INTERVIEW
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マイノリティを無視することをやめたら、もっといい社会になるはず【前編】

ピンクのコートがよく似合う、華やかな雰囲気の星真梨子さん。現在は、弟の星賢人さんとLGBTの求人情報サイト「JobRainbow」を運営している。実業家として活動する姿はキラキラと輝いているが、インタビュー中に「何かに夢中になれる人に憧れる」と、意外な言葉が出てきた。なぜ、星さんはLGBT当事者のために立ち上がったのか。見えてきたものは、強い使命感とまっすぐな愛情。

2020/06/11/Thu
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritake
星 真梨子 / Mariko Hoshi

1989年、千葉県生まれ。父、母、弟との4人家族で育つ。中学受験にチャレンジし、中高一貫校で過ごした後、慶應義塾大学経済学部に進学。弁護士という目標をつかむため、東京大学法科大学院で専門知識を学び、司法試験に合格。2016年に、弟の星賢人さんとともにLGBTの求人情報サイト「JobRainbow」を立ち上げ、取締役COOとして経営している。

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INDEX
01 一般的なイメージの「マジョリティ」
02 知的好奇心にあふれた少女時代
03 流されるままにぼんやり生きる青春
04 自分を変えてくれたあの言葉
==================(後編)========================
05 弟や友だちがゲイだっただけ
06 “いい社会” を実現する方法
07 1人の人間としての生き様
08 LGBTへの配慮=世の中全体への配慮

01 一般的なイメージの「マジョリティ」

みんながよく言う “普通”

