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すべてのろう者に楽しんでもらえる映画を作りたい【前編】

幼い頃から映画製作に没頭し、現在までに数々の作品を生み出している今井さん。映画への想いを語る目はまっすぐ前を見据え、キラキラ輝いている。一つのことに一生懸命になれる今井さんを応援したいと思う人は多いだろう。そんな今井さんの幼少期から現在に至るまでの道のりをたどってみたい。

2019/01/18/Fri
Photo : Rina Kawabata Text : Mayuko Sunagawa
今井 ミカ / Mika Imai

1988年、群馬県生まれ。聴覚に障害があり、両親、妹ともに耳の聞こえない家庭で育つ。ろう学校の幼稚部~高等部を経て、和光大学表現学部に進学し映像制作を学ぶ。現在、IT企業で働く傍ら、映画作品を数多く作り続けている。最新作は、長編映画「虹色の朝が来るまで」。

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INDEX
01 コミュニケーションは手話で
02 ろう学校の世界
03 女性性への違和感
04 打ち明けられない恋の悩み
05 好きな人と一緒にいたい
==================(後編)========================
06 映画監督への道のり
07 手話についてもっと知りたい
08 カミングアウト
09 男でも女でもないFTX
10 映画製作に込める想い

01コミュニケーションは手話で

仲良し家族

両親も弟も、耳が聞こえないろう者だ。

「家族みんなろう者なので、手話で話すことが当たり前でした」

家族みんな仲良しだ。

「小さい頃は家族でドライブによく行きました」

「川とか自然豊かな場所でキャンプして、バーベキューして、それから温泉にも入ったり」

「父親は釣りが好きだったので、私も連れて行ってもらって、一緒に川で魚を捕りました」

「私は手づかみで捕ってましたね」

父親は母性の強い人。

家の中でどっしり座っている、威厳ある父親像は当てはまらない。

夕飯の総菜を買ってきたりしてくれる家庭的な面があったし、私の悩みをよく聞いてくれた親しみやすい父親だ。

母親は忍耐力がある人。

「母親にとって日本語は第二言語。だから、日本語でのやりとりが上手くいかなくて、ろう学校のPTAなどで、他の保護者や先生と関係が築けずなかったこともあるようです」

「それでも嫌がらず参加してくれました」

弟とはケンカしたり時にはいじめたりすることもあったけれど、とても仲良し。

いつも一緒に遊んだ。

家族とコミュニケーションが問題なくとれていたので、家にいるのが楽しかったし幸せだった。

小学校1年生の運動会の時、初めて自分の家族が他の家族とは違うことに気づいた。

「うちはみんな手話が使えますが、耳が聞こえる両親の家庭では共通の言語がないからか、あまり会話をしていない家族もあって」

「当時、周囲からは家族全員が聞こえないなんてかわいそうという視線を受けて育ちました」

「でも、他愛もない話ができるうちの家族は、幸せなんだと思うことができました」

だから、私は一度も「耳が聞こえていたらよかったのに」と思ったことがない。

手話で家族とコミュニケーションがとれる私は、恵まれていたと思う。

口話訓練

手話が通じない家の外ではコミュニケーションが上手くいかず、つらい思いもした。

保育園に通っていた時、先生にも友だちにも手話がわかる人はおらず、コミュニケーションがとれなかった。

いつも一人でいた。

自分の思いが相手に伝わらなくて、もどかしかった。

保育園には1年通ったが、コミュニケーションがまったくとれなかったので、その後、ろう学校の幼稚部に行くことになる。

ろう学校では、相手の口の動きを読んで理解し、口で話す「口話」がメイン。

手話は一切使ってはいけなかった。

「手話だけで会話すると日本語力や理解力が落ちる、という考えが当時のろう教育では一般的だったんです」

「それまで口話というものは、自分の世界にはなかったので戸惑いましたね」

学校の授業が終わった後、先生とマンツーマンで口話訓練を受けた。
口の形を目で見ながら、一音一音発音する練習。

口の形だけでなく先生の口の前に手を持っていき、声を出すときの息の出方を確かめたり、「な」のように鼻にかかる発音は、鼻に手をあてて音が鼻に響く感触を確かめたりして発音の仕方を学んだ。

