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Writer/雁屋優

日本の年中行事に隠れたLGBT差別

季節はめぐり、その節目に行事があります。お正月、節分、バレンタインデー、ひなまつり、ホワイトデー、こどもの日。年が明けてから春までは行事が目白押しです。四季折々の景色やおいしい食べ物を楽しむのは、日本文化でありこの国のよさの一つでもありますが、受け継いできた文化のいくつかには、そこに収まりきれない人を排除しかねないものもあると私は考えます。

お嫁に行くのが遅れると、何が問題?

かつて、この国では、25歳を過ぎて結婚していない女性を「クリスマスケーキ」と揶揄する風潮がありました。

25歳を過ぎると、クリスマスケーキ

お嫁に行く時期が遅いことに対して、この国の人々は、未だに悪いイメージを持っています。それが先ほども述べた、25歳を過ぎて結婚していない女性を「クリスマスケーキ」と揶揄する風潮です。クリスマスケーキは12月25日を過ぎれば売れ残りとして安売りされます。つまり、25歳を過ぎて結婚していない女性は売れ残りのクリスマスケーキと一緒という理屈です。

非常に失礼で、性差別的で、ミソジニーに満ち溢れている言葉です。第一に、女性をクリスマスケーキというモノとして見ていること、そして、結婚するべきであるという価値観を女性に押しつけていることなど、問題点は多数挙げられます。

さすがに今では「クリスマスケーキ」などと公衆の面前で女性を揶揄する人は多くありませんし、私もこんな言葉があったことをジェンダーについて学ぶなかで知りました。

しかし、社会には、もっと強烈な呪いとでもいうべきものが隠されています。それが、「お雛様をしまうのが遅れると、お嫁に行くのが遅くなるよ」です。ひなまつりに際して、年配の方に言われたことのある方もいるでしょう。

そもそも、桃の節句とはどう成立したのか

ここで話題にした桃の節句、ひなまつりとは、元はいったいどういった行事だったのか、調べてみました。現在は女の子の成長を祝う行事となっていますが、元々は男女関係なく春を喜ぶ行事だったようです。

それが長い年月を経て変化していき、現在の女の子の成長を祝う行事になり、その結果として、「お雛様をしまうのが遅れると、行き遅れてしまうよ」になったのかもしれません。こういった文化が成立した時代には、女の子の幸せが良縁に恵まれることだった
背景もあるでしょう。

そこにこめられた願いは素敵なものではある

では、ひなまつりは時代錯誤だからやめればよいのでしょうか。私は、それは乱暴過ぎると感じます。私が生まれたとき、大人達は納得のいくお雛様を求めて、人形屋さんを訪ねてまわりました。そうして今私の実家にあるのは、美しい雛人形です。

納得のいく雛人形を探すという行動には、たしかに「女の子として生まれた私の成長を願う」親の気持ちがあります。ひなまつりをやめろ、と言うのはそれも含めて否定することになりかねないのです。とはいえ、行き遅れを心配されるのも、困りものです。私には、その気はとうにないのですから。

男女を規定するもの

ひなまつりの他にも男女を規定する行事は存在します。

男女を規定する行事

男女を規定していく行事はひなまつりだけではありません。女性から意中の男性にチョコレートを贈るとされているバレンタインデー、バレンタインデーのお返しをするホワイトデー、男の子の成長を祝うこどもの日など、男か女か、を問うてくる行事はたくさんあります。

バレンタインデーに関しては最近友チョコなどの概念も登場し、緩やかにチョコレートを贈りあうイベントになりつつあるのを感じますが、一方で、女性らしくお菓子を手作りして会社で配ることを強要されるといった話も見かけます。

同性愛者や両性愛者、また自身の性別を定義したくない人には、まだまだ厳しい状況です。

収まりきれない人は必ず存在する

男と女だけが性別でないこと、異性愛だけが恋愛の形でないことが知られ始めていますが、年中行事の型に収まりきれず、ひそかに傷ついている人がいる可能性にはあまり気づかれていません。Xジェンダーの人やトランスジェンダーの人、同性愛者や両性愛者といった人たちにはこのような行事は肩身が狭いことでしょう。

また、性自認が日によって変わる方にも、こういった性別を規定される行事はやりにくいことこの上ないでしょう。その行事において、どちらかであらねばならないのですから。どちらでもない、という表明は多くの場合、許されません。

無理に型にはめるのは文化ではない

そういった人々を、「こうあるべき」と無理やり型に押しこみ、そのようなふるまいを強制することを「伝統的な日本文化であるから仕方ない」という人もいます。これは何だか本末転倒な気がします。人間が文化を築いたのは、人間が楽しみ、癒されるためであって、誰かに苦行を強いるためではないはずです。

誰かに苦行を強いて、その結果としてその人に苦痛しか与えないのであれば、そんなものは文化ではありません。

LGBTは文化を受け継げないのか?