「私はマジョリティというか、強者の方にずっといるな、って思ってます」

決しておごっているわけではない。

幼い頃から勉強が得意だったから、中学受験をした。
しかし、揺るぎない夢や目標を持つことは、ほとんどなかった。

熱中できるようなものも、見つけられない。

「恋愛の話をしてると、『 “普通” の人とつき合いたい』って、よく聞くじゃないですか」

「適齢期で、普通に仕事してて、普通に家族仲が良くて、普通に友だちがいて、普通に勉強ができる人がいいって」

「よくよく考えると、その “普通” ってかなり少ないじゃないですか」

「数字的な多数ではないはずなのに、 “普通=マジョリティ” のように見られてるんですよね」

「そして、私は割と “そういうマジョリティ” なのかな、って痛感するんです」

はたから見たら、自分は安心感のあるステータスにいるのだ、と感じている。

「めちゃくちゃ恵まれてたり、運が良かったりするだけなんですよ」

「でも、自分のそういう強さとか、場合によって暴力的な立場になってしまうことは、自覚していないといけないなって」

他者から見える自分を把握していなければ、人に配慮ができないから。

「とはいっても、謙遜とかは好きじゃないので、しないですけどね(笑)」

熱中できない性質

幼い頃から勉強ができたのは、要領が良かったから。

「要領がいいせいか、何かに夢中になったり、熱中したり、って経験がないんです」

「司法試験を受ける時も、こんなに勉強に熱中できてなくて大丈夫なのかな、ってずっと不安でした」

「何かに夢中な人って、美しいじゃないですか」

「私はそうなれなかったから、夢中になれる人っていいな、って憧れてましたね」

弟は中学生の時、オンラインゲームに熱中し、全国4位になるほどのスキルを身につけていた。

「弟みたいな一点集中型の熱中力が、私にはないから、すごいなって」

「なんでもすぐに飽きちゃう性質は、ずっとコンプレックスです。大学受験のための予備校も、途中で行かなくなっちゃったりして(苦笑)」

要領良く勉強はできたため、偏差値の高い学校に通い、いい教育を受けられた。

慶應義塾大学に進学し、そこそこのコミュニケーション能力を駆使して友だちもできた。

「私は、うまいことメインストリームを来れちゃった人だから、あんまりストーリーがないんですよね」

「でも、最近ようやく、夢中になれない性質もそれはそれでいいのかな、って思えるようになりました」

「そんな自分でも、決めたことをちゃんと達成できるところは、自信を持っていいのかなって」

02知的好奇心にあふれた少女時代

“正義感” の塊

「弟とは、子どもの頃から仲良しだと思います」

「一緒にセーラームーンごっこをしたし、弟が私のワンピースを着てたこともあったり」

4歳下の弟が生まれるまでの自分は、暴君だったらしい。

「友だちのおもちゃを取っちゃったり、アイスを食べちゃったり、とにかく横暴で、母は大変だったみたいです(苦笑)」

「公園で仲間外れにされちゃって、みんなと同じ幼稚園に行けなかったくらい(苦笑)」

しかし、弟が生まれると、心境に変化があったようだ。

「弟が生まれた後の写真を見ると、お姉ちゃんらしい顔になってるんですよ」

「その頃から正義感がすごく強くて、スカートめくりをする男の子を追いかけてました(笑)」

「小学生になってからも正義感は変わらず、凶暴な男の子としょっちゅうケンカしてましたね」

「オシャレは好きだったし、母がかわいい服を着せてくれていたけど、女の子っぽくはなかったです」

男の子と対等な関係でいることが楽しくて、女の子としてかわいくあろう、という意識はなかった。

将来の夢は「弁護士」

母は、自分とは真逆のタイプ。

「母はふわっとしてて、世間知らずのお嬢さんって感じの人(笑)」

「教育方針はなかったんじゃないかな。『こういう人でありなさい』みたいなことは、言われなかったです」

「だから、子どもの頃は、うるさく口出ししてくれる親に憧れを抱いてました」

自分の正義感は、父から受け継いだものかもしれない。

「弁護士の父の影響で、私も幼稚園の卒園アルバムに『将来の夢は弁護士』って、書いてました」

「父は企業法務よりも民事・刑事事件を扱うことが多くて、特に人権問題をメインにしてたので、その辺りの話は身近でしたね」

「ニュースにも関心があって、疑問に思ったことを父に聞くと、教えてくれたんですよ」

幼いながらに、弁護士はおかしいことを正せる仕事なのだ、と感じる。

熱意が持てない理由

小学生の頃から勉強が得意で、塾に入ればすぐに成績上位のクラスに入るほど。

「1番が取れるから楽しい、っていうハマり方だったと思います」

「中学受験の時に買ってもらった電子辞書で、気になった言葉を調べることが好きでした。電車の中吊り広告とかで気になった言葉を、調べまくりました(笑)」

「純粋に世界のことが知りたくて、いろんな知識を身につけたかったんです」

ただ、1番を取っても、褒められた記憶はほとんどない。

「小学生の頃に犬が飼いたくて、親に『この犬が欲しい』って、話したんですよ」

「両親は『今度、テストで100点を取ったら飼おうね』って、言ってくれたんです」

一生懸命勉強し、何度も100点を取った。
しかし、いつまで経っても、犬を飼い始めることはない。

「そのせいか、頑張ったことへの対価がもらえる、というイメージが湧かないんです」

「絶対に達成しよう、みたいな強い野心が持てないのは、その頃の経験のせいかもしれません」

「私は派手だし、主張が激しそうに見られるんですけど、実際はあんまりなんですよね」

03流されるままにぼんやり生きる青春

張り合いのない生活

中学受験という選択は、能動的なものではなかった。

「住んでいる地域に中学受験する人が多かったので、私もそうした感じでした」

「親も、塾に入れてみたら私が楽しそうに勉強してたから、受験させてくれたんだと思います」

