う、違うって自分の気持ちを否定してました。でも、否定しながらバレーの練習をしていると、ますますその子が気になってしまうんです」
その子と会ってないときは、「違う、違う」と否定し、一緒にいるときは「好きな気持ち」がときめく。
「ドキドキするって、やっぱりおかしい。でも、いつか男の子が好きになって、普通の恋愛をするんじゃないかな。あの子が男の子だったら好きになっていなかったのかなって、いろいろなことを考えました」
幼なじみも含めて、誰にも相談はできなかった。それどころか、死ぬまで誰にもいわないと心に決める。
「きっと自分みたいな人はほかに誰もいない。世の中に私だけ、宇宙人みたいやって思ってました・・・・・・」
もちろん本人にも告白できないままだったが、逆に好きな子から「好きな男の子がいる」と恋愛相談されてしまう。
「もう、ホンマ、ガッカリでした。相談されるってことは、私はやっぱり友だちやん。それ以上やないんや。もう終わった、って感じでしたね」
05髪を切ってボーイッシュ路線に変更
トランスジェンダーという言葉を知る
iPadで秘密の検索を進めているうちに、セクシュアリティに関する診断アプリを見つけた。
「質問に答えていって、結果を見たら、『90%トランスジェンダー』って出たんです。確かに同性愛までは調べたけど、それ以上は調べてませんでした」
「そうか、レズビンじゃなくてトランスジェンダーか」と思うと、思い当たる節があった。好きな子にはカッコいいと思われたくて、かわいいとは思われたくなかったんですよね」
自分は男の子になりたいのか、と気がつくと、容姿も変わっていった。
「髪を切って、ボーイッシュな服を着るようになりました」
髪が長いとバレ―ボールでネットタッチを取られるんです、と言い訳をして、それまで長かった髪をどんどん短くしていった。
「スカートが似合わなくなったね、っていわれたこともありました。中学を卒業するときは、刈り上げになってました(笑)」
次第に「こうなりたい」「こういう服を着たい」「こうしたい」と、「したい!」が増えていく。
「吹っ切れたっていうんですかね、それ以前より性格も明るくなったと思います」
好きだった子とはバレー部を引退してから徐々に疎遠になったが、それでよかったんだ、と気持ちを抑えた。
最後の男子とのつき合い
中学3年のときに、自分が班長をしているグループの男の子が学校に来なくなってしまった。
「担任の先生から、連れてきてくれよっていわれて、面倒だなって思ったんですけどラインで説得したら、何とか来るようになりました」
不登校が終わったとき、その子から「学校に来れるようになったのは雪季のおかげ。雪季を好きになっちゃった」と告白される。
「好きじゃないよって伝えたんですけど、つき合ったら好きになるから、っていわれました」
一緒に映画やボーリングに行き、プリクラを撮ったりした。
「遊んでいるのは面白かったんですけど、やっぱり好きにはなりませんでした」
彼とのつき合いの裏には、「もしかして、男の子とつき合えば普通の女の子になれるんじゃないか」という望みもあった。
「でも、逆に男の子を好きになることはない、と確信してしまいました」
彼とのおつき合いは、半年でピリオドを打った。
<<<後編 2021/11/06/Sat>>>
INDEX
06 隠岐島にあるユニークな高校へ進学
07 FTMの同級生にうち明けてボロ泣き
08 男の子として扱ってもらいたい
09 手探りの初交際は、わずか1カ月
10 大学でもアルバイトでも、自分らしく主張したい