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性への気づきは人それぞれ、十人十色でいい【前編】

幼少期から特別、自分がセクシュアルマイノリティかもしれないと思ったことはなかったと話す、植山さん。性の問題に直面したのは高校生のとき。同性の友達に告白されたからだ。考えた末に彼女を受け入れた時点から始まった、苦悩の日々。今でもセクシュアリティの揺らぎを感じることもあると話す、植山さんのこれまでの人生を振り返ってみる。

2016/09/30/Fri
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Koji Okano
植山 友結 / Yui Ueyama

1993年、兵庫県生まれ。現在は京都橘大学文学部日本語日本文学科で日本語学を専攻。大学内初となるLGBTサークルの立ち上げ、小学生から大学生を対象にした人権教育の講師として自らの体験を語るなど、多様な性のあり方を発信している。教職員向けのゲストスピーカーを務めることもある。

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INDEX
01 ファンタジーが好きな女の子
02 勝気な同級生と厳格な母親
03 鬱屈したリアルからの脱出
04 再び突きつけられた現実の重み
05 同級生からの告白、そして
==================(後編)========================
06 レズビアンなのかもしれない?
07 初めての失恋と湧いた疑惑
08 家族へのカミングアウト
09 自分だけのジェンダーを探して
10 性のあり方は多彩であっていい

01ファンタジーが好きな女の子

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現実ではない世界

手元にある、母親が撮影した幼い頃の写真には、楽しそうに笑いながらカメラのファインダーを覗き込む、20年前の自分の姿がある。

「とにかく昔から身体を動かすことが苦手で。幼稚園が終わっても、公園や外で遊ぶことがほとんどなかったんです。いつも家に籠っていたから、ものすごく太った子供でした」

「4、5歳の頃、既製服が全く身体に合わなくて。仕方がないから母が服を作ってくれていたんです」

成人した今も、どちらかといえば性格はおっとりした方だ。

それは生まれた時から、そうだったのかもしれない。

「赤ちゃんの頃も、寝返りができるようになるまで、相当時間が掛かったらしくて。それが理由で、町の健康診断に引っかかったことがある、と母に聞かされました」

小学校に上がっても、クラスではあまり目立たないタイプだった。

活発な女の子のグループには決して混ざらない、むしろ興味も示さなかった。

そんな時に出会ったのが、映画『ハリー・ポッターと賢者の石』だった。

「「こんな面白いものがあるなんて、と衝撃でした。しかも原作があると知って、早く続きが知りたいと思いました」

「母に頼んで図書館で借りてきてもらったんです。現実ではない夢想の世界に、どんどんのめり込んでいきました」

ファンタジー小説への興味は『ハリー・ポッター』シリーズに止まらず、『ライラの冒険』や、ミヒャエル・エンデ作『モモ』にも派生していった。

読書に熱中するあまり、夜更かしすることも増えた。

のちに図書館司書を志すようになるが、この書物とのワクワクするような出会いも、その一因だった。

リアルな恋愛

ハリー・ポッターとチョウ・チャンの初恋の物語は、架空の世界の話だが、それに没頭していた小学生より前、幼稚園の頃に、自分にも初恋が訪れていた。

「まだ幼稚園児なのに、彼に結婚を迫ったんです(笑)」

当時、仲の良かった女友達も、実は彼のことが好きだった。一人の男子を二人で奪い合う。

幼稚園にして三角関係を体験した。

「その女友達と二人で『あんた、私のこと、好きやろ? そやったら結婚しようよ』って、ものすごい勢いで凄んだんです。二人から同時にプロポーズされて、きっとその男の子、困ったでしょうね(笑)」

「そうしたらその男の子、私を選んでくれたんです。だからといって、付き合うとかそういうのでは、なかったんですけど」

仲の良い男の子に恋心を抱く。誰もが経験したような、幼少期の思い出だ。

02勝気な同級生と厳格な母親

いけずな級友

没頭していたファンタジー小説の世界から、自らの現実に目を向ければ、決して見過ごせない問題があった。

小学校1年生から緩やかに始まっていたイジメが、だんだんとエスカレートしてきたのだ。

「すれ違いざまに『チビ、デブ、死ね』って言われることが多くなったんです」

「確かにお世辞にも、スマートとはいえない体型でしたけれど、なぜ何も悪いことをしていないのに、そんな酷いことを言われなければならないのか。初めてけなされたときは、落ち込みました」

「小3くらいになると、女子もお洒落に気を遣い始めるので、目立つ子とそうでない人で、グループが形成され始めるんです。お洒落なグループの女子から、とくに『キモイ』というような言葉を掛けられる機会が増えたんです」

