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Writer/Jitian

中山咲月さんのカミングアウト、メンタリストDaiGo氏の発言からおもうこと

つい数年前までは、LGBTQの芸能人や有名人と言えば「オネエ」と呼ばれる、ゲイかトランスジェンダー女性(MTF)ばかりでした。しかし、最近は様々なセクシュアリティの人がカミングアウトし始めるようになりました。今回は、有名人の中での性の多様性の変化について考えたいと思います。

急激に増えつつある、有名人のカミングアウト

ここ数年で、有名人の中でも性の多様性が一気に可視化されてきているように思います。

ゲイかトランス女性か、たまにバイセクシュアル

ゲイとトランス女性(MTF)を一緒くたにした「オネエ」というカテゴリのタレントたちがもてはやされ、テレビでたびたび見かけるようになったのは10年以上前のことでした。現在も人気を維持し続けてテレビに出ているタレントもいます。

一方で、今はテレビ業界側も、ゲイとトランス女性を同じく「オネエ」として笑いものにするのは「コンプライアンス」としてどうか・・・・・・と考えているのか否かは分かりませんが、ともかく「オネエ」という言葉はほとんど聞かなくなりました。

しかし、LGBTQ当事者であることをカミングアウトしていながら芸能活動を中心に仕事をしている人の中で、ゲイとトランス女性が大半を占めている状況は未だに変わっていません。

レズビアンやバイセクシュアルの方もちらほらいますが、特に見かけないのはトランス男性(FTM)でしょう。トランス男性で、地上波のテレビ番組にレギュラー枠を持っていたり、シネコンで上映されるほどの大規模な映画に重要な役で出演する人はまだいないと思います。

しかしながら、トランス男性のタレントそのものがいないというわけではありません。私自身も、コロナ禍前にはトランス男性のタレントが手掛ける舞台を観に行くなどしていました。これは「元女性」であることから起用されづらい、構造的な問題があるのかなと考えています。

2020年を過ぎて、性の多様性が見られるように

性の多様性があまりないように思われる芸能界ですが、以前紹介したように、ここ最近は宇多田ヒカルさんがノンバイナリーであることをカミングアウトするなど、ゲイやトランス女性以外のカミングアウトも出てきました。

極めつきは、この前開催された東京オリンピックでしょう。前回の記事でも取り上げたように、LGBTQ当事者であることをカミングアウトしたオリンピックアスリートの数は、過去最多を大幅に更新しました。もちろんその中には、ゲイやトランス女性だけでなく、レズビアンやノンバイナリーの方などもいました。

こういった流れが、保守的であるとされるスポーツ業界や芸能界を大きく変える後押しになるのではないかと思っています。

モデルの中山咲月さんが、トランス男性とアセクシュアルをカミングアウト

その中で、最近トランス男性・アセクシュアルであることをカミングアウトしたモデルの方がいます。

以前からジェンダーレス女子をうたっていた中山咲月さん

そんななか、新たにトランス男性(FTM)とアセクシュアルであることをカミングアウトした有名人が出てきました。モデルの中山咲月さんです。先日の2021年8月16日に発売した自身の写真集の発売と合わせて(正式に)カミングアウトしました。

元々、ここ数年はかなり「ジェンダーレス」な格好で仕事をしておられ、男性役を演じたこともあったとのこと。確かに、かなり「パス度」は高く、事情を知らない人がオフィシャルブログの写真を見たら、何の疑いもなくシス男性だと思いそうなくらいかっこいい方です。

今年の2021年5月にアップされたブログの記事ではすでに「声変わり」について触れていて、YouTubeにアップされている写真集の宣伝動画でも声色が低いことから、ホルモン治療も開始していると思われます。

すでに女性として芸能活動をしていて、全国公開されるような映画にも出演経験のある「女性」タレントがトランス男性であるとカミングアウトし、本格的に治療をするのは日本では初めてなのではないでしょうか。

中山咲月さんはアセクシュアルでもある

また、中山咲月さんはジェンダーアイデンティティだけではなく、アセクシュアルであることにも同じくらい触れています。

(相手が同性であれ異性であれ)恋愛するのが当たり前という価値観がはびこっている現代社会。アセクシュアルの方の中には、恋愛感情が湧かない、分からない自分を冷淡な性格なのではないかと責める人も少なくないと言いますが、中山咲月さんも同じように生きづらさを感じていたことをブログで発信されています。

そんな中山咲月さんのブログの記事には、カミングアウトを支持するファンのほか、アセクシュアル当事者と思われる人からの共感や感謝のコメントも多数散見されました。中山咲月さんのカミングアウトが確実に社会に影響を与えているなと感じました。

