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Writer/Jitian

LGBTQのロールモデルがいないことで湧き出る不安

セクシュアリティそのものに悩む時期は10代で終わり、現在私は一人で楽しく暮らしているつもりなのですが、最近再び漠然とした不安が頭をよぎるようになりました。これについてよくよく考えると、こうした悩みは必ずしも私だけではないのではないかと思ったので、今回記事の中で考えてみようと思います。

10代でのアイデンティティそのものへの悩み

セクシュアリティは、多少のカテゴライズはできるものの個人によって違いますが、LGBTQ当事者が大きく悩む時期は、大きく分けて2回あるのではないかと最近気付きました。1回目は10代のときです。

13歳で感じるシスヘテとの壁

置かれた環境によって、ある人にとっては悩まなくていいことが、別の人にとっては重要な問題になる場合もあります。しかし、そうした差はあるものの、私はセクシュアリティに悩む時期は大きく2つに分けられるのではないかと考えています。その1度目が、10代のときです。

ある調査では、自分がLGBTQ当事者であると認識する平均年齢は13歳頃だと言われています。

私自身も、セクシュアリティにおいてマイノリティであるとはっきりと自覚したのは13歳のときでした。それ以前も「ちょっと周りと感覚が違うな」と日常的に感じることはたくさんありました。しかし、夜も眠れないほど思い悩むことや、親から虐待されたりいじめを受けたりするほどの生きづらさを感じることもなかったので、なかなか気付かなかったのです(ちなみに気付いたきっかけは、戸籍上同性の友人を好きになったことでした)。

13歳、つまり小学生から中学生に上がって思春期に突入し、初めて自分と周りとの違いを鮮明に感じるということは、LGBTQ当事者にはよくあることではないでしょうか。

10代で悩むアイデンティティ

あくまで私の場合ですが、13歳でセクシュアリティについてマイノリティであると自覚してからは、20歳になる頃まで悩んでいました。

なぜ自分は女性を好きになるのか?
男性は好きにはなれないのか?

でもレズビアンは「女性が好きな女性」だから、自分がレズビアンだと言われると、いまひとつピンとこない・・・・・・と、誰にも相談できずに堂々巡りを繰り返していました。

私と同じように、10代のうちに自分のセクシュアリティのあり方そのものに疑問をもって悩み、どうにかならないものか(マジョリティになれないものか)と考える人は少なくないと思います。

知ることで悩みが解消される

そのとき私は、LGBTQについて知ることで悩みが解消されていきました。ジェンダーアイデンティティとジェンダーオリエンテーションを混同していたものを分け、性別を男女の二元的なものとして捉えずにグラデーションとして考えられるようになると、漠然としていた不安も整理されてそれほど悩むこともなくなりました。また、シスヘテになりたいという考えも払しょくされました。

今は「LGBT」というワードがかなり広く浸透してきました。また、現在は気になったことはすぐインターネットで検索できます。

例えば、私がXジェンダーに辿り着いた10年弱前は、東京近郊でさえXジェンダーに関連した当事者団体やイベントなどはほとんどありませんでした。しかし、今だとGoogleで「男でも女でもない」と検索すると1つ目の記事の見出しに「Xジェンダー」と書かれていて、Xジェンダーにたどり着くまでの “距離” は確実に短くなっているように思います。

そのような時代の変化を考えると、もしかしたらすでにセクシュアリティそのものに思い悩む平均年齢が低くなったり、期間も短くなったりしていることも考えられます。

2度目の悩む時期

セクシュアリティについて悩む2度目の時期やその内容は、10代とは性質の異なるものでした。

周りとの人生の違い

いわゆる「アラサー」に差し掛かった私が今悩んでいるのは、今後の人生の道のりです。つまるところ、結婚や出産、子育てといった「よくある道」が非常に遠く思え、自分の将来像を描けないのです。

20代後半と言えば、1度目の結婚ラッシュです。身近で結婚した友人や先輩、後輩がどんどん出てきます。子どもを授かった人もいます。

直接の友人でなくても、例えば母親の友人に今度初孫が産まれると聞かされると、親から無言の圧を感じざるを得ません。こういった場面に遭遇したときに、嫌でも今後のことを考えてしまうのです。

避けてきた問題

こういった問題はLGBTQ当事者である自分にはどうしようもないものだと思い、今まで意識的に避けてきました。ですが、この年になるとなかなか避けようにも、突然突き当たりに出くわしたかのように、度々ぶつかるものです。

数年前に初めての子どもを出産した前職の女性の先輩は、自分が結婚・出産をした理由について「周りが結婚、出産をして、子どもがいるからってあまり会いづらくなってきた。だけど子どもがいる同士だとお互いさまになるから、同じステージに上るために子どもを産むことにした」と言っていて、私はとても驚きました。周りと同じになるために子どもを産むという発想が、私にはこれっぽっちもありませんでした・・・・・・。

あるときは、母親に「内孫が欲しい」と言われたこともあります。まるで結婚のにおいのしない私に言われてもと思い「弟の相手が生む孫でもいいじゃん」と言ったのですが、母に「外孫じゃダメでしょ!」と言われてしまいました。母が外孫、内孫に案外こだわりを持っていることを知って、戦慄しました・・・・・・・。

私にはそういう人生は厳しいかな、というものに直面する機会が増えました。

ロールモデルの不在

この問題で思い悩む理由は、ひとえにロールモデルがいない、ロールモデルを知らないからだと思っています。

親世代、祖父母世代のXジェンダー当事者?