図工の時間に完成させた工作物を壊されたり、手に接着剤をかけられたり。

イジメの内容は徐々にエスカレートしていった。

「同級生の発言に、どんどん過敏に反応するようになりました」

「小5のとき、運動会の入場行進の練習で、自分だけ周りと歩調がずれてしまったことがあって。後列の子たちに一斉に注意されたんです」

「よく考えたら自分をいじめていたのは、クラスの一部の人なんですけど。でも全員から、言葉でなじられているような気がして、練習後、教室に帰る途中も、涙を流して泣いていたんです」

そんなとき自分を救ってくれたのが、小学校中学年のときにいた、数少ない友達だ。

「『どうしたん?』と心配して駆け寄ってきてくれて。保健室に一緒に行ってくれました」

「それからクラスで辛いことがあると、保健室に駆け込むことにしたんです」

「精神的に辛い時は、保健室に行っていいのかもしれない」と感じた。

保健室のドアをほんの少し開けて覗くと、先生も「入っていいよ」と言ってくれることが多かった。

本当は逃げることに罪悪感はあったけど、そうするしかなかった。どの年次の担任の先生も、自分の目からすると、助けてはくれない、と感じていたからだ。

しつけに厳しい母親

家庭でも居心地の悪さを感じて育った。

母親の過度な期待に、押し潰されそうになりながら。

「小さな頃から、とにかくずっと怒られながら育てられた気がします。それが一番上の子どもだった私への期待から来るものだった、と思えるようになったのは、ごく最近のことです」

母親の仕事は助産師だった。妊娠や出産に関わる、人の命を扱う、非常に大きな責任を伴った仕事だ。ゆえに昔から、自らにも厳しい人だったのだろう。

その人間としての正しさを追求する姿勢を、娘にも受け継がせたい。

そんな思いから、あえて我が子に辛く当たっていたのかもしれない。

「自分の行動すべてに口を挟んでくるうえに、勉強をしなさいとうるさく言われて。行きたくないのに、小学校高学年からは塾にも行かされました」

「あまりにも自分に干渉してくるので、母のことは好きじゃなかったんです」

しかし無理やり通わされた塾は、小学校でのイジメから抜け出すためのきっかけを与えてくれた。

「少しでも高いレベルの教育を受けさせようと、母は学区外の中学校への進学を希望していました」

「これはチャンスだと思ったんです。『いじめっ子と同じ中学校に行きたくない』と心の底から思っていましたから。学区外の中学校へ入ってしまえば、イジメの連鎖を断ち切れると思ったんです」

結果、奈良の国立大学の附属中学校に合格した。

当時住んでいた京都府南部からは県境を越えて通学する。

いじめっ子からは完全に隔離された新しい世界への切符を、自らの実力で手に入れたのだ。

03鬱屈したリアルからの脱出

性への気づきは人それぞれ、十人十色でいい【前編】,03鬱屈したリアルからの脱出植山友結,クエスチョニング

苦悩から逃れた先に

「環境が変わったので、自分も新しく生まれ変わって生きよう、と思いました。

できればクラスで目立つような存在“お洒落グループ”に混ざりたいと考えたんです」

小学生の時はオンエアチェックしていなかった『ミュージックステーション』などの音楽番組を観て、ヒットしている音楽を知ろうと思った。

またテレビドラマも、まめにチェックするように。

ファッション誌もこまめに読むようになり、休みの日には友達と出かけることも増えた。

「でも結局、無理をして自分をよく見せたいと思っていただけなので、長くは興味が続かなかったんです。こういう頑張りは自分には合わないと思って、ある時やめることにしたんです」

クラブ活動は、音楽クラブでパーカッションを担当していた。

小学生の時は4年生が科学部、5年生でパソコン部に所属していたが、6年生で金管バンド部に入ってアルトホルンを担当、音楽の楽しさに目覚めた。

「小学生6年生の延長で、中学でも音楽部に入りました。けれど、なんとなく同級生と合わなくて、2年生の時にやめてしまったんです」

環境が変わっただけで、人はなかなか生まれ変われないものなのだろうか。そう思い始めたとき、最良の仲間との出会いがあった。

気の合う仲間たち

「通っていた学校は最寄駅からも相当離れた場所にあるのですが、そのぶん、とても緑豊かな場所に立地していて。なんせ敷地内に古墳があるくらいなんです。入学したとき、さすが奈良、と思いました」

