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「女性なるもの」への強い憧れ【前編】

不思議な人だ、と思う。何かに当てはめられたくないと思いながらも、自分が何者であるかを、いまでも時々探してしまうのだろう。寡黙だが、それでいて語りたくないわけではない。子どもの頃から、どちらかと言えば、周囲の言う通りに、従って生きてきた。嫌だけれど、仕方がない、従うしかない・・・・・・。抗わずに生きてきて、初めて家を飛び出し、壮絶なトラウマ体験を経て、たどり着いた現在。ロリータ服に身を包み、女性らしさに憧れ、ビートルズに救われる。そのすべてが、自分が幸せになるための軌跡なのだ――。

2016/09/21/Wed
Photo : Taku Katayama  Text : Momoko Yajima
近藤 彩菜 / Ayana Kondo

1980年、愛媛県生まれ。大学を中退し、上京。IT関連の会社でいくつも経験しながら、現在もIT系の企業で女性として勤務する。セクシュアリティは、MTFのレズビアン。だが、本来的にはバイセクシュアル、女装が好きなXジェンダーなど、迷いもある。GID診断済みで、ホルモン治療を続けている。趣味はかわいい服、ロリータ、車、ビートルズバンド。

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INDEX
01 従順な男の子
02 生まれ育った土地と家族
03 東京へ
04 トラウマ体験
05 女装
==================(後編)========================
06 女性としての生活
07 パートナーはどこにいる?
08 社会でのカミングアウト
09 心の内側
10 ビートルズ

01従順な男の子

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子どもの頃は特に自分の性について考えない

性自認について、子どもの頃は特に意識したことはない。

“自分は何者か” など考える小学生ではなかった。

小学校の制服はブレザーで、男女の違いといえば、ボタンが左前か右前かだけだった。

「だったら自分も、ボタンが左前の女の子用のブレザーにしたいのに……と思っていました。でも憧れはあったけど、『スカートを履きたい』とまでは考えなかったですね。そもそも『自分が女になる』という発想がありませんでした」

子どもの頃のことを、「弱い子だった」と振り返る。

「小学校低学年までは『泣かない子』と言われていました。学校でどんなに先生に怒られても泣かなかったそうです。高学年になりいじめられたりしたので、弱かったと記憶しています」

「女子にいじめられていましたが、陰湿なものではなく、虫に驚いたりしている様子をからかわれたりといった感じでした」

学ラン、丸刈りも、規則だから従う

「中学でも特に女性らしくなりたいという考えには及ばず、ただ、第二次性徴で身体の変化を感じながら、男性的に成長することを止めたい、成長から逃れたい、という考えはありました」

「大人の男性」になりたくなかった。

運動をすれば男性的になってしまうと思い体育の授業を手抜きしたり、給食や家での食事の量をわざと減らした。

大人になることに対する自分なりの抵抗だった。

親や周りから、「身長は伸びているが体格は変わっていない」と言われると、嬉しく思う。
身長は、クラスで下から2番目だった。

「一番背の低い男子が『かわいい』とか『女装したら似合いそう』と言われると、嫉妬したりもしました」

中学・高校では男子は学ラン・丸刈りと決まっていて、それに従った。

「田舎なのでそれが普通だと思っていました。他に制服があるとも思わなかったし、男の格好をすることへの違和感なんて思いつかないぐらい」

「丸刈りも、一瞬、嫌だなと思ったんですけど、でも校則だから嫌でも従わないといけないのかなって。自分の好き嫌いを考える前に、ルールや校則で決まっているのなら仕方ないと考える方でした」

02生まれ育った土地と家族

放送部でビートルズと出会う

中学校では男子からもいじめられた。

プールで着替えるときにいたずらされたり。そのため、高校はプールがなく、女子が多い学校を選んだ。

「女子と特別仲がよかったわけではないのですが、その方が落ち着く環境だと思っていました」

部活は、「運動部はやめておこうと思ったら、他に思いつかなくて」という理由で、小学校から高校まで放送部を選んだ。

特段、音楽が好きということでもなかったが、中学の放送部の先輩がビートルズのCDを持っていたのを聴き、ビートルズにはまる。

「田舎なので、あまり洋楽に触れる機会がなかったのもあって。その頃はビートルズしか知りませんでした」

地元・松山市は県庁所在地で40万人の人口があるが、その ”選択肢の少なさ” という面で、自分の中では「田舎」だと思っている。

「テレビも選択肢が4択しかないんですよ。総合テレビ、教育テレビ、それと民放2つ、みたいな。小学校の頃はNHKしか見ちゃダメな家庭でした。でも困んないんですよ。もともとチャンネルが少ないから(笑)」