周りのシスヘテの人たちと同じような人生にはなりそうにないことに不安を覚えてしまうのは、やはり周りにLGBTQ当事者の上の世代の人たちがどのような人生を送っているかを知らないからだと考えています。

特に、Xジェンダーとなると、ここ10年ほどで普及した概念なので、ロールモデルとなる人は尚更いません。海外のノンバイナリーで探しても、10代から30代の若年層でノンバイナリーを公言している著名人はちらほらいますが、世代が上になればなるほど見つけるのは至難の業になります。

親近感を持てるロールモデルがいない

日本で著名なLGBTQ当事者となると、やはり一昔前によくテレビに出ていた「オネェ」の人たちが中心になるのではないかと思います。つまりトランスジェンダー女性か、女装家のゲイの芸能人です。

今でこそLGBTQという言葉が浸透して、コンプラ意識も少しずつ上昇しているので、以前は面白おかしい「オネェ」だった人たちが「オネェ」であるだけで指をさされて笑われることもほとんどなくなりました。

一方で、「オネェ」と呼ばれていた人たちの中には新宿二丁目でお店を切り盛りしていたような水商売出身の人たちも少なくありません。そういった人たちを見ていると、LGBTQ当事者・非当事者に拘わらず、トランスジェンダーとの違いも無視して「ゲイは女装をして、ジェンダーエクスプレッションも女性らしくするものだ」という意識を、植え付けられかねません。

また、そういう振舞いができなかったり、水商売以外の道を目指すゲイの人たちにとっては、自分が目指すロールモデルは結局身近にいないということになってしまいます。

バカにできない、ロールモデルの不在

自分とまったく同じ人生を歩む人などこの世には一人もいないことを考えると、ロールモデルがいないことは、それほど重要な問題ではないように一見思えます。しかし、私はやはりロールモデルがいないことは、長い人生を歩む上で実はとても大変な問題だと思うのです。

例えば、LGBTQ当事者は自殺を考えたことがある人が非当事者に比べ高いと言われています。この原因は、決してセクシュアリティそのものに思い悩んだ結果とは限らないと、私は考えます。

つまり、男女で結婚して子どもを授かって立派になるまで育て上げるように働くという日本の「伝統的家族観」が幸せであるという価値観を刷り込まれていることが大きな原因だと思います。また、そこから外れた道は「非生産的」だとか「生物学的におかしい」し「幸せになれない」などと今後の人生を悲観して、精神的に参ってしまう人が増えた結果なのではないでしょうか。

マイノリティでも、多くの人とは異なる人生を歩んでいても幸せに暮らしているという情報を、できるだけ身近な例で、数も多く知っていることが重要なのです。

仲間を作る

身近なところでロールモデルを見つけるのは難しいかもしれませんが、仲間を見つけることは簡単です。

忘れがちだけど、LGBTQはいる

「じゃあ身近な知人でロールモデルになる人を見つけよう」と思っても、なかなか厳しいでしょう。同性愛カップルならもとより、Xジェンダーとなると、前述の通り見つかるのは同世代など近しい世代ばかりで、人生の先輩となる上の世代の人たちから見つけるのは困難だと思います。

そこで、私が最近 “代替案” として考えているものが、インターネットでLGBTQ当事者の仲間を見つけるということです。悩んでいるときというのはどうしても視線が内側に向いて、同じように悩んでいる人は周りにはいないと感じて不安が増大するばかりですが、仲間がいると思うと少しは視線が外に向いて心が軽くなるものです。

例えば、LGBTERでは様々なセクシュアリティのLGBTQ当事者のインタビュー記事が載っています。様々な世代、職業の人々の人生をたっぷり読めるので、自分と似た境遇のLGBTQ当事者の記事が見つかるかもしれません。

発信して仲間を見つける

私は、インターネット上では実名や顔を出していませんが、こうしてLGBTQについて文章を書くことによって、意外と自分の身近に仲間がいるのだということを最近改めて思い知らされています。この活動のおかげで、マジョリティの結婚や出産の報告と同じくらいの数だけ、LGBTQ当事者やアライの仲間を知ることができました。

面と向かってのカミングアウトはやはり腰が引けてしまいますが、少しずつでも仲間を増やしていくことは、SNSの普及した昨今ならそこまでハードルの高いことではないのではないでしょうか。

仲間を見つけ、仲間がどういう思いを抱えているのか聞いたり、自分の悩みを吐露することで不安を解消していきながら、自らが後の世代のロールモデルになるという気概を持って生きていきたいものです。

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