そんな豊かな自然環境にあるからだろうか。「裏山クラブ」という一風変わった名前の部活があった。

「仲の良い女友達が所属して『楽しいよ!おいでよ!』と言われて、覗きに行ってみたんです。みんな制服で、学校の裏山を思いっきり、駆け回っていて」

「今まで、あまり身体を動かすことは好きじゃなかったんですけど、みんな本当に楽しそうにしていて。これだ、と思いました」

早速、入部することに。

大自然にツリーハウスを作った。火起こしや、きのこ栽培も体験した。

おまけに裏山クラブの仲間はみんな大らかで、細かいことは気にしない人ばかり。とにかく居心地がよかった。

「自分らしくいられる場所を見つけることができたから。中学校時代が人生でいちばん、楽しかった時期かもしれません」

実は裏山クラブに入る前、音楽部で淡い恋も経験した。

色が白くて線の細い男子のことが気になり、ああこれは恋心だなと感じた。

他の女子も彼のことが好きなのが分かっていたから、遠慮しようかと思ったが、どうにも思いを抑えきれず、手紙で告白した。

その答えを、本人から聞く事はなかった。

人づてに「無理らしいよ」と言われ、気持ちが伝わらなかったことを知った。

成長期を迎え、胸が大きくなり、中学入学前に初潮も体験した。少しずつ大人の女性へと変貌を遂げていく、自らの身体。

けれどそれがおかしい、と感じたことはなかった。

ただ一人の女子中学生として、青春を謳歌する日々だった。

04再び突きつけられた現実の重み

音楽をやりたい

しかし楽しい時間にも、やがて終止符を打たねばならない時がやってくる。

気の合う仲間たちとの別れは胸が張り裂けるほど悲しかったが、学び舎を離れることとなった。

「仲間と合わないという理由でやめた中学校の音楽部でしたけど、引きつづき音楽は好きだったんです。卒業後の進学先を考えたときに、自分の志を追求できる場所に行こう、と考えました」

強い合唱部がある、地元の公立高校に入学した。これからの3年間、勉強よりまず部活を頑張ろうと考えていた。

「だから高校でも、部活で音楽を頑張ろう、と思ったんです。合唱部への憧れもすごく強かったのを覚えています」

立ちはだかる壁

しかし現実は理想と違った。

入部した合唱部は3学年で60人の大所帯。統率を取るために、当然、厳しいルールが存在した。

また、自主性も求められた。

「練習で、みんなの前で発言することを強いられるのですが。緊張して何も言えなくて。積極性がないと責められることが多くて、精神的にも疲弊する日々が続きました」

加えて、朝練、昼練、夜練、と拘束時間も長かった。

昼は音楽室に集まって短時間で食事をとり、練習にせねばならないが、ストレスで食事が喉を通らず、一時は体重が35キロまで落ちたこともあった。

「関西では有名な合唱部だったので、指導する先生も厳しい。自分のためを思って注意してくれていたということは、今なら有難かったと思えるのですが、当時は周りに付いていくのに必死で、余裕が全くなかったんです」

中学生の裏山クラブの時とは違い、悶々と、思い悩む日々が続いた。

05同級生からの告白、そして

性への気づきは人それぞれ、十人十色でいい【前編】,05同級生からの告白、そして,植山友結,クエスチョニング

好きなものは好き

それでも部活をやめられなかったのは、音楽への思いがあったからだ。

もちろん、やめた後に、クラブの仲間から後ろ指を差されることは避けたい。
でも、それだけが理由ではなかった。

「部活の同級生も必死だから、私ができていないと、手厳しく注意してくるんです。先生に言われるより、仲間に怒られる方が精神的に厳しかったですね」

「練習や大会の反省会のとき、何も発言しないでいると、『植山は積極性がない』って、同級生に怒られることも多くて。集団行動が苦手なうえに、多くの人の前で発言することも不得手だったので、ヘコんでばかりいました」

そんな苦悩する高校生活。実は部活以外でも困難に直面していた。

同級生、しかも同じ女子から、愛の告白を受けていたのだ。

友達と恋人に?

「高校に入って、最初に仲良くなった同じクラスの女友達から、突然『あんたのことが好き』って言われたんです。それからは毎日、『好き』『好き』言われるようになって」

はじめは『好き』の意味がわからなかった。「友達としての好きなのか、それとも?」と真意を測りかねた。

やがて「私、バイセクシュアルやねん」というカミングアウトの後、「付き合って」と告白された。1年生の6月のことだ。この時に「好き」が、恋愛のそれであったと気づいたのだ。

「『バイセクシュアル』の意味がわからなくて。電子辞書で調べている自分がいました」

学校で周囲を見渡しても、相談できる人は誰もいなかった。

インターネットで検索しても、そこに答えは見つからない。

「自分と同じように、同性から告白されて悩んでいる人と全然アクセスできなくて。相談できる人がいないから、本当にしんどくて」

「部活で忙しくて、余裕なんて一切ないのに。でも友達の告白を無視することもできないし、一人で悶々と悩むしかなかったんです」

しかしこの状況を、いつまでも放っておくことはできない。決断の時は迫っていた。

 

<<<後編 2016/10/2/Sun>>>
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06 レズビアンなのかもしれない?
07 初めての失恋と湧いた疑惑
08 家族へのカミングアウト
09 自分だけのジェンダーを探して
10 性のあり方は多彩であっていい

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