”教育ママ” の母と、”男はこうあるべき” の父

当時人気だった『セーラームーン』や『レイアース』など少女漫画のアニメ番組も、親の前では見づらい雰囲気があった。

しつけが厳しい家庭だったのか、と聞かれれば今でもよくわからないが、古い言葉で言えば、母は「教育ママ」的な人だったと思う。

塾に通い私立中学も受験させられたが、残念ながら落ちてしまった。

父はもっと頭が固く、「女の腐ったようにはなるな」が口癖の人。

「物心ついた頃から中学ぐらいまでずっと言われ続けてきました。自分がどちらかと言えば気の弱い男の子だったので・・・・・・。それと、父には『男はこうあるべき』みたいな考えもあったと思います。筋肉をつけないとダメだとか、泣いてはいけないとか」

「『人生で泣いていいのは1回だけ』とも言われました。それは、母が死んだときだけ。父が死んだときも泣いちゃダメって。父の方針、というか・・・・・・」

なぜ怒られたか内容はあまり覚えておらず、曖昧なままだが、怒られた記憶だけはいっぱいある。

03東京へ

「女性なるもの」への強い憧れ【前編】,03東京へ,近藤彩菜,トランスジェンダー、MTF

インターネットで広がる人間関係

高校までは男子の制服に、丸刈り。

父も男らしさを求めるタイプであったところで、いつから女性として生きていきたいと思うようになったのか。

「大学生になれば少しは自由にできるかな、という思いもあって、関東の大学も受験したんですけど、関東で受かったのが一校だけで。

そこに行くぐらいなら地元の大学の方がいいんじゃないかと父親に言われまして。実家から地元の大学に通うことになりました」

大学に入学してから、少しずつ、髪を長くできないかと考えるようになる。

「99年とか2000年とかですね、インターネットが発達してきてまして。実家にはパソコンがなかったけれど、大学ならパソコンが使えるので、そこでインターネットを使い始めました」

その頃、ビートルズ熱はいったん影を潜め、アニメやゲームにはまっていた。

「インターネットのゲームの掲示板とかで東京方面の人と知り合ったりしてました。アニメ仲間みたいな感じですね。ずっと東京に行きたかったので、大学になってバイトをして、お金も時間もできたので、東京には何回も遊びに行けるようになりました」

女性になるのを支援するという男性、現る

頻繁に東京に行く中で、ゲーム関係で知り合った女の子に、自分が女性として生きていきたい気持ちがあることを話す。

するとその子の友だちから、8歳年上の男性を紹介された。

「私が女性として生きることに理解があり、そういうサポートもしてくれる人だと聞きました」

その頃は、「女になれるならなりたいな」という気持ちがあった。

「『自分は女だ』というより、『なれるならなりたい』という発想に近かったです。でも、その人が支援してくれるかもしれないと言うのであれば、まだ自分も二十歳そこそこだったので、段々と、その人を信じるしかないんじゃないかと思ってしまったんです」

それから、東京に行くたびに彼と会うようになる。

「その人には気に入られている感じがありましたけど、自分の方は恋愛感情はあまり持ちませんでした。だけど、この人についていけば女として生きられるのかな、という思いもあって・・・・・・」

04トラウマ体験

家出と奇妙な共同生活

しかし、だんだんと男性の要求はエスカレート。

「私のことを好きだから一緒に住んでほしいと言い出して。家出して、東京で一緒に住もうと」

その頃、実家では両親が離婚。

自分が東京に遊びに行ってばかりで家にいないから、母が出て行くのだというのが父の言い分だった。

「長男なんだからしっかり家にいて家族を見ていなければいけない」と言われる。

「そんなことがあり、ますます家にいるのが嫌になって。東京に行く方がいいように見えてきちゃいますよね」

成人式の前に、こういう人と一緒に住みたいと父親に告げるが、当然大反対を受ける。成人式にはスーツで出席したが、スーツは違和感があるし、楽しくない。

そういうことが積み重なり、3月に家出をした。

「2月ぐらいには彼から毎日電話がかかってきて、『来ないと死ぬ』とかめちゃくちゃ言われるんです。家は両親が離婚していて、母は出て行くし、父からはお前が帰ってこないから悪いとか言われて」

「その頃が一番ぐちゃぐちゃな感じですね。それで、家を出ました」

東京に行き、男性と生活を始めることになったが、なんと最初は住むところがなく、彼を紹介してくれた女の子の友だちの家に転がり込むことに。

その家に、自分と彼と、友だちと、3人での共同生活が始まった。

彼の妄想と束縛と

しかし1週間ほどで、これはダメなのではないかと思い始める。

彼の言動が明らかにおかしいのだ。

「ヘリコプターで監視されていて、離れて歩くと敵に攻撃されるから、ずっと仲良くしていろ」、「電車で離れて座るとまた仲が悪いと思われるからダメ。自分だけが座ってもはいけない」など、万事がその調子だった。

