NOISE ライター投稿型 LGBT情報発信サイト
HOMEすべての記事 選択的夫婦別姓とLGBT

Writer/雁屋優

選択的夫婦別姓とLGBT

さかんに議論されるようになってきた、選択的夫婦別姓。セクシュアルマイノリティ当事者の一人として、是非実現してほしいと考えます。選択的夫婦別姓は、セクシュアルマイノリティの人々にどう関係してくるのでしょうか。

選択的夫婦別姓とジェンダー

選択的夫婦別姓とは、どういったものなのでしょうか。

選択的夫婦別姓とは何か

選択的夫婦別姓という言葉は、高校の倫理の教科書で見かけたのが初めてでした。それまでの自分は、結婚をしたら夫婦は姓を揃えるのは当然で、多くの場合、姓を変えるのは女性、という社会常識に取りこまれていました。

結婚をしたい気持ちもなかったので、姓を変えるとか変えないとか深く考えたことがなかったというのもあります。

選択的夫婦別姓とは、結婚する際に、姓を同じ(同姓)にしなければならないという現状から、それぞれの元の姓を使う(別姓)ことも選べるようにすることです。現状、これには、賛成も反対も見受けられます。

姓を変えるのは多くの場合女性

高校の倫理の授業で、「選択的夫婦別姓」について習ったものの、今一つ実感がなく、自分と地続きであるとは思えていませんでした。そんなときに、大学に入学し、法学の講義を受けました。

家族に関する法律の講義だったのですが、初回の講義で、男性の教授は自身の結婚について、こう語りました。

「自分は男性で、結婚する際に配偶者の苗字を選ぶことにした」

選択的夫婦別姓ではないものの、結婚する際に女性側の姓を選ぶ人に実際に出会ったことは、今までの私の “当たり前” を壊してくれました。現行法でも、「女性側が姓を変えること」とは明記されていないのに、日本では女性側が姓を変えることが当然とされています。

例えば、私は大学入学時に銀行印を作ったのですが、下の名前で作成しています。そのときに、親が言ったことは、「女の子は、結婚すると姓が変わるから」でした。その当時に違和感はなかったものの、配偶者の苗字を選んだ男性の教授の言葉で、そこに違和感を抱くようになりました。

結婚を前提に話を進められたこともそうですが、結婚したら女性側が姓を変えるものと当然のように言われたことも、今思い返すと不快です。

姓が変わることによる弊害はいくつかありますが、手続きが面倒というだけでなく、研究者や経営者、アーティストなどは改姓によって、それ以前の業績がインターネット検索でヒットしなくなるなど、仕事に支障が出ることもあります。女性が仕事をもつこと、結婚後も続けることを前提としていない社会通念なのです。

同姓でなくてもよいと思えた

夫婦が同姓でなければならないというのは、一つの決めつけやステレオタイプといえるものだとよくわかりました。また、女性が姓を変えるべきというのは、ジェンダーによる偏見です。姓を変えるのは男性でも女性でもよいことを、示してくれた法学の教授には、感謝しています。

また、どこの国だったかは思い出せないのですが、海外ドラマで、夫婦別姓の人々が当たり前のように描かれていました。最初は二人が夫婦だと気づけず、混乱したのですが、「夫婦は同姓でなければならない」と思いこんでいたがゆえのことで、視野が狭かったと反省しました。

同時に、ドラマのなかでは、夫婦別姓はテーマにするほどでもなく、当たり前にあるものであることもわかりました。これが日本であれば、夫婦別姓そのものがドラマの大きなテーマになっていたかもしれません。

現代日本を舞台に結婚しているけれど、別姓のカップルを描いたら、現代日本ではなくなってしまいます。これが、日本のリアルです。

LGBTと選択的夫婦別姓の関係

選択的夫婦別姓って、LGBTに関係あるのだろうか、と思う人もいるかもしれません。

LGBTと選択的夫婦別姓は無関係ではない

LGBTの人々と選択的夫婦別姓は、一見関係ないようにも思えます。そもそも、結婚ができないセクシュアリティの人もいるのに、結婚した後のことなんて、今考えてもどうしようもないじゃないか、という風に考える人もいます。

しかし、同性婚の法制化を目指すのであれば、結婚できるようになってからのことも考えておくのがいいのではないか、と私は考えます。

同性婚の法制化を達成して、同性婚したい人が同性婚をすることがゴールではないからです。同性婚が実現した後も、考えることはたくさんあります。

その一つが姓です。

姓も性も大切なアイデンティティ

「姓も自分のアイデンティティを構成しているので、変えることに抵抗がある」という意見も、「相手の姓に変えることにより、相手と一つになれるようで幸せを感じる」という意見も目にしました。そのどちらも、大切な意見です。ですが、今この国で通るのは、後者の意見のみです。結婚すると、同姓にしなければならないのです。

選択的夫婦別姓に反対する人達は、「家族の形が崩れる」などと口にします。このような意見は、同性婚反対の際にも聞かれるものです。家族の形や伝統を個人の幸せより優先すべきという発想に基づいているようです。