一音ずつ繰り返し繰り返し声を出し、修正していく作業。

「すごくつらかったです」

「どんなに頑張っても、口話には限界がありましたし、結局、聞こえるみんなと同じようにはできませんでした」

幸い自分の家族はみんな手話ができるし、同じ家庭環境の同級生もいたので、日常生活や学校生活で困ることはなかった。

また、手話を通じて考える力や語彙力、コミュニケーション能力を養うこともできた。

「もし一切手話を使ってはいけない生活だったら、今の私はいなかったと思います」

02ろう学校の世界

スカートは嫌

ろう学校の幼稚園から、そのまま小学部に上がった。

ある日、母親と祖父母と一緒に、入学式に着ていく服装を選びに出かけた。

「みんなスカートがいいと言うけれど、『なんでスカートをはかなくちゃいけないんだろう』と疑問に思いました」

「本当は嫌だったんですが、試着して『可愛い』と喜んでいる母親たちの姿を見て嫌とは言えませんでした」

親が喜ぶ顔を見たかったし、親を困らせるようなことはしたくなかった。

だから、「仕方ないな、まあいいか」とスカートを選んだ。

でも、入学式の時に撮った写真を後から見て、「スカートを履いている自分は、やっぱりおかしいよな」と思った。

小学部に入学してからは、通学はだいたいズボン。

スカートとか女の子っぽい服装をするのは嫌だった。

かといって、男の子っぽい服が好きというわけではなく、その時着たいと思うものを着ていた。

その時に着たい服を着る。

そのスタンスは今でも変わらない。

男だからズボン。
女だからスカート。と言うのはおかしいと思っている。

女性の先生へのあこがれ

初めて好きになったのは、口話訓練担当の先生。

とても魅力的な女性だった。

「口話訓練はすごく嫌だったんですが、先生と一緒にいるのがすごく楽しくて、頑張ろうと思えました(笑)」

振り返ってみると、「女性が好き」という気持ちが芽生えたのは、その時が初めてだったように思う。

その後も、好きになるのはだいたいいつも女性。

同級生や下級生を好きになることは少なく、特別な感情を抱くのは年上の人ばかりだった。

でも、人には言えなかった。

ろう学校は、一学年8人。

小学部1年から、高等部3年までずっと同じ8人が一緒に過ごすことになる。

「同級生とは、本気でケンカができるし、腹を割って話すこともできる兄弟のような関係でした」

「それに、先輩、後輩、先生もほぼ同じ顔ぶれです。ろう学校は生徒数が少なく狭い世界でもあるんです」

人間関係がとても大切だ。

もし変な噂が立ったら、生きていくことができない。

03女性性への違和感

女の子が好き

小学3年生になると、友だちの間で「〇〇君が好き」「〇〇君カッコイイ」という会話が多くなった。

周りの女の子は、男の子に対して興味をもっていたが、自分にはそういう気持ちがまったく芽生えなかった。

「私は男子に興味がない」
「女の子のほうが好き」

そんな自覚はあったが、それは決して周囲には言えない。

なぜなら、女の子の自分が「女性が好き」というのはいけないことのような気がしたからだ。

「小学生でも、手話でレズやホモという言葉を知っていますよ」

「おそらく、ろうコミュニティの大人たちの会話を見て、知ったんだと思います」

子どもは大人が使っている言葉を使いたくなるもの。

「クラスの男子たちが、手話で『レズ』『ホモ』といった言葉を茶化すように使っている姿を見て、『女性が好きだと言ってはいけない』と思ったんです」

だから、「好きな男の子いる?」と聞かれたら、クラスで人気のある男の子の名前を挙げるようにした。

楽しめない心

小学校高学年になると、友だちとの会話で楽しめない話題が出てきた。

「『あの人(女性)、きれいだよね』『あんな人(女性)にあこがれるよね』という話題が全然楽しめなくて」

「その会話の輪の中に自分がいることに違和感がありました」

かといって、男の子の同級生が話す「あいつカッコいいよな」という話題も私にはしっくりこない。

そんな時には、会話に入りたくないという気持ちもあったが、なんとなく話を合わせるようにした。

「会話の輪に入らないことで、周りは『なんで輪に入らないんだろう』と思うでしょう」

「変な噂がたってみんなから白い目で見られたら、この狭い世界ではやっていけません」

コミュニティの数が少ないから、その中での人間関係がとても大切なのだ。

「ここがだめなら別の場所でもいい」というわけにはいかない。

変わっていく体

小学校高学年になると体つきも変化した。

同級生の女の子はブラジャーをつけるようになり、自分に「つけたほうがいいんじゃない?」と勧めてくる子もいた。

両親からもブラジャーをつけることを勧められた。

でも、ブラジャーは私には必要ないと思っていた。

「胸が膨らんでいるのは、女性らしい体つきになったのではなく、ただ太っているだけだと思っていました」

「胸が膨らんでいてもあまり気にしていなかったので、ブラジャーはずっと拒否していました」

だが、中学2年の時に生理が始まったことで、自分が女性の体であることを自覚させられた。

「生理が本当に嫌でした」