「いま思えば、その人は統合失調症だったのかもしれない。でもヤバいと思った時点で、身分証明書、保険証、携帯電話もない。家を出た時に全部置いてきちゃったんです。身分を証明するものもないのでひとりで生きていくといっても難しい。住民票を移すと親にバレるんじゃないかと思っていたのもあって動けませんでした」

相手に恋愛感情があるわけでもなく、すごく嫌だったが、戻るところもない。

仕事も彼と同じところで働かされ、ひとりで出かけることも許されない。

朝から夜まで監視され、行動が制限される生活。

何カ月か経ち部屋を借りることになったときにも、お金は全部自分が出させられた。重い荷物もいつも自分が持たされる。

「この状態について、自分もおかしいとは思ってたんです。おかしいけど、逃げようがないので。共通の友人に相談したこともあったんですけど、友人の家に刃物が入った手紙が届いて、脅迫されたんですよね。そんなことをされたらさすがに怖いから、これ以上相談には乗れないと言われて」

「そういうことが続くと、もう従うしかないのかなって」

その頃は心の余裕もなく、女性になりたいと思ったり言うことができる状況ではなかった。

最初は自分が女性になるのを支援してくれる人だと聞き、期待して東京に来たが、それも違うということに気が付く。

実は男性は、かわいい男の子が好きな「ショタコン」だったのだ。

「だから、私が女の子である必要がなかったんです」

05女装

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女性として生きることを諦める

最終的には男性とは2年ほど付き合った。

別れる半年前、仕事で必要な車を購入する資金作りと説明し、一緒の仕事が終わった後にひとり別のバイトを始めた。

貯金ができた頃、ひとりで引越ししますと言って「脱出」した。

いま、当時のことを話すのはもう大丈夫ではあるけれど、この強烈な体験はやはりトラウマになっている。

「そういうことがあって、結局、性別を変えて生きるとか、女性として生きるというのは、現実的にはあり得ないこと、できっこないことなんだと思い、諦めました」

「なので、普通に男性として会社員になり、パソコン関係の仕事をすることにしました」

なんとか一人暮らしもできそうな時給で、未経験OK、アルバイトから入れる、という内容だった。

そうして、22歳から5年ぐらいはずっと男性として生活したが、25歳ぐらいから、時々、女の子の格好をするようになった。

「ちょうどその頃、こういうロリータ服があることを知ったので」

ロリータファッションに目覚めて

昔から、見た目に女性的であることへの憧れがすごく強かった。

長い髪、肩幅の狭さ、細いウェストなど女性的な特徴が目立つファッションに憧れていた。

長い髪をいろいろな結び方や髪型にしたり、靴の色の種類があること、バッグのデザインの豊富さなど、羨ましいと思っていた。

ロリータファッションは、そういった今まで自分が憧れてきた要素がたくさん詰まっていて、魅力的だった。

「たくさん憧れの要素がある中で、自分ができそうな範囲でちょっとだけやる、みたいな感じでやっていました」

「今はそこまでないですけど、最初にはまった頃は、ロリータ服を着ることで気分が高揚したり、自分にしっくりくる感じがありました。」

自分にとってロリータファッションは、分かりやすく「女性」であることを表現、主張できるものだと思う。逆に、ふだんの地味な服装のときは、自分が女性だという主張をあまりしないような気がしている。

「性同一性障害だから、自分から主張しないと女性になれないと思っていたんですよね。あとは『かわいい』と言ってもらえる一番確実な近道だとも思います」

実は最初は、自分はゴスロリの服を着たいだけで、性同一性障害ではないと思っていた。

「だけど女性の服を着て出かけたりする中で、男性と女性、どちらが自分にとってしっくり来るかを考えたとき、女性の方だと思うようになりました。男性でいる時間がなくなったとしても困らないと思いました」

「それで、性同一性障害に当てはまるのではないかと考えるに至りました」

ちょうどその頃、26歳。
ロリータ仲間のコミュニティで、初めてMTFの人と知り合った。

「男性の性自認でロリータ服を着る人は他にもいましたが、MTFはその人だけでした。その人に会って初めて、そういう生き方があるんだと知って、自分もなれるんじゃないかと思いました」

「その人に会ったときには、驚きというより、すごいなーって感じでしたね。テレビの中や芸能人でそういう人はいましたけど、別世界の話だと思いましたし、身近な世界でふつうに生活ができている人を実際に目の当たりにすると・・・・・・」

「この人に会ったことの影響は大きいです」

彼女には病院を教えてもらったり、女性として周りから認知される行動や立ち振る舞いを学んだ。

MTFとして生きることを考え始めてから、性同一性障害の交流会に何度か参加し、情報を得ていった。

<<<後編 2016/09/23/Fri>>>
INDEX
06 女性としての生活
07 パートナーはどこにいる?
08 社会でのカミングアウト
09 心の内側
10 ビートルズ

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