選択的夫婦別姓を取り囲むものと、同性婚を取り囲むものは、似ているのです。個人にとって、姓も性も、大切なアイデンティティなのに、それを無理に社会が規定しているという点で、似ています。

目指すものは近い

同性婚反対と、選択的夫婦別姓反対の根底にあるものが同じだと言うなら、それを変えるために、同性婚を望む人々と選択的夫婦別姓を望む人々は、協力できるのではないでしょうか。

「伝統」や「家族の形」を他人に押しつけるこの社会に対して、「それは違う」と言っていることは同じなのですから。

他人に「伝統」や「家族の形」を押しつける社会を変えなくては、同性婚も選択的夫婦別姓も実現しません。そういった意味で、目指すものは近いのです。

それは誰の自由も奪わない

同性婚も選択的夫婦別姓も、選択肢が増えるという話であって、それを選ばなければならないという話ではありません。

選択肢が増えるだけ

結婚するかしないか。
結婚するならば、異性婚しかない。
そして、結婚したならば、姓を揃えるしかない。

これが現状です。

この現状が、同性婚や選択的夫婦別姓の法整備の実現により、以下のようになるのです。

結婚するかしないか。
同性婚か、異性婚か。
カップルは同姓か、別姓か。

少しざっくりですが、大まかに言うとこうなります。こうやって並べるとわかる通り、同性婚や選択的夫婦別姓が実現しても、異性婚や夫婦同姓という選択肢は消えません。異性婚や夫婦同姓がいいと思う人には、特に影響もない話なのです。

同性婚をしたい人々、異性婚をしたい人々、そのどちらも望まない人々。カップルで姓を揃えることにする人々、揃えないことにする人々。その選択はそれぞれに肯定される必要があるのです。

伝統って、個人より大事ですか?

それでも、他人が新たな自由を得ることに反対する人達は言います。「伝統が大事」「家族の形が崩れる」と。しかし、伝統や形式のために個人は、社会はあるのでしょうか。そんなことはないはずです。

伝統や形式が個人を苦しめているなら、変わるべきは個人ではなく、伝統や形式です。人々が幸せを追求して、生きるために作り上げてきたのが伝統や形式であるはずです。

人々を苦しめるものになったのなら、伝統や形式を変えて、よりよいものを次世代に繋げていく方が、大変だけども、ずっといい気がします。

少なくとも、私はそう思います。

同性婚も選択的夫婦別姓も関係性の多様性を高めていく

同性婚も選択的夫婦別姓も、関係性の多様性を高めていく制度といえます。それらがもたらす変化とは、何なのでしょうか。

結婚のカスタマイズのなかに姓も含まれる

同性婚や選択的夫婦別姓は結婚が前提になっていますが、結婚する、しない以外で、他人と繋がる手段もあっていいはずです。例えば、公正証書という契約書を取り交わす関係性もあります。

婚前契約書(プレナップ)なるものも、存在するようです。それは、パートナーシップであったり、名前のつけられない関係性であったりします。そして、事実婚と呼ばれるものもあります。

結婚する(他人と強い法的拘束力のある繋がりをもつこと)としないという選択肢もひとつ。グラデーションで考えていいと思うのです。結婚しているけれど、家計は別というカップルも、存在します。しかし、結婚という現行の制度では、できないことややるべきことが多すぎます。

そして、結婚においてどれくらいの法的拘束力のある繋がりを求めるか、という話のなかに姓をどうするかも含まれてきます。

結婚もカスタマイズされ、多様になっていくのがいいと私は考えています。居住、家計を同一にするか、姓をどうするか、などなど、自分達にあったものを選んでいくことで、結果的にその関係性が良好なものになり、幸せに感じる人が増えるのではないでしょうか。

多様な「家族」

結婚が多様化すると、当然ながら、家族も多様化します。そうして多様性の高まった社会は、LGBTの人々にとっても、生きやすい環境になることが予想されます。どんなセクシュアリティでも、どんな家族構成でも、そこに「正解」などなく、もちろん優劣もないのだと認識されている社会は、そうでない社会より多くの人がずっと息がしやすいことでしょう。

未来を担う子どたちを思えば、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの保護者ばかりに見えた、私の小中学校時代とはまた別の光景が広がり、そのこと自体が子ども達を抑圧から解放してくれるだろうと期待しています。

多様性のある社会へ向けて

「同性婚を望む人」「選択的夫婦別姓を望む人」と分けることにも意味はあります。しかし、目指しているものは多様性の高い社会なのです。だからこそ、選択的夫婦別姓などにも関心をもち、動向をチェックしていくことが大切です。

同性婚を望む人と、選択的夫婦別姓を望む人が手を取りあうことのできる部分を探し、できるところは協力しあって、人生の選択肢を増やしていけたらいいのではないかと思います。

RELATED

関連記事

ロゴ:LGBTER 関連記事

TOP