では、LGBTと呼ばれる人たちは日本文化を受け継げないのでしょうか。

文化とLGBTは相性が悪い?

先ほど、誰かに苦行を強いて、苦痛しか与えないようなものは文化でも何でもないと書きました。しかし、過去には主に女性の意思を無視した結婚など、誰かを痛めつけるような風習が “文化” として存在していたことも事実です。ただし、それがこれから人間の多様性を大事にしていこうとする社会にそぐうものかと言えば、そうではありません。

では、LGBTと呼ばれる人々は文化を受け継ぐことと、相性がよくないのでしょうか。例えば、性別役割分業をはじめ、いくつもの性差別的でLGBTの人々を無視した日本文化が未だ存在します。それらを受け継いでいくことと、LGBTの人々はたしかに相性が悪いのかもしれません。

マジョリティでなくば、文化を受け継げないのか

では、マジョリティと呼ばれる側でなければ、日本文化に馴染まず、それらを受け継ぐことはできないのでしょうか。性差別的であったり、LGBTの人々を無視していたりする部分は受け継ぐべきではありませんが、「子どもの成長を祝う」などの精神は未来にも続く大切なものと言えます。

それらをLGBTにはそぐわないから、とすべて排してしまうのは、どこか寂しく、機械的に過ぎる気がします。年中行事などの日本文化の意味を知った上でいいところだけを味わって、後世に伝えていくのも、一つの手です。

大前提として、文化は楽しむためのもの

先ほどから何度か書いていますが、文化は人間のためにあるのです。人間が文化のためにあるのではありません。人間は、文化に殺されてはなりません。人間がよりよく生きるためにあるはずの文化で、人を苦しめ、生きづらくさせているなら、それは変わるべきものです。

このようなことを書くと、「そんな少数のために、受け継がれてきた大切な日本文化を変えろというのか」と言う人もいます。文化は、本来、変わっていくものです。時代によって、ところによって、変わっていく。変わりながら、残っていく。そういう可変の存在なのです。それを変えないことに固執するならその文化はいずれ衰退するでしょう。

文化は受け継ぐだけではなく、つくるもの

文化を受け継ぐ話ばかりをしてきましたが、当然のことながら文化はそれだけではありません。

「日本文化を守りましょう」とは言うけれど

昔ながらの風習に触れ、その知識を得るような体験学習を多くの人が小学校でしたことでしょう。それは弥生時代の生活の話であったり、昭和初期の生活の話であったり、さまざまです。子どもたちに自分たち人類のルーツを伝え、この国の文化を守っていくための営みです。

だからと言って、弥生時代や昭和初期の生活を今する人はおそらくいません。今は今の文化があり、文明があるからです。でも、それで、弥生時代や昭和初期の日本文化は、失われたのでしょうか。

失われていないから、こうして博物館などで触れることができるのです。そして、それらは必ず、今の文化にも繋がっています。私たちは、今、受け継ぎつつも文化をつくっているのです。

人間は、文化をつくっていく生き物である

人間は文化をつくっていく生き物です。節分の恵方巻や夏の土用の丑の日が普及したように、性別を規定しない行事の楽しみ方もきっとつくることができます。例えばバレンタインデーは感謝や親愛の情をこめて、誰かに贈り物をするきっかけの日になるなどの変化を遂げれば、性別を規定することもありません。

LGBTと呼ばれる人たちを今まで傷つけてきたことに気づいたなら、日本文化はLGBTの人々も心置きなく楽しめるように変わるべきです。誰かを傷つけながら楽しむ行事で、幸せを願うのはおかしなことです。

誰かを傷つけない文化を、後世へ

LGBTの人たちを傷つけない文化を急に形成するのは難しいかもしれません。今まで当たり前と思ってきたものを意識的に変えていくには時間がかかると、私も承知の上です。でも、一人ひとりが、これからの自分の行動が、後世に受け継がれる日本文化をつくっていく自覚をもって行動することで、変わっていけるはずです。

例えば、楽しみ方を緩やかにするところから、新しい文化を創造する一歩を踏み出してみるのはいかかでしょうか。つまり、年中行事をそれぞれの人が楽しめるように、カスタマイズするのです。自分の好きなやり方、やりやすいスタイルで年中行事を祝い、四季折々を楽しむ。

そういったことが普及すれば、LGBTの人たちだけではなく他の誰かを傷つけずに、年中行事をはじめとした文化を未来に繋いでいけるのではないでしょうか。

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