最近、「LGBT」というワードはニュースなどで頻繁に耳にするようになりましたが、それ以外のセクシュアリティは、認知度はまだほとんどないと言っても過言ではありません。ある程度キャリアを築いた中山咲月さんの「方向転換」は、想像できないほどの勇気を要したと思います。今後の活躍を応援していきたいですね。

セクシュアリティでカテゴライズしたくないことへの理解

カミングアウトすると、枕詞のように「トランスジェンダー男性の○○さん」と呼ばれるようになったら嫌だよな、などとも考えますよね。

声高にセクシュアリティを言いたくない気持ちも理解できる

先程書いたように、今回トランスジェンダー男性とアセクシュアルをカミングアウトするに至った中山咲月さんですが、一方でブログでは自分を「ジャンルわけしたくない」などとも言っています。

中山咲月さんと同じではないかもしれませんが、性別をカテゴライズしたくないという気持ちも分かります。

私のジェンダーアイデンティティはノンバイナリーですが、「ノンバイナリーらしい」ものなどないと分かっていながらも、コロナ禍前にXジェンダー当事者のイベントに参加する際はジェンダーニュートラルな格好に寄せた方が良いかな、などと考えてしまうこともありました。

元々「女性」を押し付けられるのに違和感があり、「女性」への帰属意識がないから、紆余曲折を経て見つけた「ノンバイナリー」に落ち着いたのに、カテゴリに落ち着くと、今度はどうしてもそのカテゴリらしさに当てはまらないといけない気がすることが、今でもまれにあります。

あえてセクシュアリティをカテゴライズしない芸能人も増えてきた

ここまでLGBTQ当事者であることをカミングアウトしている著名人を取り上げてきましたが、「カテゴライズしていないけど、従来にない性表現をしている人」と見方を広げれば、ここ数年でもっといろいろな人がいます。

例えば、この前紹介した歌手の氷川きよしさんは、近年ジェンダーレスな表現を好んでいます。また、タレントの井手上漠さんは「性別がない」と公言しています。さらにすそ野を広げて「ジェンダーレス」な芸能人はどのくらいいるだろうかと考えると、今となっては数えきれないほどです。

性別や性表現を特段声高にカテゴライズはしていないけど、10年前にはなかったようなことを堂々と発信する人は、確実に増えたと言っていいでしょう。

LGBTQにも差別発言をしていた、メンタリストDaiGo氏

一方で、カテゴライズの枠を取っ払うのはまだ早いかなと思うこともありました。

差別発言で炎上したメンタリストDaiGo氏、LGBTQにも・・・

2021年8月7日の自身のYouTubeチャンネルでの配信で、ホームレスや生活保護受給者に対する差別発言をしたことでバッシングを受けた、メンタリストDaiGo氏。実は、6月にはLGBTQに対して(自分は性別で人を見ない、などと前置きしたうえで)「LGBTで集まるのはバカ」などと差別発言もしていたことが明らかになりました。

この発言は、LGBTQ当事者の人たちの現状を理解していないゆえに出たものと思います。大変残念です。少数派だからこそ集まって声を上げてここにいるのだと主張し、同性婚など現状では認められていない権利を得るために活動しているのです。

ホームレスや生活保護受給者に対する差別発言問題をめぐっては、最終的には謝罪に至りました。しかし、DaiGo氏は、セクシュアリティでいえば恐らくシス男性・ヘテロセクシュアルでしょうし、高学歴でもあり、あらゆる面で特権階級の側にいます。一朝一夕では、自分の差別意識の問題点の本質を理解することも、価値観を変えることも難しいだろうと思います。

だからこそ、カテゴライズして、声を上げる

究極を言えば、ジェンダーアイデンティティやオリエンテーションが人それぞれ違うということを分かっているからこそ、ノンバイナリーだのトランスジェンダーだのと、自分自身に対してカテゴリで括ることをときどきやめたくなります。

しかし、今回のDaiGo氏の発言を知ってから、特にノンバイナリーにおいては、このカテゴリを自分から取り去るのは時期尚早だなと、改めて感じました。

また、モヤモヤを抱えながらも、トランスジェンダー男性とアセクシュアルであることをカミングアウトしてくれた中山咲月さんには、改めて尊敬の念を抱きました。

DaiGo氏に近しい考えを持っている人が世の中にはまだ大勢いるだろうことを考えると、LGBTQ当事者の実情を知ってもらうために、知ってもらいやすくするために、カテゴリを上手に活用していくことが大事です。

そして、私のような一般人がこうして発信するのも決して全くの無力ではないと信じていますが、やはりすでに公の場で広く活躍されているタレントや著名人が声を上げる方が、とてつもない影響力があることは間違いありません。

今後も、自分自身がつらくならない程度に、できるだけ多くの著名人がLGBTQ当事者として様々なセクシュアリティを発信してくれるとありがたいなと思います。

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