合格したのは、地域内でトップクラスの中高一貫の女子校。

「みんな勉強ができる子だからか、あんまり派閥とかがない学校だったんです」

それぞれが趣味を持ち、互いに干渉せず、独立した同級生たち。

「漫画が大好きな子がいれば、バンギャの子もいたし、男子校の男の子と遊んでる子もいて、ごちゃまぜでした」

校内には、ケンカ相手だった男の子たちの姿はない。

「男の子がいなくなったら張り合いがなくて、どうしたらいいかわかんなくなっちゃったんですよね」

「同級生には天才みたいな子がいっぱいで、勉強もやりがいがなくなっちゃったんです」

中学2年から、勉強に対する意欲が潰えてしまう。

「中1の時は数学で96点とか取ってたのに、中2でいきなり54点みたいな(苦笑)」

「補修に呼ばれた時は、さすがに親に怒られましたね」

それでも、頑張る意味が見出せない。

「中高一貫だから高校には進めるし、定期テストのランキングも出ないし、ぼんやり生きてました」

みんな同じと思っていた進路

生徒たちのほとんどは、東京大学を受験する。

「理系だったら医学部の選択肢もあるんですけど、私は文系だったから東大に行くのかなって」

「そもそも東大以外に将来の選択肢があることを、わかってなかったんです」

全員が東大を受けるのだから、自分も受けるものだとしか思っていなかった。

しかし、高校3年になり、同級生が推薦で慶應義塾大学法学部に合格する。

「そんな選択肢があったんだ!? って、すっごくびっくりしたんですよ」

「ほかにも、早稲田大学の国際教養学部を第一志望にしてる子がいるって話を聞いて、衝撃を受けました」

「自分で将来を考えて、『ここに行きたい!』って選択するなんて、私には考えられないことだったから」

「同級生の中には、いろいろ考えた上で東大を選んだ子もいたかもしれないけど、私はそうじゃなかったんです」

ただ周りと同じ波に乗り、東大を選んでいた。

「高3になったら、また勉強頑張るのかな、って思ってたんです」

「でも、最後の最後までやる気が出なくて、やばいなって・・・・・・(苦笑)」

04自分を変えてくれたあの言葉

媚びないうざキャラ

受験シーズンに入っても勉強の意欲は湧かず、その結果、東大は不合格。

「慶應の経済学部は受かったんですけど、東大に行くために浪人しようと思ったんです」

「でも、母から『もう受験勉強を見るのが辛いから、慶應に行って』って言われて、慶應に行きました」

「大学に進んだら、6年ぶりに男の子がいて、小さい頃の暴れん坊な自分が出てきましたね(笑)」

ケンカはしないものの、男の子たちにも遠慮なく、はっきりと意見を言う。

「飲み会とかで嫌なことをされたら、『ウザい』とか言っちゃってました(苦笑)」

「男の子的にはムカつくらしくて、目立つグループに陰口を叩かれたこともあります」

大学では、ゴルフサークルに入る。

「サークルでは、女の子より男の子の方が偉くて、代表も当然男の子なんですよ」

女の子はサポート役に徹するような、男尊女卑の精神を感じた。

「その中で、私は主張が激しくて媚びないから、うざキャラだったと思います(笑)」

「自分を変えることはできる」

自分の言動が目立っていたせいか、同じ学年の女の子とぶつかってしまう。

「1年生の時に完全に対立して、学年が2つに分かれちゃったんですよ」

その状態は、2年生になっても続く。

「その子のことは苦手だったけど、この状態は良くないな、ってずっと思ってましたね」

「なんで私は人と対立しちゃうんだろう、ってすごく悩みました」

当時アルバイトをしていたカフェには、常連客のおじさんがいた。

喫煙席でコーヒーを飲むおじさんと、他愛もない話をしていた時のこと。

「おじさんが『人を変えることはできないけど、自分を変えることはできる』って、話をしてたんです」

「その言葉が私的には衝撃で、確かにそうだ! って、ドキッとしたんです」

「私は、対立している相手の子を変えようとしてたんだなって」

自分が変わらなければ状況は変わらない、ということに気づかされる。

その後、自分自身の考え方やアプローチ法を変えたことで、対立関係は雪解けの時を迎える。

「鏡みたいなもので、自分が相手の見方を変えると、相手も変わったりするんですよ」

「それ以来、友だちから『性格が変わって、丸くなったよね』って、言われます」

「以前の私は、自分の中の正義が絶対的なものだと思ってたんです」

「それを周りにも押しつけてたし、うまくいかないいら立ちもあったんだと思います」

気になるものは理不尽なニュース

おじさんの言葉に気づかされてから、ありふれた言葉の中の真理を自分のものにする瞬間が、好きになった。

「わからないことを知りたい、って気持ちは、小さい時からずっと変わらないです」

今、すごく知りたいと感じるものは、人のこと。

「自分のことさえも全部を捉えきれないから、人のことは絶対にわからないじゃないですか」

「自分自身の欲望にはそんなに興味がないけど、周りがどんなことを考えているかは、すごく気になります」

そう感じるようになったのは、小学生の頃からずっとニュースに関心を寄せていたからかもしれない。

「高校生や大学生の頃には、政治的な話に興味があったような気がします」

「世の中のルールがどう決まるのか。ルールから外れた人が困っていないか。そういうことに興味があるんです」

社会的弱者に関するニュースを見ると、妙にイライラする。

「なんでこうなるんだろう、って理不尽なニュースが気になって、しかたなかったですね」

 

<<<後編 2020/06/18/Thu>>>
INDEX

05 弟や友だちがゲイだっただけ
06 “いい社会” を実現する方法
07 1人の人間としての生き様
08 LGBTへの配慮=世の中全体への配慮

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