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Writer/Jitian

宇多田ヒカルさんがノンバイナリーをカミングアウト! 認知度向上に期待

言わずと知れた超有名歌手の宇多田ヒカルさんが、2021年6月26日に自身のインスタグラムで行った雑談生配信にて、ノンバイナリーであるとカミングアウトしました。以前からアライであることはうかがわせていた宇多田さんですが、ノンバイナリー当事者の私も驚きました。今回は、少しずつ世に広まりつつあるノンバイナリーについて考えたいと思います。

LGBTQアライなだけではなく、ノンバイナリーだった

今回の宇多田ヒカルさんのカミングアウトで勇気づけられたノンバイナリー当事者も、少なくないのではないでしょうか。

さらっとノンバイナリーをカミングアウト

そのカミングアウトは、突然行われました。

2021年6月26日のインスタライブにて、宇多田ヒカルさんが主題歌を担当した映画『劇場版シン・ヱヴァンゲリオン』の庵野監督との対談序盤のことでした。いきなり対談を始めるわけではなく、ある程度一人でトークして温めることにした宇多田ヒカルさん。よく見ると、着用しているTシャツにはそれとなくレインボーがデザインされています。

冒頭、英語で話そうと決めた宇多田さんは「庵野監督だけでなく、今日はもう一人スペシャルゲストがいます」と、後ろに映っていた大きなクマのぬいぐるみを示しました。「今までのインスタライブでも時々映っていたと思いますが、彼は男の子でゲイなんです」と紹介。そして “I’m nonbinary. So, Happy Pride Month!” と言って小さく拍手しました。

その後、日本語で「6月は世界中でPride Monthですね。日本でどのくらい宣伝されてるか分からないけど」「クマちゃんは、私が出会った瞬間から、男の子でゲイなんだっていうのを私に教えてくれて。私はこの数年で知って、ああそれなんだって思ったんだけど、日本でどれくらい広まってるか分からないけど、ノンバイナリーっていうのに該当するなってのを最近知ったので」と説明しました。

コメント欄には、ときおり虹の絵文字が流れていました。

日本人でノンバイナリーをカミングアウトした有名人は宇多田ヒカルさんが初めてです(LGBTQ活動家を除く)。
また、インスタグラムのアカウントにアクセスすればこの動画を視聴できます。まだ見ていない方は、ぜひチェックしてみてください。

LGBTQに元から関心が高かった

宇多田ヒカルさんとLGBTQというと、私が真っ先に思い出すのは2016年に発売されたアルバム『Fantome』の中の1曲『ともだち』です。この曲は、同性愛者が同性の友人に思いを寄せている気持ちを歌っている曲とされています。

私はてっきりレズビアンの曲だと思っていましたが、性別が分かる描写が歌詞にないのでゲイとも取れます。また、そもそも同性愛者としてではなくトランスジェンダー、はたまた単に友人関係だった人に恋をしただけとも取れます。

ともあれ、私がこの曲を初めて聞いたときは「中高生のときの自分かな?」と思ったくらい感情移入しました。

だから、宇多田ヒカルさんは元からアライなのだろうとは認識していました。それは、宇多田さんが日本とニューヨークを行き来して成長する過程で、アイデンティティが揺れた経験を持っていたり、壮絶な経緯で母親を亡くすなど、マイノリティであることを認識しているから、LGBTQにも目が向いたのかなと思っていたのです。

しかし、ここ数年でノンバイナリーという概念を知ったということを考えると、そもそも昔から性別違和や「女性」に所属していない、馴染めない感覚があったからLGBTQにもアンテナが向いていたのかもしれません。

数日前の投稿でノンバイナリーであることを醸していた

ただ、今回のカミングアウトがまったく前触れのないものだったかと言うと、そうではありません。

6月18日のインスタグラムでは、筆記体で “Mys. Utada (“mystery” utada)” と書いた紙を写真として投稿。コメントには英語で「Missですか、Missusですか?と聞かれたり、Miss、Mrs、Msの中から選ばなきゃいけないのにうんざりする」「ステータスや性別にかかわらず誰もが使えるものがないかと探していたら “Mx(”mix” と発音)” というものがあった!」と記載。

なるほど、「尊敬を表す名詞、どれが使われるか」ということは確かに、英語圏で暮らす人たちにとっては「3人称どうする」問題と同じくらい重要になってくることですよね。私もこの投稿で “Mx.” という名詞を知ったのでちょっと勉強になりました。なお、写真の “Mys” は宇多田ヒカルさんが考案した、誰でも使える名詞だそう。

ただ、よく考えてみると “Mx” はどちらかと言うと中性や両性の人向けで、私のような無性が ”mix” と使うのはちょっと違うかなとも感じました。その点、宇多田さんの考案した “Mys” の方がより色んなものを包括できて便利そうな気がします。ノンバイナリーだけではなく、“Mys” も日本中、世界中に広まったら面白そうですね。