「生理とともに胸が張るし、出血もあるし」

「生理がきてからは、仕方なくブラジャーも着けるようになりました」

04打ち明けられない恋の悩み

言えない気持ち

中学に入ると、「今、彼氏いるの?」「誰と誰が付き合っている」みたいな会話が増えてきた。

次第に、同級生はみんな異性と付き合うようになった。

「私も彼氏を作らなきゃダメかな。でも、私が好きなのは女の先生だ・・・・・」

当時好きだったのは、女性の音楽の先生。

すごくきれいで、ミステリアスな雰囲気に魅力を感じた。

お世辞にも上手いとは言えなかったけれど、頑張って手話でミュニケーションをとってくれた。

そういう姿を見て、気付いたら本気で好きになっていた。

「好きな人のことをみんなは楽しそうに話しているのに、なんで私は話せないんだろう」

どうして私は、女性に魅力を感じるのだろう。
みんなのように告白や付き合うことができない。
気持ちを伝えられず、もどかしくて苦しい。

いつしかそう思い悩むようになった。

「『好き』という気持ちを相手や友だちに伝えたいと強く思ってましたが、『あいつは女のことが好きなんだ』と噂されてしまうことを恐れてどうしても言えませんでした」

噂はすぐに広まってしまう。

自分の学年だけでなく、先輩や後輩、学校全体に広まってしまうことだろう。

それは絶対に避けたかった。

なんで自分は女性が好きなのか?
携帯で調べると、「同性愛」や「禁断の愛」という言葉にたどり着いた。

「『禁断の愛』という言葉を見て、私はマズいことをしているのかなと思いました」

恋の相談相手

インターネットで調べていくうちに見つけたのが、レズビアン向けの掲示板サイトだ。

相談できる相手を見つけたかった。

「私だけじゃなくて、女性のことを好きな人が他にもたくさんいることが分かりました」

「でも、なかには肉体関係を目的にした人とかもいて・・・・・。普通に仲良くできそうな人を探すのに苦労しました」

なんとか相談できそうな人を見つけて、つながることができた。

「その人に、私は女性に好意があることや好きな人がいるけど伝えられない現状を伝えました」

「相手は『好きっていう言葉を直接言わなくても、お互いが想い合っているなら自然と気持ちは通じ合うもの』『言葉にしなくても一緒にいて楽しい・うれしいという気持ちが大切』と言っていました」

そういう言葉をもらえたことが、大きな救いだった。

気持ちが楽になった。

05好きな人と一緒にいたい

男性になったほうがいい

好きになるのは、だいたい女性。

でも、普通は女性が好きになるのは男性だ。

「好きな人と一緒にいるためには、男になるのがいいんじゃないか、と思うようになったんです」

男になれば好きな女性と一緒にいられる。
告白だってしやすくなる。

だから、髪形を短髪にして、服も男っぽい物を選ぶようになった。

「でも、私の中には女性的な部分もあって、男になりたいという気持ちはまったくなかったんです」

「ただ、好きな女性と一緒にいたい。男っぽいほうが相手に好きな気持ちを伝えやすいんじゃないかって」

そんな想いから、男性的にふるまうようになった。

初めての彼女

19歳の時、初めて付き合った。

掲示板で出会った女性だ。

それまでも良い雰囲気になった女性はいたが、ろう者であると伝えると離れていってしまった。

「『耳が聞こえなくても関係ない』と言ってくれたのが彼女でした」

すごくうれしかった。

最初は、インターネットでの出会いはトラブルに巻き込まれるんじゃないかと怖かったが、メールのやりとりをするうちに会いたくなってしまった。

会いに行って、自然と交際が始まった。

洋裁が得意な、女性らしい可愛らしい人だった。

積極的に筆談で話してくれて、すごく楽しい時間を過ごした。

ただ、コミュニケーションには課題があった。

「ドライブに行くと、赤信号で止まるたびに、話したいことをメモに書いて渡さなきゃいけないので大変でした」

「景色を見ながら話すこともできないし」

彼女なりに手話を頑張って覚えようとしてくれたが、手の動きがスムーズにいかず、手話での会話も思うようにいかなかった。

「結局2ヶ月半で『コミュニケーションが難しいね」ということで別れてしまいました』

ろう者にとって、手話は母語だ。

手話と日本語では文法が違い、自分にとって手話は第一言語、日本語は第二言語になる。

「だから、筆談で会話するのは結構大変なんです」

「神経を使うので相当疲れます」

手話が使えない人と話すのは、外国人と話しているようなものだ。

初めてのお付き合いはとても楽しかった。

「手話で話せていたらもっと楽しかっただろうなって思います」


<<<後編 2019/01/20/Sun>>>
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06 映画監督への道のり
07 手話についてもっと知りたい
08 カミングアウト
09 男でも女でもないFTX
10 映画製作に込める想い

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