ノンバイナリーのカミングアウトはやはり賛否両論

超有名人ともなると、カミングアウトに対する反応も様々です。

そもそも「ノンバイナリー」と聞き取れただろうか

私は、宇多田ヒカルさんのカミングアウトを知ってから、このインスタライブのアーカイブを拝聴したのですが、配信の序盤で、しかもかなりさらっとカミングアウトしたのでちょっと驚きました。

また、ノンバイナリーについてその後、詳しく説明しているわけでもありません。そのため「ノンバイナリー」という言葉を知らなかった人は、そもそも聞き取れなかったことも考えられるなと思いました。いくら日本語のイントネーションでも、知らない言葉は聞き取りにくいものです。

しかしながら、変に気負うわけでもなく「プライド月間なので」という理由で、軽やかにカミングアウトしてもらった方が、聞いた側も大きく受け止めずに済むのではないかとも思いました(ノンバイナリーどころか、プライド月間自体が日本ではほとんど認知されていないだろうなとも思いつつ・・・・・・)。

ネットニュースにはなったけれど

今回の宇多田ヒカルさんのカミングアウトについて、ネットニュースには多少取り上げられているものの、メディアで大きく取り上げられたり、世間をにぎわせるには至っていません。

その理由は、そもそもノンバイナリーそのものの認知度が低く、よく分からない概念だから「食いつかない」のではないかと考えています。これはちょっと残念です。

世間的にはあまり話題にならない一方、SNSではやはり一部では宇多田さんのカミングアウトやノンバイナリーの概念そのものに、否定的な意見も見受けられました。「『ノンバイナリー』とかいう新しいカタカナ語がまた出てきた」「男女で分けないっていう概念らしいけど、そういう概念そのものがまさに分断を生んでいるのでは」「宇多田ヒカルは “本当” のLGBTQなのだろうか」などなど・・・・・・。

宇多田さんの今回のカミングアウトをあまりいい気分で受け取らなかった方々へ、ノンバイナリー当事者の私が伝えたいこと。それはまず、宇多田ヒカルさんが公の場でノンバイナリーであることをカミングアウトしようと思った心境の変化や性別違和はどのようなものか。さらに、言語化しがたい思いをずっと抱えて生きている中で、最初にその概念を知ったときの気持ちを想像してみて欲しいということです。

少なくとも私は、女性に属しているとは思えない、かと言って男性であるとも思えず、女性として色んなジェンダーを引き受けて社会的に生きていく自分に、少しずつウソをついている感覚がしてつらかったのです。

しかし、ノンバイナリーやXジェンダーという概念を知ったときには、同じような感覚を抱いている人がほかにもいるんだ! 自分のままで良いんだ! と思えてうれしかったことを覚えています。

まさしく、宇多田ヒカルさんもそのような気持ちをシェアするとともに、他にもいるかもしれないノンバイナリーの人を、エンパワーメントするために発言したのではないかと思うのです。

増えつつあるノンバイナリーへのサポート

アメリカでは、ノンバイナリーの存在を認める施策が少しずつ増え始めているようです。

米エミー賞で男優・女優でなく「パフォーマー」を名乗れるように

アメリカのドラマ界で名誉ある賞・エミー賞にて、2021年6月、ノンバイナリーを配慮するアイデアが打ち出されました。通常、賞は「男優・女優」と性別が分けられますが、賞の受賞者が「男優・女優」としてではなく「パフォーマー」と称してもよいとされたのです。

これはあくまで役者が自分をどう称するかについてであって、賞の男女の枠組みが撤廃されたわけではありません。長らく続いてきた名誉ある賞の枠組みを大きく変えるとなると反発も激しいでしょうし、多くの俳優にとっては恐らく現状でも問題ないことを考えると、この取り組みは一番手っ取り早く、現実的でもあります。

最近は、日本でも「女優」ではなく「俳優」と名乗る人や、かつては「女優」と紹介されていた役者が「俳優」として紹介される場面も増えてきました。日本でもLGBTQ当事者の役者が増えれば、対応が変わるかもしれません。

マラソン大会にノンバイナリー部門

スポーツ業界でも新しい動きがありました。アメリカの “Philadelphia Distance Run And 5K” というハーフマラソンと5kmの中・長距離走大会で、「男」「女」と、さらに「ノンバイナリー」の3つの部門を設置するということです。

ノンバイナリー部門は、アマチュア枠だけでなく “Elite Athlete” と呼ばれる選手でも同様に設置されるとのこと。アスリートの中にも、きっとノンバイナリーはいるはずです。ノンバイナリーのアスリートの支援策として、今後定着してくかどうかまだ分かりませんが、今までにない取り組みであることは確かです。

7月14日は国際ノンバイナリーの日

少しずつではありますが、認知されつつあるノンバイナリー。なんとタイムリーなことに、7月14日は国際ノンバイナリーの日(International Non-Binary People’s Day)です。
宇多田ヒカルさんや海外の取り組みをばねにして、今後さらにノンバイナリーを広めていきたいなと思います。

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